上 下
21 / 32
序章 異能力者転生編

第20話 吸血鬼、交渉する

しおりを挟む
二階堂が大金を手に入れた一方、騎士団の所有する兵舎の前で、ノアが声を荒げていた。

「ちょっと!!中に誰もいないの!?私、アナタ達に頼みがあるんだけど!!」

彼女は騎士団へ交渉をしに、兵舎へ訪れていた。
頼み込む彼女の金髪と尻尾が、扉を叩く動作によりゆらゆらと揺れ動く。

「くぅー!仮にも王国の騎士団なんでしょ!?何で誰も出てこないのよ!!」

ノアが立ち往生をくらっていると、後ろから小さな少女が声をかけてきた。

「ちょっとあなた、扉の前でうるさいんだけど」

「あっ、ご、ごめんなさい!迷惑だったわよね」

頭を下げるノアに対し、少女は疑問を尋ねる。

「ここに何の用?」

「え、えーっと、離れたところにある村へ警備兵を送ってほしくて、騎士団へ頼みに来たんだけど…」

「ふーん、もしかして急を要する?」

「ううん、ただ野盗に狙われたことがあるから、
 今後のことを見越して、村を守る人手が欲しいのよ」

ノアの用件を聞いた少女は、無表情のまま考えた後、兵舎の扉に手をかける。

「まあいいわ、扉の鍵を開けるから、話は中で騎士団長に聞いてもらって」

「あ、アナタここの鍵なんて持っているの?もしかして騎士団の関係者さん?」

「似たようなもの、さあ中に入って」

青髪の少女に案内され、ノアは兵舎の中に足を踏み入れる。
廊下を歩いていると、先導する少女がすれ違った一人の騎士を呼び止めた。

「ちょっと、また正面の窓口に人がいなかった。気をつけて?」

「す、すみませんロスお嬢!人手が不足してて…今すぐ僕が行ってきます!」

騎士が急いで入り口へと向かうと、ノアは少女に話しかけた。

「アナタ、ロスさんっていうの?随分騎士に慕われてるみたいね」

「慕われてない、ただ言うこと聞いてるだけ」

「そんなことないわよ!だってお嬢って言われてたじゃない、
 慕われてなかったら普通言わないわよ」

「それは…まあいい。団長室に着いたから、あとは自分で何とかして」

「ありがとう!恩に着るわ!」

「着ないでいい、面倒くさい」

ノアを団長室の前まで案内したロスは、廊下の奥へと去っていった。
深呼吸を吐き扉をノックするノア、彼女は大きな声で入室可能か尋ねる。

「すみません!騎士団長さんに頼みがあってきたのだけど!中へ入れてくれないかしら?」

すると扉がむこうから開き、中にいた女性が姿を現した。

「おや?誰だ君は?面会なら窓口を通して欲しいんだが…」

「窓口に人がいなくて、でもロスさんって子がここまで案内してくれたんです。
 あの…少しお願い事があって、話を聞いて下さいませんか?」

「そうかロスが案内を…分かった、入りなさい」

ノアを中に招き入れると、女性は椅子に腰を下ろし、自己紹介を始めた。

「私は王国騎士団長エドナ・ボーデンミラーだ。
 窓口での対応がなかったのは謝罪する。それで君は何という名前なんだい?」

「私はノアといいます、吸血鬼です。
 王都から離れたところにある村へ、警備兵を何人か送ってくれるよう、お願いをしにきたのですが…」

「警備兵を何人か…か」

「はい、私がお世話になった村でして、仲間の住んでいた故郷でもあるんです。
 どうかお願いを聞いていただけませんか?」

エドナはしばらく考えた後、葛藤の末にノアへ答えた。

「申し訳ないが、今騎士団から人手を送ることは出来ない。こちらも人員不足で手一杯なのだ」

「そ、そんな!!仲間の願いなんです!せめて一人でもいいから…」

「近頃のアンデット騒動さえなければ、今すぐ人手を送ってやれるのだが、
 なにせ戦闘時の被害が大きくてね…すまない、もしこの件が片付いたら警備を向かわせよう」

ノアはエドナの口からアンデットという言葉を聞き、顔色を悪くする。

「さっきも王都の前で奴らと戦いました。
 アンデットの騒動というのは、騎士団に被害を出すほど酷くなっているのですか?」

「ああ、正直手に余っている。私も現場に赴き対処しているが、いかんせん各地で被害が出ていて、
 なおかつどこに現れるか分からないとなると、もう手のつけようがない。
 君の頼みを聞いてあげたいのは山々なのだが、我々も余裕がないのだ…」

頭を抱えるエドナを見て、責任を感じたノアが、申し訳なさそうな顔を浮かべる。
すると部屋の扉が勢いよく開き、一人の騎士がエドナへ報告した。

「失礼します騎士団長!王都の噴水広場で暴動があった模様です!!至急、応援部隊の出動許可を!!」

「暴動だと?一体どんな?」

エドナが聞き返すと、騎士は驚くべきことを口にする。

「それが…アンデットが広場で暴れているとのことです!!」

「何!?バカな!!アンデットが王都にいるだと!?」

エドナは椅子から立ち上がり、顔を真っ青にして声を上げる。

「ありえん、アンデットが王都内に紛れ込むなど…入り口の門は硬く閉ざし、入場を禁止しているはず。
 誰も中に入ってくることなど出来ないはずだ!おい君、暴動が起こったというのは本当か?」

