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第一章:パーティー追放
12、小さな仲間
しおりを挟む勇者一行と共に旅をして五年、それなりに多くの場所を行った。たくさんの経験をした。嘘みたいな本当の話だらけだった。
そんな数多の経験をしてきた俺だが、これは初めての経験、初めての出会いだ。
魔物やらドワーフにエルフなんかとは会ったことあるけど。
「妖精って本当にいたのな」
妖精は初めてだった。
手の平サイズの石に入ってたのだから、とにかく小さい。隕石に入ってたってことは、この世界以外の場所から来たのか? だがこの世界にも妖精はいると話には聞いた事がある。まったくもって謎である。
「当たり前だろうが。おぬしは一体何を目にしてるのだ?」
妖精は小さい。
妖精は美しい。
そして妖精は口が悪い。これ重要。
金の髪に青い瞳、半透明の羽に透けるような白い肌。そして素っ裸。これもっと重要。
「なんで裸?」
小さいからか、それとも中性的な体のせいか、特に気にすることなく聞けば、「当たり前じゃろ」と言われてしまった。妖精は裸が基本らしい。
「男のシンボルもなけりゃ女の体にも見えない……お前、なんなの?」
「我ら妖精に性別なんぞあるか、たわけ。そんなものは醜い生き物がもつ優柔不断なものぞ。我ら高尚なる妖精に、性別なぞ必要ない」
「なるほど」
わかったようなわからないような。とにかく妖精には性別はないと。見た目は綺麗な女性って感じなんだけど、口調とか性格は男性って感じだ。
「それで、どうして妖精が隕石の中に?」
「知らん。我ら妖精は隕石から生まれ出る。どこから来ていつ隕石に入ったのかなんぞ我が知ることではないし、知る必要もない。大事なのは我はここにいる、それだけだ」
「なるほど」
まあたしかにそうだよな。人間だってどこから来てどこへ至るのかなんてわからない。いや親から生まれ出たんだけどさ。命とは? なんて話を始めたら、時間はいくらあっても足りないし、正解なんて存在しない。
考えるだけ無駄というわけだ。
「とりあえず……金にならないというのだけはわかった」
妖精は希少で、もし手に入れたなら売ると大金になる……なんてもんではない。一生贅沢暮らしできるくらいの富を得ることができる。
だが正直俺にはそんなものは興味ない。なんであれ命の売り買いなんぞしてたまるか。
兄貴達は喜んでやってたけどな。
思い出されるのは、生け捕りにした珍しい魔物を喜々として売っていた兄貴達の姿。不要な殺生は必要ないと俺がどれだけ言っても、兄貴達はやめなかった。これが平和のためだとかぬかしながら、そのくせ貰う金は「もっと寄越せ」と吊り上げようとする。
正直、反吐が出る。
そんな正義感をふりかざす俺もまた、目障りだったんだろうなあ。
なんとなく目の前の妖精に目をやって、フッと浮かべる笑みはきっと苦笑い。
ゴソリとタオルを出して、なんとなくと妖精の体にかけた。
「なんじゃこれは、邪魔くさい!」
言って妖精はアッサリそれを落とした。ま、いきなり布かけられたらいやだわな。
「やるよそれ、いらないならそのまま捨ててくれ」
「は?」
「じゃ、俺行くわ。誰にも捕まらないように早く森にでも隠れろよ。この世界は危険だらけだぞ」
「はあ?」
俺の言ってることを理解してるのかどうかわからんが、そう言い置いて俺は妖精に背を向けた。そろそろ日はのぼりはじめて、空が白み始めた。
「さて、街道はどこ……ぐえ!?」
道を探すかと周囲を見回していたら、突然生じた首の痛みに悲鳴をあげた。
な、なんだ? 首がグキッと後ろに傾いたぞ!? こうグキッと!
「いっでえ!」
「いでえではない! なに我を一人にしようとしてるのだ、おぬしは!?」
痛みに涙を浮かべていると、背後から声がする。振り返れば、そこには俺を睨む妖精が。どうやら俺の頭を押さえてとどまらせたようで、頭だけ前に進めずグキッとなったらしい。なにすんじゃい。
「痛いんですが」
でも強気になれない俺は小さいものが好き。
「だから我を一人にするなというに」
「つまり?」
「連れて行け」
「マジかい」
ライドとルルティエラと別れたばかりだというのに。
ノンビリ一人旅でもと思った矢先に、新しいツレが出来てしまった。
まあしかし、周囲には森なんて欠片も見えないし、このまま放置は危ないだろう。
とりあえず、どこぞの森に着くまで連れて行くか。そう思って俺は深々と溜め息をつくのだった。
「連れて行くのはいいけど、この布をまとって服にしてくれ」
「嫌じゃ」
「じゃあ連れてかねえ」
「なら仕方ない」
アッサリ布を体に巻き付けた。素直だなおい。
「お前、名前は?」
「知らん」
「名無しか。じゃあミュセル」
「どういう意味じゃそれは」
「特に意味はないが、なんとなく」
「……そうか」
反論ないってことはオッケーってことか。
なんとなく嬉しそうに見えるのは、気のせいだろうか?
ミュセルはそのまま黙って、俺の肩へととまった。飛ぶのが面倒なのか知らないが、なんとなくその存在が可愛くて笑ってしまった。
さて、どこへ行こうかな。
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