わたしは平穏に生きたい庶民です。玉の輿に興味はありません!

まあや

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8 女友達

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 入学から数日が経ち、本格的に授業が始まった。王立学園では専門的なことを学ぶ前に、教養を身につけるべきという理由から、一年生は満遍なく様々なことをさせられる。今日の一限目は、クラス合同の体育だった。

 学園から支給された体操着を身につけ、訓練場で待機していた。ちなみに体育は男女で違う内容だから、アルフレッドがちょっかいをかけることはない。

「二人一組になるように!」

 教師が大声で指示を出す。サシャは焦っていた。

(二人一組? 知り合いもいないのに……)

 サシャは未だ、アルフレッド以外とは碌に話せていなかった。

 周りを見渡せば、次々と組みができている。

「もし、そこのあなた」

(まいったなー。どうしよっかなー)

「聞いていますの⁉︎」

「え⁉︎」

 大きな声に驚いて振り向くと、華やかな金髪美少女がいた。縦ロールがぶわんと揺れている。

 彼女はサシャを見て一瞬目を丸くした。が、すぐに真顔に戻る。

「あ、あなたですわね? アルフレッド様に馴れ馴れしくしている女生徒は」

「いや、わたしから殿下に話しかけたことはないんですが」

 サシャの冷静な返しに、美少女は気勢を削がれたといった様子でそっぽを向いた。

「……ふん、まぁいいわ。王妃候補筆頭のわたくしが、あなたを見定めて差し上げます。手始めにあなた、わたくしとペアになりなさい!」

「え!」

 サシャは「ペア」という言葉に目を輝かせ、美少女に近づく。

「はい! 一人ぼっちになると思っていたので、あなたのような優しい方がいて幸いです」

 初めての女子との会話ということもあり、舞い上がっていたサシャは、明らかに戸惑っている美少女の顔を見て我に返る。

(そういえばここは偉い人たちが集まる学校。この女神も貴族の方に違いない)

 サシャは急いで距離をとる。

「申し訳ございません! わたしなどが親しげに話しかけたら、迷惑ですよね……」

 目を伏せつつちらりと顔色を窺うと――彼女はなぜか赤面していた。身分を弁えないサシャに怒っているのだろうか。

「元はと言えばわたくしが話しかけたのです。迷惑ではありませんわ」

「ありがとうございます! わたしはサシャと申します。お名前を聞いてもよろしいですか?」

「わたくしは二組のリリア・オズワルト。オズワルト公爵家の長女ですわ。……社交の場であなたを見たことがないのだけど、あなた、生まれは? 姓は?」

「えっと……」

 しがない庶民だと言うと、リリアが離れてしまうかもしれないと思い、答えあぐねていると。

「……やっぱりあなたは身分を明かせない事情があるのね。無理に答えなくてもいいわ」

 なにやら一人で納得しているようだから、それに乗ることにした。

「ご理解いただけて嬉しいです」

 微笑みかけるサシャに、リリアは何かを言いかけたが、体育教師の声に邪魔された。

「皆ペアになれたな! 各自今から言うメニューをこなすように――」

 十五分後――。

「ぜぇ……はぁ、はぁ」

「大丈夫ですか? リリア様。あと五周は走らないといけませんが……」

「……っ、ここで止めたらオズワルト家の名が廃りますわ! まだ走れます!」

 膝に手をつき苦し気な呼吸をしていたリリアは、勢いよく顔を上げて強がる。

 サシャが周囲を窺うと、まさに死屍累々といった様子でお嬢様方が座り込んでいる。

「リリア様は努力家なのですね。素敵です」

「……あなたは随分涼しい顔をしてますわね」

「体力には自信があります」

 雑草根性を舐めてもらっては困る。一日に何件も仕事を掛け持ちすることだってあるのだ。体力が無ければ務まらない。

「……護身術でも習っていたのかしら」

「何かおっしゃいました?」

「いえ何でも――って、置いてかないでくださいな!」

 顔を真っ赤にして文句を言うリリアに、まるで友達のような会話だと少し感動するサシャであった。

 少し走ると、女子とは別の活動をしている男子たちが見えた。

 準備運動もそこそこに、どうやら模擬戦をするようだ。

「……少し見ていきませんこと?」

「鬼教師に怒られませんかね?」

「わたくしたちは他の方々よりもだいぶ進んでいるので、きっと大丈夫ですわ」

 確かに、あのお嬢様方の様子ではしばらく追い抜かれることはないだろう。

「では少しだけ」

 こっそり男子の集団に近づく。

 第一試合、一人は物凄く筋骨隆々とした見知らぬ生徒、そしてもう一人は――以前サシャに絡んできたオルドだった。
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