5 / 48
第一章:パーティー追放
5、嫌な思い出~始まりの記憶
しおりを挟む俺の拒絶の言葉は意味をなさず、ライドはお構いなしに質問してきた。
「お前んとこの勇者パーティーに、女の子が二人いるよな?」
「セハとミユか?」
「そうそう、それ。二人って何歳なんだ?」
「女性に年齢を聞くのは失礼だぞ」
「本人に聞いたらそうかもしれんが、俺はお前に聞いている。お前男だろ」
「俺は17歳だ」
「お前の年齢は聞いてねえよ、話かみあわねえなあ!」
思い出したくもないかつての仲間の話を、なぜ今されなければいけないのか? こちとらさっき別れたばかりなんだが!?
と苛立ちを含んだ目で睨むも、ライドが気にする様子は一切ない。
「お前、女にモテないだろ、ザンメン」
「だからザンメンてなんなんだよ。残念でした、俺はモテる男だ。この容姿で女が放っておくわけないだろ」
「洞窟はどっちだ」
「スルーだし」
ケッなにがモテるだ。性格はさておいて、まずは容姿が大事ってか。所詮世の中はそれだよな。
そういえば兄貴もモテた、なにせイケメンだったから。そのうえ勇者で強くて……モテる要素しかなかったからなあ。だがそれももうすぐ……
なんて考えてたら、岩肌が立ちふさがり、その一部にポッカリと大きな穴が開いていた。どうやら洞窟に着いたらしい。
「ライド、これがその洞窟か?」
「お、やっと名前で呼んだな。……あ~そうだよ、洞窟の一つだ。もっと奥にもいくつかあるが、これが一番手前で手っ取り早い」
「それはつまり、狩りつくされてる可能性が高いと?」
「どうだろな。繁殖期にはどいつかがこの洞窟使うだろ。たしか繁殖期も終わったばかり。巣立ったばかりのピーカンデュが戻ってきたり留まってる可能性は大いにある」
「そうか」
「で、セハちゃんとミユちゃんの年齢は?」
こいつ大概しつこいな。
洞窟の入り口に手をかけたところで質問されて、ガックリ肩を落としてしまった。気がそがれるわ!
「知らん」
「またまた~。噂じゃ勇者一行の女子は美人で可愛いと評判だぜ~? 何年一緒にいたんだよ」
「たしか五年、だったかな」
「そんなに一緒にいて、知らんわけないだろ」
「うるさい黙れ」
「で、胸は大きかった?」
ギリと洞窟の壁を握れば、簡単に岩が崩れて取れた。それを手に持って俺は
「黙れと言ってるだろ!」
思い切りライドに投げつけた。
「うお!? あっぶね!」
だがそこはさすがの盗賊と言うべきか。難なく避ける。だがそれもまた予想の範囲内だ。
避けた先に拳を突き出せば、あっさりその喉元を捉える。
「が!?」
「あんまりあれこれ詮索するな、部外者が」
俺より巨体で、俺より重いその体を喉を掴んで持ち上げる。ブラブラとライドの足が揺れ、苦しそうにもがくのを冷めた目で見上げた。
「俺が黙れと言ったら黙れ。分かったか?」
そう問えば、苦し気に歪めた顔でコクコクと頷く。それを確認してから手を離した。ドサリとライドの体が地面に落ちる。
「げほ、げほお!おま……なんなわけ……?」
「勇者パーティーをクビになった男だよ」
「この強さ、で……?」
「知るか」
むせて苦し気な顔で俺を見上げるライドを一瞥し、冷たく言って洞窟の奥へと進んだ。ややあって立ち上がったライドが追いかけてくる気配がする。あんなことされてもまだ逃げ出さないのか、変な奴。
無駄に根性はあるのかと、振り返った。
「なんだよ」
「セハは18歳、ミユは17歳だ」
「え?」
「年齢。聞きたかったんだろ?」
「お、おう。やっぱりお前、知ってんじゃねえか!」
「そりゃ五年も一緒にいりゃな」
俺が教えたことに満足したのか、途端に嬉しそうな顔をするライド。単純なやつだ。
だが、嫌いじゃないな。
そんなことを思って、けれど口にはせず。
脳裏をかすめるのは、かつての仲間たちの顔。
かつて一緒に旅をした、先ほど絶縁宣言されたばかりの連中の顔だった。
* * *
「俺は魔王を倒す旅に出る! そのために冒険者になるぞ!」
片田舎の村で、農民の子として生まれ育った俺と兄ディルド。
護身用にと持たされた短刀を無意味にいじりながら、森の切り株に腰かけていた俺は、唐突に叫ぶ兄を見上げた。
「冒険者? 兄ちゃんが?」
「おう! 俺はこんな田舎で農民として一生を終えるつもりはない。冒険者になったらもっと生活は楽になるはずだ」
「でも危険だよ」
「危険は承知! だがお前も知ってるだろザクス、俺は強い」
「……うん、まあ。そうだね」
「そう、俺は昨日野良イノシシを倒したばかり。どこの世界に14歳でそれをやり遂げるやつがいる?」
「この村ではいないかもねえ」
「世界を探してもいないさ!」
そう言って胸を張る兄。眩しかった、その金色の髪が、青い瞳が。とても眩しくて……欲しいと思った。
だがそれを諦めたのは俺。手放したのは俺だ。平穏のために、俺はそれを兄貴に譲ったんだ。
譲られた兄は、それに気づかず自分の物であると信じ生きてきた。そしてついに冒険者になると言い放ったのだ。
「お前はどうする、ザクス?」
振り返って俺を見る兄貴。そうだな、と俺は小さく呟いて逡巡する。
俺は戦闘は嫌いだ。というか面倒ごとは嫌いだ。だからこのまま平穏に田舎で農民やっていたい。
だがここは田舎のくせになかなかどうして、強い魔物の出現率が高かったりする。
今こうして子供二人で森にやって来てるが、実はけっこう危ないことなのだ。大人が知ったら慌てるだろうし激怒することだろう。だが兄貴は俺のおかげで強いから、ちょっとした魔物なら倒せてしまう。
だからこそこうやって森に入り、高そうな薬草はないかと探索に来れるのだ。
では兄貴がいなくなればどうなるか?
俺自身が戦わなければいけなくなる。正直農家の仕事だけでは食っていけない。極貧決定だ。だからこそ森に入って野草を採って獣を狩る必要がある。
それを俺自身がやらねばならないってことだ。
(それは、非常にめんどくさいな)
何度も言うが、俺は面倒なことは嫌いだ、大嫌い。そういったことは兄にやって欲しい。
だがもし兄が冒険者となるべく旅に出ると言うのなら、兄に頼ることはできなくなってしまう。
それは困る。
ならば答えは一つ。
「俺も冒険者になる」
「そうか。頑張って強くなろうな!」
「うん」
頷きながら内心舌を出す。
嘘だ、頑張りたくない。そして俺は充分強い。
だから兄貴、俺の力を分けてあげるから、貸してあげるから。
俺の代わりに前線に立って、戦ってくれよな。
そんな俺の心の内を知らぬ兄は、一年をかけて両親を説得した。それ以上に年下の俺が同行することを説得するのは、もっと苦労したけど、なんとか承諾をもらった。
そうして俺達は旅に出たのだ。
兄貴が15歳、俺が12歳。
子供の冒険者はほどなくしてやっぱり子供な12歳の白魔導士と13歳の黒魔導士を仲間にする。
そして保護者替わりとなる18歳の戦士兼武闘家が入って、ようやくまともな形となってスタートを切った。
最強勇者一行の始まりである。
62
お気に入りに追加
1,179
あなたにおすすめの小説

