41 / 48
第三章:盗賊ライドと不愉快な仲間たち
18、兄弟ゲンカ勃発
しおりを挟む大きな音と共に爆風が襲い来る。思わず顔を覆って次に目を開けた時には、視界が開けていた。
塔の壁が大きく破壊されたのだ。おかげで窓から覗かなくても、兄貴とミユがよく見える。
「なにを……」
「上に登ってこい、ザクス。これより上はドラゴン専用らしくて広々としてるぞ。戦闘にはもってこいだ」
クイと顎で上を指し示す兄貴。
「兄貴と戦う理由はない」
「まあそう言うな、お前だって俺に色々思うところがあるだろ? なあに、ただの兄弟喧嘩さ」
ただの兄弟喧嘩がこんな不穏なものであってたまるか。
「お前が勝てば、許してやるよ」
だがいきなりの許してやる発言に、俺は首を傾げた。
「許すって何を? どちらかと言えば、追い出された俺が許すかどうかの立場だと思うんだが」
「俺の能力を奪ったことに対してだよ」
言われたことに一瞬言葉を失った。そんな俺を見て、ニヤリと兄貴が笑う。
「気付いてないとでも思ったのか? お前が俺から勇者の能力を奪った事くらいとっくに分かってんだよ。でなきゃお前が俺と同じように容姿が変化して、強くなった理由が説明できない」
「……」
どうやら兄貴も、セハと同じ勘違いの方向に推理が働いたらしい。
俺は奪ったのではない。取り返しただけだ。
と説明したところで、きっと目の前の兄貴は納得しないんだろうが。
「俺が兄貴の能力を奪って、俺と兄貴の立場が逆転したと? じゃあ今の兄貴はなんだよ。俺の力はそのままに、兄貴にも勇者の力があるじゃないか」
「まあそこは置いとけ」
「いや置いとくなよ」
そこが肝心だろうが。説明しろと睨めば肩をすくめる兄貴。どうあっても説明はしないと。
と、そこまで考えてふと気になったことを俺は口にした。
「モンジーは? 一緒じゃないのか?」
飛行魔法で浮く二人の周囲には、他に誰もいない。メルティアスの話にも出てこなかった存在を、俺は目で探した。「今まで俺のこと忘れてたの!?」というモンジーの声が聞こえてきそうだ。
だが実際にはモンジーの声は聞こえない。気配もない。
「死んだよ」
「死んだ?」
なんでもないことのように兄貴が言う。俺が訝し気に問い返せばニヤリと笑う。
「あんなでかいだけで無能な男なんぞ必要ない。見ての通り、俺は勇者としての力を取り戻した。俺は一人でも魔王を倒せる。そうだろ、ミユ?」
「ええ」
兄貴はともかくとして、ミユはこんなやつだったろうか? こんな妖艶な笑みを浮かべ、兄貴にしなだれかかるようなやつだったか?
俺の知るミユは、兄貴をあまり好いていなかったような……。
「ミユ!」
俺の思考を止めるように、セハが俺を押しのけて前に立ち、必死に手を伸ばす。
「ねえミユ、一体どうしたのよ? どうしてこんなとこにいるの? モンジーは……本当に死んだの?」
セハの矢継ぎ早の質問に、けれどミユは答えない。浮かべた笑みはそのままだ。
瞬間、ゾクリと嫌な気配を感じた。
「セハ!」
考えるより早く、その伸ばされた腕を体ごと引く。
「きゃあ!?」
直後、彼女の腕があった場所に風が起きた。
「あー惜しい」
「兄貴、てめえ!」
兄貴の手には、剣が握られていた。かつての兄貴らしく、勇者らしく、目にも止まらぬ早さで抜き放たれたそれは、確実にセハの腕を切り落とそうとしていた。間一髪。
俺に腕を引かれ、ギリ無事だった自分の手を、青ざめた顔で見るセハ。呆然としているのは当然だろう。
「てめ……」
何しやがる!
そう叫んで剣を手にしようとして思い出す。そうだ俺の剣は折れていたんだった。武器屋の親父の無精髭を剃ってやると息巻いていたんだっけ。
俺は背後を振り返った。
「おいホッポ」
お前の剣、もう一度貸してくれ。
そう言おうとして振り返ったその瞬間。
「はいそこまでー!」
「!?」
額に痛みを感じて思わず顔をしかめた。
「何すんだ、ライド!」
