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第一章:パーティー追放
3、盗賊ライド
しおりを挟む「は? パーティーから追い出されて無一文だあ? なっさけねえなあお前」
「返す言葉もございません」
俺の空になった財布を盗んだ挙句逆切れした男は、ライドと名乗った。
なんで無一文なんだよ! と理不尽に怒られたので説明したら、今度は憐れみを含んだ視線を投げてきた。なにこれ、なんで俺が悲しくならにゃならんのだ。
「で、これからどうすんだよ?」
「仕事探そうかなと職安に向かってたとこ」
「は~? 職安だあ~?」
どうでもいいが、いちいち声がでかいよな、こいつ。
俺よりでかい身長で見下ろされて妙に迫力あるし。かつての仲間、戦士兼武闘家のモンジーに比べれば華奢だから、幾分威圧感はマシだけど。まあモンジーは筋肉バカだったからな。
「冒険者やめて安定職につくってか?」
「まあね。一人で冒険者やるのも面倒だし」
かつての仲間と共に過ごした冒険の日々は、そりゃ楽しかったしやりがいもあった。
ほとんど戦闘に関しては役立たずだったけど、俺なりに補佐を頑張ってたつもりだ。
だが、そう思ってたのは俺だけだったってことだよなあ。
「お前のパーティーってどんなやつらがいたんだよ?」
「えーっと、勇者ディルドに黒魔導士セハ、白魔導士ミユに戦士兼武闘家の……」
「まてまてまてまて、ちょおっとまてえい!」
「モンジーって、なんだよいきなり腕つかむなよ」
あんまり思い出したくないんだけどなあと思いつつ、先ほど別れたばかりの連中の名を挙げてたら、凄い勢いで腕を掴まれた。痛い、そして顔を近づけるな気持ち悪い。俺は男に言い寄られても嬉しくない。
「言い寄ってねえよ! それよりお前いまなんつった? 勇者ディルドだあ!?」
「あーそうそう。言ったよ」
「おま……なんつー凄いパーティーにいたんだよ。勇者ディルドっつったら、マジもんの最強勇者じゃねえか」
ライドが驚くのも無理はない。
この世界において冒険者の職業には様々あるが、その中でも特別中の特別なのが勇者。これは神殿に選ばれた最強の者しかなれない職業だ。
ただ、勇者は一人ではなく、この世界には複数人が存在する。とはいえ世界で百人いるかどうかだが。
俺の兄ディルドは、その百人の中でも最強とうたわれていた。実際他の勇者職のやつと会った時に、ボコボコにしてたしな。勇者同士でバトルしてんなよと呆れたものだが。
「そういや聞いたことあるな、勇者ディルドのパーティーに、役立たずの弟がいるって。なんであんなお荷物抱えて冒険してんだって風の噂で聞いたぜ」
「その風、鼻息なんじゃね」
「なんでだよ」
「くだらねえ噂を飛ばす風なんて鼻息程度だろ」
「せめて溜め息だろ」
「それこそなんでだよと俺が聞きたい」
どうもライドと話してると緊迫感に欠けるな。いや違うか、これは妙にウマが合うのか?」
「これがウマ……」
「は? 馬がどうしたって? 俺は牛肉のほうが好きだ」
「ライドは牛派か、だが俺は鶏派だ」
「よし、飯でも食いに行くか」
意味が分かりません。
ええい調子が狂う、と馴れ馴れしく肩に回されていたライドの手を、ペイッとはがした。
「金がないって言ってんだろ。ライドが奢ってくれんのかよ」
「奢れる金があったら、スリなんてしてると思うか?」
「まあそうだよな」
「そういうこった」
まったく期待してなかったとはいえ、お互い無一文でなんなのこの非生産的な会話。
「とりあえず、なんかバイトして小遣い稼ぐか。はあ……しばらくは野宿かあ」
やれやれと溜め息をついてたら、またライドが肩を組んできた。お前大概しつこいな。そっちの趣味でもあんのか?
ジトリと睨んだら、近いライドの顔がニヤリと笑みを作った。
「そういう醜い顔は絶対ロクなこと考えてない顔だよな」
「醜いは余計だ、イケメンの俺を差し置いてなに言ってやがる。まあいい、どうせ野宿すんならベートの森でも行くべ」
「ベート?」
「この街を出てすぐにある森だよ。初心者向けの森だが、それなりに資源が豊富で弱っちい魔物もいる。その中で数体、売れば金になるやつがいんだよ。へたな職安で職探すよりよっぽど簡単に稼げるぜ?」
「じゃあスリなんてしてないで、そこで稼げよ」
「やなこった。俺は盗賊だからな、盗んでなんぼの商売なんだよ」
まったく自慢できない発言を胸張って言えるこいつはなかなかに大物なのかもしれない。
などとは微塵も考えずに白い眼を向けたらガハハと笑われた。
黙ってれば確かにイケメンなのに、残念なイケメン略してザンメンだなこいつは。
「よしザンメン、ベートの森に行くか」
「待て、ちょっと待て、どっからいつから俺の名前はザンメンになった?」
「今からだ」
「改名求む!」
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