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聖女
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部屋に悲鳴が響き渡る。
それは浅ましい卑しい女の悲鳴。
「いや!私の、私の金が・・・私の・・・!!」
叫んでガックリと項垂れた。すっかり貴金属も含めた金銀財宝と呼べる物全てが消え去った部屋は広く感じる。
スッキリとした気分で私は彼女に近付いた。近付いて、項垂れるセシカを覗き込んだ。
「セシ・・・」
「このクソ女!!」
頬に熱を感じた。咄嗟にドルノが私の腕を引いてくれたが・・・けれどそれでも少し頬を切られたようだ。
見れば手に短刀を握りしめて、鬼の形相で私を睨むセシカが居た。
「このクソアマ!何しやがるのよ!あれは私のよ!?私の金よ!?返せ、私の金を返せ!!」
「全て元の場所に戻したわ」
「は!?」
そう。死神ってのは何でも出来るのねと感動する。
全ての金は、持ち主の元へと戻っていることだろう。
「ふっざけんな!あれは、あれは私が聖女の能力で手にしたもので・・・!!」
「聖女の力を悪用しては駄目よ」
そんな物は聖女ではないわ。
そんな私の言葉はセシカには届かない。彼女の耳には届かなかった。
フーフーと息荒く立ち上がった彼女は、短刀を手に持って私を睨み据えた。
そんなセシカから私を守るかのように、ドルノが私の前に立った。それを驚いた様子で見るセシカ。すぐに彼女は理解して鼻で笑った。
「はっ!何の取り柄もない出来損ないのお前に男が出来たとはね!・・・あら、よく見れば随分といい男じゃない、あんたなんかには勿体ないくらいの。ちょっとあなた、カシファなんてやめて私の男にならない?」
呆れた事に、セシカがドルノを口説き始めた。確かにドルノはとても綺麗な顔立ちをしていて、誰もが認める美形だとは思うけれど、まさかセシカがこれ程に節操がなかったとは。
「セシカ、何を・・・」
「ブスは黙ってろ!!」
責める口調の私にセシカが怒鳴り返してきた。それはいつも私に向けられた怒声、見下した目線、肉親とは思えぬ程に冷たい表情で彼女は私を睨みつける。
「あんたなんて私のおこぼれで生まれただけの出来損ないなのよ!私のお陰で今まで生きてこれたんだから感謝しなさいよ!あんたなんて何の価値もないんだから、持ってるモノは全て私に差し出すのが当然でしょう!?私は聖女で誰からも愛されるんだから、大切にされるんだから!見てなさい、あんたの男も簡単に私の虜に・・・」
最後まで言わせなかった。私は感情のままにセシカの頬を殴っていた。突然の事にセシカは防御せず、手は無防備な彼女の頬に当たったのだ。
パシンと乾いた音が響いた。
呆然として自身の頬を押さえるセシカ。何が起きたのか理解が追い付いていないのだろう。
そして理解した瞬間・・・セシカの顔が真っ赤になった。
「許さない・・・カシファ・・・出来損ないのクズであるお前が私に手を出すなんて・・・許さない!」
「カシファは出来損ないではない」
それまで黙っていたドルノが口を開いた。
「彼女は俺の大切な存在だ、それだけで彼女が出来損ないではない証明となる」
「ふ、ふん・・・悪趣味もいいとこだわ。それにその髪と瞳の色!染めてるわけ?本当に悪趣味・・・いいわよカシファなんかがいいと言う男に用はないわ。でも覚悟しなさい、私は聖女、教会が守り国が崇拝する存在。神にも等しい存在なんだから。そんな私に歯向かってタダで済むと思わない事ね!」
その言葉に肩をすくめるだけで何も言い返さず、ドルノは私を見た。
「だとよ。さてどうする神様?」
「神様・・・ではないと思うのだけど」
「総合すりゃ同じだろ。神と付いてるのだから」