転生者は力を隠して荷役をしていたが、勇者パーティーに裏切られて生贄にされる。
克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門日間ランキング51位
2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。

スキルを得られない特殊体質の少年。祠を直したらユニークスキルもらえた(なんで??)
屯神 焔
ファンタジー
魔法が存在し、魔物が跋扈し、人々が剣を磨き戦う世界、『ミリオン』
この世界では自身の強さ、もしくは弱さを知られる『ステータス』が存在する。
そして、どんな人でも、亜人でも、動物でも、魔物でも、生まれつきスキルを授かる。
それは、平凡か希少か、1つか2つ以上か、そういった差はあれ不変の理だ。
しかし、この物語の主人公、ギル・フィオネットは、スキルを授からなかった。
正確には、どんなスキルも得られない体質だったのだ。
そんな彼は、田舎の小さな村で生まれ暮らしていた。
スキルを得られない体質の彼を、村は温かく迎え・・・はしなかった。
迫害はしなかったが、かといって歓迎もしなかった。
父親は彼の体質を知るや否や雲隠れし、母は長年の無理がたたり病気で亡くなった。
一人残された彼は、安い賃金で雑用をこなし、その日暮らしを続けていた。
そんな彼の唯一の日課は、村のはずれにある古びた小さな祠の掃除である。
毎日毎日、少しずつ、汚れをふき取り、欠けてしまった所を何とか直した。
そんなある日。
『ありがとう。君のおかげで私はここに取り残されずに済んだ。これは、せめてものお礼だ。君の好きなようにしてくれてかまわない。本当に、今までありがとう。』
「・・・・・・え?」
祠に宿っていた、太古の時代を支配していた古代龍が、感謝の言葉と祠とともに消えていった。
「祠が消えた?」
彼は、朝起きたばかりで寝ぼけていたため、最後の「ありがとう」しか聞こえていなかった。
「ま、いっか。」
この日から、彼の生活は一変する。
勇者に全部取られたけど幸せ確定の俺は「ざまぁ」なんてしない!
石のやっさん
ファンタジー
皆さまの応援のお陰でなんと【書籍化】しました。
応援本当に有難うございました。
イラストはサクミチ様で、アイシャにアリス他美少女キャラクターが絵になりましたのでそれを見るだけでも面白いかも知れません。
書籍化に伴い、旧タイトル「パーティーを追放された挙句、幼馴染も全部取られたけど「ざまぁ」なんてしない!だって俺の方が幸せ確定だからな!」
から新タイトル「勇者に全部取られたけど幸せ確定の俺は「ざまぁ」なんてしない!」にタイトルが変更になりました。
書籍化に伴いまして設定や内容が一部変わっています。
WEB版と異なった世界が楽しめるかも知れません。
この作品を愛して下さった方、長きにわたり、私を応援をし続けて下さった方...本当に感謝です。
本当にありがとうございました。
【以下あらすじ】
パーティーでお荷物扱いされていた魔法戦士のケインは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことを悟った彼は、一人さった...
ここから、彼は何をするのか? 何もしないで普通に生活するだけだ「ざまぁ」なんて必要ない、ただ生活するだけで幸せなんだ...俺にとって勇者パーティーも幼馴染も離れるだけで幸せになれるんだから...
第13回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞作品。
何と!『現在3巻まで書籍化されています』
そして書籍も堂々完結...ケインとは何者か此処で正体が解ります。
応援、本当にありがとうございました!

