弟のお前は無能だからと勇者な兄にパーティを追い出されました。実は俺のおかげで勇者だったんですけどね

カッパ

文字の大きさ
上 下
1 / 48
第一章:パーティー追放

1、パーティーを追放されました

しおりを挟む
兄のディルドを尊敬していた。強く優しい兄は俺の憧れだった。

美しい金の髪をなびかせて、青き瞳を細め白い歯を覗かせて笑う兄は、誰からも慕われていた。そんな兄を俺もまた大好きだった。

だから兄が勇者にこそ相応しいと思ったんだ。

だから兄が勇者として旅に出て嬉しかったんだ。一緒に旅ができて幸せだったんだ。

共に旅に出た日を忘れない。

時に励まし助け合い、俺達はこれまでやってきた。

ずっと仲の良い兄弟だと思っていた。

でもそれはただの夢だった。夢は幻となって消え果てた。

残ったのは──

「ザクス」

冷たい声で俺を呼ぶ兄だけ。

「お前をパーティーから追放する」

氷のような青い瞳に、氷のような冷たさを浮かべて、兄は俺に宣告する。

「何の役にも立たないお前は、パーティーにとってただのお荷物だ! 今すぐ出て行け!」

「そんな! あんまりだよ兄さん! 今すぐだなんて、俺、どうすれば……」

「そんなもの知るか、お前ももう17歳だろう、一人で生きていける年齢だ。とにかく無能なお前を養う義理も義務もない。俺らはこれから魔王を倒すんだ、勇者様御一行なんだ、お前は必要ない」

「待ってよ兄さん、せめてもう少しの猶予を……」

「黙れ! これまでパーティーで稼いだ報酬は返してもらうからな!」

「無一文でどうやって……」

「出て行け!」

有無を言わさぬ剣幕で、俺は追い出された。

強い力の兄に敵うわけもなく、グイグイ押されてパーティーの拠点である宿から追い出されようとしたまさにその瞬間。

「ザクス!」

名を呼ぶ声がして、慌てて振り返った。

そこにはパーティーの仲間が──勇者様御一行なる面々が揃っていた。

勇者である兄ディルド。黒魔導士のセハ。白魔導士のミユ。戦士兼武闘家のモンジー。

誰もが最強とうたわれる、勇者パーティーに相応しい面々。

俺の、大事な仲間。だった。

「セハ?」

俺の名を呼んだのは、黒髪紫瞳の黒魔導士、セハ。肩にかかった美しい黒髪を払いのけ、俺を射抜く。彼女はその美しい双眸を俺に向けた後……三日月のように弓なりに細めて笑った。

「やあっとお荷物なあんたと別れられると思ったら、せいせいするわ。戦闘にも探索にもなあんにも役に立たないあんたが勇者の弟だからって、調子にのってパーティーに居座られてホント邪魔だったのよ」

ばいばーい

そう言って、セハは軽薄な笑みを浮かべて手を振った。

俺の絶望は大きくなる。

兄はともかく、仲間ならばと期待した自分がバカだった。

どれだけ無能だと言われても、自分なりに頑張って来たつもりだったのに。

それ以上に、これまで苦楽を共にした絆があると思っていたのに。

「あなたと一緒のパーティーで恥ずかしかったですう」

白髪銀瞳のミユが、波打つ白い髪を揺らし、俯きながら言う。残酷な言葉を。

「もうお前を守る必要がなくなったかと思えば、肩が軽くなるぜ!」

そう言ってガハハと笑うのは、燃えるような赤髪に、朱のアゴ髭を生やした巨体のモンジー。盛り上がった筋肉を惜しげもなく揺らす。

もう何年も、ずっとずっと一緒だったのに。

初期の頃から、未熟な頃からずっと一緒だったのに。

兄と二人きりで始まった旅は、いつしか五人の旅になっていた。

それは終わることなく続くと思っていた。

魔王を倒し、残党の魔物を倒し。

年老いるまで続くと思っていたのに。

俯く俺の目から、一筋の涙がこぼれて落ちた。

だがそれで終わる、俺の涙はそれで枯れ果てた。

「じゃあな、ザクス。田舎に帰るんなら親父達に宜しくな」

兄とは思えぬ非情さで俺を突き放す兄。

無情にも閉ざされる扉。

俺から全てを奪って俺を追い出す兄は、扉が閉まるその瞬間まで、ニヤニヤ下卑た笑いを消すことはなかった。

美しく気高い勇者然たる兄はもうどこにも居ない。

扉が閉まった直後は、しばし項垂れていた俺だったが。

『ぎゃっはっは! 見たかよディルド、ザクスのあの顔! あいつ本当に間抜けヅラしてやがったぜ!』

『騒ぐなモンジー。ようやく見目麗しき勇者一行となったんだ、下品な行動は慎め』

『でもこれでようやく本腰入れて魔王討伐に向かえるわね』

『あんなお荷物はもっと早くに切り離すべきだったんですう』

元仲間達の言葉を耳にして、ゆっくりと顔を上げた。

そのまま静かに、無言で宿を出る。

外に出て一度振り返るも、窓が開くことはない。

いっそ清々しいまでの切り捨てぶりだ。

ならばそれでいい。俺もスッパリ切り捨てるまでのこと。

そうさ、それでいいんだ。あんなパーティー、俺の方が捨ててやる。

「後悔するなよ」

本当は去り際に言いたかったけれど、言ったところで笑われるだけだ。

俺の言葉は負け犬の遠吠えとして受け取られることだろうから、言わなかった。誰も聞いてない場所で、ようやくその言葉を口にする。ポツリと。

脳裏でゲラゲラと笑う兄、ゲラゲラと笑うかつての仲間たちが浮かぶ。

想像して、ギリと歯を噛みしめて。

俺はゆっくりと──

能力を、解いた。
しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

勇者に全部取られたけど幸せ確定の俺は「ざまぁ」なんてしない!