死神は死の神様・・・と言って良いのか分からないが、一応神はついてるわけだ。なので神に等しいとは言いつつも神ではないセシカより上・・・と思っていいのだろうか。
よく分からないが、私は鎌を持ち直した。それにセシカの体がビクリと震えた。
「せ、聖女を殺す気?それこそ大罪よ、死刑は免れ・・・」
「もう死んでるもの。気にしないわ」
確かに生者ならば、どのような理由があっても聖女を殺せば大罪であり死罪は免れないだろう。
だが私は生者ではない。セシカに姿を見せてはいるが、本来彼女は私の姿を見る事は出来ないのだ。私は死んだのだから。父に殺され、姉に見殺しにされたのだから。
私は、死神なのだから。
「死んで・・・?何言って・・・そう言えば、あんた朝の怪我はどうしたの・・・?」
私の言葉にキョトンとした後、ようやくそれを思い出したように聞いて来る。そう、朝に父に暴行されてるのを見ていたセシカは、私が大怪我をしてるのを見ている、知っている。そんな事も忘れる程度の存在なのだ、私は。
悲しみはないが虚しさは感じる。
「だから死んだのよ」
もうこれ以上話していても時間の無駄だと思えてきた。この人は何も変わらない。私の言葉など届かない。
これ以上、一緒に居たくない。
「セシカ、あなたも死んで」
母の胎内からずっと共にあった存在。
彼女が聖女でなければ、もしかしたらもっと違った道があったのかもしれない。
けれど運命は彼女に聖女としての力を与えた。
私との道を分け隔てた。
もう、私達の道は交わることは無いのだ。
「ひ・・・!」
聖女の能力を行使したのか分からない。ただ彼女の手が光り私に向けられるも、私は何も感じなかった。
何も感じる事のないまま、私は無表情でその大鎌を――振り上げた大鎌を・・・
「いやあ!やめて、殺さないで、私が悪かったわ!反省してるから殺さないで!」
涙をこぼし鼻水を垂らし失禁したセシカの頭上に振り上げて・・・
「ひいいいい!!」
思い切り振り下ろした。
それは浅ましい卑しい女の悲鳴。
「いや!私の、私の金が・・・私の・・・!!」
叫んでガックリと項垂れた。すっかり貴金属も含めた金銀財宝と呼べる物全てが消え去った部屋は広く感じる。
スッキリとした気分で私は彼女に近付いた。近付いて、項垂れるセシカを覗き込んだ。
「セシ・・・」
「このクソ女!!」
頬に熱を感じた。咄嗟にドルノが私の腕を引いてくれたが・・・けれどそれでも少し頬を切られたようだ。
見れば手に短刀を握りしめて、鬼の形相で私を睨むセシカが居た。
「このクソアマ!何しやがるのよ!あれは私のよ!?私の金よ!?返せ、私の金を返せ!!」
「全て元の場所に戻したわ」
「は!?」
そう。死神ってのは何でも出来るのねと感動する。
全ての金は、持ち主の元へと戻っていることだろう。
「ふっざけんな!あれは、あれは私が聖女の能力で手にしたもので・・・!!」
「聖女の力を悪用しては駄目よ」
そんな物は聖女ではないわ。
そんな私の言葉はセシカには届かない。彼女の耳には届かなかった。
フーフーと息荒く立ち上がった彼女は、短刀を手に持って私を睨み据えた。
そんなセシカから私を守るかのように、ドルノが私の前に立った。それを驚いた様子で見るセシカ。すぐに彼女は理解して鼻で笑った。
「はっ!何の取り柄もない出来損ないのお前に男が出来たとはね!・・・あら、よく見れば随分といい男じゃない、あんたなんかには勿体ないくらいの。ちょっとあなた、カシファなんてやめて私の男にならない?」
呆れた事に、セシカがドルノを口説き始めた。確かにドルノはとても綺麗な顔立ちをしていて、誰もが認める美形だとは思うけれど、まさかセシカがこれ程に節操がなかったとは。
「セシカ、何を・・・」
「ブスは黙ってろ!!」