俺の額にデコピンをしてきたのはライドだった。文句を口にしたら、またデコピンされた。おい!
「まあ落ち着け、ちょっと落ち着け、物凄く落ち着け」
「どっちだよ」
「どっちにしろ落ち着けってことだ。お前、今冷静さを欠いてるぞ」
ライドに言われてしまうほどに俺は冷静では無かったのだろうか。
だが
「お前ね、あんな美男美女相手にガルガル怒るのは良くないぞ。うん、美人大好きな俺は許せないな。お前の兄貴はともかく、見ろよあのミユちゃん。一年前と比べてグッと色っぽさが増してるぞ」
真面目にライドの話を聞いた俺がバカだったと直後に後悔する。
ゴンッとライドの頭からいい音がする。中身がないといい音するよな。
「ちょっと黙ってろ」
横やり入れんなよと一言添えたら、笑い声が聞こえた。兄貴だ。
「ハハ、お前の仲間はどうしようもないバカだな。そんなのとパーティー組んでなんになる? どうだザクス、もう一度俺と一緒にパーティー組まないか?」
「はあ? いきなりなに言い出しやがる。てめえが追い出したんだろうが」
「まあそうなんだがな」
そう言って、面白そうにクックッと笑いながら、兄貴は顎に手をやって俺らを見回した。
「あの時はお前、ビックリするほど弱かっただろ? 職無しだったし」
「俺は今も職無しだよ」
「ギルドの認定職なんてどうでもいい。お前の今の実力は勇者……俺に匹敵するものだ。違うか?」
「……」
「無言は肯定だな」
顎から手を離し、ピッと人差し指で俺を指さす。
「今のお前なら文句なしだ。俺の所に戻ってこいザクス。兄弟で魔王を倒そうぜ」
「今更そんな都合のいい話あるか」
勝手すぎるだろと言えば、また兄貴は笑う。笑って、今度は人差し指を立ててチッチッチと横に振った。
「わかってねえなあ、お前は。今のお前なら俺の実力が理解できるだろ? どうせ俺よりは弱いんだ、なら俺のサポート、引き立て役として俺と共にあるほうがお前を有効活用……」
それ以上は聞いてられなかった。俺は素早く体を動かす。足先に力を込めて一気に前へ──兄貴の前へと詰める。いまだミユの飛行魔法で飛び続ける兄貴に向かってジャンプして。
そして──
ポキッと兄貴の人差し指がいい音を立てて折れた。有り得ない方向に向かって。
「んがっ!?」
間抜けな声を上げて、兄貴が苦悶に顔を歪める。だが逃げることは叶わない。あくまで飛行魔法はミユの管理の下だ、兄貴が好き勝手に動けるものではない。
そしてミユは動かない。俺の行動を黙って見てるのみ。
「何しやがる!」
そう叫ぶ兄貴を尻目に、俺は落ちた。当然だ、塔の三階、兄貴は塔の外を飛んでいる。その兄貴に向かってジャンプしたのだ。飛行魔法を使えない俺は、自然の法則にのっとって落ちるのみ。
だがまあ、勇者の俺がそのまま地面と激突なんてするわけもない。
「風魔法」
呟いて、魔法で強風を起こす。飛べないまでも、地面への衝突の勢いは弱まり、俺はなんなく地面に着地した。
未だ地面に横たえられたままの馬が、視界に入った。
「この馬は、兄貴が殺したのか!?」
一気に遠くなった兄貴に聞こえるようにと大声で問いかける。
だが回復薬を飲んで指を治す兄貴は答えない。
ガチャンと音を立てて、兄貴が投げた回復薬のビンが俺のそばで割れた。
「いいだろう、お前の覚悟はしかと受け止めた! 塔の最上階まで来い、ザクス! 俺がお前を倒したら、俺の配下になれ!」
仲間ではなく配下、そう言って兄貴とミユは上へと飛び、見えなくなった。
「ちっ……」
会話もできねえのかよ。苛立ち舌打ちする俺を兄貴が見ることはない。
大きく壁が壊された塔の三階から、ライドが俺を覗き込み、なにやら口を動かしてるようだが遠くて聞こえなかった。
「このシリアス展開、いつまで続くの……?」
そう言ってるのが聞こえたら、間違いなくその空っぽの頭を殴っていただろう。
34
お気に入りに追加
1,181
あなたにおすすめの小説

