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第三章:盗賊ライドと不愉快な仲間たち
17、ミユという名の白魔導士
しおりを挟むミユという白魔導士のことを俺はよく知らない。五年も共に冒険して何を言ってるんだって話だが、これは本当の話だ。
彼女はとても謎が多い。
出会いは単純で複雑。よくあることで珍しいものだった。
俺と兄貴が冒険者を目指すべく、村を出て大きな街に向かっていた時のこと。一つの村を通りかかったのだが。
村は魔物に滅ぼされていた。
大きな街やその側にある村に住んでるといまいちピンとこないが、地方の小さな村ではよくある話だ。国は都心部から遠く離れた地方まで防衛力を回してはくれない。だから辺境の村は自力で自分たちの生活を守らねばならない。
だが、ただの村人にできることなんて限りがある。
金がある裕福な村や街ならば冒険者を雇って、守らせることは可能だろう。たまたま有能な自警団が集うこともある。
ちなみに俺と兄貴の故郷の村では、屈強な自警団と冒険者崩れの傭兵が村を守護していた。街道に近く、そこそこ旅人も訪れる、辺鄙な田舎としては賑わっていた方だったから。そんな村に生まれた俺は運が良かっただけのこと。
運の悪い村は魔物に目をつけられる。魔物が村を襲うのに理由なんて必要ない。ただそこに村があり、魔物が滅ぼそうと思ったから。それだけで村は滅ぼされる。
だから俺と兄貴がそれを見つけた時も、ああまたかって思っただけ。そして危険だから早く通り抜けようと思った。まだ火がくすぶり、嫌な臭いが充満する村の残骸は、おそらく滅んでから時間が経ってないと思われたから。
その時だった。
「うああああん!」
泣き声がしたのだ。
よせばいいものを、俺と兄貴は立ち止まってしまった。まあ子供だったからな。同じ子供の泣き声を無視できるほど、大人になれてなかったのだから。
声のする方を探し、家の残骸である瓦礫をのけたとき、その子供はいた。
まるでその子供を避けたように瓦礫が空間を作り出し、その隙間にいたのだ。
「名前は?」
兄貴が問う。
「ミユ」
涙と煤に汚れた少女は、そう簡潔に答えた。
俺と兄貴にとって、初めての仲間だった。そしてミユの泣き顔を見たのは、後にも先にもこの一度きりだけだった。
ミユには白魔導士としての素質があると分かったのは、街で冒険者ギルドに行ってすぐのこと。ちょっと学べばすぐに習得した彼女は、迷わず俺達と共に行くことを選んだ。ギルドでモンジーとセハを勧誘して、俺達は五人パーティーを組んだ。
それから五年、俺らは苦難を共にした。
だが俺はミユのことをよく知らない。
彼女はあまり自分のことを語りたがらない……というのもあるが、それ以上につかみどころのない性格なのだ。
『ザクスはもう少し頑張るですよ』
独特の話し方は、いつから始まったか覚えてない。最初からなのか、自分を偽るために作り出したのか。
『これでも笑ってるんですう』
クエストを終えて打ち上げの場で、酒に酔い大騒ぎする俺達を尻目に、そう言ってミユは無表情で俺を見た。どこをどう見ても笑ってない顔で、笑ってると彼女は言った。
『空を飛んでると、とても気持ちがいいんですよお』
そう言っては、どこかへと飛んでいくことがよくあった。
『一緒に飛びますかあ?』
俺の返事を待たずにいきなり高速で飛ばされることもあった。あの時は涙なのか鼻水なのか分からないものを撒き散らしたな。
『あなたと一緒のパーティーで恥ずかしかったですう』
パーティー追放の時、可愛い顔して残酷なことを平然と言った。銀の瞳が冷たい鉄に見えた。
『その懐の命、大事にしなさいよ』
再会の時の別れの言葉は、彼女の声だと理解するのに時間を要した。
彼女の白魔導士としての実力は高い。俺は彼女にもまた自分の能力を分けてはいたが、それは他の三人に比べれば微々たるものである。一番能力を分けていた兄貴とは天と地ほどに差があった。モンジーやセハよりも少なかった。
確かにミユは有能だった。
だがそれはあくまで白魔導士として、だ。
彼女が強い? ゴールドドラゴンが恐れるほどに?
