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第三章:盗賊ライドと不愉快な仲間たち
21、シリアス戦闘シーンはございません
しおりを挟む「はあ、疲れた……」
思わず深々と溜め息をついて、俺は空を仰ぎ見た。もうすっかり日は沈んで暗い。夜空には星が瞬いている。あ、流れ星。
「おいザクス、流れ星だぞ、願いごと三回唱えろ早く!」
「お前はなにを願うんだよ?」
「んなもん決まってるだろ、女女おん……あああああー!」
当然のように、言い終わる前に流れ星は流れ終え、ライドの阿呆な叫びが夜空に響いて消えた。女とか意味不明なんですが。
「お前、女になりたいの?」
「なんでじゃい! 女にモテたいんだよ!」
「女を連呼でその願いが叶ったら、むしろ星すげえわ」
どんだけ流れ星は有能なんだよ。
床に座り込んで両足を前に投げ出し、俺はハアとまた溜め息をついた。
兄貴との決着? そんなもん秒で終わったっつーの。
兄貴は俺と互角の能力を持ってると思っていたようだが、ハッキリ言っておく。俺は兄貴の数倍強い。
だってよ、俺はかつて兄貴に勇者になれるほどの能力を分け与えておきながら、更にモンジーやセハにミユにも能力を分けてたんだ。それで奴らは最強パーティーになったのである。つまり四人の能力全てで俺一人の能力ってわけだ。
兄貴が俺に勝てるわけがないっつーの。
そんなわけで、兄貴は俺の魔法で思い切りぶっ飛ばしたので、今頃どこぞの荒れ地に落ちてることだろう。まあ死にゃあしないと思うけど。
「にしても、なんで兄貴に能力が戻ったんだろうな」
戻ったとは言っても、俺が分けてた頃よりは弱いけど。それでも結構な能力値だった。だが俺は兄貴から能力を取り戻してから、一度もまた分けるなんてことしたことない。
ではなぜ?
「はい、コピー完了ですう」
首を傾げていたら、背後から声がしたので振り返った。
「ミユ?」
ぶっ飛ばした兄貴と違って、ミユはまだ居たんだっけ。
そのミユがにっこり微笑んでいた。そしてその肩には──
「ザクス見よ、あの肩にいる存在を!」
「え。よ、妖精?」
ミュセルに言われなくても俺は既に見ていた。ミユの肩に座る存在。妖精を。
ミュセルとは異なり、青い髪青い瞳。女性的なミュセルに対し、短い髪にキツイ目つきのせいか、男性的に見える。
「ふふ、妖精はザクスだけの特権ではありませんよお?」
「どうしたんだよ、その妖精」
「隕石破壊時に見つけました」
「いつの間に?」
「う~ん、三年ほど前ですかねえ」
そんなに!? それってまだ俺も一緒にパーティー組んでた時じゃないか。確かに何度か隕石を破壊してるけど、妖精がいたなんて聞いてない。
「誰にも言ってませんからねえ。見えないように普段は姿を消してもらってたんですう」
「そうだったのか……」
隕石は基本この世界にない鉱物や宝石が含まれてるので、お宝といえばそれが基本。ミュセルは超レアだと思っていた。だがそうだよな、ミュセルと俺の関係のように、同じように隕石から妖精を発見する奴がいてもおかしくない。いや、当然あるべきだ。
だがまさかミユが妖精を連れていたなんて、予想外だ。
「妖精って便利なんですよお? 魔力補充もですが、コピー能力もあったりして」
「コピー能力?」
「ええ。たとえばこんな風に」
言って、ミユは手の平に魔力を集中させたかと思えば、突如風を巻き起こした。
「これは……セハの黒魔法?」
「そうですう。セハの能力をコピーして、私にうつしました」
「マジかよ……」
「そして、そこそこ強い戦士や魔導士の能力をコピーして、ディルドにうつしました。でもまだまだですねえ。というわけで、ザクスの能力をコピーさせていただきました」
そう言って、ミユはニッコリ微笑んだ。
「え!?」
「ザクスの能力は勇者の能力、でしょう? ならばこれをディルドにうつせば、はれて彼は勇者に戻ると」
「お、おいミユ!」
「だから言ったでしょう? 妖精を大事にしろって。次に会う時は、覚悟してくださいねえ。ディルド、強くなっちゃってますよお?」
