9 / 48
第一章:パーティー追放
9、勇者一行は呑気である
しおりを挟む俺がかつての仲間、兄貴(勇者)ひきいる一行がどうなってるかと考えて極悪な笑みを浮かべてる頃。
勇者一行はまだ宿屋にいた。
そりゃそうだ、やつらにはたんまりお金があるし、野宿の心配もない。慌てて金を稼ぐ必要ないのだから、のんびり宿屋で過ごすにきまっている。
とはいえ、クエストを終えて休養を数日していたところなので、そろそろクエストをしようかとなっているだろう。
そして俺の想像は当たっていた。
「ザクスというお荷物もいなくなったところで、なあディルド、そろそろクエストやるか?」
「そうだなモンジー。お前にしてはまともなことを言う。ザクスが邪魔して出来なかった大きなクエストでもやろうかと俺は考えてる」
「あたしはさんせー。なにせザクスのせいで能力を充分発揮できてなかったんだもの。そろそろドカンと大きな魔法を使って発散したい」
「セハちゃん、魔法で発散は良くないですう。でも私もそろそろやりがいのあるクエストしたいなあ」
などと呑気に話す勇者一行。
「じゃ、明日にでも冒険者ギルド行って依頼がないか見てみるか。おいザクス、ある程度クエストをしぼって……」
「なに言ってんだディルド、便利屋ザクスはもういねえぞ」
「チッそうだったな。雑用はあいつに押し付けてたからなあ。あ、てことはクエストの準備の買い出しも俺らでやらなきゃなんねーのか?」
「そういうことね。私はやんないわよ。そういうのは、モンジー、力自慢のあんたの仕事でしょ」
「なにいってんだセハ、俺が買い物したらどうなるかわかってんのか?」
「どうなんのよ」
「計算できなくてぼったくられる」
「自慢するとこ、それ?」
まだ自身の変化に気付かない連中の会話は、吞気すぎる。
「そうだ、どうせザクスのやつ金もなく仕事もなくで泣いてるだろうから、雑用として必要なときだけ呼びつけたらいいんじゃないか?あいつ絶対大喜びでくるぜ」
「そりゃいいや、ぎゃっはっは」
およそ弟に対する言葉とは思えぬ、勇者の兄。
その言葉に大笑いする仲間達。
呑気で呑気すぎる勇者一行はまだ気付かない。
何も、気付かない──
* * *
ゾクリと悪寒を感じて、俺は腕をさすった。
「なんだよ、そんなに寒いか?あんまり火を強くし過ぎても火事になるぜ」
「いや、そういうんじゃないんだけど……なんか嫌な感じがしたんだ」
「こんな街のすぐ近くで魔物が出たことないんだけどなあ」
「そうじゃなくて……まあいいよ。気のせいだろ」
「変なやつ」
変なやつに変なやつと言われることほど屈辱はない。
本日俺達はベートの森でそれなりの収穫を得られたのだが、いかんせん終わった時間が遅すぎた。
獲物を買い取ってもらってお金にするのは明日にするしかないと、今日は野宿である。パーティーを追い出されたのが冬でなくて良かった。
「ライドはあの街に住んで、どれくらいなんだ? どうして住処がないんだよ」
気になったのはなぜか一緒に野宿してるライドのこと。
当然のように俺がつけたたき火に当たって寝る準備をしている。そして俺が用意した野兎の串肉を勝手に食っている。
「──って、勝手に食ってんじゃねえ!」
なに当然のように食ってんだよ! あまりに自然に食ってるからツッコミが遅れたわ! あああ、串1本なくなっちまった!
「おま、ふざけんなよ!? 野兎も俺が獲ったのに……食いたきゃ自分で獲物を獲ってこい!」
「固いこと言うなよ、洞窟で俺一人頑張っただろ?」
「お前の取り分のピーカンデュは渡しただろ! この串焼きは別だ!」
「せこいなあお前」
「ザクスはせこいですわ」
「理不尽!」
人の物を横取りするライドにせこいと言われれるの理不尽。
そしてなぜかちゃっかり一緒にいて、やっぱり串焼き食ってるルルティエラにもせこいと言われた。とっても理不尽!
「ルルティエラさんはなぜ一緒に俺らといて、串焼き食ってるんですかね?」
「え? わたくしを放り出すおつもりですの?」
「いや、そもそも俺ら洞窟で出会っただけの赤の他人ですし」
ライドにいたっては、俺にスリを働いたというとんでもない出会いでしたし。
「もう別行動でいいんじゃないかと俺は思うのですが?」
「ひどい! ザクスは俺を捨てるの!?」
「ザクスはひどいですわ!」
「なんなのお前ら」
なんで気が合うんだよ、なんで仲良く俺を非難してんだよ。なんで俺が悪者なの。
「理不尽……」
俺の呟きに同情した者は、この場にはいなかった。星が流れて落ちた。
56
お気に入りに追加
1,179
あなたにおすすめの小説