それは本当にあのミユなのか?
俺の知らない、全くの別人のことではないのか?
「セハ」
俺は静かに手を離して、セハの名前を呼んだ。彼女が俺を見上げる気配がする。
「セハがパーティーを抜ける時、ミユはなんて?」
「なにも……『そうですか』って、いつも通りに無表情で」
「一緒に抜けようと誘わなかったのか?」
クールなミユに対し、感情表現が豊かなセハ。二人はタイプが全く異なれど、仲はとても良かった。いくらセハが自分のためだからとパーティーを抜けたとはいえ、ミユと別れの道を選ぶとは思わなかった。そこに俺は幾分かの驚きと引っかかりを感じていたのだ。
「誘ったわよ。このままパーティー続けてもしょうがないでしょって。なのにあの子ったら黙って首を横に振ったの」
「行かないって?」
「そ。あの子の考えてること、よく分からないのよね。長い付き合いだってのに……」
女同士のセハでさえ分からないミユの考えを、俺が理解できるはずもない。
俺はメルティアスを見た。
「本当に、白髪銀瞳の女なんだな? それがあんたにとって恐ろしい存在なんだな?」
「そうよ」
「で? 俺らをどうする気だ?」
俺らを殺す気ならば、黙って殺されるわけにはいかない。ビリと空気が震える。
俺の殺気を感じ取ったのだろう。メルティアスが少し目を大きくする。だがその目がまた黄金色になることはない。橙色の瞳をやや伏せて、それから閉じて嘆息する。
「今更そんなことに意味はない気がする。そもそも私の足手まといになるのを嫌がって逃げだした妹たちを、あなた達は助けてくれた。あの男女の存在は楽観視できないけれど、あなた達に危害を加えるというのは選択肢にすらならないわ」
「そうか」
その返答で、俺は殺気を消した。今ので俺の実力は彼女に伝わったと思う。おそらくメルティアスが俺らを襲うことはもう無いだろう。
「うーわ、ザクスったら大人げねえ。見たかよホッポ、今の殺気。女相手にザクスさいてー」
「ザクスさいてー」
「どうすかホッポさん、今の殺気の感想は」
「いやあビリビリきて肩こりに効きますなあ。最近剣を振りすぎて肩にきてたんすよ」
「肩こりに殺気?」
「肩こりに殺気♪」
お前ら仲いいよな、確執はどこいったよ。元仲間だからこそ通じ合うものがあるってか?
とりあえずライドとホッポに思い切り殺気をぶつけておこうと思う。
「うえっほん! ところでメルティアス、ザジズを殺したのは誰だ? 金髪碧眼のスカした野郎か? そいつの名前は?」
俺の殺気を感じたのだろう、慌てて咳払いしてホッポは話を変えてきた。
「それは……」
それは問いというより確認に近い。
同じ勇者としてホッポは兄貴のことを知っている。だがハッキリとメルティアスの口から聞かないことには、滅多なことが言えないと思ってるのか。
「命じたのは女。命じられて、あなたの仲間を攫ったのは私。殺したのは……」
メルティアスがその名を口にしようとした時。
「俺だよ」
風が声を運んだ。
ザアと塔内に風が流れ込む。
知らず視線が、風が導く方向へと向いた。
「よお、ザクス」
「……よお、兄貴」
最悪な再会から一年。
俺はまた、兄貴と再会した。
能力を返してもらったゆえに、兄貴は茶髪茶眼の本来の姿に戻った。そのはずだった。
だがそこにはかつての兄貴がいる。
誰もが憧れ崇拝し、その金髪碧眼に目を細める。
かつての勇者然した兄貴が、窓の外にいた。
その横には白髪の女が寄り添っている。
「よお、ミユ」
「お久しぶりですう」
そう言って、ミユは笑った。俺が見たことのないような笑みで。満面の笑みで。
笑いながら、ミユと兄貴が塔の外で浮いていたのだ。
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