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第二章

中島 喫茶店パロ(年齢操作あり) 前編

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小学生の頃、あんなにも憧れた中学校は思いのほか窮屈で、中学生の時待ち望んだ高校はあまりにも退屈で呆気なかった。

あの頃、大人になればきっと何か、とても楽しい何かが起きると信じて疑わなかったあの頃、もしかしたら、つまらなかったのは俺自身だったのかもしれない。
文学のような淡い恋をするわけでも無く、学生にありがちな無茶や悪さもしない。やろうと思えばできたのかもしれない。

けれど、しなかった。

適当な友達と適当に過ごして、何かに打ち込むでもなく、朝起きたら学校へ行って帰りに塾へ寄って休日は友達とカラオケへ行ったりマックで昼飯食ったり……。2年の後半から真面目に受験勉強しだして俺は今、大学生だった。

高校ではもう大学に対し希望は持たなかった。

もしかしたら満たされていたのかもしれない。
そこそこの大学に行って、一般教養や専門的なことを学んで就職して……そしたらどうなるのだろう?
適当な人と結婚して子供ができて、こどもを育てたら退職して、老後は適度に田舎なところで余生を過ごす?
それは幸せなことなのだろうか?
軽々しく結婚とか子供とか言ってみたけれど俺はそんな責任を持てるか?
幸せにしなければいけない。そんな義務感で誰かを幸せにできるのか?
幸せにしたいと思える相手と出会えるのか?
結婚式場のCMのカップルはとても幸せそうだ。
もう結婚してしまった親戚の姉ちゃんはウェディングドレスを着て綺麗に微笑んでいた。
子どもが生まれたと泣いて喜んでいた。

きっと、アレが幸せなんだと思う。

今まで付き合った女の子を俺は幸せにしてあげられたとは思えない。
もししてあげられていたら別れなかったハズだ。

いつも同じ。
告白されて断る理由が無かったらOKして(OKする理由もないんだけれど)、最後は「あなたといても楽しくないの」とフラれる。

ずっと受け身だった。
彼女がいなくても困らないし、いたら休日に出かける理由が増えるだけ。

買い物に付き合ってイベントごとに何かプレゼントを考えて、イケそうだったらキスして、そんな雰囲気になったらえっちなこともしてみた。

けれどいつも最後はフラれる。

きっと俺に気持ちが無いのがバレてるんだと思う。
女の子って時々すごく敏くて、俺なんかじゃ敵わない。
恋に憧れるなんて、俺は小学生の頃から何も変わっていない。

白馬の王子様に憧れるなんて馬鹿らしい事この上ない。
幸せは歩いてこないって昔の人も歌ってたじゃないか。

取り合えず、俺が今日歩いていくのは駅前に出来た喫茶店。
雰囲気が良いと高校から一緒の原田と田中に誘われて、電車に揺られること10分ちょい。

待ち合わせよりもちょっと早く着いたけれど。まぁ現地集合だから先に中に入って待っていようと、ちょっと重量のあるドアを開けるとフワリとコーヒーの焦げた香りがした。
カランコロンとドアについたベルが鳴って、「いらっしゃい」と柔らかい声がかかった。

その声の主を見て、俺は何も考えずにカウンター席に着いた。

「えっと、初めまして」
「はい、初めての方ですね」

個人経営の店に入るのも、店員さんとお話しするのは初めてだからちょっと緊張していて、硬い声で話しかけてしまったけれど店員さんはふわりと笑ってくれた。
モーニングが終わったくらいの半端な時間帯で、俺のほかにお客さんは何人かまばらにいる感じだった。

「オススメとかありますか?」

綺麗に笑う店員さんに肩の力が抜けて、俺もヘラリと笑った。

店内は落ち着いた曲調の音楽が流れていて、何か全体的に木っぽい。
ソレが俺の思った店の雰囲気。

まぁ今思うとすごく拙い感想だ。でもその時は店がどうのこうのよりも目の前の店員さんばかり気になっていて他のことに目を向けれなかった。

ブレンドコーヒーと店員さん特性だというチョコレートケーキをオススメされて俺は言われるがままにケーキセットを頼んだ。チョコの甘さとコーヒーの苦みがすごくあっていて、すごくおいしくて、食にそこまでこだわらないタイプだと思っていたのに夢中で食べてしまった。

「はは、気に入ってくれたみたいだね」
「はい、すごくおいしいです」

思ったままに答えれば店員さんはすごくうれしそうに笑った。

「学生さん?」
「はい、K大の1年です」
「へ―、もしかして経済?」
「あってますけど……もしかして俺チャラそうです?」

見事あてられてしまい少し不服そうな顔をすれば店員さんは苦笑いするだけで何も言わなかった。……つまりチャラく見えるのか。否定はしないけれど。

「あ、そーいえばなんていうの? 俺は倉科誠っていうんだけどちなみに此処の店長ね」

話をそらされた。っていうか店長だったのね。

「中島光輝って言います。てっきり同じ学生でバイトの人だと思ってました」
「えー……ときどき言われるけど俺もうすぐ三十路なんだけどなぁ」
「えっ!?」

ずっと苦笑いの倉科さんはいっそ高校生だと言っても通じそうなくらい若々しく見える。
でも高校生だったとしても学級委員長とか図書委員とかそういう落ち着いた役職についているだろう落ち着いた感じだ。

「(眼鏡とか似合いそう……)」

特別イケメンとかそういう感じでは無いけれど顔は散らかってないし柔らかい雰囲気が倉科さんを綺麗に見せていた。化粧とかしてしっかりした設備で写真を撮ったらモデルになれそうだ。

「三十路ってまじですか!?」
「や、まだだからね。まだ20代だから」

一応そこはこだわるらしい。

「まだ27だから」

27……それでも俺が思っていたよりも全然上だ。
ティーンかと思っていた。

「思っていたよりも全然上ですね……」
「そんな幼く見えるのか……」
「老けて見えるよりも良いと思いますけれど」
「でもちょっと風格ってものが欲しいよね」

風格……喫茶店の店長にそんなものが必要なのかは分からないけれど風格ってなんだか倉科さんには似合わないな。彼を表すとしたら癒しとか可愛いとかそんな感じだ。

「無くても良いと思いますけれど」
「君みたいなイケメンにはいらないのかもしれないけれど俺みたいなフツメンは何かしらそーいうのが欲しいんだよ」

フツメン……フツーなのか、な?
まぁフツーだ。
でもそのフツーさが和むというか、此処が落ち着く理由の一つなんだろう。

コーヒーとケーキ美味しいし倉科さんとお店の雰囲気良いし……なんだかまた来たいかもしれない。
そんなこんな倉科さんとお話ししていると後ろからカランコロンとベルの鳴る音がした。

「こんにちわー」

聞き覚えのあるちょっと高い声。田中だ。

「あ、中島さきに来てたんだ」

ニコニコと俺の隣に座ると倉科さんに俺と同じものを頼んだ。
それから田中と倉科さんと俺で駄弁って原田を待って、3人そろったらまた駄弁って、暗くなる前に本屋に寄って帰った。

特に何があっというワケじゃないけれど楽しい1日だった気がする。


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