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第一章:パーティー追放
8、ザクスの能力
しおりを挟む「思ったより収穫あったな」
そう言って洞窟を振り返る俺。俺の右横にはグッタリ疲れたというように、肩を落とすライド。
「なんだ、随分疲れてるな」
「そりゃな! 俺一人で戦ってたもんな!」
俺の言葉にやけにかみついてくる。
まあ疲れもするか。ルルティエラと出会った後、なぜか三人一緒に洞窟の奥へと進んだ。すると思ったより多くのピーカンデュに出会ったのである。
狼に似たその風貌はけれど違いは尾が三本あること。そして脚も六本あることか。
足が多いということは、それだけ速さに直結する。ピーカンデュの強みは早さにあった。
速さ勝負となれば、当然盗賊の出番であろう。
ライドが素早く動くピーカンデュを主に相手し、弱らせたとこで俺がとどめ。ルルティエラは援護すべく後ろで待機。
戦闘中、ライドは「うおお!? 俺、こんなに早かったっけ!?」と叫びながら、風のごとき素早さでピーカンデュを翻弄してたっけ。
──本当は俺の能力で、一時的に早くなってただけなんだけどな。
ということは黙っておこうと思う。「俺を利用したな!?」とか言われても面倒なので。そもそも言ったら俺の能力を言わねばならないではないか。それは非常にめんどくさい。
だがそろそろ説明しておかねば混乱する読者(…)もいるだろうから、ここで説明しておこうと思う。
もう分かってると思うが、俺の能力は【人に能力を分け与える】というものだ。
分けてしまえば俺の能力値は減るのだが、分けた相手は一気に能力が跳ね上がる。そうして戦闘を頑張ってもらうのだ。
人に分けるほどの能力があるのかって? そりゃあるだろう、だって俺勇者だから。
俺
勇者
だから
大事なことなので念押ししてみた。
意味が分からない? まあ落ち着け、今から説明するから。
あれは俺が5歳の時だったか、色々興味をもちだしヤンチャが止まらないお年頃。
何を思ったか両親が畑仕事に息、兄貴が昼寝してる時に俺は家を抜け出した。そして本当に何を思ったか森に入ったのだ。
始まりの記憶でも語ったが、故郷は田舎のくせに強い魔物の出現率が高い。そんな環境で5歳の子供が森に入るとか無謀にもほどがあるだろ? 子供って恐い。
そして案の定、モンスターが出た。大きなトカゲみたいなやつで……あれはなんだろな、バジリスクか? まあそんなやつ。
大人でも逃げるような大きなそれを前に、俺はどうしたか。
グーパンで倒しました。
村に戻って親に報告したら血相変えて、村長のとこにかけこむ両親。村中の男総出でその現場に向かったら、俺の言う通りにモンスターの死骸があった。
結果、どこぞの通りすがりの冒険者が倒したんだろうってことになった。
まあ信じるわけないわな、5歳の男の子の話なんて。グーパンで倒しましたなんて、誰が信じるかっての。
その時俺は理解したのだ。自分の力は特別なのだと。
気付けば片手で大剣……は、ただの村なんぞになかったが、木こりの大きな斧をぶん回せるようになっていた。
身体能力も半端なく、ジャンプだけで大木の頂点に到達できた。
魔法? あんな簡単なのどうして使えないんだ? というレベル。
そして絵物語を読んで、気付いた。
あ、俺勇者だわ
ってな。
そして絵物語を読んで気付いた。
あ、勇者ってめんどくせえ
そう、俺は打倒魔王だとか、人々を助けるとかいうのに全く興味がないのだ。まったくだ。まっっっったく! だ。
でもこんな凄い能力もっててそんなこと言おうものならヒンシュク買うのは目に見えている。
ではどうすべきか?
そこで俺は天才的発想に至る。
人に自分の能力分けて、代わりに戦ってもらえばいいじゃないか
と。
幸い、その方法も理解していた。なぜだか出来るという確信があったのだ。
そこで俺は試しに兄貴にやってみた。その時点で俺7歳、兄貴10歳。色々ヒーローに憧れるお年頃。
そしたらうまくいって、兄貴は俺の能力を分けられてあっというまにスーパーマン。
大人の前で大きな熊を倒したからさあ大変。こいつぁすげえやってなった。
そしたらどうなる?
まあ子供なんて単純だ、あっという間に有頂天よ。
そして天狗になった兄貴は冒険者になって勇者になりましたとさ。
……ま、全部俺が分け与えた能力のおかげなんだけどな。
おかげで俺は楽できたし、楽しい冒険生活を送ることができた。追放されるまでは。
と、ここで賢明な諸君なら分かるだろう。
追放された俺はどうするかってことに。
そりゃね、俺と一緒にいるから、俺のために戦って稼いでもらわにゃいかんからね。俺はずっと兄貴に自分の能力を分け与え続けていたよ。
でもさ、そこで天狗になりすぎたのが兄貴の敗因。
有無を言わさず追放されたのなら、もう兄貴に分ける義理はない。俺の能力、兄貴に分けたところで俺にとってなんの得にもならないんだから。
当然返してもらいましたよ。
ただ、あまりに長い期間分け与え続けていたせいか、兄貴の体に随分馴染んで根付いてしまっていた俺の能力。
戻ってくるのにかなりの時間を要するらしい。
足の速さはすぐに戻ってきたが、それ以外の能力は……特に魔力なんて、いつ戻って来るのか皆目見当がつかない。
ま、のんびり構えるか。と思いつつも、早く戻ってこないと色々面倒でもある。
そこに現れたのが、格好の餌──じゃない、生贄。いや違うか、傀儡? まあなんでもいいさ、俺の代わりに戦ってくれるのならな。
俺は面倒も疲れることも大嫌い。
今度はライドを勇者にしてやろうか? と思いつつ、まだ決めかねている。
まあいいは、時間はあるんだ、ノンビリやるか。
そう思って、俺は自分の体に少しずつ戻ってくる能力を感じてほくそ笑んだ。
さて、そうなると気になるのはあの連中だな。
分け与えた能力は、ゆっくりと、だが確実に俺の元へと戻ってくる。
ということは、だ。俺の能力を分けられてた奴は、奴らはどうなるのか。
(見ものだな、兄貴──)
見えないけど分かる。きっと俺は、極悪な笑みを浮かべているだろう。
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