弟のお前は無能だからと勇者な兄にパーティを追い出されました。実は俺のおかげで勇者だったんですけどね

カッパ

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第三章:盗賊ライドと不愉快な仲間たち

11、状況は最悪だということ

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 こんなもんだろと呟いて、俺はホッポに触れていた左手を離す。警戒を解くことなく、右手には長剣が握られたまま。

「セハも大じょ……」
「触るな!」

 大丈夫か。そう問いかけ伸ばしかけた左手は、パンと叩き落とされた。セハの拒絶によって。

「セハ?」
「あんたなんなの?」

 ギロリとセハが睨みつける。鋭い視線に俺は言葉を失った。

「その容姿もだけど、その能力、回復魔法! あんたそんなの使えなかったよね、無職のあんたに使えるわけないよね? でも私は知ってる、その魔法を知ってる。それは、その魔法はディルドの……!」
「シッ!」

 俺を拒絶し非難の目を向けるセハに、けれど俺は弁解を口にするより早く静かにしろと指示をする。
 それでもなお何かを言いつのろうとするセハの口を、左手でふさいだ。

「むー!?」
「……ザジズとエヴィアはどこだ?」
「む……」

 ホッポとセハが居るということは、同じパーティーの二人もいなくてはおかしい。だというのに、二人の姿はどこにも見えなかった。セハを制止しつつ、俺は握った剣を周囲に向けた。
 何かを感じる。何かの気配を感じる。それはけして人ではない。
 魔物? どんな?
 知らず汗が頬をつたう。剣を握る手がジットリと汗をかく。
 全身が、何者かの気配に警戒している。

「そうよエヴィア! あの子、私を庇って攫われちゃったのよ!」

 慌てて俺の手を払いのけ、セハの顔が蒼白になる。

「攫われたって、なにに?」
「ドラゴンよ!」

 その言葉と同時。
 咆哮が塔内に響き渡った。1階にいた時に聞いた声だろう。だがあの時は遠かったのに、今聞こえたそれは──その距離は……

「おいザクス、近いぞ」
「言われなくても気付いてるさ」
「え、なにそれ。え、まさか妖精!?」

 俺の肩にとまったままのミュセルが、珍しく緊張した顔をして言う。それに答える俺をよそに、ミュセルの存在に目を見張るセハ。

「セハ」
「な、なに?」

 妖精どころではないと俺の緊張した声音から理解したのだろう。俺への拒絶もひとまず置いておくことにしたのか、俺の服をギュッとつかんで不安そうに見上げてきた。
 周囲へ目をめぐらしながら、俺は聞いた。

「ドラゴンって……ブラックか?」
「……ゴールドよ。黄金みたくキラキラ輝いてるってわけじゃなかったけど、イエロードラゴンとは比較にならない輝きを……なんていうのか、見た目じゃなく魂の輝きがあったわ」
「そうか」

 せめてブラックであったならばと思う。
 ブラックドラゴンは記録こそ少ないが、過去に何体か倒されたことはある。その少ない経験談も語り継がれている。
 だがゴールドドラゴンは倒された記憶などない。圧倒的に数が少ないのだろうか、そもそも存在自体が神話のようにまゆつばだった。見たという話は絵物語でしか存在しない。
 ゴールドドラゴンのことで分かることはただ一つ。もし存在するならば、最強のドラゴンであろうということだけ。
 対処法なんてわからない。
 そもそも人の力で倒せるのかも未知数。
 だがセハは見たと言った。確かにゴールドドラゴンを、彼女は見たと言ったのだ。この状況で彼女が嘘をつくとは思えない。

「そのゴールドドラゴンがホッポを倒して、ザジズとエヴィアを?」
「正確には、罠探索しながら先頭を歩いていたザジズが出くわし、ホッポが応戦。ホッポが倒され、ザジズが狙われそうになったのをエヴィアが魔法で防御。そのエヴィアをドラゴンが狙おうとしたので私が黒魔法で応戦。でもって私が狙われそうになったのを」
「またエヴィアが魔法で防御、か?」

