ヒロインさん観察日記

蒼碧翠

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閑話 侍従の自重

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 皆さま、初めてご挨拶させて頂きます。
 皇太子アルフレッド様付き侍従長をさせて頂いております、カムズ、と申します。以後、お見知りおきくださいませ。

 さて、わたくしとアルフレッド様の出会いでございますが、些か特殊でございました。
 と言うのもわたくしが元々は捨て子であり、わたくしがお世話になっていた教会の孤児院に、当時まだ皇太子妃であった現王妃様と一緒にアルフレッド様が初めての視察兼ボランティアでいらっしゃった時が、最初の出会いであったからでございます。
 その時アルフレッド様は正式に御披露目をされたばかりの5歳になられたばかりで、わたくしの方は1週間後に一応10歳になるのかな?と言う感じでございました。
 それは先程も申し上げましたようにわたくしは捨て子であり、身元がわかるようなものがなかった為、正確な誕生日等がわからず、教会にて保護された時まだ首が据わってなかった事から、生後1ヶ月半から2ヶ月半くらいで3ヶ月はいってない感じであろう、って事で付けられた誕生日であったからでございます。
 まぁ、適当と言えば適当ではございますが、拾われた日に設定されなかっただけ、親身になってくださっていたのだと、感謝しておりました。
 後から判明するのですが、この適当に設定されたはずの誕生日、実はまさにその通りで当たっておりました。この事が判った時、これも神の思し召し、あるいは神の奇跡かと、教会のシスター方と大いに盛り上がり、皆で感謝の祈りを捧げたのも、良い想い出でございます。

 あ、っと。申し訳ございません、話がそれていましたね。

 そもそも、なぜ捨て子の孤児であったわたくしがアルフレッド様の侍従を務める事となったのか?
 皆様の疑問は尤もだと思われます。
 わたくしも『なぜこうなった?』と思いましたから。
 理由はいくつかございますが、そもそもの切っ掛けとなったのは、アルフレッド様の我が儘が始まりであり、アルフレッド様に妙に懐かれたのが最大の原因でありました。

 当時のアルフレッド様は、今と変わらずかなり冷た、いえキツ、もといクールで涼しげな目ともをされており、5歳児がその目で他の同年代を何も思わず見たとしても、見られた側はそうとはとらず、厳しく躾られているはずの高位貴族の御子様方であっても、まだ幼いだけに泣き出される方がほとんどだったそうです。
 そういった中での初めての視察、しかもアルフレッド様と同年代や年下が多数いる孤児院に、でございます。
 盛大に泣かれるであろう事は容易に想像が出来ました。
 それもあって、当時の皇太子妃殿下も連れて行かれるのをかなり迷われたそうですが、いずれ直面する事であり、この際に自分が他の者からどう見えているのか、その時自分はどう対処するのか、と言うそういった事にも慣れておくべきだか失敗の許されない貴族相手より、平民相手の方が周りに控える者たちの心情的にも良いだろうとの判断から、結局、一緒に来られる事になったようでした。
 もちろん何の説明もなく、アルフレッド様を前にした子供たちが盛大に泣き出したら、孤児院にいるシスター方は顔面蒼白どころでは済まないでしょう。
 なので、事前にアルフレッド様の教育の一貫である事を伝え、子供たちのする事には極力手を出さず、いつも通りに接し見守るよう通達が出されておりました。ま、お咎めがないとわかっていてもシスター方には胃が痛くなる事態には変わりないのですけどね。

 そんな中で行われた視察は、案の定孤児たちの泣き声の大合唱から始まりました。年齢の大きい子供はさすがに泣き出しはしませんでしたが、かといって側に近付こうとはせず遠巻きでオロオロしており、何人かが泣いてる子を宥めようとしているくらいでした。
 わたくしはと言うと、この視察が終わった後の予定の事が気になっており、はっきりと言えば皇太子妃様やアルフレッド様には全くと言って良い程興味がなく、早く終わらないかと思っておりました。

