男とか女とか

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 男にしてはややぽってりとした東の唇に自分の唇を何度も何度も押し当てる。
唇が僅かに離れる合間に待ってだとかヤバイだとか色々と言っていた気がしたが、早々にお互いの荒い息遣いしか聞こえなくなった。
唇を合わせるだけでどうしてこうも興奮を煽られるのだろうか。
特別な相手だからこそこうして夢中になるのだと嫌でもわかる。
東以外としたとしてもきっとこうはならないと確信を持って言える。
というより東以外とする想像すらしたくない。

「は、ぁ……理々子……」

 額を合わせ目はずっと開けたまま、ぼやけていても東から目が離せない。
驚きから戸惑い、そして今は完全に溶けきった東の表情は私の独占欲を益々助長させていく。
自分以外にこの顔を見せてはならないと強く思う。
完全にされるがままの東を壁に押し付け一層深く口付ける。
キスの合間に名を呼ばれるとたまらない気持ちになる。
自分の名前を特にどうこう思ったことは今までなかったが、東に呼ばれるととても特別な響きがある。

「東……圭」
「っ!?」

 お返しにと名を呼んでみたら肩を掴まれバッと体を引き離された。
軽々しく呼ぶべきではなかっただろうかという不安は東を見て一瞬で消え去る。
潤んだ目を見開き頬をさらに紅潮させて口をはくはくと動かしている。
言葉が出てこないのに焦れたのか掴まれていたままの肩を引き寄せられた。
至近距離で目を合わせた途端、今度は東から唇を合わせてきた。
名残惜しげに顔を離した東は嬉しそうに顔を緩める。

「名前、知ってたんだな」
「知ってたよ。嫌だった?」
「そんなわけねぇだろっ」
「どっちで呼んでほしい?」
「っんで……!わかって聞いてるだろ!」
「うん、それでどっち?」
「っ~!」

 東の言う通り聞かなくてもわかっているし、東が嫌がろうが今後は名前で呼ぶつもりだ。
それでも東の、圭の口から聞きたかった。
顔を背けてしまった圭の頬に両手を添えこっちを向かせる。
促すように首を傾げると観念したように一つため息を吐いた。

「な、まえ……がいい」
「どうして?」
「っ!そのほうが、その、特別だろ」
「特別って?」
「だからっ!!」

 意地の悪い聞き方に苛立ちはしても突き放しはしない。
むしろ離れまいと腕を私の腰に回してくる。
恥ずかしそうに頬を染める男を可愛いと感じる日が来るとは思わなかった。
こんなに愛おしいと思える相手に出会うとは思わなかった。
言わなくても私の気持ちは既に伝わっているだろう。
それでも少し余裕の生まれた今、言葉にしておかなければならない。曖昧なのは好きじゃない。
再び額を合わせ鼻頭を擦り合わせると、圭の目が期待に潤む。
くっつきそうになった圭の唇を指で止め、小さく、でも圭にはしっかりと聞こえるように囁いた。

「圭、好きだよ。番いになろう」

 見開かれた東の目から涙がこぼれ落ちた。
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