男とか女とか

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「理々子カムバークッ!!」

 そして御免!という叫びの後に、後ろに体を引かれたと思ったら至近距離でバチーンっといい音が聞こえた。
徐々に熱くなっていく片頬のお陰で回復した視界の中に必死顔の志帆を捉え、一気に理性が舞い戻ってきた。
じんじんと痛みを訴える片頬を押さえながら何とはなしに東を見ると、水城が志帆と同じようなことを叫んだ後に東に見事な平手打ちをかました。
その一連流れを見て嫌でも状況を把握せざるを得ない。

「私危なかった、んだね」
「うす……いつもの理々子では考えられないほど野性的なお顔でした……」
「…………止めてくれてありがと」
「引っ叩いてゴメンネ……まさか理々子にビンタかます日が来るなんて思わなかったよ」
「いや、助かったから気にしないで、ほんと」

 叩かれた衝撃にではなく、自分がやらかそうとしていたことに対し動揺が隠せない。
志帆が心配そうに見ているが大丈夫だとは言えそうになかった。

(志帆が、止めてくれなかったら、私、東と)

 指先で辿った東の肌、項の感触を思い出し戦慄した。
本当に後一歩で取り返しのつかないことになっていたかもしれない。
だって、あのまま止められていなかったら、私は東の項を噛んでいた。
本能に流されるがままに東と番うところだった。一気に現実に引き戻された。
今なら本能などクソ食らえだ。二度と本能に流されることはないと自信があった。
しかし体のほうは着々とダメージが蓄積している。
体はどうしたって東のフェロモンに引きずられてしまう。
やはり短期決戦で行くべきだと気合を入れ直したが、同じく理性を取り戻したらしい東はずっと固まったままだ。
そしてそんな東を隠すように立っている水城は目が泳ぎまくっていた。

「水城ちゃん……?ど、どうしたの?」
「いや、えっと、その、なんと申したら良いのか」

 動揺しまくっているのか水城の言動が色々とおかしい。
志帆が首を傾げた後、原因は東だろうかと覗き込もうとしたが水城に遮られる。
その行動で原因は東であると確定した。
訝しむ私と志帆に水城は必死な様子で待てと両手を前に出し、東に声をかける。

「東ー?そろそろショックから立ち直ってほしいカナー?」
「…………」
「東くーん?おーい?」
「…………」
「東!!」
「っ?!」

 最初は優しく呼びかけていた水城だが、反応を返さない東についに怒鳴った。
効果はあったようで東がやっと現実に戻ってきたようだった。
そして何故か下を見てハッとした東は、即座に椅子の上で両膝を抱え縮こまった。
そんな謎行動に私と志帆は困惑するしかなかった。

「あの、水城ちゃん、東君」
「お願い、聞かないで……そんで今日は解散しよう。理々子、いいかな?」
「…………うん」

 水城の只ならぬ圧力に頷くしかなかった。
そんな異様な空気の仲、東はずっと縮こまったままだった。
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