 そういったわたくしの思いが伝わったのか、全く眼中にない様子が珍しかったのか、アルフレッド様はわたくしをじっと見ておられました。そしてわたくしが移動すると同じように移動されて、ずっとわたくしの後ろを付いて回って来られたのです。
 しばらくそうして付いて回られた後、皇太子妃様のところに戻られると

「この子、お父様のところの侍従長に似ています。だから、この子を私の侍従にしてください」

 と申されだしたのです。

 その言葉をお聞きになられた皇太子妃様は、わたくしのところに来られるとまじまじとわたくしの顔をご覧になり

「そう言えば、髪の色といい、瞳の色といい、ホントに顔や全体的な雰囲気が殿下のところの侍従長と似ておりますね」

 とおっしゃられたのです。

 そう言われたわたくしは、ニッコリとした微笑み(ズバリ愛想笑いでございます)を浮かべながら

『うっわぁ~~~、めんどくせぇ~~~』

 としか思っておりませんでした。
 それはそうでしょう?見ず知らずの人物と似てると言われ、その人に似てるからと同じような能力を期待されても、当時のわたくしは『侍従』なんて言葉初めて聞いたし、どういうものなのかも知らないのに、どうしろと言うんだ?
 と言うのが正直な気持ちでございました。

 と言うのも、貴族の御子様方は10歳になられると学園に入るのが義務付けられておりますが、平民の子は10歳になると見習いとして仕事を始めるのが一般的であり、わたくしにはこのつまらない視察の後、自分の将来がかかったら就職先の面談へと、保護者代わりのシスターと共に伺う予定があったのです。そこは何度かシスターが交渉してくださって、初めてわたくしとの面談の約束が叶ったところであったので、この面談に失敗する訳にはいかなかったのです。

 そうこうしてる内に視察の時間は終わり近くになりました。
 わたくしは『やっと終わる』との安心感とこれからある面談の緊張から、アルフレッド様が言われてた事をすっかり記憶の彼方に飛ばしておりました。と言うよりはそんな小さな子供の言う事なんて、誰も本気にはしないだろうと思っておりました。
 実際孤児院のシスター方は
「アルフレッド様はお父様と同じがいい、だなんてホントお可愛らしい事をおっしゃいますわね」
 と、微笑ましくは思えど、本気には取っていなかったのですから。

 それが間違いであったと気が付いたのは、そのすぐ後の事でございました。

 皇太子妃様は、もうお戻りになられる準備が整っているにも関わらず動かれようとはせず、孤児院の門を方を気にされて誰かを待っているふうでございました。
 程なくして、数人の人影が見えました。
 それに気が付かれた皇太子妃様は、その方々を呼び寄せると、わたくしにも来るよう言われます。
 仕方なく近付くと、妙な感じが致しました。

 新たに来られた方の内大人の男性は、わたくしとほとんど同じ髪の色と瞳の色をしてて面差しが似ており、後2、3年したら成人を迎えるくらいに見える男性は、髪の色は違いましたが瞳の色は同じでわたくしと面差しが似ており、わたくしと同い年に見える子供は、なんと言うか、ほとんどわたくしでした、性別が違うだけで。

 わたくしはもちろん、そこにいた全員が驚いてる中で平然とされていたのは皇太子妃様とアルフレッド様だけでございました。

 後から来られた大人の男性は予想通り皇太子殿下の侍従長で、視察に行かれてるはずの皇太子妃様から、子供を連れてすぐ孤児院まで来るよう、急に伝言が届けられたそうで、何も理由は聞かされてなかったそうです。

 この国の習慣として、双子が生まれた時、同性であれば先に生まれた方を、異性であれば男児の方を一旦養子に出し、1ヶ月後にまた生家へと養子に出し直すという事をするそうで、わたくしはどうやらその双子の養子に出された方の様でございました。

