弟のお前は無能だからと勇者な兄にパーティを追い出されました。実は俺のおかげで勇者だったんですけどね

カッパ

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第三章:盗賊ライドと不愉快な仲間たち

15、さてどうしよう

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 一瞬、死んでるんじゃないかと思った。それほどに倒れてる女性が流す血は多かったから。
 だが妹二人が駆け寄りその体を揺すぶると、「う……」とかすかなうめき声が聞こえたから、生きてるらしい。

「ルルティエラ」
「おまかせを」

 どうしてくれとか言わなくても伝わる。仲間ってのはいいもんだ。
 振り向いて名を呼べば、頷いてルルティエラは姉妹の元へ駆け寄る。そして治療を開始した。そこへこれまた何も言わなくても理解してるというふうに、その肩にミュセルがとまる。

「いいわねえ、私も……」

 セハにすかさず

「やらんぞ」
「別にいらないけど、今は貸してほしいかな」

 妖精は物じゃないと言ったところで、そういう意味じゃないと返ってくるんだろうな。
 これまた一年のブランクがあるとはいえ、付き合いの長い関係。何をどう言えば、どのような返事があるか予想ができるので俺は黙った。

「この塔を攻略して無事に帰るために、私の黒魔法は必要不可欠なんじゃないの?」
「まあそれは確かに……」
「ほれほれ、そしたら可愛いセハちゃんに妖精を貸して、魔力回復させてくれたまえよ」
「可愛い? 誰が?」
「あんたとは一度ジックリ話し合う必要があるようね」
「遠慮しとく」

 あんまり自分のことを可愛いと言わないほうがいいぞ。
 そう言えばむくれるセハ。
 それを笑って見やってから、俺はルルティエラ達の方へと視線を戻した。
 今俺にできることはないなと見てたら、背後で会話が繰り広げられる。

「エヴィアさあ、何年も会わないうちに随分綺麗になったよなあ」
「あら、あたしは前から美人よ失礼ね」
「そんなの知ってるさ。なあエヴィア、うちのパーティーに入らないか」

 そこ、ヒマだからってナンパしてんじゃねえよ。しかも袂を分けた元仲間を入れようとしてんな。

「それを言うならライドが戻ってくれば? ザジズは残念だったけど、盗賊って結構必要なのよ」

 これを冷たいと思うなかれ。
 俺達冒険者に別れはつきもの。俺やライドのようなケースもあるが、大半は死別が多いのが冒険者。冒険者である限り、死は常に付きまとうものなのだ。
 そりゃ仲間の死は悲しいが、それをズルズル引きずっていては冒険者なんてやってられない。新人は凹むことも多いが、それを乗り越えた者だけが、真の冒険者としてやっていける。乗り越えられない者は冒険者を続けてはいけない。
 そんなわけで、仲間が亡くなってすぐに新しいメンバーを募集というのは、普通の光景である。とはいえ、自分の仲間を引き抜かれるのは気分良くない。

「おい、うちの盗賊勝手に引き抜こうとしてんじゃねえよ」
「やだ、ザクスったら、そんなに俺が必要? 俺の大事なライドを奪うな、だなんて!」
「いつ誰がどこでどうしてそんなこと言った。耳腐ってんじゃねえの?」
「ザクスはツンデレだなあ」
「お前はシンデロだな」
「いやそれおかしくね!?」

 喚いてるライドは無視する。まあこいつが今更ホッポ達と一緒に行くとは思えんが。なんて俺の心の内を聞いたら、やっぱりツンデレとか言われるんだろうな。
 そうこうしてるうちに、治療が終わったらしい。
 ムクリと女が体を起こすのが見えて、俺は近付いた。

「終わった?」
「ええ、問題なく」

 俺の問いに、ルルティエラがニコリと笑う。
 酷使して申し訳ないとは思うが、やはり僧侶がいると助かる。ドラゴン相手じゃ、回復薬がいくらあっても足りんからな。
 体を起こした姉を、シュレイラとリューリーが心配そうに見守る。
 まだ顔色は少し悪いし、服には血がベットリついたままだが、メルティアスとやらは大丈夫そうだ。

「大丈夫か?」

 大丈夫とわかっていても、つい聞いてしまうのが人情。
 話しかけてきた俺を見て、女は幾分目を見開いた。妹二人と同じ、橙色の瞳が俺を見つめる。

(なんだ?)

