27 / 48
第三章:盗賊ライドと不愉快な仲間たち
4、嬉しくない再会
しおりを挟む大きな街というのは往々にして狙われやすいものだ。それゆえスベガスラという街は大きな壁に囲まれ、出入口は立派で堅固な門がそびえ立つ。そこを通れる時間は日の出から日の入りまで。夜の闇に包まれる時間帯は魔物から街を守るために閉ざされている。
とはいえ、翼を持つ魔物が襲い来れば意味ないが。その為の警備兵は常に配置されている。
門が開くとき、それすなわち街が起き出す時間だ。
商人や旅人、冒険者たちが行き来する。
日が昇り、眼前にそびえ立つ大きな門は、一体どういう仕掛けなのか分からないが、ゆっくりとゴゴゴと重々しい音を立てて開いた。
スベガスラの近隣の村に住んでる俺達は、その開門を外から眺める。村には守りの壁はないが、小さな村なんて魔物も用はないのか出没頻度は低い。少なくとも今の家に住むようになってからこれまで、魔物が村に来たことはなかった。
逆に、街の壁の存在を忘れたように、スベガスラを襲う魔物の話は何度か聞いた事がある。
そのせいか、壁は薄汚れ、ところどころ崩れている。といっても、そこから街に侵入できるほどの傷みはない。
門が開けば一斉に人々が行きかう。スベガスラに入る者、出てくる者。
出てくる者の中に、俺はそいつらを見つけて目を細めた。
ニヤニヤ笑いながら、そいつは俺らに近付いてくる。
「よお。逃げなかったことだけは褒めてやる」
「そんなものはいらん」
朝日を下品に反射させる眩しい鎧をまとったホッポを、睨むように見て吐き捨てるように返事する。
「お前さんはともかくとして、ライドが逃げなかったのは意外だったなあ」
「……仲間を置いて俺だけ逃げるわけないだろ」
ホッポの視線からそらすように俯き言うライドの姿は、いつものおちゃらける様とは大違いで、その別人ぶりに俺は更に目を細めた。
「は! 仲間ねえ。俺を見捨てて逃げたくせによ」
「……」
思い込んでる奴への反論は無意味だと昨夜言っておいたからか、ライドは黙り込んだ。
空気が重くなったそのとき。
「はあい、ライド。久しぶりだねえ」
「……久しぶり、エヴィア」
明るい声が空気を打ち破った。
ホッポの背後からヒョコっと顔を出したのは、白ローブをまとった白魔導士。
エヴィアと呼ばれた彼女が、かつてのライドの仲間の一人なのだろう。親し気にライドの名を呼び、手を振る。それに苦笑を浮かべて返すライド。
「老けたわね」
「お前もな」
「ふざけたことを口走るのはこの口かあ!?」
老けたと言われて思わず返したライドの口は、あっという間にエヴィアという女に左右に引っ張られてしまう。外見は白魔道士にありがちな白銀の髪に水色の瞳、色白で美人だというのにかなりクセがあるようだ。
「ひゅひひゃへん、えひあはふぁふぁひへふ(すみません、エヴィアは若いです)」
「分かればいいのよ」
ホッポと違って、ドラゴンの塔に行かなかったエヴィアはそれほどライドを邪険にするつもりはないのだな。むしろまったく無関係だったザジズ──背後で黙って佇んでいる奴のほうが、ライドを嫌ってないか?
自分の前任者へのライバル意識ってやつかな。
「いてて……お前らも三人パーティーか」
口を押さえてそうライドが言えば、「三人じゃねえよ」とホッポによる返しがある。
「え?」
ライドが首を傾げたその時だった。
「あら。久しぶりね、ザクス」
買い出しでもしてたのか、小袋を手に駆け寄ってくる人物。
それが近づき俺達の前に立った瞬間。
かけられた声に聞き覚えがあり目を見張る。見覚えのあるその姿に俺は言葉を失った。
「なんで……」
フードからブーツまで、全身黒一色にまとめられた服。ヒラヒラと風になびくローブは黒魔導士のそれ。
かぶられたフードの隙間から見えるのは、黒髪。そして俺を見上げるその瞳は、ラベンダーの紫。
「セハ?」
かつて仲間だった、黒魔導士。最強勇者と呼ばれ、魔王討伐に向かってるはずの勇者一行。
そのパーティーメンバーのはずのセハが、今目の前に立っているのである。
12
お気に入りに追加
1,150
あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
スキル盗んで何が悪い!
大都督
ファンタジー
"スキル"それは誰もが欲しがる物
"スキル"それは人が持つには限られた能力
"スキル"それは一人の青年の運命を変えた力
いつのも日常生活をおくる彼、大空三成(オオゾラミツナリ)彼は毎日仕事をし、終われば帰ってゲームをして遊ぶ。そんな毎日を繰り返していた。
本人はこれからも続く生活だと思っていた。
そう、あのゲームを起動させるまでは……
大人気商品ワールドランド、略してWL。
ゲームを始めると指先一つリアルに再現、ゲーマーである主人公は感激と喜び物語を勧めていく。
しかし、突然目の前に現れた女の子に思わぬ言葉を聞かさせる……
女の子の正体は!? このゲームの目的は!?
これからどうするの主人公!
【スキル盗んで何が悪い!】始まります!
勇者に全部取られたけど幸せ確定の俺は「ざまぁ」なんてしない!
石のやっさん
ファンタジー
皆さまの応援のお陰でなんと【書籍化】しました。
応援本当に有難うございました。
イラストはサクミチ様で、アイシャにアリス他美少女キャラクターが絵になりましたのでそれを見るだけでも面白いかも知れません。
書籍化に伴い、旧タイトル「パーティーを追放された挙句、幼馴染も全部取られたけど「ざまぁ」なんてしない!だって俺の方が幸せ確定だからな!」
から新タイトル「勇者に全部取られたけど幸せ確定の俺は「ざまぁ」なんてしない!」にタイトルが変更になりました。
書籍化に伴いまして設定や内容が一部変わっています。
WEB版と異なった世界が楽しめるかも知れません。
この作品を愛して下さった方、長きにわたり、私を応援をし続けて下さった方...本当に感謝です。
本当にありがとうございました。
【以下あらすじ】
パーティーでお荷物扱いされていた魔法戦士のケインは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことを悟った彼は、一人さった...
ここから、彼は何をするのか? 何もしないで普通に生活するだけだ「ざまぁ」なんて必要ない、ただ生活するだけで幸せなんだ...俺にとって勇者パーティーも幼馴染も離れるだけで幸せになれるんだから...
第13回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞作品。
何と!『現在3巻まで書籍化されています』
そして書籍も堂々完結...ケインとは何者か此処で正体が解ります。
応援、本当にありがとうございました!