パークラ認定されてパーティーから追放されたから田舎でスローライフを送ろうと思う
ユースケ
ファンタジー
俺ことソーマ=イグベルトはとある特殊なスキルを持っている。
そのスキルはある特殊な条件下でのみ発動するパッシブスキルで、パーティーメンバーはもちろん、自分自身の身体能力やスキル効果を倍増させる優れもの。
だけどその条件がなかなか厄介だった。
何故ならその条件というのが────

転生者は力を隠して荷役をしていたが、勇者パーティーに裏切られて生贄にされる。
克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門日間ランキング51位
2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位

俺の伯爵家大掃除
satomi
ファンタジー
伯爵夫人が亡くなり、後妻が連れ子を連れて伯爵家に来た。俺、コーは連れ子も可愛い弟として受け入れていた。しかし、伯爵が亡くなると後妻が大きい顔をするようになった。さらに俺も虐げられるようになったし、可愛がっていた連れ子すら大きな顔をするようになった。
弟は本当に俺と血がつながっているのだろうか?など、学園で同学年にいらっしゃる殿下に相談してみると…
というお話です。

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた
きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました!
「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」
魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。
魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。
信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。
悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。
かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。
※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。
※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた
黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。
その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。
曖昧なのには理由があった。
『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。
どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。
※小説家になろうにも随時転載中。
レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。
それでも皆はレンが勇者だと思っていた。
突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。
はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。
ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。
※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

異世界に召喚されたが勇者ではなかったために放り出された夫婦は拾った赤ちゃんを守り育てる。そして3人の孤児を弟子にする。
お小遣い月3万
ファンタジー
異世界に召喚された夫婦。だけど2人は勇者の資質を持っていなかった。ステータス画面を出現させることはできなかったのだ。ステータス画面が出現できない2人はレベルが上がらなかった。
夫の淳は初級魔法は使えるけど、それ以上の魔法は使えなかった。
妻の美子は魔法すら使えなかった。だけど、のちにユニークスキルを持っていることがわかる。彼女が作った料理を食べるとHPが回復するというユニークスキルである。
勇者になれなかった夫婦は城から放り出され、見知らぬ土地である異世界で暮らし始めた。
ある日、妻は川に洗濯に、夫はゴブリンの討伐に森に出かけた。
夫は竹のような植物が光っているのを見つける。光の正体を確認するために植物を切ると、そこに現れたのは赤ちゃんだった。
夫婦は赤ちゃんを育てることになった。赤ちゃんは女の子だった。
その子を大切に育てる。
女の子が5歳の時に、彼女がステータス画面を発現させることができるのに気づいてしまう。
2人は王様に子どもが奪われないようにステータス画面が発現することを隠した。
だけど子どもはどんどんと強くなって行く。
大切な我が子が魔王討伐に向かうまでの物語。世界で一番大切なモノを守るために夫婦は奮闘する。世界で一番愛しているモノの幸せのために夫婦は奮闘する。

お荷物認定を受けてSSS級PTを追放されました。でも実は俺がいたからSSS級になれていたようです。
幌須 慶治
ファンタジー
S級冒険者PT『疾風の英雄』
電光石火の攻撃で凶悪なモンスターを次々討伐して瞬く間に最上級ランクまで上がった冒険者の夢を体現するPTである。
龍狩りの一閃ゲラートを筆頭に極炎のバーバラ、岩盤砕きガイル、地竜射抜くローラの4人の圧倒的な火力を以って凶悪モンスターを次々と打ち倒していく姿は冒険者どころか庶民の憧れを一身に集めていた。
そんな中で俺、ロイドはただの盾持ち兼荷物運びとして見られている。
盾持ちなのだからと他の4人が動く前に現地で相手の注意を引き、模擬戦の時は2対1での攻撃を受ける。
当然地味な役割なのだから居ても居なくても気にも留められずに居ないものとして扱われる。
今日もそうして地竜を討伐して、俺は1人後処理をしてからギルドに戻る。
ようやく帰り着いた頃には日も沈み酒場で祝杯を挙げる仲間たちに報酬を私に近づいた時にそれは起こる。
ニヤついた目をしたゲラートが言い放つ
「ロイド、お前役にたたなすぎるからクビな!」
全員の目と口が弧を描いたのが見えた。
一応毎日更新目指して、15話位で終わる予定です。
作品紹介に出てる人物、主人公以外重要じゃないのはご愛嬌()
15話で終わる気がしないので終わるまで延長します、脱線多くてごめんなさい 2020/7/26

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる