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≪終≫握った手の感触
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「お父さん、やっぱりここに居たのね」
僕が彼女の机から立ち上がろうとしていたところだった。
「どうした?」
僕の返しに、彼女は少しため息を吐く。
「お父さんっていっつもここに居るよね」
僕は泣いていたことを悟られないように、注意しつつ。
「そうかな」ととぼけた。
「そうだよ、毎回最後にこの部屋に来るといつもいるもの」
「毎回、そんなに探してくれてたのか」
僕の言葉に彼女は少し顔が赤くなる。
「そ、そうじゃないけど・・・・・・」
珍しく歯切れの悪い返しだ。
「ごめん、そろそろ行くところだったんだ。待っていてくれたらよかったのに」
「お父さん、それも毎回言ってるけどね。一回もそういってきたことないじゃない」
「それはお前がせっかちなんだよ、もうちょっとだけ待ってくれたら自分から行ってたぞ」
僕はなんでもないようにして笑う。
「そうだと良いけどね、とにかく行こう」
ずいずいと僕の近くまで来ると、僕の手を取って引っ張って部屋から連れ出す。
娘のひらりに手を引かれながら、昔彼女とこんなことがあったなと思い出していた。
あれは夏と秋の境目くらいの日だった──
いつものように花遊と学校からの下校中。
「キミト君、ごめんちょっと走るよ」
突然僕の手を掴んで、引っ張って駆ける。
「ちょ、ちょっと、花遊!?」
僕は彼女に手を引かれるままに走る。
しばらく手を引かれ続けて、ふいに立ち止まった。
「はぁ、はぁ。いきなりどうしたんだよ」
僕は息を切らしながら、彼女に問うた。
「ううん、なんでもない。ただちょっと急に走りたくなっただけ」
僕と違って彼女は全く息が切れてなかったが、少しだけ浮かない顔をしてのが気になった。
「それより、キミト君。走って疲れたよ」
「それは花遊が急に走り出すからだろ・・・・・・」
僕らは近くのベンチに座った。
あれだけ走っていたというのに、花遊は息を切らしてはいなかった。
僕は結構疲れて、ベンチにもたれかかっている。
「キミト君、体力なさすぎだよー」
「いやいや、なんであれだけ走って平気なんだよー」
僕は息を整えようと呼吸を繰り返す。
「ねぇ、キミト君。キミト君は私といて楽しい?」
「なんだよ、急に」
僕は空を見上げて僕はため息を吐いた。
「何かあったん?」
僕が尋ねると彼女は「ううん、何でもないよ」と言った。
流石にこれだけ一緒にいるんだ、僕にだって何もなかったわけじゃないというのはわかる。
でも、何に思い悩んでいるのかがわからない。
「なんで急に走り出したんだ? それは流石に理由あるだろー」
彼女は少し考え込む風にしている。
僕は彼女が言葉を出すのを待ちながら、彼女の方を見ずに雲を目で追いかける。
しばらくの沈黙の後、彼女はようやく喋った。
「さっき、クラスの子が居たの。なんとなく見られるのが嫌だった」
「僕と一緒に居るのが嫌?」
「違う!!」
彼女は吠える様に僕に言った。
「私にとって、キミト君と居る時間は大切なの。だけど見られていろいろ言われて壊れるのが嫌なの」
「僕は花遊のこと好きだよ」
恥ずかしくて彼女の顔は見れないけど、それでも今の彼女に精一杯僕なりに伝えた。
「私も、キミト君が好き」
彼女も僕を見なかったと思う、なにせ顔から火が出そうなほど緊張してたからとてもじゃないけど彼女の顔を見ることは出来なかった。
のちに彼女にも聞いたところ、彼女も同じだったと言っていた。
それからどちらからともなく手を繋いだ。
その手は僕の手なんかよりも小さく、柔らかかった。
僕らは互いに空に浮かぶ、雲を眺める。
「キミト君の手って、こんなに温かかったんだね」
「花遊の手は柔らかいね」
「キミト君のエッチ」
僕は彼女の言葉に笑った。
僕らの間にはちょっとだけ距離はあるのに、手を繋いでいるからかその距離感を意識しないで居られる。
「そろそろ、行こうか」
「今日は肉まんが食べたいな」
ちゃんとした意味での関係になった僕らは、言葉にならない気持ちをコンビニの肉まんにして、半分にしたときの湯気と温かさが体に染みわたった気持ちだった。
「お父さんって、お母さんのお墓の前でだけは手を繋いでくれないよね」
ひらりと手分けして墓石を綺麗に洗ったり、花を入れているとふいにそんなことを言われた。
僕は一瞬手を止めて。
「母さんの前では僕の手は空けてあるんだよ、こっそり繋げるように」
「もう死んでずいぶん経つのに、ね」
「ははは、母さんは結構やきもち焼きだったんだぞ、夢に出てきたらきっと宥めるのが大変だからな」
僕は苦笑しながら、ひらりにいう。
「私も死んでも、こんな風に思ってくれる人と結婚したいなー」
「ひらりなら、心配しなくてもそのうち現れるさ」
僕がそう返すと「お父さんは、さぁ」と続ける。
「お父さんはさぁ、私に彼氏が出来たり結婚するのは嫌じゃないの? よく男親だとそう言うのが嫌って聞くじゃん」
「んー、お父さんはひらりが良いというのなら心配ないと思っているからな。別に娘の障害にはなりたくはないな」
そんな僕に「ふーん」とだけ返して、墓石の周りの草を取り始めた。
「そんなに久しぶりじゃないのに、結構草は伸びるもんだね」
「そうだな、もう少しマメに来るか?」
「今でも結構来てるじゃん」
ひらりはため息を吐く。
二人であらかた片付けると「よしっ」とひらりが立ち上がる。
「お父さん帰ろうか」
「そうだな」
僕がそう言うと突然、ひらりは僕の手を握って引っ張った。
「お、おい」
「たまには親子の中を見せつけとかないと」
そう言って決して手を離さない。
僕はひらりに手を引かれていきながらちらっとお墓を振り返った。
気の所為かもしれないけど、嬉しそうに笑う声が聞こえたようなそんな気がした。
僕が彼女の机から立ち上がろうとしていたところだった。
「どうした?」
僕の返しに、彼女は少しため息を吐く。
「お父さんっていっつもここに居るよね」
僕は泣いていたことを悟られないように、注意しつつ。
「そうかな」ととぼけた。
「そうだよ、毎回最後にこの部屋に来るといつもいるもの」
「毎回、そんなに探してくれてたのか」
僕の言葉に彼女は少し顔が赤くなる。
「そ、そうじゃないけど・・・・・・」
珍しく歯切れの悪い返しだ。
「ごめん、そろそろ行くところだったんだ。待っていてくれたらよかったのに」
「お父さん、それも毎回言ってるけどね。一回もそういってきたことないじゃない」
「それはお前がせっかちなんだよ、もうちょっとだけ待ってくれたら自分から行ってたぞ」
僕はなんでもないようにして笑う。
「そうだと良いけどね、とにかく行こう」
ずいずいと僕の近くまで来ると、僕の手を取って引っ張って部屋から連れ出す。
娘のひらりに手を引かれながら、昔彼女とこんなことがあったなと思い出していた。
あれは夏と秋の境目くらいの日だった──
いつものように花遊と学校からの下校中。
「キミト君、ごめんちょっと走るよ」
突然僕の手を掴んで、引っ張って駆ける。
「ちょ、ちょっと、花遊!?」
僕は彼女に手を引かれるままに走る。
しばらく手を引かれ続けて、ふいに立ち止まった。
「はぁ、はぁ。いきなりどうしたんだよ」
僕は息を切らしながら、彼女に問うた。
「ううん、なんでもない。ただちょっと急に走りたくなっただけ」
僕と違って彼女は全く息が切れてなかったが、少しだけ浮かない顔をしてのが気になった。
「それより、キミト君。走って疲れたよ」
「それは花遊が急に走り出すからだろ・・・・・・」
僕らは近くのベンチに座った。
あれだけ走っていたというのに、花遊は息を切らしてはいなかった。
