弟のお前は無能だからと勇者な兄にパーティを追い出されました。実は俺のおかげで勇者だったんですけどね

カッパ

文字の大きさ
上 下
3 / 48
第一章:パーティー追放

3、盗賊ライド

しおりを挟む
 
「は? パーティーから追い出されて無一文だあ? なっさけねえなあお前」
「返す言葉もございません」

 俺の空になった財布を盗んだ挙句逆切れした男は、ライドと名乗った。
 なんで無一文なんだよ! と理不尽に怒られたので説明したら、今度は憐れみを含んだ視線を投げてきた。なにこれ、なんで俺が悲しくならにゃならんのだ。

「で、これからどうすんだよ?」
「仕事探そうかなと職安に向かってたとこ」
「は~? 職安だあ~?」

 どうでもいいが、いちいち声がでかいよな、こいつ。
 俺よりでかい身長で見下ろされて妙に迫力あるし。かつての仲間、戦士兼武闘家のモンジーに比べれば華奢だから、幾分威圧感はマシだけど。まあモンジーは筋肉バカだったからな。

「冒険者やめて安定職につくってか?」
「まあね。一人で冒険者やるのも面倒だし」

 かつての仲間と共に過ごした冒険の日々は、そりゃ楽しかったしやりがいもあった。
 ほとんど戦闘に関しては役立たずだったけど、俺なりに補佐を頑張ってたつもりだ。
 だが、そう思ってたのは俺だけだったってことだよなあ。

「お前のパーティーってどんなやつらがいたんだよ?」
「えーっと、勇者ディルドに黒魔導士セハ、白魔導士ミユに戦士兼武闘家の……」
「まてまてまてまて、ちょおっとまてえい!」
「モンジーって、なんだよいきなり腕つかむなよ」

 あんまり思い出したくないんだけどなあと思いつつ、先ほど別れたばかりの連中の名を挙げてたら、凄い勢いで腕を掴まれた。痛い、そして顔を近づけるな気持ち悪い。俺は男に言い寄られても嬉しくない。

「言い寄ってねえよ! それよりお前いまなんつった? 勇者ディルドだあ!?」
「あーそうそう。言ったよ」
「おま……なんつー凄いパーティーにいたんだよ。勇者ディルドっつったら、マジもんの最強勇者じゃねえか」

 ライドが驚くのも無理はない。
 この世界において冒険者の職業には様々あるが、その中でも特別中の特別なのが勇者。これは神殿に選ばれた最強の者しかなれない職業だ。
 ただ、勇者は一人ではなく、この世界には複数人が存在する。とはいえ世界で百人いるかどうかだが。
 俺の兄ディルドは、その百人の中でも最強とうたわれていた。実際他の勇者職のやつと会った時に、ボコボコにしてたしな。勇者同士でバトルしてんなよと呆れたものだが。

「そういや聞いたことあるな、勇者ディルドのパーティーに、役立たずの弟がいるって。なんであんなお荷物抱えて冒険してんだって風の噂で聞いたぜ」
「その風、鼻息なんじゃね」
「なんでだよ」
「くだらねえ噂を飛ばす風なんて鼻息程度だろ」
「せめて溜め息だろ」
「それこそなんでだよと俺が聞きたい」

 どうもライドと話してると緊迫感に欠けるな。いや違うか、これは妙にウマが合うのか?」

「これがウマ……」
「は? 馬がどうしたって? 俺は牛肉のほうが好きだ」
「ライドは牛派か、だが俺は鶏派だ」
「よし、飯でも食いに行くか」

 意味が分かりません。
 ええい調子が狂う、と馴れ馴れしく肩に回されていたライドの手を、ペイッとはがした。

「金がないって言ってんだろ。ライドが奢ってくれんのかよ」
「奢れる金があったら、スリなんてしてると思うか?」
「まあそうだよな」
「そういうこった」

 まったく期待してなかったとはいえ、お互い無一文でなんなのこの非生産的な会話。

「とりあえず、なんかバイトして小遣い稼ぐか。はあ……しばらくは野宿かあ」

 やれやれと溜め息をついてたら、またライドが肩を組んできた。お前大概しつこいな。そっちの趣味でもあんのか?
 ジトリと睨んだら、近いライドの顔がニヤリと笑みを作った。

