弟のお前は無能だからと勇者な兄にパーティを追い出されました。実は俺のおかげで勇者だったんですけどね

カッパ

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第二章:新旧パーティーのクエスト

6、最悪な偶然

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 ライドの人を探す能力は、知ってる人間に限られる。兄貴達──かつての仲間を探知するには一度ライドに会ってもらう必要があるので、そういう意味では良かったのだろう。
 最悪の再会の瞬間、俺はそう考えることにした。
 ──そう考えることで、どうにか平静を保とうとしたんだ。

「あ」

 俺の呟きに

「あん?」

 その人はそう呟きを返した。

「兄貴……」
「ザクス?」

 なぜここに? それが最初に浮かんだ疑問。ついで、どうしてこんな偶然がありえるのかと、苛立ちを感じる。
 鼻血を出したライドを介抱してたら血がついたので、再び川に入って洗い流していた。妖精のミュセルには小さい姿に戻れと慌てて言えば、不服そうな顔をされた。そこへ人が近づく気配があったので、反論は受け入れないと強く言って、どうにかミュセルの姿が小さく戻ったところで。

「よう、久しぶりだな」

 現れたのである。その人が。やつらが。

「どうしたのよディルド、先に私に水浴びさせて……え、ザクス?」

 兄貴の背後から顔を覗かせた人物は、まだ記憶に残ったままの姿なセハ。数年経ったとかではないのだから、なんら変化なくて当然だろうけど。それでも随分長く会ってないような気分だ。

「ガキの頃からの付き合いだろ、一緒に水浴びすれば……ん? なんだお荷物ザクスじゃねえか」

 更に後ろから巨体のモンジーが姿を現した。

「一緒なんて絶対いやですう、レディーファーストですよお。……あ」

 モンジーを睨みながら現れたのは、幼い言葉遣いと容姿とは裏腹に、ひとクセもふたクセもありそうな、抜け目ない光を目に宿すミユ。俺がいるのを認めた目が、わずかに揺れて細められる。

「こりゃまた……みなさんお揃いで」

 他にもっと言いようがあろうに、出た言葉は陳腐なもの。それほどに俺は驚き、そして怒りを覚えていたから。
 なぜこんな広い世界で、こいつらと再会する!?
 連中と別れた街は、とうにはるか遠くだ。あの街から続く街道には、村や町に街が数多にある。どの道を選択するか確信はえられずとも予想はできる。
 魔王討伐を目標にすると兄貴は言ってたからと、俺は魔王城とは逆の方角に来たのだ。
 そしてあまり旅人が寄らないような辺鄙な街に行き、そこでクエストを入手してそれを果たし、今に至る。
 一体どこに兄貴達一行に会う要素が働くのだ?

「どうしてこんなとこに居るんだよ。魔王城は真逆だろ?」
「お前には関係ない」

 俺の質問への返答は、殺気のこもった睨みが添えられている。いやな添え物だ。

「それがよザクス、聞けよ。ディルドのやつ、なんかクエストとってきたと思ったら、魔王城と真逆の方角でやんの。ミユにそれ指摘されたら『高額報酬だから、まずは魔王城までの資金調達だ!』とか逆切れすんだぜ~」

 兄貴の不機嫌さに気付いてないのか、モンジーがゲラゲラ笑いながら教えてくれた。直後、その腹に兄貴の肘鉄が入って「ぐえっ」とか言ってる。
 言ってるが……おかしいなと俺は目を細めた。
 だってあの兄貴の肘鉄だぜ。いまだ俺の能力をほとんど保持し続ける兄貴の肘鉄をくらって、いくらモンジーといえどあの程度で済むはずがない。不機嫌な兄貴の肘鉄は、モンジーを悶絶させるはずなのに。
 それに気づいて、何気なく俺は自分の腕をさすった。誰にも気づかれないように、ごく自然に。
 そして理解した。なるほど、そういうことかと。
 まだまだではあるが、結構俺に能力が戻ってきてるらしい。この調子なら、あとひと月とかからず全て俺に戻ってくるだろう。
 故郷にいたころから……幼い頃から十年以上兄に分け続けた能力、勇者の能力。それがひと月で戻ると考えたら、早いほうではなかろうか。

「そんなことはどうでもいい! おいザクス、なんでお前がこんなとこに居るのかしらんが目障りだ。お前のような無能で役立たずのクズが、俺ら勇者様一行と同じ川で水浴びすんじゃねえよ、水が穢れる。とっとと出ろ!」
「言われずとも」

 相変わらずの人を見下した言い方に腹が立つ。だがこういう輩に何を言ったところで無駄だと、俺は既に知っているから黙って川を出た。
 その時、「あら?」と声を出したのはセハだ。
 チラリと見れば、彼女は俺を見ていた。

「ねえザクス、あんたの髪、そんなに明るかったっけ?」
「光加減のせいだろ」
「そういうレベルじゃないと思うけど……それに顔立ちも変わった?」
「お前らに捨てられてからこれまで、色々あったから顔つきも変わるさ」

 マジマジ見られるのをよしとせず、俺はフイと顔を背け、軽く拭いただけで濡れるのも気にせず服をまとう。

「体も……そんな筋肉ついてたっけ? もっとヒョロッとしてたような……」

 素早く着たつもりだというのに目ざとい。内心舌打ちをしつつ、無言を貫く。変に反論や言い訳をしてもボロが出るだけだろうから。それにセハはともかく、黙り込んでるミユの視線が気になる。あれはなかなかに目ざとい女だから。

「似てるです……」
「ミユ?」

 ミユの呟きに首を傾げるのはセハ。自身に視線を向けるセハを無視し、ミユはひたすらに俺の背中を見つめ続けた。背に感じる視線が痛い。

「ザクスの顔に体つき、ディルドに似てるですう。別れてから数週間……こんな短期間で変わるものですかあ?」

 濡れた体を流れるのは水滴。だが今背中に流れるのはそれではない。ハッキリと汗が背中をつたうのを感じながら、俺は肩越しに背後を振り返る。
 そこにあった目は。ミユの目は。
 弧を描き笑みをたたえる口元とは真逆に、笑っていなかった。
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