転生者は力を隠して荷役をしていたが、勇者パーティーに裏切られて生贄にされる。
克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門日間ランキング51位
2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。

スキルを得られない特殊体質の少年。祠を直したらユニークスキルもらえた(なんで??)
屯神 焔
ファンタジー
魔法が存在し、魔物が跋扈し、人々が剣を磨き戦う世界、『ミリオン』
この世界では自身の強さ、もしくは弱さを知られる『ステータス』が存在する。
そして、どんな人でも、亜人でも、動物でも、魔物でも、生まれつきスキルを授かる。
それは、平凡か希少か、1つか2つ以上か、そういった差はあれ不変の理だ。
しかし、この物語の主人公、ギル・フィオネットは、スキルを授からなかった。
正確には、どんなスキルも得られない体質だったのだ。
そんな彼は、田舎の小さな村で生まれ暮らしていた。
スキルを得られない体質の彼を、村は温かく迎え・・・はしなかった。
迫害はしなかったが、かといって歓迎もしなかった。
父親は彼の体質を知るや否や雲隠れし、母は長年の無理がたたり病気で亡くなった。
一人残された彼は、安い賃金で雑用をこなし、その日暮らしを続けていた。
そんな彼の唯一の日課は、村のはずれにある古びた小さな祠の掃除である。
毎日毎日、少しずつ、汚れをふき取り、欠けてしまった所を何とか直した。
そんなある日。
『ありがとう。君のおかげで私はここに取り残されずに済んだ。これは、せめてものお礼だ。君の好きなようにしてくれてかまわない。本当に、今までありがとう。』
「・・・・・・え?」
祠に宿っていた、太古の時代を支配していた古代龍が、感謝の言葉と祠とともに消えていった。
「祠が消えた?」
彼は、朝起きたばかりで寝ぼけていたため、最後の「ありがとう」しか聞こえていなかった。
「ま、いっか。」
この日から、彼の生活は一変する。

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?
歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。
それから数十年が経ち、気づけば38歳。
のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。
しかしーー
「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」
突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。
これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。
※書籍化のため更新をストップします。
勇者に全部取られたけど幸せ確定の俺は「ざまぁ」なんてしない!
石のやっさん
ファンタジー
皆さまの応援のお陰でなんと【書籍化】しました。
応援本当に有難うございました。
イラストはサクミチ様で、アイシャにアリス他美少女キャラクターが絵になりましたのでそれを見るだけでも面白いかも知れません。
書籍化に伴い、旧タイトル「パーティーを追放された挙句、幼馴染も全部取られたけど「ざまぁ」なんてしない!だって俺の方が幸せ確定だからな!」
から新タイトル「勇者に全部取られたけど幸せ確定の俺は「ざまぁ」なんてしない!」にタイトルが変更になりました。
書籍化に伴いまして設定や内容が一部変わっています。
WEB版と異なった世界が楽しめるかも知れません。
この作品を愛して下さった方、長きにわたり、私を応援をし続けて下さった方...本当に感謝です。
本当にありがとうございました。
【以下あらすじ】
パーティーでお荷物扱いされていた魔法戦士のケインは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことを悟った彼は、一人さった...
ここから、彼は何をするのか? 何もしないで普通に生活するだけだ「ざまぁ」なんて必要ない、ただ生活するだけで幸せなんだ...俺にとって勇者パーティーも幼馴染も離れるだけで幸せになれるんだから...
第13回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞作品。
何と!『現在3巻まで書籍化されています』
そして書籍も堂々完結...ケインとは何者か此処で正体が解ります。
応援、本当にありがとうございました!