「そういう醜い顔は絶対ロクなこと考えてない顔だよな」
「醜いは余計だ、イケメンの俺を差し置いてなに言ってやがる。まあいい、どうせ野宿すんならベートの森でも行くべ」
「ベート?」
「この街を出てすぐにある森だよ。初心者向けの森だが、それなりに資源が豊富で弱っちい魔物もいる。その中で数体、売れば金になるやつがいんだよ。へたな職安で職探すよりよっぽど簡単に稼げるぜ?」
「じゃあスリなんてしてないで、そこで稼げよ」
「やなこった。俺は盗賊だからな、盗んでなんぼの商売なんだよ」

 まったく自慢できない発言を胸張って言えるこいつはなかなかに大物なのかもしれない。
 などとは微塵も考えずに白い眼を向けたらガハハと笑われた。
 黙ってれば確かにイケメンなのに、残念なイケメン略してザンメンだなこいつは。

「よしザンメン、ベートの森に行くか」
「待て、ちょっと待て、どっからいつから俺の名前はザンメンになった?」
「今からだ」
「改名求む!」

 
しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

勇者に全部取られたけど幸せ確定の俺は「ざまぁ」なんてしない!

石のやっさん
ファンタジー
皆さまの応援のお陰でなんと【書籍化】しました。 応援本当に有難うございました。 イラストはサクミチ様で、アイシャにアリス他美少女キャラクターが絵になりましたのでそれを見るだけでも面白いかも知れません。 書籍化に伴い、旧タイトル「パーティーを追放された挙句、幼馴染も全部取られたけど「ざまぁ」なんてしない!だって俺の方が幸せ確定だからな!」 から新タイトル「勇者に全部取られたけど幸せ確定の俺は「ざまぁ」なんてしない!」にタイトルが変更になりました。 書籍化に伴いまして設定や内容が一部変わっています。 WEB版と異なった世界が楽しめるかも知れません。 この作品を愛して下さった方、長きにわたり、私を応援をし続けて下さった方...本当に感謝です。 本当にありがとうございました。 【以下あらすじ】 パーティーでお荷物扱いされていた魔法戦士のケインは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことを悟った彼は、一人さった... ここから、彼は何をするのか? 何もしないで普通に生活するだけだ「ざまぁ」なんて必要ない、ただ生活するだけで幸せなんだ...俺にとって勇者パーティーも幼馴染も離れるだけで幸せになれるんだから... 第13回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞作品。 何と!『現在3巻まで書籍化されています』 そして書籍も堂々完結...ケインとは何者か此処で正体が解ります。 応援、本当にありがとうございました!

ギルドを追放された俺、傭兵ギルドのエリートに拾われる〜元ギルドは崩壊したらしい〜

ネリムZ
ファンタジー
 唐突にギルドマスターから宣言される言葉。 「今すぐにこのギルドから去れ。俺の前に二度と顔を出さないように国も出て行け」  理解出来ない言葉だったが有無を言わせぬマスターに従った。  様々な気力を失って森の中を彷徨うと、賞金首にカツアゲされてしまった。  そこに助けようとする傭兵ギルドのA級、自称エリートのフィリア。  モヤモヤとした気持ちに駆られ、賞金首を気絶させる。  行く場所が無い事を素直に伝えるとフィリアは自分のギルドに招待してくれた。  俺は仕事が必要だったのでありがたく、その提案を受けた。  そして後に知る、元所属ギルドが⋯⋯。  新たな目標、新たな仲間と環境。  信念を持って行動する、一人の男の物語。

