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3 入学式
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現実は、そう上手くいかないもので。
サシャの隣の席にはアルフレッドがおり、ずっと話しかけてくる。サシャは目立たない真ん中辺りの席が良かったのに、どこぞの王子様に連れ出されて一番前に座らされた。
「サシャはどこで教育を受けていたの?」
「……図書館で学んでおりました。司書の方にも、色々ご教授いただいて」
「へぇ、努力家なんだね」
「いえ、そんなことは……」
爽やかな笑みを浮かべるアルフレッドの目には、好奇の色が垣間見えた。
(……わたし、珍獣だとでも思われてるのかしら)
平民の話を聞いて何が楽しいのか、ずっと質問攻めにされてサシャは疲労困憊である。
そして背後からの女子たちの視線が痛い。振り返らずとも睨まれていることがわかる。
(早く入学式始まって……)
サシャの祈りが届いたのか、司会の教師が壇上に姿を現した。
お喋りに興じていた生徒たちも静かになっていく。
式は滞りなく進んだ。
「新入生代表、アルフレッド・ウェンスター殿下」
「はい」
アルフレッドはすっと立ち上がる。
ふわっと花のような香りがサシャの鼻孔をくすぐる。
(……さすが、高貴な方は男性でもいい匂いなのね)
「——この学園では、身分を気にせず、平等な学友として、共に学んでいこう」
拍手が鳴り響き、アルフレッドは一礼してそれに応える。
会場中の視線を一身に集めてもなお、その様は堂々としていて、まさに一国の皇太子に相応しい。
(うん。改めて住む世界が違いすぎる)
今日を乗り越えれば、アルフレッドもサシャに興味を失って構ってくることはなくなるに違いない。
そう確信したサシャは、ほっと一息ついた。
自席に戻ったアルフレッドは、サシャと目を合わせ、優しく微笑んだ。
近隣の席の生徒たちが色めき立つ。「今わたくしに微笑みかけてくださったわ!」「いや私よ‼︎」「あなた方目が悪いんじゃなくって⁉︎」「俺を見たに決まってるだろぉぉおおお!」声を抑えているが、興奮は全く隠せていない。
無視も問題になりそうなので、サシャは軽く会釈をする。
入学式も終わり、教室に戻るよう指示を受ける。
「サシャ、教室に着くまで話に付き合ってくれないか?」
「殿下、僭越ながら、他のご学友との交流も大切だと――」
「ここにいる者の大半は社交の場でいくらでも会えるが、君とは会えないからね」
「そ、そうですか」
背中に刺さる視線が怖すぎて、なかなか立ち上がれなかったサシャだが、アルフレッドが手を差し伸べようとしたので素早く席を立った。
王子様の手なんて取ったら、何を言われるか分かったものではない。
サシャがアルフレッドと歩き始めた途端、攻撃的な視線が和らいだので、サシャは内心で首を傾げた。
騒めく会場を後にする。
サシャが去った後、その姿を目の当たりにした生徒たちはこんな話をしていた。
「なんて美しい方なんだ……!」
「アルフレッド殿下の横に並んで顔色一つ変えないとは!」
「姓を持たないから、卑しい平民だとばかり思っていたけれど……きっとお忍びで留学中の、高貴なお方に違いないわ。アルフレッド殿下があれほど丁重に扱っているんだもの」
入学初日で、サシャの噂は学園中に広まった。
『サシャ様は、とある事情で素性を隠し、この学園に留学した異国のやんごとないお方に違いない』と。
事実とかけ離れたその噂を、サシャは知る由もなかったが……。
サシャの隣の席にはアルフレッドがおり、ずっと話しかけてくる。サシャは目立たない真ん中辺りの席が良かったのに、どこぞの王子様に連れ出されて一番前に座らされた。
「サシャはどこで教育を受けていたの?」
「……図書館で学んでおりました。司書の方にも、色々ご教授いただいて」
「へぇ、努力家なんだね」
「いえ、そんなことは……」
爽やかな笑みを浮かべるアルフレッドの目には、好奇の色が垣間見えた。
(……わたし、珍獣だとでも思われてるのかしら)
平民の話を聞いて何が楽しいのか、ずっと質問攻めにされてサシャは疲労困憊である。
そして背後からの女子たちの視線が痛い。振り返らずとも睨まれていることがわかる。
(早く入学式始まって……)
サシャの祈りが届いたのか、司会の教師が壇上に姿を現した。
お喋りに興じていた生徒たちも静かになっていく。
式は滞りなく進んだ。
「新入生代表、アルフレッド・ウェンスター殿下」
「はい」
アルフレッドはすっと立ち上がる。
ふわっと花のような香りがサシャの鼻孔をくすぐる。
(……さすが、高貴な方は男性でもいい匂いなのね)
「——この学園では、身分を気にせず、平等な学友として、共に学んでいこう」
拍手が鳴り響き、アルフレッドは一礼してそれに応える。
会場中の視線を一身に集めてもなお、その様は堂々としていて、まさに一国の皇太子に相応しい。
(うん。改めて住む世界が違いすぎる)
今日を乗り越えれば、アルフレッドもサシャに興味を失って構ってくることはなくなるに違いない。
そう確信したサシャは、ほっと一息ついた。
自席に戻ったアルフレッドは、サシャと目を合わせ、優しく微笑んだ。
近隣の席の生徒たちが色めき立つ。「今わたくしに微笑みかけてくださったわ!」「いや私よ‼︎」「あなた方目が悪いんじゃなくって⁉︎」「俺を見たに決まってるだろぉぉおおお!」声を抑えているが、興奮は全く隠せていない。
無視も問題になりそうなので、サシャは軽く会釈をする。
入学式も終わり、教室に戻るよう指示を受ける。
「サシャ、教室に着くまで話に付き合ってくれないか?」
「殿下、僭越ながら、他のご学友との交流も大切だと――」
「ここにいる者の大半は社交の場でいくらでも会えるが、君とは会えないからね」
「そ、そうですか」
背中に刺さる視線が怖すぎて、なかなか立ち上がれなかったサシャだが、アルフレッドが手を差し伸べようとしたので素早く席を立った。
王子様の手なんて取ったら、何を言われるか分かったものではない。
サシャがアルフレッドと歩き始めた途端、攻撃的な視線が和らいだので、サシャは内心で首を傾げた。
騒めく会場を後にする。
サシャが去った後、その姿を目の当たりにした生徒たちはこんな話をしていた。
「なんて美しい方なんだ……!」
「アルフレッド殿下の横に並んで顔色一つ変えないとは!」
「姓を持たないから、卑しい平民だとばかり思っていたけれど……きっとお忍びで留学中の、高貴なお方に違いないわ。アルフレッド殿下があれほど丁重に扱っているんだもの」
入学初日で、サシャの噂は学園中に広まった。
『サシャ様は、とある事情で素性を隠し、この学園に留学した異国のやんごとないお方に違いない』と。
事実とかけ離れたその噂を、サシャは知る由もなかったが……。
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