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第三章:盗賊ライドと不愉快な仲間たち
8、1階
しおりを挟む塔ができて何年、何百年経ってるのか分からないが、かなり年季が入ってるのはわかる。
朽ちた塔の壁のデザインはかろうじてドラゴンの装飾が見られるも、細かいものはボロボロに朽ちて一切わからない。かつて森があったということで、枯れたツタの名残がカサカサと音を立てる。
あちこちコケて色あせ変色し、かつては美しく立派であったであろうに、その大きさ以外に威厳を感じられることはない。
それでも塔の石で作られた扉は、ゴリゴリと嫌な音を立てながらすんなりと開いた。
「見た目以上に中が広いな」
扉を開けた状態で中を覗き見る。
異常がないのを確認してから体を滑り込ませて背後を振り返った。
僧侶ルルティエラが中に入り、ライドが入る。
「ライド、扉」
「わかってるよ」
扉が開かなくなって閉じ込められる、なんてのはダンジョンの初歩の初歩なトラップ。その対策として扉が閉まらないように細工するのは盗賊ライドの役目だ。
「ルルティエラ、何か感じるか?」
「いえ。邪悪な気配はありませんね」
「ミュセルは?」
懐に手を当てて聞くと、スルリと飛び出て来て俺の肩にとまる妖精。
「異常なしじゃ。この塔、なんの気配もないのう。本当にドラゴンがおったのか?」
「少なくとも、かつてはいた。俺が証人だ」
かつてその被害にあったライドが言う。
たしかに壁を見れば、ところどころに大きな爪痕が残っているな。
「これはドラゴンの爪痕か?」
「さあな。でもそれ以外ないだろ」
「随分古いな。お前が以前来たときにあったのか?」
「うーん、そこまで覚えてないなあ」
場所はまだ一階。前回ライド達が来たときは、探索してから出くわしたと言ってたっけ。
「前はどこでドラゴンに遭遇したんだ?」
「えーっと、たしか……」
その時だった。
ブオオオオ……
「……聞こえたか?」
背後の二人を振り返る。
青い顔のルルティエラに、緊迫感からか笑いを浮かべるライド。揃って頷く。
では聞き間違いでは無いのだろう。
今、俺は確かに聞いたのだ。
「ドラゴンの咆哮じゃのう」
なんとなく言うのがはばかられる空気で、アッケラカンと言えるのは妖精だからか。
ミュセルの発言に全員の顔が引きつる。さすがに俺の背にも冷たいものが流れた。
「といっても随分遠くじゃな。安心せい、少なくとも低階層にはおらん」
その言葉に一斉に脱力した。
「勝負とかどうでもいいから、無事に帰ることを目指そう」
俺の発言にルルティエラが頷く。
「塔に入った時点でホッポさんも納得されますでしょ」
「だな。どうせあいつらサッサと上の階行ってるだろうし。1階で適当に時間つぶすか」
ライドも勝負より命と頷いた。
意見が一致したところで俺は周囲を見回した。よく見れば空の箱が散乱している。お宝の名残だろうか。
「前に来たときにも宝は一切なかったのか?」
振り返ってライドを見れば、軽く肩をすくめる。是ということだろう。
まあ最初から期待はしてなかったし、そこはいい。気になったのは箱のそばに落ちてる白い物だ。
「あれって骨だよな」
「だな」
塔のダンジョンなんて、1階は様子見でレベルは低いのが常套パターン。だというのに死者が出るとは……。
ただルルティエラは不穏な気配は無いと言ってたから、魂が彷徨っていないのがせめてもの救いか。
「1階までドラゴンが降りてきたとか言うなよ……」
自分で言っときながら不穏なことを言ってしまったと後悔する。
その直後。
「きゃああああ!」
つんざくような悲鳴が塔内に響き渡った。
女性であることがわかる甲高いそれに、俺は慌てて振り返る。だがライドは首を横に振った。そうだな、俺も同意見だ。
声は知らないものだった。
エヴィアでもセハでもない。当然ルルティエラでもない。
「ルルティエラとの出会いに似てるな」
あの時は拍子抜けな悲鳴だったが、今回は……
「ザクス、どうするよ?」
切羽詰まった叫びだと思ったのだろう、俺の意見を求めるライド。
「ホッポ達は?」
「気配が無いな。やはり上階に上がったか、向こうの入り口とこっちが繋がってないのか。それとも無視してるのか……」
正直面倒ごとは嫌いだ。
だが。
「ザクス……」
ああわかったよ、そんな目で俺を見るな。ルルティエラの訴えるような視線に負けて俺は走り出した。
「ライド、先行って様子見てきてくれ」
「なんで俺……うおお、また早くなってるう!?」
俺の足の速さをライドに分けると、途端にライドの背が見えなくなった。よしライド、お前の犠牲は無駄にしないからな~。
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