 頷くセハ。

「しばらく拮抗してたんだけど、ザジズがちょっとパニックになってさ。ダガー片手にヤケクソ気味に飛び掛かったのよ」
「阿呆が。素人かってんだ」
「仕方ないから私も魔法で加勢したんだけど、ドラゴンが私に向かってきて、エヴィアが庇うように前に立って──」
「それから?」
「覚えてない。突き飛ばされた拍子に頭ぶつけて、意識飛んじゃったのよ。気付いたら血まみれのホッポだけが残ってて、二人の姿が……」
「なるほどね」

 攫われたのか、それとも既に殺されたか。どちらにしても状況は最悪ということだ。
 ジリジリと感じる焼けるように痛いこの気配は、おそらくはドラゴンの気配。そう遠くには行ってないということだろう。下手すれば、まだ同じ階層にいる。ギュッとセハがまた俺の服をつかみ、肩ではミュセルが俺に身を寄せていた。二人もまた、嫌な気配を感じているのだろう。

「セハ、魔力は?」
「さっき使い切ったけど、回復薬飲んだから戻ってる。ただ、全部飲み切っちゃってもうストックはない」
「そうか。魔力の強さはどうだ?」
「は? それは別にいつも通りに……あれ?」

 俺の問いに何を聞くのかという顔をしたセハは、直後驚いた顔を見せた。

「なんか、能力が上がってるような……ううん、違う。戻った?」
「というと?」
「あんたが抜けたあと、ディルドだけじゃなく私らの能力もなんか弱った感じがしてたのよ。それが戻った気がする」
「そうか」

 それはそうだろう。パーティーを抜けて、セハ達にも分けてた俺の能力は返してもらった。彼女の能力は弱ったのではない、それが本来の彼女の能力なのだ。
 そして今、俺は一年ぶりにセハに自身の能力を分けている。
 俺一人で対応するには状況が悪すぎる。それならば、俺よりうまく黒魔法を使いこなせるセハに能力を分けるほうが、まだ助かる可能性は残る。

──助かる可能性──

 そう考えた自分に苦笑する。
 つまり俺は”助からない可能性”を考えているってことだ。

「まったく。だから面倒なことは嫌いなんだよ」

 そううそぶく。今更言っても仕方ないことだというのに。けれど後悔してない自分にまた苦笑する。
 仕方ないさ、これはあくまで結果だ。俺は自分の意思で選び決めたんだ。誰を責めることもできないし、後悔する必要もない。
 もう後悔するような選択はしないと決めたんだ。
 ギュッと剣を強く握りしめたその時。

「う──」
「ホッポ!?」

 足元でいまだ横たわっていたホッポがうめき声をあげた。慌ててその顔を覗き込むセハ。
 自分を呼ぶ声に反応するかのように、ホッポが目を開く。

「セハ?」
「そうよ。良かった、意識が戻って」
「俺は一体──おい!?」

 傷はふさがっても流した血は戻らない。頭がぼんやりしてるのだろう、血の気の引いた顔で、ホッポが視線を周囲に巡らした直後。
 俺に向けられた目が、大きく見開かれる。血相変えて俺を見るその顔。その目。
 その瞳の中に、それが映るのを確認した俺は──

ギイン!!

 振り向きざま長剣を振るい、それを受け止めた。
 それは寸でのところで──俺の顔面、直撃まであと10cmのところで、止まった。大きな、鋭い爪を、俺は剣で受け止めたのだ。

「グルルルル……」

 低い唸り声。
 大きな爪、大きな手、大きな牙に大きな瞳。大きな体にその背に生えた大きな翼。
 なにより眩しいくらいに輝くその肉体。皮膚が輝いてるのではない。その輝きは体の内側から漏れてるように感じられた。なるほど、”魂の輝き”とはセハもうまいことを言ったものだ。

「よお、ゴールドドラゴン」

 剣でどうにか受け止めたが、その力の強さにカタカタと剣が、手が震える。頬を汗がつたい、背に冷たいものが流れた。
 どうにか精神を保つためにニヤリと笑みを浮かべ、俺は伝説上でしか語られることのなかったゴールドドラゴンと対峙する。
 直後。
 ドラゴンが放つ咆哮に、体が、地面が、塔が揺れた。
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