石のやっさん
ファンタジー
皆さまの応援のお陰でなんと【書籍化】しました。 応援本当に有難うございました。 イラストはサクミチ様で、アイシャにアリス他美少女キャラクターが絵になりましたのでそれを見るだけでも面白いかも知れません。 書籍化に伴い、旧タイトル「パーティーを追放された挙句、幼馴染も全部取られたけど「ざまぁ」なんてしない!だって俺の方が幸せ確定だからな!」 から新タイトル「勇者に全部取られたけど幸せ確定の俺は「ざまぁ」なんてしない!」にタイトルが変更になりました。 書籍化に伴いまして設定や内容が一部変わっています。 WEB版と異なった世界が楽しめるかも知れません。 この作品を愛して下さった方、長きにわたり、私を応援をし続けて下さった方...本当に感謝です。 本当にありがとうございました。 【以下あらすじ】 パーティーでお荷物扱いされていた魔法戦士のケインは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことを悟った彼は、一人さった... ここから、彼は何をするのか? 何もしないで普通に生活するだけだ「ざまぁ」なんて必要ない、ただ生活するだけで幸せなんだ...俺にとって勇者パーティーも幼馴染も離れるだけで幸せになれるんだから... 第13回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞作品。 何と!『現在3巻まで書籍化されています』 そして書籍も堂々完結...ケインとは何者か此処で正体が解ります。 応援、本当にありがとうございました!

僕だけレベル1~レベルが上がらず無能扱いされた僕はパーティーを追放された。実は神様の不手際だったらしく、お詫びに最強スキルをもらいました~

いとうヒンジ
ファンタジー
 ある日、イチカ・シリルはパーティーを追放された。  理由は、彼のレベルがいつまでたっても「1」のままだったから。  パーティーメンバーで幼馴染でもあるキリスとエレナは、ここぞとばかりにイチカを罵倒し、邪魔者扱いする。  友人だと思っていた幼馴染たちに無能扱いされたイチカは、失意のまま家路についた。  その夜、彼は「カミサマ」を名乗る少女と出会い、自分のレベルが上がらないのはカミサマの所為だったと知る。  カミサマは、自身の不手際のお詫びとしてイチカに最強のスキルを与え、これからは好きに生きるようにと助言した。  キリスたちは力を得たイチカに仲間に戻ってほしいと懇願する。だが、自分の気持ちに従うと決めたイチカは彼らを見捨てて歩き出した。  最強のスキルを手に入れたイチカ・シリルの新しい冒険者人生が、今幕を開ける。

転生者は力を隠して荷役をしていたが、勇者パーティーに裏切られて生贄にされる。

克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作 「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門日間ランキング51位 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位

役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !

本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。  主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。 その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。  そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。 主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。  ハーレム要素はしばらくありません。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

異世界召喚されたら無能と言われ追い出されました。~この世界は俺にとってイージーモードでした~

WING/空埼 裕@書籍発売中
ファンタジー
 1~8巻好評発売中です!  ※2022年7月12日に本編は完結しました。  ◇ ◇ ◇  ある日突然、クラスまるごと異世界に勇者召喚された高校生、結城晴人。  ステータスを確認したところ、勇者に与えられる特典のギフトどころか、勇者の称号すらも無いことが判明する。  晴人たちを召喚した王女は「無能がいては足手纏いになる」と、彼のことを追い出してしまった。  しかも街を出て早々、王女が差し向けた騎士によって、晴人は殺されかける。  胸を刺され意識を失った彼は、気がつくと神様の前にいた。  そしてギフトを与え忘れたお詫びとして、望むスキルを作れるスキルをはじめとしたチート能力を手に入れるのであった──  ハードモードな異世界生活も、やりすぎなくらいスキルを作って一発逆転イージーモード!?  前代未聞の難易度激甘ファンタジー、開幕!

救助者ギルドから追放された俺は、ハズレだと思われていたスキル【思念収集】でやり返す

名無し
ファンタジー
 アセンドラの都で暮らす少年テッドは救助者ギルドに在籍しており、【思念収集】というスキルによって、ダンジョンで亡くなった冒険者の最期の思いを遺族に伝える仕事をしていた。  だが、ある日思わぬ冤罪をかけられ、幼馴染で親友だったはずのギルド長ライルによって除名を言い渡された挙句、最凶最悪と言われる異次元の監獄へと送り込まれてしまう。  それでも、幼馴染の少女シェリアとの面会をきっかけに、ハズレ認定されていた【思念収集】のスキルが本領を発揮する。喧嘩で最も強い者がここから出られることを知ったテッドは、最強の囚人王を目指すとともに、自分を陥れた者たちへの復讐を誓うのであった……。

処理中です...