弟のお前は無能だからと勇者な兄にパーティを追い出されました。実は俺のおかげで勇者だったんですけどね

カッパ

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第一章:パーティー追放

9、勇者一行は呑気である

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 俺がかつての仲間、兄貴(勇者)ひきいる一行がどうなってるかと考えて極悪な笑みを浮かべてる頃。
 勇者一行はまだ宿屋にいた。
 そりゃそうだ、やつらにはたんまりお金があるし、野宿の心配もない。慌てて金を稼ぐ必要ないのだから、のんびり宿屋で過ごすにきまっている。
 とはいえ、クエストを終えて休養を数日していたところなので、そろそろクエストをしようかとなっているだろう。
 そして俺の想像は当たっていた。

「ザクスというお荷物もいなくなったところで、なあディルド、そろそろクエストやるか?」
「そうだなモンジー。お前にしてはまともなことを言う。ザクスが邪魔して出来なかった大きなクエストでもやろうかと俺は考えてる」
「あたしはさんせー。なにせザクスのせいで能力を充分発揮できてなかったんだもの。そろそろドカンと大きな魔法を使って発散したい」
「セハちゃん、魔法で発散は良くないですう。でも私もそろそろやりがいのあるクエストしたいなあ」

 などと呑気に話す勇者一行。

「じゃ、明日にでも冒険者ギルド行って依頼がないか見てみるか。おいザクス、ある程度クエストをしぼって……」
「なに言ってんだディルド、便利屋ザクスはもういねえぞ」
「チッそうだったな。雑用はあいつに押し付けてたからなあ。あ、てことはクエストの準備の買い出しも俺らでやらなきゃなんねーのか?」
「そういうことね。私はやんないわよ。そういうのは、モンジー、力自慢のあんたの仕事でしょ」
「なにいってんだセハ、俺が買い物したらどうなるかわかってんのか?」
「どうなんのよ」
「計算できなくてぼったくられる」
「自慢するとこ、それ?」

 まだ自身の変化に気付かない連中の会話は、吞気すぎる。

「そうだ、どうせザクスのやつ金もなく仕事もなくで泣いてるだろうから、雑用として必要なときだけ呼びつけたらいいんじゃないか?あいつ絶対大喜びでくるぜ」
「そりゃいいや、ぎゃっはっは」

 およそ弟に対する言葉とは思えぬ、勇者の兄。
 その言葉に大笑いする仲間達。
 呑気で呑気すぎる勇者一行はまだ気付かない。

 何も、気付かない──


* * *


 ゾクリと悪寒を感じて、俺は腕をさすった。

「なんだよ、そんなに寒いか?あんまり火を強くし過ぎても火事になるぜ」
「いや、そういうんじゃないんだけど……なんか嫌な感じがしたんだ」
「こんな街のすぐ近くで魔物が出たことないんだけどなあ」
「そうじゃなくて……まあいいよ。気のせいだろ」
「変なやつ」

 変なやつに変なやつと言われることほど屈辱はない。
 本日俺達はベートの森でそれなりの収穫を得られたのだが、いかんせん終わった時間が遅すぎた。
 獲物を買い取ってもらってお金にするのは明日にするしかないと、今日は野宿である。パーティーを追い出されたのが冬でなくて良かった。

「ライドはあの街に住んで、どれくらいなんだ? どうして住処がないんだよ」

 気になったのはなぜか一緒に野宿してるライドのこと。
 当然のように俺がつけたたき火に当たって寝る準備をしている。そして俺が用意した野兎の串肉を勝手に食っている。

「──って、勝手に食ってんじゃねえ!」

 なに当然のように食ってんだよ! あまりに自然に食ってるからツッコミが遅れたわ! あああ、串1本なくなっちまった!

「おま、ふざけんなよ!? 野兎も俺が獲ったのに……食いたきゃ自分で獲物を獲ってこい!」
「固いこと言うなよ、洞窟で俺一人頑張っただろ?」
「お前の取り分のピーカンデュは渡しただろ! この串焼きは別だ!」
「せこいなあお前」
「ザクスはせこいですわ」
「理不尽!」

 人の物を横取りするライドにせこいと言われれるの理不尽。
 そしてなぜかちゃっかり一緒にいて、やっぱり串焼き食ってるルルティエラにもせこいと言われた。とっても理不尽!

「ルルティエラさんはなぜ一緒に俺らといて、串焼き食ってるんですかね?」
「え? わたくしを放り出すおつもりですの?」
「いや、そもそも俺ら洞窟で出会っただけの赤の他人ですし」

 ライドにいたっては、俺にスリを働いたというとんでもない出会いでしたし。

「もう別行動でいいんじゃないかと俺は思うのですが?」
「ひどい! ザクスは俺を捨てるの!?」
「ザクスはひどいですわ!」
「なんなのお前ら」

 なんで気が合うんだよ、なんで仲良く俺を非難してんだよ。なんで俺が悪者なの。

「理不尽……」

 俺の呟きに同情した者は、この場にはいなかった。星が流れて落ちた。

 
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