スライムと異世界冒険〜追い出されたが実は強かった

Miiya
ファンタジー
学校に一人で残ってた時、突然光りだし、目を開けたら、王宮にいた。どうやら異世界召喚されたらしい。けど鑑定結果で俺は『成長』 『テイム』しかなく、弱いと追い出されたが、実はこれが神クラスだった。そんな彼、多田真司が森で出会ったスライムと旅するお話。 *ちょっとネタばれ 水が大好きなスライム、シンジの世話好きなスライム、建築もしてしまうスライム、小さいけど鉱石仕分けたり探索もするスライム、寝るのが大好きな白いスライム等多種多様で個性的なスライム達も登場!! *11月にHOTランキング一位獲得しました。 *なるべく毎日投稿ですが日によって変わってきますのでご了承ください。一話2000~2500で投稿しています。 *パソコンからの投稿をメインに切り替えました。ですので字体が違ったり点が変わったりしてますがご了承ください。

僕だけレベル1~レベルが上がらず無能扱いされた僕はパーティーを追放された。実は神様の不手際だったらしく、お詫びに最強スキルをもらいました~

いとうヒンジ
ファンタジー
 ある日、イチカ・シリルはパーティーを追放された。  理由は、彼のレベルがいつまでたっても「1」のままだったから。  パーティーメンバーで幼馴染でもあるキリスとエレナは、ここぞとばかりにイチカを罵倒し、邪魔者扱いする。  友人だと思っていた幼馴染たちに無能扱いされたイチカは、失意のまま家路についた。  その夜、彼は「カミサマ」を名乗る少女と出会い、自分のレベルが上がらないのはカミサマの所為だったと知る。  カミサマは、自身の不手際のお詫びとしてイチカに最強のスキルを与え、これからは好きに生きるようにと助言した。  キリスたちは力を得たイチカに仲間に戻ってほしいと懇願する。だが、自分の気持ちに従うと決めたイチカは彼らを見捨てて歩き出した。  最強のスキルを手に入れたイチカ・シリルの新しい冒険者人生が、今幕を開ける。

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

スキルが農業と豊穣だったので追放されました~辺境伯令嬢はおひとり様を満喫しています~

白雪の雫
ファンタジー
「アールマティ、当主の名において穀潰しのお前を追放する!」 マッスル王国のストロング辺境伯家は【軍神】【武神】【戦神】【剣聖】【剣豪】といった戦闘に関するスキルを神より授かるからなのか、代々優れた軍人・武人を輩出してきた家柄だ。 そんな家に産まれたからなのか、ストロング家の者は【力こそ正義】と言わんばかりに見事なまでに脳筋思考の持ち主だった。 だが、この世には例外というものがある。 ストロング家の次女であるアールマティだ。 実はアールマティ、日本人として生きていた前世の記憶を持っているのだが、その事を話せば病院に送られてしまうという恐怖があるからなのか誰にも打ち明けていない。 そんなアールマティが授かったスキルは【農業】と【豊穣】 戦いに役に立たないスキルという事で、アールマティは父からストロング家追放を宣告されたのだ。 「仰せのままに」 父の言葉に頭を下げた後、屋敷を出て行こうとしているアールマティを母と兄弟姉妹、そして家令と使用人達までもが嘲笑いながら罵っている。 「食糧と食料って人間の生命活動に置いて一番大事なことなのに・・・」 脳筋に何を言っても無駄だと子供の頃から悟っていたアールマティは他国へと亡命する。 アールマティが森の奥でおひとり様を満喫している頃 ストロング領は大飢饉となっていた。 農業系のゲームをやっていた時に思い付いた話です。 主人公のスキルはゲームがベースになっているので、作物が実るのに時間を要しないし、追放された後は現代的な暮らしをしているという実にご都合主義です。 短い話という理由で色々深く考えた話ではないからツッコミどころ満載です。

処理中です...