ギルドを追放された俺、傭兵ギルドのエリートに拾われる〜元ギルドは崩壊したらしい〜
ネリムZ
ファンタジー
唐突にギルドマスターから宣言される言葉。
「今すぐにこのギルドから去れ。俺の前に二度と顔を出さないように国も出て行け」
理解出来ない言葉だったが有無を言わせぬマスターに従った。
様々な気力を失って森の中を彷徨うと、賞金首にカツアゲされてしまった。
そこに助けようとする傭兵ギルドのA級、自称エリートのフィリア。
モヤモヤとした気持ちに駆られ、賞金首を気絶させる。
行く場所が無い事を素直に伝えるとフィリアは自分のギルドに招待してくれた。
俺は仕事が必要だったのでありがたく、その提案を受けた。
そして後に知る、元所属ギルドが⋯⋯。
新たな目標、新たな仲間と環境。
信念を持って行動する、一人の男の物語。

僕だけレベル1~レベルが上がらず無能扱いされた僕はパーティーを追放された。実は神様の不手際だったらしく、お詫びに最強スキルをもらいました~
いとうヒンジ
ファンタジー
ある日、イチカ・シリルはパーティーを追放された。
理由は、彼のレベルがいつまでたっても「1」のままだったから。
パーティーメンバーで幼馴染でもあるキリスとエレナは、ここぞとばかりにイチカを罵倒し、邪魔者扱いする。
友人だと思っていた幼馴染たちに無能扱いされたイチカは、失意のまま家路についた。
その夜、彼は「カミサマ」を名乗る少女と出会い、自分のレベルが上がらないのはカミサマの所為だったと知る。
カミサマは、自身の不手際のお詫びとしてイチカに最強のスキルを与え、これからは好きに生きるようにと助言した。
キリスたちは力を得たイチカに仲間に戻ってほしいと懇願する。だが、自分の気持ちに従うと決めたイチカは彼らを見捨てて歩き出した。
最強のスキルを手に入れたイチカ・シリルの新しい冒険者人生が、今幕を開ける。
間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ
ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。
間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。
多分不具合だとおもう。
召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。
そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます
◇
四巻が販売されました!
今日から四巻の範囲がレンタルとなります
書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます
追加場面もあります
よろしくお願いします!
一応191話で終わりとなります
最後まで見ていただきありがとうございました
コミカライズもスタートしています
毎月最初の金曜日に更新です
お楽しみください!
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

スキルが農業と豊穣だったので追放されました~辺境伯令嬢はおひとり様を満喫しています~
白雪の雫
ファンタジー
「アールマティ、当主の名において穀潰しのお前を追放する!」
マッスル王国のストロング辺境伯家は【軍神】【武神】【戦神】【剣聖】【剣豪】といった戦闘に関するスキルを神より授かるからなのか、代々優れた軍人・武人を輩出してきた家柄だ。
そんな家に産まれたからなのか、ストロング家の者は【力こそ正義】と言わんばかりに見事なまでに脳筋思考の持ち主だった。
だが、この世には例外というものがある。
ストロング家の次女であるアールマティだ。
実はアールマティ、日本人として生きていた前世の記憶を持っているのだが、その事を話せば病院に送られてしまうという恐怖があるからなのか誰にも打ち明けていない。
そんなアールマティが授かったスキルは【農業】と【豊穣】
戦いに役に立たないスキルという事で、アールマティは父からストロング家追放を宣告されたのだ。
「仰せのままに」
父の言葉に頭を下げた後、屋敷を出て行こうとしているアールマティを母と兄弟姉妹、そして家令と使用人達までもが嘲笑いながら罵っている。
「食糧と食料って人間の生命活動に置いて一番大事なことなのに・・・」
脳筋に何を言っても無駄だと子供の頃から悟っていたアールマティは他国へと亡命する。
アールマティが森の奥でおひとり様を満喫している頃
ストロング領は大飢饉となっていた。
農業系のゲームをやっていた時に思い付いた話です。
主人公のスキルはゲームがベースになっているので、作物が実るのに時間を要しないし、追放された後は現代的な暮らしをしているという実にご都合主義です。
短い話という理由で色々深く考えた話ではないからツッコミどころ満載です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる