わたしは平穏に生きたい庶民です。玉の輿に興味はありません!

まあや

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22 妹

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「ナナ? おーい……だめ、全然見つからない」

 ネネはきょろきょろと、夕暮れに染まりつつある町を歩く。サシャがイケオジとご飯を食べているところまでは二人で眺めていたのだが、お互いお腹が減って各自で屋台を物色している間にサシャはおろかナナまで見失ってしまった。

(ここまで見つからないなら、図書館に行った方がいいかしら)

 サシャは通訳の仕事の時は図書館で依頼人と別れると聞いていた。ナナもそれは知っているから、サシャに確実に会うなら図書館に行くのが一番だ。

 ため息を吐き、方向転換しようとすると、腕を生暖かい手に掴まれた。

「でゅふふ、お嬢ちゃん、かわいいねぇ。人探しなら、お兄さんも手伝うよ」

 鼻息荒く顔を近づけて、見ず知らずの中年男性がそんなことを言ってきた。前世で大人だった時のネネなら、痴漢だろうと大声を出して撃退したが、体も小さい今のネネは、はるかに力の強い男に恐怖心が芽生え、ふるふると首を横に振ることしかできなかった。

「……だ、だい、じょうぶ、です。て、はなして……」

 か細い声に、男はいけると思ったのだろう。有無を言わさずにずるずると引っ張っていく。

(あぁ、どうしよう)

「ちょっと待って。君、この人はお父さん?」

 優し気で、それでいて色気を感じる声が耳に届いて、混濁しかけていたネネの意識がはっきりする。

 後ろを振り向けば、騎士の制服を身に纏った、亜麻色の長い髪の美しい男がいた。

 ネネは心臓が一瞬止まったかと思った。

(初めて見た、こんなにかっこいい人……)

 でも、会うのが初めてじゃないと魂が叫んでいる。

「ちっ」

 不審者は舌打ちして実力行使に出た。ネネの手を掴んだまま走り出したのだ。

 ネネは騎士に向かって声を上げた。

「助けて――!」

 騎士は微笑んだ。

「任せて、お姫様」

 あっという間に不審者を追い越し、鞘を付けたままの剣で男の足を払う。たまらず男は地面に顔を打ち付けた。ネネも釣られてバランスを崩すが、騎士が軽やかにネネの体を受け止めた。

 ネネを片腕に抱えて、騎士は不審者を縛り上げた。

「変質者は俺たちが懲らしめるから、安心してね。お姫様は一人でどうしたの?」

 後から来た応援の騎士に不審者を引き渡すと、騎士はネネの目を見て尋ねてきた。

(はわわ、イケメンの顔が、こ、こんな近くに……)

 混乱して質問にも答えられずにいると、騎士は何かに気づいたように真剣な顔をした。

「君の琥珀色の目、サシャちゃんにそっくり……」

「お姉ちゃんを知っているの? もしかして、オルド様?」

 質問の形をとっているが、魂は確信している。

 この人は、わたしがずっと探していた人。

(おかしい。わたしはリアム様推しのはず……何で)

 でもこの胸のときめきは、絶対に気のせいなんかじゃない。

 ぐちゃぐちゃする思考に戸惑っているネネを他所に、オルドは目を見開く。

「お姉ちゃん、って、もしかしてサシャちゃんの妹なの? しかも俺のこと知ってるってことは、サシャちゃん、家で俺の話してくれてるの?」

「あ、そう、ですね。時々……凄腕の騎士様だって」

 どうしようもなく軽い男とも言っていたのは心に秘めておく。

「いや~照れるなぁ。あ、サシャちゃんはもうお家に帰ったと思うよ? 彼女を探してたなら、家まで送ろうか?」

「えっと、わたしは双子の姉と出かけていたので、その子を探さないと。ずっと見つからなかったら、図書館で落ち合う予定なんです」

 オルドは訝し気な顔をした。

「今日はやけに図書館に用がある人が多いな……。分かった、図書館まで送るよ」

「え⁉︎ いや、オルド様のお手を煩わせるわけには……」

「君みたいなかわいい子を一人にはできないよ。しがない騎士だけど、少しの間エスコートさせて?」

「……はい」

 抱えられたまま、懇願するような上目遣いを受けて、ネネは完全に陥落した。
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