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第二章
6.5
しおりを挟むさて、その場のノリでOZの一人……案山子を匿ったが、俺も何も考えずそんなことをしたワケじゃない。もししたら風紀に怪しまれて連行されたりしたかもしれないし、最悪室内を探されて見つかったりしたら校務執行妨害で共犯にされていたかもしれないし。
そんなリスクを無償で追う程俺もお人よしじゃない。
わざわざそんなところに匿わなくとも窓から逃げるのを唖然と見ていたって良かった。
そうしなかったのはオレが案山子に、いや、OZの誰かに用事があったからだ。
未だ俺の手元にある、狐面についてだ。
“鬼と狐に会ったら、逃げろ”
OZは4人、そのうちの危険人物と認定されているらしい狐。つまり、ドロシー。
そんな奴の面を、俺が持っている。
しかし、ドロシーの面を俺が持っているという事をOZが知っているかは分からない。
ジン先輩が勝手に俺に渡しただけで許可は取らずもしかしたら探しているかもしれない。だとしたら早く返さなければならないと思う。が、逆に何かの意図があって俺の手元に置いてあるとしたらこれから俺は彼らに関わっていくことになる。
ソレは少しマズイ。
俺は正直な話面倒事は嫌いだし、学校側と敵対している組織と関係を持つには俺の知り合いに学校側の人物が多い。それは美姫弥先輩だったり藤原だったりするが一番は東藤先生だ。
俺を純粋に心配してくれている先生のためにも俺はこれ以上灰色を濃くするわけにはいかない。
だから、それとなく何かしらの情報を手に入れたい。
これは今までにないチャンスなのだ。
「(OZと縁を切るための)」
「えっと、お面は外さなくてもかまいません。できれば少しだけお話をさせていただきたいのですが……」
そう声を掛ければ案山子は少し間を開けて頷いてくれた。
「声を出したくないなら筆談でもかまいません。それすら嫌なら首を振るだけでもいいんです」
もう一度頷くと案山子はカウンターの中にあったホワイトボードに目を向けた。どうやら筆談に応じてもらえるらしい。
まず何を聞こうか。時間は限られている。早くしないと閉館時刻が来てしまう……。
「……率直に聞きます。あなた方のリーダー、ドロシーに会うにはどうすれば良いですか」
我ながら思い切った質問だ。
一歩間違えば関係者にされてしまうかもしれない。本末転倒も良い所だ。
少し考えるような素振りの後案山子はホワイトボードに文字を書いた。
[彼に何か用事が?]
「はい」
しかし、コレで案山子が俺の存在を知らないことが分かった。もし俺が面を持っていることを知っていたらわざわざそんなことは聞かないだろう。
もしかしたら知っている上で知らないフリをされているのかもしれないけれど。
「以前、助けてもらったことがあるんです。その時に借りたものを返したいんです。ソレにお礼も言いたいし……」
嘘は言っていない。
確かにあの面には助けられたしアレを返したいというのが目的だ。礼も一応言うべきだとは思っている。あくまでそちらはおまけ程度だけれど。
そう言えばまた案山子は間を開けてからボードに文字を書き始める。
[君は一年生の倉科君だよね。会えるかは分からないけれど彼に伝えてみる。そしたらこちらから接触させてもらうかもしれないからそう思っていて]
「……ありがとうございます」
流石に簡単にはいかないか。
出来れば案山子ともう一度会う約束を取り付けられたらと思っていたが……しかしこれで事と次第によってはドロシーが何を考えているのか分かるかもしれない。
貸したつもりでもそうでなくとも動きはあるハズ。
無かったら、完全にドロシーが俺を認識したうえで俺の所に面を置いていることが分かる。
とりあえず、今できることはソレくらいか。
「って、あれ。何で俺の名前知ってるんですか?」
[……秘密]
何気なく聞いて返された返事に何とも言えない気分になる。
秘密……という事は俺を一方的に知っているというワケではなく下手したら知り合いかもしれないということか。確かに俺は何かの時に話題に上がるような人物じゃないけれど……。
クラスメイトでないことは分かるがそれ以外は全く分からない。
しかし役員関係の時に名前を言うことはあったしもしかしたら知り合いの知り合いなどの可能性もある。……面倒臭い。
俺は考えるのをやめてため息をついた。
「……もう大丈夫です。ありがとうございました」
[ううん、こちらこそ匿ってくれてありがとう]
それで話は終わりなので開きっぱなしだったノートと教科書を閉じ、筆入れと一緒にカバンにしまう。
外はもう大分暗くなっていた。
「では、お先に失礼します」
カバンを持って部屋からでると一気に現実に戻ってきた気がした。
今まで能面を付けたOZの一人と話をしていた、なんてちょっと自分でもワケが分からない。
帰路に付きつつ俺は緊張やら使い過ぎやらでのぼせた頭を冷やした。
狐面についてはもう見慣れたし、つけていたのは一回きりで、ちょっと便利だった物体というぐらいの認識だったが、お面とはああも人が付けると印象が変わるものなのか。
正直な話、あの生徒には悪いが気味が悪い。
喋らない相手、顔が見えない相手、知らない相手……夕日に照らされたソレを見た瞬間、本音を言えばゾッとした。
自分がホラー映画の中に入ってしまったかのような非現実感だ。
ソレが何なのか分かってはいるがいまいちソレが人だと認識しづらい。
荒い息がかろうじてソレがヒトだと教えてくれたがもし息遣いさえなかったらうっかり俺は腰を抜かしてしまっていたかもしれない。
俺が入ってきたとき、藤原たちもそんな気分だったのなら少し申し訳ないかもしれない。
あと、少しだけOZが怖くなった。
お面の不気味さというのもあるが、風紀の人の真剣な顔に俺は少し引き込まれていた。
逃げろ、その言葉は確かに一般生徒を想う言葉だった。
いったい俺はどんなものに首を突っ込んでしまったのか。危険なことをしているのは分かっているつもりだが、怖さを感じたのは初めてだった。
いつもは何があっても逃走経路を頭の片隅で考えて、駄目だった場合の上手い言い訳も用意していたし、本当に危険だと感じてはいなかった。
「(でも今回は、何も策が無かった)」
何も思いつかず、勢いのままに事を進めた自覚がある。偶然上手くいったが失敗していたら、どうなっていたか予想もつかない。
コレが未知への恐怖なのかもしれない。
俺はいったい何を相手にしていたのか……。
今更冷や汗が止まらなかった。
「あー、もうやだ。帰ったらそっこーで飯食って誰かと談笑する」
顔を手で覆って深く息を吐いて、少し歩く速度を上げた。
誰でもいい、知ってる人に会いたかった。
・・・
誰もいなくなった図書館で、少年は仮面を取って息をついた。
「……彼の世話になるような目にあったんだね。倉科君。ホント、この学校って最悪だ」
その呟きは誰に聞かれることも無く、静かな部屋に小さく響いていた。
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