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第一章:パーティー追放
10、俺の力は誰がために
しおりを挟む星が流れて落ちた、なんて綺麗な言葉で終わったが、実際はそんな綺麗なものではなかった。
自分の取り分が減った野兎の串焼きをブツクサ言いながら食べ終えた頃。
さてそろそろ寝るかと横になろうとしたら、ライドが空を指さして言った。
「なあ、流れ星が落ちてくる」
「は? 流れ星は落ちるもんだろ」
「いや、そうじゃなくてだな……」
「本当ですわ、星が落ちてきますわ」
「ルルティエラまでなに言って……」
なぜか二人揃って俺の背後の空を指さしている。
なんじゃらほいと振り返って、俺もまた「本当だ、星が落ちてくる」と同じ言葉しか出なかった。
てか本気で星が落ちて来てるんですけど!? 人はそれを隕石と言う。って知らんがな。
「お、おい、逃げるか?」
「逃げるってどこに逃げるんですの!? 落ちてくる星から逃げることなんて……」
あわあわとパニくる二人。そりゃそうだ、大した経験せぬままダラダラ冒険者してきたライドと、初心者冒険者のルルティエラに落ちてくる星の対処法など知る由もない。
そして俺。
俺はまあそれなりに経験ある。星が落ちてくる経験なんてあんまりないだろうが、勇者一行は違うのだよ。
ただ、それは勇者がいたからこそ対処できた。
はたして今の俺に対処できるか?
兄貴に分けた能力は、まだまだ戻ってはこない。右手をグッパグッパと開いて閉じてをしながら確認をする。
「……ま、なんとかなるか?」
足の速さは戻って来てる。洞窟探索でライドに分けた能力は、とうに戻っている。一人なら余裕で走って逃げれるだろう。
でもそれじゃ面白くない。なぜって隕石の中ってのは宝箱みたいなものなのだから。経験ない者は知らないだろうが、俺は経験あるから知っている。
いつも力自慢のモンジーが隕石を腕で受け止め、動きがゆるくなったところにセハが魔法で完全に動きを止める。そこにミユの魔法で攻撃力を上げた兄貴──勇者が隕石に剣をふるう。それであっというまに隕石は粉々だ。
その中にあるお宝を除いて。
そしていつも見ているだけの俺以外で、お宝を山分けしていた。まあそれは仕方ないから別にいいんだけど。
さて、今この場には力自慢のモンジーはいない。
黒魔導士のセハも、白魔導士のミユもいないし、当然勇者の兄貴もいない。
いるのは役立たずな冒険者二人に、俺。無職の俺。
その状況でなんとかなるなんて発言する俺に、完全に変なもの見るような目をライドが向けてきた。
「お前、死んだら浮遊霊になりそうだな」
俺のことなんだと思ってんだ。もう駄目だと覚悟したのか、ライドがトンチンカンなことを言ってくる。
まあそりゃそうだよな、勇者パーティー追い出されて無職な俺。ライドより足が速いのは披露したが、それ以外は特に大した能力もなくて役立たず。ライドの中の俺なんてその程度のイメージだろう。
死を目前にして、なぜ俺の死後を予想するのかわからんが、どうでもいい。
だって俺は死ぬつもりないのだから。
グッパと手をもう一度握って開く。そこに力を感じたから。兄貴に分けた力が戻るのを感じたから。
それにと思う。俺が分け与えたのは、兄貴だけじゃない。モンジーにも、俺は分けたのだ。俺の勇者としての能力を、俺は多分に奴に分けたのだ。だからこそ、あいつは力自慢の戦士兼武闘家たりえたのだ。俺の力なくして、あいつのあの状態はありえなかった。
ただの筋肉ダルマになるはずだったモンジーを思い出し、俺はニヤリと笑う。
「モンジー、お前の力、確かに返してもらった」
まだ完全ではない、兄貴のそれはほとんどまだ戻って来ていない。戻ってるのはモンジーに分けたぶんだけ。
でもそれで充分だった。隕石を止めるには、それで充分。
だって俺、勇者だから。
規格外の能力、もってますから──!
「おい、ザクス!?」
隕石の前に立ちはだかる俺に、焦った様子のライドの声。俺の気がふれたとでも思ってるんだろうな。
だがその顔は意外にも心配そうな顔をしてる。
おや、と思う。
お前、俺のことを少なからず心配してくれるのか?
「ばか、やめろ! 命を無駄にするな!」
その言葉に、片眉を上げる俺。
へえ、実はけっこう優しいやつじゃないの、ライド。
そしてルルティアらもまた、目に涙を浮かべている。
「だめですわザクス! とにかく逃げるんです! もしかしたら万に一つの可能性で生き延びることができるかも──」
彼女もまた、心配してくれた。
瞬間、脳裏に浮かぶのはかつての仲間の嘲笑にも似た視線。そして言葉。
『ザクス、お前は本当に役立たずだな! 隕石を前にして何もしてないのお前だけじゃないか。そんなやつにお宝を分けてやらないからな!』
勇者な兄貴が笑って言う。
『本当にザクスはひょろっちいな。隕石どころか俺が投げる石も避けれないんじゃないか? お、当たった』
石を俺にぶつけて、やっぱり笑うモンジー。
『はあ……ザクス、あんたさあ、せめてもう少し……いや、もういいわ。何を言っても無駄ね』
呆れたようにため息をついて白い眼を向けるセハ。
『……』
かける言葉もないというように、俺を見ることもしないミユ。
みんなみんな冷たかった。そりゃ俺も何も言わなかったのが悪いのかもしれない。俺の力を分けてるんだって言えば良かったのに言わなかったんだから。
でも言ってどうなる? 力の分け与えを話したら、あいつらのことだ、クエストがうまくいかなければきっと俺を責めるだろう。俺の能力が悪いと責任をなすりつけるだろう。
人というのは根本は変わらない。あいつらの根本はそこにあった。俺を馬鹿にするという根本があったんだ。
「ザクス!」
対してライドにはそれがない。役に立たないと俺に言いながら、けれど心配して駆けてくるお人よしのライド。
「ザクス!」
ルルティエラもまた、泣きそうなくせに、共に駆けてくる。
そんな風に心配されたのはいつぶりだろうか。そんな風に俺のことを思って助けようとしてくれたことが、かつての仲間にあっただろうか。
出会ってからこれまで、初心者冒険者の頃から、かつての仲間たちは俺に冷たかった。一緒に冒険に出て頑張ろうと励ましあった兄貴でさえも、俺のことを馬鹿にした。
だから嬉しかった。
本当に嬉しかった。
ライドとルルティエラ、二人になら俺の真の力を見せてもいいと思った。自分でやるのは面倒だと思い続けてたのに、今俺は自分でやってもいいと、面倒だと思わないで動ける気がした。
ああそうか。
そこで俺は気付く。
面倒だと人に能力を分けていたのは。
面倒だからと動かなかったのは。
そう思えなかったからだ。そうしたいと思えなかったからだ。
俺を馬鹿にするやつらの為に動きたいとは思えない。
けれど俺を心配してくれる、優しいやつらのためなら。そのためなら。
「うおおおお!」
叫んで拳を隕石に向ける。
そのためなら。いい奴らのためなら。
俺は自分で動くことを面倒だとは思わないんだと。
いま、初めて知った。
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