僕は結構疲れて、ベンチにもたれかかっている。
「キミト君、体力なさすぎだよー」
「いやいや、なんであれだけ走って平気なんだよー」
僕は息を整えようと呼吸を繰り返す。
「ねぇ、キミト君。キミト君は私といて楽しい?」
「なんだよ、急に」
僕は空を見上げて僕はため息を吐いた。
「何かあったん?」
僕が尋ねると彼女は「ううん、何でもないよ」と言った。
流石にこれだけ一緒にいるんだ、僕にだって何もなかったわけじゃないというのはわかる。
でも、何に思い悩んでいるのかがわからない。
「なんで急に走り出したんだ? それは流石に理由あるだろー」
彼女は少し考え込む風にしている。
僕は彼女が言葉を出すのを待ちながら、彼女の方を見ずに雲を目で追いかける。
しばらくの沈黙の後、彼女はようやく喋った。
「さっき、クラスの子が居たの。なんとなく見られるのが嫌だった」
「僕と一緒に居るのが嫌?」
「違う!!」
彼女は吠える様に僕に言った。
「私にとって、キミト君と居る時間は大切なの。だけど見られていろいろ言われて壊れるのが嫌なの」
「僕は花遊のこと好きだよ」
恥ずかしくて彼女の顔は見れないけど、それでも今の彼女に精一杯僕なりに伝えた。
「私も、キミト君が好き」
彼女も僕を見なかったと思う、なにせ顔から火が出そうなほど緊張してたからとてもじゃないけど彼女の顔を見ることは出来なかった。
のちに彼女にも聞いたところ、彼女も同じだったと言っていた。
それからどちらからともなく手を繋いだ。
その手は僕の手なんかよりも小さく、柔らかかった。
僕らは互いに空に浮かぶ、雲を眺める。
「キミト君の手って、こんなに温かかったんだね」
「花遊の手は柔らかいね」
「キミト君のエッチ」
僕は彼女の言葉に笑った。
僕らの間にはちょっとだけ距離はあるのに、手を繋いでいるからかその距離感を意識しないで居られる。
「そろそろ、行こうか」
「今日は肉まんが食べたいな」
ちゃんとした意味での関係になった僕らは、言葉にならない気持ちをコンビニの肉まんにして、半分にしたときの湯気と温かさが体に染みわたった気持ちだった。
「お父さんって、お母さんのお墓の前でだけは手を繋いでくれないよね」
ひらりと手分けして墓石を綺麗に洗ったり、花を入れているとふいにそんなことを言われた。
僕は一瞬手を止めて。
「母さんの前では僕の手は空けてあるんだよ、こっそり繋げるように」
「もう死んでずいぶん経つのに、ね」
「ははは、母さんは結構やきもち焼きだったんだぞ、夢に出てきたらきっと宥めるのが大変だからな」
僕は苦笑しながら、ひらりにいう。
「私も死んでも、こんな風に思ってくれる人と結婚したいなー」
「ひらりなら、心配しなくてもそのうち現れるさ」
僕がそう返すと「お父さんは、さぁ」と続ける。
「お父さんはさぁ、私に彼氏が出来たり結婚するのは嫌じゃないの? よく男親だとそう言うのが嫌って聞くじゃん」
「んー、お父さんはひらりが良いというのなら心配ないと思っているからな。別に娘の障害にはなりたくはないな」
そんな僕に「ふーん」とだけ返して、墓石の周りの草を取り始めた。
「そんなに久しぶりじゃないのに、結構草は伸びるもんだね」
「そうだな、もう少しマメに来るか?」
「今でも結構来てるじゃん」
ひらりはため息を吐く。
二人であらかた片付けると「よしっ」とひらりが立ち上がる。
「お父さん帰ろうか」
「そうだな」
僕がそう言うと突然、ひらりは僕の手を握って引っ張った。
「お、おい」
「たまには親子の中を見せつけとかないと」
そう言って決して手を離さない。
僕はひらりに手を引かれていきながらちらっとお墓を振り返った。
気の所為かもしれないけど、嬉しそうに笑う声が聞こえたようなそんな気がした。
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