 ではなぜ、生家へ戻されずにいたのか?
 それは、養子に出されていた先のメイドが自身が産み、すぐに亡くなってしまった児とわたくしが似ていたらしく(両方を見た人からすると、実際にそこまで似てはなかったらしいのですが)、その児が自分の手に戻ってきてくれたと思い込み、あの児は自分の児だから何としても取り戻さないといけないと言う思いにかられ、人目がなくなるのを見計らって、自身の家へと連れ帰ってしまったそうです。
 これに驚いたのはその方のご主人とご両親で、いったい誰の児で何処から連れてきたのか問い質し、児を取り上げようとしたそうですが、『この児は私の児だ、何で取り上げようとするの?』と半乱狂になり、児を抱いたまま家を飛び出していってしまったそうです。
 3日後、その方は大怪我をおい2年前からの記憶を喪った状態で救護院に保護されいるのをご家族の方が見つけられたのですが、その時にはもう、わたくしはそのメイドだった方と一緒にはおらず、行方がわからなくなっていたそうです。
 ちなみにこの2年前からというのは、ちょうどこの方がご主人と結婚されたばかりで、妊娠の気配もなく、よって妊娠も出産も出産後に失った児の事もこの方の中には存在しない出来事になってしまっていました。この方にとってはその方が幸せだったかも知れませんが、こればかりはご本人でないとわかりませんね。ただ言えるのは、この方の周りの方々にとっては間違いなく不幸な出来事ですが。

 もちろん、この事はメイドの勤め先であるわたくしが養子に出されていた家にも伝えられ、メイドが家を飛び出してからすぐ捜索は始まり、1ヶ月後生家に戻す期限ぎりぎりまで捜索は続けられていたのですが、結局見つける事は出来ず、ありのままを生家へ伝える事となっただけでございました。
 それからも生家の方で捜索は続けられましたが、この国では5歳の御披露目まで、あまりおおっぴらに子供を外に出さない事も災いして、ほとんど手懸かりになるようなものはなかったそうです。

 この事をご存じだった皇太子妃様は、アルフレッド様のおっしゃった事と実際にわたくしをご覧になり、もしかしたらとお思いになって急いで殿下の侍従長に孤児院に来るよう使いを出されたのでございました。
 ただ似てるだけなら世の中に3人いると言われておりますので、人違いの可能性もございます。
 そこで決め手となったのがわたくしとそっくりな女の子でした。
 その子とわたくしには対になるような痣が、背中の肩甲骨の辺りに生まれた時からあったのです。
 この事は生まれた時に産婆が確認しており、場所は色々ですが双子にはこのような対になってる痣がよくあるそうで、その確認も産婆の仕事の1つとなってるそうです。
 この事からわたくしにあった痣と女の子の痣がシスターによって確認され、わたくしはこの侍従長の実子であり、双子の片割れであった事が判明したのでした。
 事実はそうであっても、やはり双子の慣習としてわたくしは侍従長の養子として引き取られる事が決まったのでございます。

 あれよあれよと言う間に話がまとまってしまい、気が付いた時には就職先の面談時間をとうに過ぎており、侍従長に引き取られるのに伴い就職出来なくなった事のお詫びも兼ねて、シスターと侍従長と共に慌てて先方へと赴いたのでした。
 伺った当初、時間に遅れて来て、その前に遅れるとの連絡もなかった事に立腹されておいででしたが、遅れてしまった理由を説明し、実の両親と兄妹がいた事がわかり、これからは一緒に過ごせる事を話した辺りで『良かった、本当に良かったな』と号泣され、『こっちの方は気にしないでいい、今までの分も両親にたんと甘えておけ』と言ってくださったのでした。
 結局、このご主人の所で働く事は出来なくなりましたが、こんな気の良い人と知り合えたのは、本当に良かったと思えました。

 さて、これから問題となったのがわたくしの進路でございました。
 捨て子の孤児として今までやってきてるので、10歳になると働くものだと思っておりましたが、生家である侍従長の家系は代々王族方の侍従や侍女、または王族の降嫁先の家令や執事などを務めているそうで、爵位自体は子爵位ながら伯爵扱いとなっており、さらに特徴的なのは家名を持っていない事でございました。
 なぜその様な事になっているのか、もう誰にも分からず、『慣例として』としか言い様がございません。
 そこから派生して、侍従や侍女、家令や執事、メイド等、例え生まれが貴族であってもどなたかに仕えている間は、単なる個人名でしか呼ばず、自ら家名を名乗る事は無粋であるとされるようになったそうでございます。