コストカットだ!と追放された王宮道化師は、無数のスキルで冒険者として成り上がる。
あけちともあき
ファンタジー
「宮廷道化師オーギュスト、お前はクビだ」
長い間、マールイ王国に仕え、平和を維持するために尽力してきた道化師オーギュスト。
だが、彼はその活躍を妬んだ大臣ガルフスの陰謀によって職を解かれ、追放されてしまう。
困ったオーギュストは、手っ取り早く金を手に入れて生活を安定させるべく、冒険者になろうとする。
長い道化師生活で身につけた、数々の技術系スキル、知識系スキル、そしてコネクション。
それはどんな難関も突破し、どんな謎も明らかにする。
その活躍は、まさに万能!
死神と呼ばれた凄腕の女戦士を相棒に、オーギュストはあっという間に、冒険者たちの中から頭角を現し、成り上がっていく。
一方、国の要であったオーギュストを失ったマールイ王国。
大臣一派は次々と問題を起こし、あるいは起こる事態に対応ができない。
その方法も、人脈も、全てオーギュストが担当していたのだ。
かくしてマールイ王国は傾き、転げ落ちていく。
目次
連載中 全21話
2021年2月17日 23:39 更新

異世界に召喚されたが勇者ではなかったために放り出された夫婦は拾った赤ちゃんを守り育てる。そして3人の孤児を弟子にする。
お小遣い月3万
ファンタジー
異世界に召喚された夫婦。だけど2人は勇者の資質を持っていなかった。ステータス画面を出現させることはできなかったのだ。ステータス画面が出現できない2人はレベルが上がらなかった。
夫の淳は初級魔法は使えるけど、それ以上の魔法は使えなかった。
妻の美子は魔法すら使えなかった。だけど、のちにユニークスキルを持っていることがわかる。彼女が作った料理を食べるとHPが回復するというユニークスキルである。
勇者になれなかった夫婦は城から放り出され、見知らぬ土地である異世界で暮らし始めた。
ある日、妻は川に洗濯に、夫はゴブリンの討伐に森に出かけた。
夫は竹のような植物が光っているのを見つける。光の正体を確認するために植物を切ると、そこに現れたのは赤ちゃんだった。
夫婦は赤ちゃんを育てることになった。赤ちゃんは女の子だった。
その子を大切に育てる。
女の子が5歳の時に、彼女がステータス画面を発現させることができるのに気づいてしまう。
2人は王様に子どもが奪われないようにステータス画面が発現することを隠した。
だけど子どもはどんどんと強くなって行く。
大切な我が子が魔王討伐に向かうまでの物語。世界で一番大切なモノを守るために夫婦は奮闘する。世界で一番愛しているモノの幸せのために夫婦は奮闘する。

その最弱冒険者、実は査定不能の規格外~カースト最底辺のG級冒険者ですが、実力を知った周りの人たちが俺を放っておいてくれません~
詩葉 豊庸(旧名:堅茹でパスタ)
ファンタジー
※おかげさまでコミカライズが決定致しました!
時は魔法適正を査定することによって冒険者ランクが決まっていた時代。
冒険者である少年ランスはたった一人の魔法適正Gの最弱冒険者としてギルドでは逆の意味で有名人だった。なのでランスはパーティーにも誘われず、常に一人でクエストをこなし、ひっそりと冒険者をやっていた。
実はあまりの魔力数値に測定不可能だったということを知らずに。
しかしある日のこと。ランスはある少女を偶然助けたことで、魔法を教えてほしいと頼まれる。自分の力に無自覚だったランスは困惑するが、この出来事こそ彼の伝説の始まりだった。
「是非とも我がパーティーに!」
「我が貴族家の護衛魔術師にならぬか!?」
彼の真の実力を知り、次第にランスの周りには色々な人たちが。
そしてどんどんと広がっている波紋。
もちろん、ランスにはそれを止められるわけもなく……。
彼はG級冒険者でありながらいつしかとんでもない地位になっていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる