弟のお前は無能だからと勇者な兄にパーティを追い出されました。実は俺のおかげで勇者だったんですけどね

カッパ

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第二章:新旧パーティーのクエスト

1、買い出し

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 盗賊ライド、僧侶(モンク?)ルルティエラ、妖精ミュセル。
 そして無職俺、ザクス。
 全然自慢できないくらいに無職です。
 だってよ、冒険者資格を取りに行った時点で、俺の勇者としての能力はほぼ兄貴に分けてしまっていたのだ。残りカスしかない俺に、適職なんぞあるわけもない。せいぜい雑用係くらい。
 故郷の村にいた時から、めんどくさがりだった俺。
 親の手伝いなんて面倒すぎて、全能力兄に分けて、やってもらってた(セコイという声が聞こえるなあ)。
 結果兄貴は強くなりすぎて、村周辺の魔物を全滅させてしまった。生態系考えろよ。
 しかし村人は生態系など気にしない、害がなくとも存在するだけで許されないのが魔物というもの。俺には理解できんが。
 結果、兄貴は村のヒーローとなった。そして調子にのって冒険者になったわけである。
 兄貴が勇者で生活に潤いが出れば、俺もおこぼれをもらえると思っていた俺も悪いのだけど、兄貴はどんどんクソみたいな勇者になってったっけな。
 前にも言ったが、珍しい魔物の売買は当然のようにやってたし、金になる魔物なら害なく平穏に暮らしてても倒してた。
 俺が何を言おうと、「お前は弱虫だな」と鼻で笑ってたっけ。「役立たずは黙ってろ」とも言われたなあ。ついでに兄貴の言葉に乗っかったモンジーが俺を笑って突き飛ばしてたっけ。まったく笑えない。

「どうせ俺は弱虫で役立たずで無職だよ!」

 思い出したらムカムカしてきたので、思わず叫んでしまった。

「は? なんだよいきなり。なに自己嫌悪におちいってんだ、お前の無職なんて今に始まったわけじゃないだろ?」
「まあそうだけど」
「どうした少年、悩みならお兄さんが聞いてあげよう。リーダー様に話してごらん?」
「オジサンの間違いじゃないのか?」
「ぐさっとくるわあ!」

 誰がいつお前をリーダーに決めたよ。勝手に言ってろと睨めば泣き真似するし。
 なんかライドのそういうアホみたいな様子を見てたら、ムカムカが消えた気がする。

「お前すげえな」

 と褒めれば

「もっと言って!」

 と言われたので、もう二度と言いません。

「おぬしら、仲いいのう」

 なんて俺の肩に乗るミュセルが言うので、

「ミュセルはまだまだ世間知らずだな。こういうのは犬猿の仲って言うんだぞ?」

 って教えてあげた。

「俺が犬でザクスが猿か」
「逆だボケ」
「反抗期か!?」

 なんだろうな、ライドにはついついポロっと本音(…)が出るのよなあ。もしこれが兄貴相手だったら、本音の半分も言えなかった。
 別に気後れする必要もないんだけど。兄弟だし。だけど兄貴に俺はどうしても強気になれなかった。俺の能力を分けて強くなってるだけだってのに。
 能力返してもらったら、俺のほうが強いのに。
 それでも強気になれないのが兄弟マジックというやつか。
 ライドとの気楽な会話とは対照的な兄貴との会話を、俺は思い出していた。


◆ ◆ ◆


「え、買い出し? いいけど、なにを買えば……ってメモあるのか。ずいぶん多いな」
「文句言うな。お前はそれくらいしか出来ないんだから、自分の出来ることを最大限やれよ」
「わかってるよ」

 とある日のとある街。次のクエストを決めた俺達勇者一行は、準備を進めていた。
 俺もまた短剣を磨き、回復薬の残量チェックなどを進めていたら、兄貴に買い出しを命じられた。
 それ自体はいつものこと。だって兄貴に能力をほとんど分けて無能になってる俺は、雑用係なのだから。気楽な雑用、でも結構大変なのが雑用。
 その日はいつもと違って買い出し量が多かった。

「随分と食料と……水が多いな」
「今回のクエストは砂漠だからな。砂地の魔物は水に弱い。何より水は命綱だ、多いにこしたことないだろ」
「この街、レンタル荷馬車あったっけ」
「あっても、んな無駄遣いする余裕があるか。新しい防具を買ったばかりなんだぞ」
「俺は買ってもらってないけどな」
「後衛どころか戦闘中は補佐しかしないお前には、必要ない」
「怪我した兄貴達に回復薬を届けるのって、結構命がけだぞ?」
「それぐらいやって当然だろ」

 俺にとって命がけの行為は、兄貴にとっては大した意味をもたないらしい。仕方ないとはいえ、弟としては悲しいじゃないか。昔は優しい、弟思いの兄貴だったのになあ。
 勇者になってから、兄貴はスッカリ変わってしまった。

「荷馬車が駄目となると荷車か。モンジーなら、まあなんとか運べるか」
「は? なに言ってやがる」

 そこで俺達の会話を聞いていたモンジーが、剣を磨く手を止めて俺を見てきた。

「え?」
「ザクス、お前が運ぶに決まってんだろ。俺は常に魔物を警戒して動かにゃならんのだから」
「ええ? さすがにこの量は……」
「己のひ弱さを言い訳にすんな! いいからお前がやれ!」
「いてっ!」

 思わず眉をひそめた俺の後頭部を、容赦なく叩くモンジー。

「ったく、なさけないわね。男ならもっと力つけなさいよ」

 魔力回復薬を確認してるセハが、冷たい目を向けてきた。
 あたた、と頭を押さえる俺への同情は欠片もない。

「あ、それから魔力回復薬も買っといて」
「わかったよ。ん」
「なによその手」
「? お金くれ」
「はあ!? あんたねえ、役立たずなくせに報酬もらってるんでしょうが! それくらいあんたが出しなさいよ!」
「俺、いつも取り分すんげー少ないんだけど」
「役立たずなんだから当たり前でしょ!」

 いつもそうだ。セハは金をいつも俺に出させる。そのくせ、誰よりも金のかかるものを要求してくる。魔力回復薬の値段、いくらか分かって言ってんのかね。
 深々と溜め息をついても、誰も同情はしない。俺の存在価値なんてその程度だとばかりに。
 何よりも、何も言わずに「は~あ」と溜め息つくミユの態度が一番傷つくんだよなあ。

「なんだ、なにか言いたいことあるのか!?」

 言いたい事ならやまほどある。
 兄貴の力は本当は俺のなんだ! って言いたい。言えたらいいのに。
 能力分けて戦ってもらってるってのは、結局のところはいいように利用してるとも言える。
 だから口が裂けても言えない真実を呑み込んで、俺は押し黙る。
 グッと我慢して、平穏な日々を過ごすために、俺は今日も全てを呑み込むのだ。


◆ ◆ ◆


「思い出したら泣けてきたわ」

 過去の記憶がつらすぎて、ツツ……と涙を流してたら、ライドがドン引きする。

「うわ、なに泣いてんだよ、気持ちわりいなあ! もういいよ、お前の荷物貸せ、そんな泣くくらいに重いなら言えよな」

 ドン引きしつつも、買い出しの荷物を少し持ってくれた。
 こういうとこがライドらしいというか、なんというか。その優しさが身に染みるので、思わず

「惚れるわ」

 と心からの冗談を言ったら

「俺に惚れたら火傷するぜ!」

 とか言われたので、残りの荷物全部押し付けた。
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