 穴が開くのではないかというくらいに見つめられて、俺は首を傾げた。

「どうした?」
「いえ……妹ともども助けていただきありがとうございます」
「動けそうか?」
「それは……はい」

 頷いたので手を差し伸べたが、俺の手は握られることなく、姉は妹二人に抱えられるように立ち上がる。俺の手の行き場よ。

「やーい、振られてやんの」
「ライドは後でシメル」
「ごめんなさい」

 耳の背後からコソコソ言ってくんな。
 俺はメルティアスへと向き直った。
 長い桃色の髪を腰あたりで一つにまとめ、綺麗な橙色の瞳を持つ女性。その目の奥には、妹とは違ってキラリと光る別の色が見えるようだ。
 あまり面識はないが、エルフに似てるな。
 白い肌に細い体。中性的ながらも文句なしの美形。かつて見たエルフの面影を感じさせた。歳は18歳くらいか。とりあえず妹二人より俺と歳は近いだろう。多分。

「どうしてこんなとこに一人で? ドラゴンにやられたのか?」
「いえ、そういうわけでは……」
「じゃあ一体誰に?」
「……」

 そこで黙るのな。
 なんだか固い表情の彼女に、これ以上聞いても無駄……というか、時間の無駄な気がしたので、切り替える。

「さっさとこのフロア調べて上に行くか」

 なにせこのドラゴンの塔は、遥か上空にまで伸びている。どの階層か分からないが、馬をった犯人は、確実に上階のどこかにいるのだ。それはドラゴンか、それとも──
 だが俺達の探索はそこで止まってしまうこととなる。

「階段がない……」

 途方に暮れるライドの声が、塔に虚しく響いた。
 そう、階段がないのだ。円形の通路は塔の形そのままに存在し、隠し部屋なんかもあるにはあったが、それは既に過去に来た冒険者によって封印が解かれていた。開け放たれた隠し部屋の中にも、そして普通にフロアにも。どこにも。
 上に行く階段は存在しなかった。

「でも外から見た感じだと、確実に上の階があるよなあ?」

 ライドの問いかけるような疑問に「そうだな」と答えて、俺は小窓から外を覗く。下には幾分遠くなった馬と馬車の残骸。それは先ほど見たのとなんら変わりなかった。
 そして上を見上げる。雲の隙間から顔を覗かせる太陽に目を細めた。眩しくて上がよく見えんな。
 グルリと窓の外を見て、外にも階段がないことを確認する。
 完全に行き詰った。

「さてどうするか」

 俺の問いに

「どうなってんだよお」

 とお手上げポーズのライド。

「飛んでいけばいいんじゃないの?」

 セハがサラッと言ってのけた。まあそれだろうなと、俺は彼女を見る。

「飛ぶ?」

 首を傾げるルルティエラに、セハは

「あるのよ、白魔法に。飛行魔法が」

 そう言う彼女の目には、きっとかつての仲間であるところの白魔導士、ミユの姿が映ってるのだろう。

「ねえザクス。白魔法に飛行魔法あったわよね」
「あーあったな。あれ、なかなか便利だったよなあ」

 俺の脳裏にも、かつてのミユの姿が思い出される。

「使える?」

 チラリと見てセハが問う先。それは勿論、現在唯一の白魔導士であるエヴィアである。だが彼女は首を横に振った。

「無理だよ。飛行魔法ってかなりの高位魔法よ? そんなの使えるって、さすが勇者一行ねえ」

 その言葉に、ガックリ項垂れるセハ。
 まあ知ってたけど。俺は知ってたけどな。
 そして今も知っている。俺がエヴィアに自分の能力分けて、彼女の魔力が上がれば、きっと彼女は飛行魔法を使えるということを。
 わかってはいるが……やはり仲間でもない者に能力を分けるのは気が進まない。先ほどセハにも分けたが、まあこっちはイレギュラー。かつて分けてたしと言い訳してみる。
 とりあえず飛行魔法はなしだ。
 ではどうするか?
 答えは簡単とばかりに、俺は背後を振り返った。

「さて、どうする?」
「え?」
「あんたなら、なんとかできるんじゃないか?」
「……え?」

 戸惑うそいつに、俺は近付いて、顔を覗き込んだ。その瞳の奥に、キラリと光るものを見出す。

──美しい黄金を見出して、俺は目を細めた。

「あんたなら、上階までひとっ飛びだろう? ここはドラゴンの塔。階段がないのは、ドラゴンだけが行けるようにしてあるから。そしてあんたは──」

 そこで一呼吸間を置いて言った。

「あんたは、ドラゴンだろう?」

 その瞬間、ザワリと彼女の髪が風もないのに揺れる。
 直後、その瞳が金へと変わった。
 黄金の輝きを放ちながら、そいつは──メルティアスは、俺を睨む。
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