「おいってば!」
「じゃあ、私はこれで……」
フワリとミユの体が浮く。飛行魔法か。
「待て、せっかく会えた同胞じゃ! 少し話を……」
本気か引き留めるための嘘か知らないが、ミュセルがミユの肩にいる妖精に話しかけた。
だが
「話すことなんてないね」
ベッと舌を出して拒否の意を示されてしまった。
「な、なんじゃとお!? おぬし、同胞に興味ないのか!?」
「ないね。おいらはミユさえ居ればいいんだい」
同じ妖精でも話し方って色々あるんだな。美形な外見とは裏腹に、随分ヤンチャそうな話し方をする妖精だ、ミュセルは目を白黒させている。これは本気で同胞と話したかったんだな。
ミュセルが人のサイズになって追いかけようとするが、ミユのほうが早かった。
「それじゃあまたねですう~」
そう言って、風のごとし早さで飛び去ってしまった。
「ミユ、待って……!」
セハが追いかけるも、伸ばした手は虚しく宙を切った。
そのまま、ミユはあっという間に見えなくなった。
残された俺達はしばし放心状態。ややあって、「帰るか」とホッポが小さく呟いた。切り替え早いな。
「どうやって帰る?」
ライドの問いに、ホッポは軽く肩をすくめた。
「ドラゴンに運んでもらえばいいんじゃね?」
「おお、名案だな」
ホッポの提案にそれだとばかりに手を打つライド。
だが。
「いやです」
即答の拒絶再び。
「やむを得ない事態ならともかく、私があなた方を運ぶ義理はない」
「くそ、用済みになった途端にこの冷たさよ!」
もっともな言い分だが、ライドは不満そうだ。
でも俺もそれでは困る。
「兄貴を撃退したんだから、見返りとして近くの街まで送ってくれないか」
「あなたの頼みならば」
「即答でオーケーでたし!」
俺が言えばアッサリ出た承諾に、悔しさに涙するライドであった。
「ちなみに仲間になるという話は……」
「ドラゴンは嘘をつかないわ。隠し事はするけど」
さいで。まあドラゴンが仲間になったら何かと便利かもなあ。
「妹たちはどうするんだ?」
「それは……」
そこが悩みとばかりに、顔を曇らせるメルティアス。妹たちと顔を見合わせた。
「心配なら俺らと一緒に来るか? お兄さんが面倒見ちゃろう」
随分と無責任なこと言ってるがなライド、お前、絶対面倒見てもらうほうだろ。
「いえ、大丈夫です。これまでずっとこの塔に住んで来たのですから。数年くらい姉様が戻るまで待てます」
だがアッサリとシュレイラに断られた。
「そうか……なんなら俺が嫁さんにしてやろうかと思ったんだがなあ」
「絶対にお断りします」
凄い嫌そうな顔で拒否されてるし。
「数年て、どういう根拠で言ってるんだ? いやさ、爺様になってまで冒険者するつもりはないけど……」
「その点は大丈夫よ」
俺の言葉に、ニコリと微笑んだのはメルティアス。
「私達ドラゴンは長命だから。我らの数年という感覚は、人で言えば数十年なの」
「あー……なるほどね」
ドラゴンは長命、下手すればこの世界の始まりから生きてるやつもいる。
なんて作り話だと思っていたが、あながち嘘では無いのかもしれない。
「それに二人も、人間の感覚であと百年もすればドラゴンになれるでしょうし。そうすれば私が守る必要もない」
「へ~……うん、ちょっと待て」
そこまで聞いて、ライドが顔を曇らせた。
「つかぬことをお伺いしますが」
「なに?」
「おたくら、今何歳なの?」
あ、それ聞いちゃう?
聞かなきゃいいのに、と俺が思う横でライドは不安そうにメルティアス達の顔を見た。
キョトンとする三姉妹。なぜそんなことを聞くのかと不思議そうにしながらも、メルティアスが口を開いた。
「シュレイラが75歳、リューリーが58歳。そして私は……」
横でライドが固まる気配がした。
「329歳よ。歳の離れた姉妹なの」
ショックでライドが涙を流したのは直後のこと。
良かったな、お前たしか年上がタイプなんじゃなかったっけ?
泣くほど嬉しいかと、俺はライドの涙を見て大笑いするのだった。
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