「本当です!!現に周囲の市民へ避難勧告も出しています!騎士団長!応援の許可を!!」

「分かった、応援を許可する。私も武装を整え次第、出撃を…」

エドナが壁にかかった槍を手に取り、部屋から出ようとすると、塞ぐようにロスが立っていた。

「ダメ、騎士団のトップともあろう人が、こんなところでリスクを負う必要ない。
 代わりに私が現場に行ってあげる」

「ロス!何を言ってるんだ!?お前は危険だから避難していてくれ!!
 ここは騎士団の団長たる私が、王都の安全を守る!」

「だったら最後の手段として控えていて、エドナお姉ちゃんは騎士団の希望なんだから。
 ここでアンデットに感染でもしたら、団はすぐに崩壊するよ」

エドナに留まるよう説得するロス、二人のやり取りを聞いて、ノアは疑問を投げつけた。

「ちょっと待って、エドナお姉ちゃん…って、アナタ達姉妹なの?」

「ああそうだ。ロスは私の妹で、王立魔法学校の主席卒業生だ。
 だから実力は折り紙付きなんだが、でも…」

「肉親だからって理由で心配してるなら、余計なお世話だよお姉ちゃん。
 私は広場に行くから、あなたはどうするの?そこの吸血鬼さん」

「わ、私も行くわ!だって…」

ノアは出しかけた言葉を飲み込み、代わりに心の中で唱える。

(もしかしたらアンデット達は、屋敷から奪われた“死霊術網羅書”で生み出されたのかもしれないもの!!
仮にそうだとしたら、私が全部なんとかしなくちゃ!!これは私の問題なのよ!!)

兵舎から飛び出したノアとロスは、急いで噴水広場まで距離を縮めた。



王都の防壁の外から、不審な男が大きな檻を引きずり、ニヤリと笑みを浮かべる。

「クヒヒ…さあかわいいアンデット達よ、壁のむこうへ行っておいで」

男が檻に入ったアンデットに触れると、次の瞬間アンデットが姿を消した。
奇妙な現象が起こったこの場を、見た者は誰もいない。



一方王都の内部では、市民達が混乱の渦に飲み込まれていた。

「うわあああ!!!助けてくれええ!!」

「噴水の方で化け物が現れたぞ!!今すぐ離れるんだ!!」

市民が近くの噴水広場から一斉に逃走すると、彼らの行手を阻むが如く、アンデットが姿を現した。

「うああああ!!ここにもいたぞ!?ダ、ダメだ!!こっちは逃げられない!!」

「でも後ろは噴水広場だぞ!?か、囲まれちまったんじゃないのか!?」

逃げ遅れた市民を取り囲み、数体のアンデットが徐々に近づいていく。
なす術なく襲われてしまうかに見えたその時、二つの人影がアンデットの背後に飛びかかる。

「アンタらいい加減にしなさい!!死体は地中に眠ってればいいのよ!!」

「アンデット風情が生きた人間を襲うなんて、そこまでしてお仲間がほしい?」

駆けつけたノアとロスが、アンデット達に攻撃を仕掛けた。
ロスの氷魔法が頭部を貫き、ノアのかかと落としが脳天に直撃する。
二体のアンデットを倒した二人が、市民に避難を促しつつ、残りの敵と相対した。

「市民の皆、死にたくなかったら安全なところまで避難して」

「ねえロスちゃん、このアンデットって一体どうやって来たの?」

「気軽にちゃん付けしないで。…でもそうね、門からは入れないし、
 防壁をよじ登るのも、見張りが居るから無理だと思う。今は見当もつかない」

ロスは問答を行いつつも、氷の結晶をアンデットに飛ばした。
すると背後からアンデットが一体飛びかかってくる。

「っ!!ロスちゃん危ない!!」

ノアが飛び蹴りを繰り出し、ロスの近くからアンデットを引き離した。

「はぁ、はぁ、大丈夫!?」

「あなたこそ大丈夫なの?武器がないなら魔法を使って」

「あはは…わ、私どっちも使えないのよね」

不甲斐なく笑うノアに対し、ロスはため息をついた。
すると飛び蹴りをくらったはずのアンデットが、平然と地面から立ちあがろうとする。
ロスは瞬時に手から氷を撃ち出し、頭部へ直撃させ撃破した。

「とりあえず今いる分は片付いた、被害は出ていなさそう」

「そ、そう!よかったぁ!市民の方が噛まれてたら、私どうしようかと…」

二人が敵を殲滅し、安堵したのも束の間、
目の前から突然アンデットが出現し、彼女達を再び戦闘態勢に引き戻す。

「ね、ねえ、もしかしてこのアンデット、魔法で別の場所から転移させられてるんじゃないかしら?」

「それはない、王都内は監視の目が厳しいはずだし、
 現にアンデットが一体でもいたら、今みたいに騒ぎになってる。
 外からならもっとありえない。防壁には魔法防御の結界が張られていて、
 一切外側から魔法で干渉出来ないようになってる。魔法の類でアンデットが湧いているわけではない」

「でも目の前の奴は、今この場で現れたわよ!?魔法以外説明つかないじゃない!」

二人が原因を考えていると、アンデットが隙を見て突撃してきた。
ロスは瞬時に氷魔法を詠唱し、アンデットの足元を凍らせる。
すかさずノアが飛び膝蹴りを放ち、頭部に向かってクリーンヒットさせた。

「はぁ…はぁ…さ、流石に何体も来られたらキツいわよ、
 しかも出現する理由が分からないなんて、一体どうしたらいいの!?」

王都の内部に湧いて出るアンデットに、ノア達はピンチを強いられた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

異世界着ぐるみ転生

こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生 どこにでもいる、普通のOLだった。 会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。 ある日気が付くと、森の中だった。 誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ! 自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。 幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り! 冒険者?そんな怖い事はしません! 目指せ、自給自足! *小説家になろう様でも掲載中です

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

雪月 夜狐
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜

家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。 そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?! しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...? ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...? 不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。 拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。 小説家になろう様でも公開しております。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

処理中です...