弟のお前は無能だからと勇者な兄にパーティを追い出されました。実は俺のおかげで勇者だったんですけどね

カッパ

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第一章:パーティー追放

11、隕石が生み出す出会い

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「すみませんが、一つ質問していいですかね」
「ダメだ」
「ザクス、お前は一体何者なんだ?」

 質問はダメだと俺が言ったのを無視して質問してきたのは、盗賊ライド。俺の財布をすった男である。
 呆れたような、ホッとしたような、複雑な顔を俺に向ける。なんとなく、俺の無事に安堵してる部分が大きいような気がして、なんだか嬉しくなった。

「ザクスは化け物ですの?」

 多分に失礼な発言をしてることに気付いているのかいないのか。分からんがとにかくホッとしたことで出たのであろう、ルルティエラの発言。
 信じられないものでも見るような目で、俺と俺の眼前にある物体を交互に見ていた。
 俺の眼前にあるものとは、それすなわち隕石である。ゴウゴウと炎をまとって落ちてきた巨大な隕石は、まず俺の拳で止めた。でもって手刀で隕石をぶった切る!
 あっという間に隕石は粉々。あっという間に炎は鎮火。残されたのは、お宝のみ。

「「えええええ!?」」

 かくして夜の闇にライドとルルティエラの叫び声が響き渡るのであった。うるせえよ。
 だが騒音を気にする必要はなさそうだ。だって振り返れば街が騒々しいんだもの。
 そりゃそうだよな、俺ら街の近くで野宿してたし。隕石、あのままなら街を直撃だったもんな。それを阻止したんだから、そりゃ大騒ぎになるわ。
 こりゃ街中の住人が起き出したな。てことはだ、勇者一行も出てくる可能性は高い。
 正直、やつらには会いたくない。というか、俺が隕石を止めたと知られたくない。

「逃げるか」

 ライドの問いとルルティエラの視線を無視して、俺はお宝が入ってるであろう小さな塊──粉々になった隕石の中に、手の平にすっぽり収まるサイズの石だけが残されていた──を手に、走り出した。

「え!? ちょ、おいザクス!?」
「じゃあなお二人さん。また縁があれば会おうぜ」

 慌てる二人を置いて、俺は走る。本気で走る俺に、ライドすら追いつくことはできないだろう。
 とにかく街が見えなくなるとこまで行くか。
 次の街や村がある方角はどっちかなんて考えない。今はとにかく兄貴たちがいる街から離れるのみ。
 そう思って俺は全力ダッシュするのだった。

* * *

「よし、もういいだろ」

 走ること小一時間。体力もかなり兄貴から戻ってきたらしく、大して疲れてない。
 だがもう充分だろうと振り返れば、そこには何も無い荒野が広がっていた。整備された街道からもはずれてしまったか。
 だがまあ焦ることはないさ。道は朝になってから探せばいい。今はとりあえず、お宝の確認だ。
 いつも兄貴たちに取られて俺のはなかったからなあ。
 これまで隕石の中にあったのは、希少な宝石が多かった。空から降る宝石は非常に希少で、貴族が喉から手が出るほど欲しがるのでかなり高額で売れる。
 そしたら当分働かなくてもいいだろう。
 せっかく獲ったピーカンデュ(「俺が獲ったんだ!」とライドの声が聞こえてきそうだ)を置いて来てしまったなとチラリと思ったが、なに気にすることはない。
 隕石の宝石さえあれば、ピーカンデュ十匹売ってもお釣りがくる。

「さあて、どんな宝石が入ってるかな?」

 どの宝石も高額になるが、それでもピンからキリがある。大当たりなら、質素に生きれば一生働かなくても生活できるかも……なんて期待をこめて、俺は石を地面に置いた。
 スラっと腰に差してた短刀を引き抜く。
 それをそっと、丁寧に石にカツンと当てる。すると石は簡単にポロリと剝げて落ちた。だがまだ中は見えない。
 カツンカツンと丁寧に刃をあてて、石をこそぎ落とす。
 そして最後の石が落ちて、中身があらわになった。
 なったのだが──

「なんだこれ? 金?」

 それは黄金の輝きを放っていた。まだ日の出には時間がある、暗い夜の中で、それはキラキラと輝きを放つ。
 眩しさに思わず目を細めた。と同時に落胆する。
 金は確かに高額で売れるが──正直、希少性はないので隕石のお宝としてはハズレである。
 一生遊んで暮らすのは無理か、と落胆して俺は思わず「ちぇっ、ハズレかあ」と金を指でピンと弾いた。
 その瞬間。

「痛いっ!」
「えっ!?」

 なんと金が声をあげたのである!

「何をするか、バカ者!」

 黄金がそう言った瞬間。
 光がはじけた。その眩しさに思わず目を閉じて。
 開いた瞬間、俺は言葉を失うのだった。

「まったく……乱暴に扱いおって」

 偉そうな口調でそう言って。
 美しい長い金の髪を払うその人。
 いや、人と言ってはいけないのだろう。だってその背には──透ける羽が生えていたのだから。
 金の髪、青い瞳、半透明の羽。そして手の平サイズ。

「お前は……」

 それは間違いなかった。
 それは間違いなく、宝石ではなく。
 宝石以上に希少な存在。

「妖精……?」

 だった。
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