男とか女とか

N

文字の大きさ
上 下
40 / 48

40

しおりを挟む
「ね、三組の町宮さんの話聞いた?」
「聞いた聞いた!後天性αなんでしょ?聞いたことはあるけど後天性の人って初めて」
「ほとんどの人がそうだって。私αの友達いるんだけど、αの中には後天性にプレミア感じてる人もいるらしいよ」
「プレミア?何それ?」
「うろ覚えだけど……まず後天性ってところが珍しいくて稀少、まぁレアってことね。そんで後天性だとαの子が生まれやすいんだって」
「へぇ~初めて聞いた。それだとα至上主義の人とかにとって最高な人材って感じ?」
「そうそう。αってちょっと憧れるけどそこまでいくと怖いよね」
「確かに……そう思うと町宮さんこれから大変そうだね」
「あっ!ねぇ水城さん後天性の人について詳しい?」
「ごめんけど私も聞いたことあるくらいで大して知らないかな~」
「そっか、やっぱり後天性って珍しいんだね」

 三年一組にはαが多い。そのせいかαと接する機会が自然と増えるクラスメイト達はαについて他より知識があるし、中には憧れから自ら調べ当人達よりも事情を深く知る者もいるくらいだ。

(うわぁ……早速広まっちゃってるよ)

 理々子が三組でサラッと暴露してからまだ数時間しか経っていない。
水城のいる一組でも今やその話題で持ちきりだった。
当然、全員というわけではないが半数以上は似たような内容で盛り上がりを見せていた。
しかし自身を含めαの者は気になりはしても進んで話に乗る者はいない。
普段からαというだけでそれなりに好奇の目を向けられるためどうしても同情心が湧いてしまう。

(っていうかそれどころじゃないしね!)

 水城の視線の先には自席に着いている圭の姿。
机に足を乗せ携帯を構っているだらしない姿を見慣れている身としては、今のように普通に席に着いて黙って俯いている圭は異様でしかない。
それは水城に限ったことではなく、クラスメイトも先に上げたような圭の普段の姿を見慣れているため今の様子を訝しんでいる者も何人か見受けられる。
今の状況、つまり理々子が後天性αとして完全に転性に至ったそもそもの原因が圭のため周囲の反応が気になるは仕方がないだろう。なんと言ったって運命の番のことだ。
しかしながら今の圭は理々子の名が出るたびに動揺を隠しきれず顔に現れたりソワソワと落ち着きがない。
こんな状態では、周囲が圭をαだと思い込んでいるという最たるアドバンテージを失いかねない。

(気持ちはわからなくもないけど……多分自分がどんな顔してんのかわかってないんだろうなぁ)

 水城は溜息を飲み込み圭の元へ向かった。
普段から水城は圭に話し掛けるているしいつもの事ではあるが、今は気のせいではなく確実にクラスメイトの意識はαである自分達に向けられていた。
それを証明するかのように、自分が席を立っただけで視線が集中したのがわかる。
内心ひやひやしつつ、水城はいつも通りに圭に話し掛けた。

「東、昨日ジュース奢ってくれるって約束だったでしょ」
「……は?んな約束、」
「はいはい男に二言はなーし」

 訝しむ圭を急き立て、一瞬迷ったが腕を掴み教室を出た。
そのまま人気の少ない場所へ行こうとしたが、すぐに圭が歩みを止めてしまう。

「ちょっと、あず、ま……」

 振り返った瞬間、甘いニオイに鼻を侵された。そして悟る。
自分など微塵も見ていない蕩けた顔の圭の視線を追う。

「理々、」
「おはよう水城。ちょっといい?東君はごめんけど外してね」

 名を呼ぼうとした圭を遮り水城に話し掛けてきたのはまさに噂の渦中にある理々子だった。
あくまで自然に、理々子は圭の腕を掴む水城の手を取った。
その仕草に乱暴さなど微塵もない。なのに腕を押さえ微かによろける圭。

(わ、わぁ……これは…………)

 水城は視界の端で見た。
水城の手を取る瞬間に圭の腕をなぞる理々子の指を。
なんてないはずのその仕草がいやに官能的に見えてしまうのはきっとこの二人のせいだ。
見てはいけないものを見てしまった気がする。
そんな気まずさを紛らわすように水城は圭を振り返ることなく理々子の手を握り返した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

隣の人妻としているいけないこと

ヘロディア
恋愛
主人公は、隣人である人妻と浮気している。単なる隣人に過ぎなかったのが、いつからか惹かれ、見事に関係を築いてしまったのだ。 そして、人妻と付き合うスリル、その妖艶な容姿を自分のものにした優越感を得て、彼が自惚れるには十分だった。 しかし、そんな日々もいつかは終わる。ある日、ホテルで彼女と二人きりで行為を進める中、主人公は彼女の着物にGPSを発見する。 彼女の夫がしかけたものと思われ…

イケメンドクターは幼馴染み!夜の診察はベッドの上!?

すずなり。
恋愛
仕事帰りにケガをしてしまった私、かざね。 病院で診てくれた医師は幼馴染みだった! 「こんなにかわいくなって・・・。」 10年ぶりに再会した私たち。 お互いに気持ちを伝えられないまま・・・想いだけが加速していく。 かざね「どうしよう・・・私、ちーちゃんが好きだ。」 幼馴染『千秋』。 通称『ちーちゃん』。 きびしい一面もあるけど、優しい『ちーちゃん』。 千秋「かざねの側に・・・俺はいたい。」 自分の気持ちに気がついたあと、距離を詰めてくるのはかざねの仕事仲間の『ユウト』。 ユウト「今・・特定の『誰か』がいないなら・・・俺と付き合ってください。」 かざねは悩む。 かざね(ちーちゃんに振り向いてもらえないなら・・・・・・私がユウトさんを愛しさえすれば・・・・・忘れられる・・?) ※お話の中に出てくる病気や、治療法、職業内容などは全て架空のものです。 想像の中だけでお楽しみください。 ※お話は全て想像の世界です。現実世界とはなんの関係もありません。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 ただただ楽しんでいただけたら嬉しいです。 すずなり。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました

ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら…… という、とんでもないお話を書きました。 ぜひ読んでください。

どうして隣の家で僕の妻が喘いでいるんですか?

ヘロディア
恋愛
壁が薄いマンションに住んでいる主人公と妻。彼らは新婚で、ヤりたいこともできない状態にあった。 しかし、隣の家から喘ぎ声が聞こえてきて、自分たちが我慢せずともよいのではと思い始め、実行に移そうとする。 しかし、何故か隣の家からは妻の喘ぎ声が聞こえてきて…

お嬢様、お仕置の時間です。

moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。 両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。 私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。 私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。 両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。 新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。 私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。 海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。 しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。 海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。 しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。

先生!放課後の隣の教室から女子の喘ぎ声が聴こえました…

ヘロディア
恋愛
居残りを余儀なくされた高校生の主人公。 しかし、隣の部屋からかすかに女子の喘ぎ声が聴こえてくるのであった。 気になって覗いてみた主人公は、衝撃的な光景を目の当たりにする…

×一夜の過ち→◎毎晩大正解!

名乃坂
恋愛
一夜の過ちを犯した相手が不幸にもたまたまヤンデレストーカー男だったヒロインのお話です。

処理中です...