責める口調の私にセシカが怒鳴り返してきた。それはいつも私に向けられた怒声、見下した目線、肉親とは思えぬ程に冷たい表情で彼女は私を睨みつける。
「あんたなんて私のおこぼれで生まれただけの出来損ないなのよ!私のお陰で今まで生きてこれたんだから感謝しなさいよ!あんたなんて何の価値もないんだから、持ってるモノは全て私に差し出すのが当然でしょう!?私は聖女で誰からも愛されるんだから、大切にされるんだから!見てなさい、あんたの男も簡単に私の虜に・・・」
最後まで言わせなかった。私は感情のままにセシカの頬を殴っていた。突然の事にセシカは防御せず、手は無防備な彼女の頬に当たったのだ。
パシンと乾いた音が響いた。
呆然として自身の頬を押さえるセシカ。何が起きたのか理解が追い付いていないのだろう。
そして理解した瞬間・・・セシカの顔が真っ赤になった。
「許さない・・・カシファ・・・出来損ないのクズであるお前が私に手を出すなんて・・・許さない!」
「カシファは出来損ないではない」
それまで黙っていたドルノが口を開いた。
「彼女は俺の大切な存在だ、それだけで彼女が出来損ないではない証明となる」
「ふ、ふん・・・悪趣味もいいとこだわ。それにその髪と瞳の色!染めてるわけ?本当に悪趣味・・・いいわよカシファなんかがいいと言う男に用はないわ。でも覚悟しなさい、私は聖女、教会が守り国が崇拝する存在。神にも等しい存在なんだから。そんな私に歯向かってタダで済むと思わない事ね!」
その言葉に肩をすくめるだけで何も言い返さず、ドルノは私を見た。
「だとよ。さてどうする神様?」
「神様・・・ではないと思うのだけど」
「総合すりゃ同じだろ。神と付いてるのだから」
死神は死の神様・・・と言って良いのか分からないが、一応神はついてるわけだ。なので神に等しいとは言いつつも神ではないセシカより上・・・と思っていいのだろうか。
よく分からないが、私は鎌を持ち直した。それにセシカの体がビクリと震えた。
「せ、聖女を殺す気?それこそ大罪よ、死刑は免れ・・・」
「もう死んでるもの。気にしないわ」
確かに生者ならば、どのような理由があっても聖女を殺せば大罪であり死罪は免れないだろう。
だが私は生者ではない。セシカに姿を見せてはいるが、本来彼女は私の姿を見る事は出来ないのだ。私は死んだのだから。父に殺され、姉に見殺しにされたのだから。
私は、死神なのだから。
「死んで・・・?何言って・・・そう言えば、あんた朝の怪我はどうしたの・・・?」
私の言葉にキョトンとした後、ようやくそれを思い出したように聞いて来る。そう、朝に父に暴行されてるのを見ていたセシカは、私が大怪我をしてるのを見ている、知っている。そんな事も忘れる程度の存在なのだ、私は。
悲しみはないが虚しさは感じる。
「だから死んだのよ」
もうこれ以上話していても時間の無駄だと思えてきた。この人は何も変わらない。私の言葉など届かない。
これ以上、一緒に居たくない。
「セシカ、あなたも死んで」
母の胎内からずっと共にあった存在。
彼女が聖女でなければ、もしかしたらもっと違った道があったのかもしれない。
けれど運命は彼女に聖女としての力を与えた。
私との道を分け隔てた。
もう、私達の道は交わることは無いのだ。
「ひ・・・!」
聖女の能力を行使したのか分からない。ただ彼女の手が光り私に向けられるも、私は何も感じなかった。
何も感じる事のないまま、私は無表情でその大鎌を――振り上げた大鎌を・・・
「いやあ!やめて、殺さないで、私が悪かったわ!反省してるから殺さないで!」
涙をこぼし鼻水を垂らし失禁したセシカの頭上に振り上げて・・・
「ひいいいい!!」
思い切り振り下ろした。
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