 いくら家名がないとはいえ、子爵位であり、しかも伯爵扱いとなっているの貴族であれば、学園に入る事になります。
 しかも、貴族の子弟は学園に入る前、7歳の頃から家庭教師について一通り学んでいるそうで、わたくしはと言うと、一応の読み書きと算術は教会のシスター方から学んではいましたが、到底他の方々のレベルにはございません。入る前から落ちこぼれ確定でございます。
 それは些か面白くない状況だと思っておりましたら、何と抜け道がございました。
 まぁ、抜け道と申しましても、正式に認められている事なのですが。
 それは、侍従や侍女、執事にメイド等を目指す者が専門的な知識を身に付ける為の専門学校に入る事にでございました。
 中はいくつかの部門に別れており、ここには平民も入る事が出来る為、卒業後は下級貴族や、豪商等に仕える方が多数おられました。
 後、この学校を出ると所作が洗練されると言う事で、下級貴族の子女や裕福な平民の中には少しでも良い所に嫁ぐ為に、わざわざ入ってこられる方もいらっしゃいました。

 と言う事で、わたくしもこの専門学校の方に入る事になったのでございます。
 ま、アルフレッド様がわたくしを侍従に、とお望みでもございましたので、結果的にはようございました。
 学問のレベルとしましても、平民が入ってこられるくらいですので、学園程の学力がなくても大丈夫でした。
 これからゆっくりと、普通で8年、成績優秀であれば飛び級も認められ5年で卒業する事になりますから。
 が、わたくしにはそれが通用しませんでした。
 何故なら、アルフレッド様が7歳となり、ご学友と共に学園に入られる前の勉学が始まる2年後に合わせて侍従見習いとして仕え、その3年後10歳になられた学園入学時には正式に侍従として就くよう申し渡されたからでございました。

 ホントに、あの頃の生活は思い出したくもないくらい、大変でございました。
 まあ、あれがあったからこそ、少々の事では動じなくなりましたし、最短卒業記録も樹立させ、褒賞も頂けましたが。
 ちなみにこの最短卒業記録は未だ破られてございません。
 わたくしの秘かな自慢でございます。

 本当にこれくらいでないと、アルフレッド様にはついて行く事が叶いません。
 専門学校を優秀な成績で卒業し、アルフレッド様の侍従見習いとして就いても、配置変え希望がかなりの数上がってきますから。
 情けない事でございます。








 ∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵



「なぁ、カムズ。自重(じちょう)、って言葉知ってるか?」

「もちろん、知ってございます」

「そうか・・・ボソッ(んじゃ、何で見習いがすぐ配置変えになるのかわかってないのか?それともわざとなのか?)」

「アルフレッド様、何かおっしゃりたい事がございましたら、遠慮なくはっきりと申してくださいませ。
 でないと、また執務が増えるやも知れませんよ?」

「え?!あぁ、いやえっと・・・そうそう!
 アリセとの仲はどうなのかなぁ、なんて思ってたんだよ!
 お互いまだ独身だし、同い年だし、私たち夫婦に仕えてくれてる者同士だから、仲が良いに越したことはないからな!」

「その辺は抜かりなく、日々誠心誠意、努力を重ねておりますのでご心配なきよう」

「か、カムズが本気?!
(ヤバい!アリセ逃げろ!本気で逃げてくれ!!)」

「アルフレッド様?先程申し上げた事、おわかりではなかったのですか?
 でしたら、もう一度初めからゆっくり、じっくり身体に染み込みまで徹底的にご説明させて頂きますが?」

「わ、わかった!わかってるから!!
 お願いだから(色々)自重してくれっ!!」

「わたくしは、これでもかなり自重しておりますよ?」

「えっっ?!」


 その日、アルフレッドの執務室の灯りは明け方まで消える事がなかった、らしい・・・









──────────────────





それにしても、『シスター』って聞くと清楚な清らかなイメージがあるのに、同じ教会関係者でも『ブラザー』ってなると『Hey yo!』って感じのチャラいと言うか軽いと言うかラッパーな感じがするのは何故だろう?



私の勝手イメージですが、不快に思われたら申し訳ありません。




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