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?
歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。
それから数十年が経ち、気づけば38歳。
のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。
しかしーー
「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」
突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。
これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。
※書籍化のため更新をストップします。

コストカットだ!と追放された王宮道化師は、無数のスキルで冒険者として成り上がる。
あけちともあき
ファンタジー
「宮廷道化師オーギュスト、お前はクビだ」
長い間、マールイ王国に仕え、平和を維持するために尽力してきた道化師オーギュスト。
だが、彼はその活躍を妬んだ大臣ガルフスの陰謀によって職を解かれ、追放されてしまう。
困ったオーギュストは、手っ取り早く金を手に入れて生活を安定させるべく、冒険者になろうとする。
長い道化師生活で身につけた、数々の技術系スキル、知識系スキル、そしてコネクション。
それはどんな難関も突破し、どんな謎も明らかにする。
その活躍は、まさに万能!
死神と呼ばれた凄腕の女戦士を相棒に、オーギュストはあっという間に、冒険者たちの中から頭角を現し、成り上がっていく。
一方、国の要であったオーギュストを失ったマールイ王国。
大臣一派は次々と問題を起こし、あるいは起こる事態に対応ができない。
その方法も、人脈も、全てオーギュストが担当していたのだ。
かくしてマールイ王国は傾き、転げ落ちていく。
目次
連載中 全21話
2021年2月17日 23:39 更新

その最弱冒険者、実は査定不能の規格外~カースト最底辺のG級冒険者ですが、実力を知った周りの人たちが俺を放っておいてくれません~
詩葉 豊庸(旧名:堅茹でパスタ)
ファンタジー
※おかげさまでコミカライズが決定致しました!
時は魔法適正を査定することによって冒険者ランクが決まっていた時代。
冒険者である少年ランスはたった一人の魔法適正Gの最弱冒険者としてギルドでは逆の意味で有名人だった。なのでランスはパーティーにも誘われず、常に一人でクエストをこなし、ひっそりと冒険者をやっていた。
実はあまりの魔力数値に測定不可能だったということを知らずに。
しかしある日のこと。ランスはある少女を偶然助けたことで、魔法を教えてほしいと頼まれる。自分の力に無自覚だったランスは困惑するが、この出来事こそ彼の伝説の始まりだった。
「是非とも我がパーティーに!」
「我が貴族家の護衛魔術師にならぬか!?」
彼の真の実力を知り、次第にランスの周りには色々な人たちが。
そしてどんどんと広がっている波紋。
もちろん、ランスにはそれを止められるわけもなく……。
彼はG級冒険者でありながらいつしかとんでもない地位になっていく。

異世界に召喚されたが勇者ではなかったために放り出された夫婦は拾った赤ちゃんを守り育てる。そして3人の孤児を弟子にする。
お小遣い月3万
ファンタジー
異世界に召喚された夫婦。だけど2人は勇者の資質を持っていなかった。ステータス画面を出現させることはできなかったのだ。ステータス画面が出現できない2人はレベルが上がらなかった。
夫の淳は初級魔法は使えるけど、それ以上の魔法は使えなかった。
妻の美子は魔法すら使えなかった。だけど、のちにユニークスキルを持っていることがわかる。彼女が作った料理を食べるとHPが回復するというユニークスキルである。
勇者になれなかった夫婦は城から放り出され、見知らぬ土地である異世界で暮らし始めた。
ある日、妻は川に洗濯に、夫はゴブリンの討伐に森に出かけた。
夫は竹のような植物が光っているのを見つける。光の正体を確認するために植物を切ると、そこに現れたのは赤ちゃんだった。
夫婦は赤ちゃんを育てることになった。赤ちゃんは女の子だった。
その子を大切に育てる。
女の子が5歳の時に、彼女がステータス画面を発現させることができるのに気づいてしまう。
2人は王様に子どもが奪われないようにステータス画面が発現することを隠した。
だけど子どもはどんどんと強くなって行く。
大切な我が子が魔王討伐に向かうまでの物語。世界で一番大切なモノを守るために夫婦は奮闘する。世界で一番愛しているモノの幸せのために夫婦は奮闘する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる