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1話 出逢い
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「待て、そこのガキ」
愛は、ああ、またか、と思った。
駅前、アルバイト帰りの夜空の下、愛はチンピラに絡まれていた。愛はいつも前髪を長く伸ばし、背中を丸めて、なにかに怯えるようにとぼとぼ道を歩いていた。そんな陰気な様子が却って目立つのか、そういう弱そうなやつをターゲットにしているのか分からないが、愛はよくこういう類の連中に絡まれた。
「……すみません、お金もってなくて」
嘘などはついていない。愛は所謂高卒フリーターで、手に入れた収入も母親に管理されているから、金が無いのだ。しかし、チンピラも、ああそうですかと引き下がるなんてことは無い。
「いいから財布出せ」
愛は仕方なく財布を出した。大声を出されるだけで身体がびくりと震える。情けない自分が嫌になる。
「全然ねぇじゃねぇか。
クソ、役に立たねぇな」
「すみません」
「ふっ、じゃあ身体を売るってのはどうだ?
せめて俺らを気持ちよくさせろよ」
チンピラの男は口の端をにぃっと持ち上げて言った。
「……すみません、急いでますので」
「口答えするんじゃねぇ!!」
「ひっ」
「いい所連れてってやるよ」
チンピラは愛の肩を抱き寄せる。愛は怯えて身体を固まらせた。周りは同情の目を向けてくるが、誰一人助けてくれようとはしない。こういうのは見て見ぬふりをするのが一番だと知っているのだ。愛だって他人が絡まれていたらそうするだろう。
「い、いいです……」
「遠慮すんなよ」
愛は腕を掴まれる。痛いと思うほど力が強い。
「や、やめて、」
怖くてどうしようもなくなり、愛は震えていた。その時だった。
「手を離せ。
怖がってるだろ」
近くで声が聞こえた。
「なんだ?お前」
「警察を呼んだ。
お前を突き出すぞ」
見上げれば、整った顔立ちの青年がチンピラを前に凄んでいた。明るい茶髪の髪が風に揺れる。180cmは優に超えそうな長身。そんなイケメンの凄みは、とても迫力があった。
「な、なんだと!?」
近くでサイレンが聞こえる。男は慌てて逃げようとするが、謎の青年に取り押さえられる。
「逃げられると思うなよ」
そうしているうちに警察が愛たちの周りを取り囲み、あっという間にチンピラを捕まえた。そして、チンピラは警察に連行された。愛はその場で軽く経緯を話すと解放された。その間も青年は傍にいてくれた。
「怖かったよね。
怪我はしてない?」
青年は愛の話が終わったあとすぐ心配そうに声をかけた。
「はい、大丈夫です。
すみませんでした」
愛は深く頭を下げる。
「びっくりしたね。
この辺変なやつ多いから気をつけてね」
「はい」
わざわざ警察を呼んで守ってくれるなんて、なんて親切な人だろう。
「学生さん?」
「いえ……」
「そっか。
若く見えたから」
高そうなスーツを身に纏った美青年は、こちらに微笑みかける。きっと沢山お金を貰って、幸せに暮らしているのだろう。余裕があるから人に優しくできるんだ。妬みなどではなく、単に羨ましかった。愛のなりたかった未来は、こういう外見も中身も充実した青年だった。なんだか悲しくなってきて、涙がこぼれそうになったのを慌てて堪える。
「……迷惑かけて、ごめんなさい」
愛は早く帰ろうと、足早に駆け出した。先程の青年に呼び止められた気がしたが、気にしなかった。世の中にはあんな優しい人もいると知れただけでよかった。愛には味方がいないと思っていたが、ああいう優しい人もいるんだと分かった。
愛は、ああ、またか、と思った。
駅前、アルバイト帰りの夜空の下、愛はチンピラに絡まれていた。愛はいつも前髪を長く伸ばし、背中を丸めて、なにかに怯えるようにとぼとぼ道を歩いていた。そんな陰気な様子が却って目立つのか、そういう弱そうなやつをターゲットにしているのか分からないが、愛はよくこういう類の連中に絡まれた。
「……すみません、お金もってなくて」
嘘などはついていない。愛は所謂高卒フリーターで、手に入れた収入も母親に管理されているから、金が無いのだ。しかし、チンピラも、ああそうですかと引き下がるなんてことは無い。
「いいから財布出せ」
愛は仕方なく財布を出した。大声を出されるだけで身体がびくりと震える。情けない自分が嫌になる。
「全然ねぇじゃねぇか。
クソ、役に立たねぇな」
「すみません」
「ふっ、じゃあ身体を売るってのはどうだ?
せめて俺らを気持ちよくさせろよ」
チンピラの男は口の端をにぃっと持ち上げて言った。
「……すみません、急いでますので」
「口答えするんじゃねぇ!!」
「ひっ」
「いい所連れてってやるよ」
チンピラは愛の肩を抱き寄せる。愛は怯えて身体を固まらせた。周りは同情の目を向けてくるが、誰一人助けてくれようとはしない。こういうのは見て見ぬふりをするのが一番だと知っているのだ。愛だって他人が絡まれていたらそうするだろう。
「い、いいです……」
「遠慮すんなよ」
愛は腕を掴まれる。痛いと思うほど力が強い。
「や、やめて、」
怖くてどうしようもなくなり、愛は震えていた。その時だった。
「手を離せ。
怖がってるだろ」
近くで声が聞こえた。
「なんだ?お前」
「警察を呼んだ。
お前を突き出すぞ」
見上げれば、整った顔立ちの青年がチンピラを前に凄んでいた。明るい茶髪の髪が風に揺れる。180cmは優に超えそうな長身。そんなイケメンの凄みは、とても迫力があった。
「な、なんだと!?」
近くでサイレンが聞こえる。男は慌てて逃げようとするが、謎の青年に取り押さえられる。
「逃げられると思うなよ」
そうしているうちに警察が愛たちの周りを取り囲み、あっという間にチンピラを捕まえた。そして、チンピラは警察に連行された。愛はその場で軽く経緯を話すと解放された。その間も青年は傍にいてくれた。
「怖かったよね。
怪我はしてない?」
青年は愛の話が終わったあとすぐ心配そうに声をかけた。
「はい、大丈夫です。
すみませんでした」
愛は深く頭を下げる。
「びっくりしたね。
この辺変なやつ多いから気をつけてね」
「はい」
わざわざ警察を呼んで守ってくれるなんて、なんて親切な人だろう。
「学生さん?」
「いえ……」
「そっか。
若く見えたから」
高そうなスーツを身に纏った美青年は、こちらに微笑みかける。きっと沢山お金を貰って、幸せに暮らしているのだろう。余裕があるから人に優しくできるんだ。妬みなどではなく、単に羨ましかった。愛のなりたかった未来は、こういう外見も中身も充実した青年だった。なんだか悲しくなってきて、涙がこぼれそうになったのを慌てて堪える。
「……迷惑かけて、ごめんなさい」
愛は早く帰ろうと、足早に駆け出した。先程の青年に呼び止められた気がしたが、気にしなかった。世の中にはあんな優しい人もいると知れただけでよかった。愛には味方がいないと思っていたが、ああいう優しい人もいるんだと分かった。
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