弟のお前は無能だからと勇者な兄にパーティを追い出されました。実は俺のおかげで勇者だったんですけどね

カッパ

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第一章:パーティー追放

1、パーティーを追放されました

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兄のディルドを尊敬していた。強く優しい兄は俺の憧れだった。

美しい金の髪をなびかせて、青き瞳を細め白い歯を覗かせて笑う兄は、誰からも慕われていた。そんな兄を俺もまた大好きだった。

だから兄が勇者にこそ相応しいと思ったんだ。

だから兄が勇者として旅に出て嬉しかったんだ。一緒に旅ができて幸せだったんだ。

共に旅に出た日を忘れない。

時に励まし助け合い、俺達はこれまでやってきた。

ずっと仲の良い兄弟だと思っていた。

でもそれはただの夢だった。夢は幻となって消え果てた。

残ったのは──

「ザクス」

冷たい声で俺を呼ぶ兄だけ。

「お前をパーティーから追放する」

氷のような青い瞳に、氷のような冷たさを浮かべて、兄は俺に宣告する。

「何の役にも立たないお前は、パーティーにとってただのお荷物だ! 今すぐ出て行け!」

「そんな! あんまりだよ兄さん! 今すぐだなんて、俺、どうすれば……」

「そんなもの知るか、お前ももう17歳だろう、一人で生きていける年齢だ。とにかく無能なお前を養う義理も義務もない。俺らはこれから魔王を倒すんだ、勇者様御一行なんだ、お前は必要ない」

「待ってよ兄さん、せめてもう少しの猶予を……」

「黙れ! これまでパーティーで稼いだ報酬は返してもらうからな!」

「無一文でどうやって……」

「出て行け!」

有無を言わさぬ剣幕で、俺は追い出された。

強い力の兄に敵うわけもなく、グイグイ押されてパーティーの拠点である宿から追い出されようとしたまさにその瞬間。

「ザクス!」

名を呼ぶ声がして、慌てて振り返った。

そこにはパーティーの仲間が──勇者様御一行なる面々が揃っていた。

勇者である兄ディルド。黒魔導士のセハ。白魔導士のミユ。戦士兼武闘家のモンジー。

誰もが最強とうたわれる、勇者パーティーに相応しい面々。

俺の、大事な仲間。だった。

「セハ?」

俺の名を呼んだのは、黒髪紫瞳の黒魔導士、セハ。肩にかかった美しい黒髪を払いのけ、俺を射抜く。彼女はその美しい双眸を俺に向けた後……三日月のように弓なりに細めて笑った。

「やあっとお荷物なあんたと別れられると思ったら、せいせいするわ。戦闘にも探索にもなあんにも役に立たないあんたが勇者の弟だからって、調子にのってパーティーに居座られてホント邪魔だったのよ」

ばいばーい

そう言って、セハは軽薄な笑みを浮かべて手を振った。

俺の絶望は大きくなる。

兄はともかく、仲間ならばと期待した自分がバカだった。

どれだけ無能だと言われても、自分なりに頑張って来たつもりだったのに。

それ以上に、これまで苦楽を共にした絆があると思っていたのに。

「あなたと一緒のパーティーで恥ずかしかったですう」

白髪銀瞳のミユが、波打つ白い髪を揺らし、俯きながら言う。残酷な言葉を。

「もうお前を守る必要がなくなったかと思えば、肩が軽くなるぜ!」

そう言ってガハハと笑うのは、燃えるような赤髪に、朱のアゴ髭を生やした巨体のモンジー。盛り上がった筋肉を惜しげもなく揺らす。

もう何年も、ずっとずっと一緒だったのに。

初期の頃から、未熟な頃からずっと一緒だったのに。

兄と二人きりで始まった旅は、いつしか五人の旅になっていた。

それは終わることなく続くと思っていた。

魔王を倒し、残党の魔物を倒し。

年老いるまで続くと思っていたのに。

俯く俺の目から、一筋の涙がこぼれて落ちた。

だがそれで終わる、俺の涙はそれで枯れ果てた。

「じゃあな、ザクス。田舎に帰るんなら親父達に宜しくな」

兄とは思えぬ非情さで俺を突き放す兄。

無情にも閉ざされる扉。

俺から全てを奪って俺を追い出す兄は、扉が閉まるその瞬間まで、ニヤニヤ下卑た笑いを消すことはなかった。

美しく気高い勇者然たる兄はもうどこにも居ない。

扉が閉まった直後は、しばし項垂れていた俺だったが。

『ぎゃっはっは! 見たかよディルド、ザクスのあの顔! あいつ本当に間抜けヅラしてやがったぜ!』

『騒ぐなモンジー。ようやく見目麗しき勇者一行となったんだ、下品な行動は慎め』

『でもこれでようやく本腰入れて魔王討伐に向かえるわね』

『あんなお荷物はもっと早くに切り離すべきだったんですう』

元仲間達の言葉を耳にして、ゆっくりと顔を上げた。

そのまま静かに、無言で宿を出る。

外に出て一度振り返るも、窓が開くことはない。

いっそ清々しいまでの切り捨てぶりだ。

ならばそれでいい。俺もスッパリ切り捨てるまでのこと。

そうさ、それでいいんだ。あんなパーティー、俺の方が捨ててやる。

「後悔するなよ」

本当は去り際に言いたかったけれど、言ったところで笑われるだけだ。

俺の言葉は負け犬の遠吠えとして受け取られることだろうから、言わなかった。誰も聞いてない場所で、ようやくその言葉を口にする。ポツリと。

脳裏でゲラゲラと笑う兄、ゲラゲラと笑うかつての仲間たちが浮かぶ。

想像して、ギリと歯を噛みしめて。

俺はゆっくりと──

能力を、解いた。
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