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15 エピローグ
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それから一週間。家から荷物を持ち出したり、学校に事情を話したりと慌ただしく過ごし、ついに今日。
わたしは本格的に鬼さまの社にお世話になることになった。
秋の間で鬼さまと向かい合ったわたしは深々と頭を下げた。うるさい双子には席を外してもらっており、今は二人きりだ。
「では、今日からよろしくお願いします」
「あぁ、よろしく。まずは約束事を確認しようか。一つ、修行に誠心誠意励むこと。二つ、学業をおろそかにしないこと。三つ、部活にも真面目に取り組むこと。四つ、健全な学生として、遊びやバイトに全力で向き合うこと――」
鬼さまはわたしと交わした約束を指折り数えていく。
「九つ、社の住人と円満な関係を築くこと。十、我慢せず、自分の感情は素直に伝えること……まぁこんなものか」
「九番目はちょっと自信ないですけどね。今日だってとんでもない顔で睨まれましたし……」
「納得いきません!」「なんでその娘を引き取るのですか!」とキャンキャン騒がれたのがつい先刻のことだ。
鬼さまも否定しきれないのか、珍しく困ったような顔をした。
「双子には俺からも言っておく。気難しくて大変だろうが気長に付き合ってやってくれ。さて、何か聞きたいことはあるか?」
わたしはちょっと考えて、手を挙げる。
「鬼さまは、術が使えるようになったら妖を手下にできるって言ってたよね? それってどんな妖でも?」
「? そんなことも言ったな。あぁ、お前の実力が勝っていれば、可能だろうな」
わたしはそれを聞いてにやりとした。
「じゃあわたし、修行を頑張って、鬼さまを従える! もう他人に人生を振り回されてばかりの弱い自分は嫌だから、誰にも負けないくらい――鬼さまにだって勝てるくらい、強くなりたいの!」
わたしの一世一代の決意表明に、鬼さまはぽかん、と今まで見たことのない表情を見せた。
「……俺を、従える?」
「うん! え、鬼さまって、妖だよね?」
「まぁ、分類するなら、俺は妖だな」
やっと理解が追いついたのか、鬼さまは片手で顔を隠し、体を震わせた。
「っく、ははははは! 俺を、神とも崇められる俺を従える、か。それはいいな。頑張れよ」
鬼さまは腹を抱えて笑っている。そして、わたしに手を差し出した。
鬼さまの手をじっと見つめる。最初に鬼さまに出会った時のことを思い出す。この手を拒否した時のことを。
この手を取るのは、前のように守られるためではなく、自分が強くなるためだ。
自分の意志で、わたしはより良い未来を掴み取るのだ。
わたしは、力強くその手を握った。
「よろしく、鬼さま」
「あぁ。厳しく指導するから覚悟しろよ」
脅すような鬼さまの言葉に、わたしは満面の笑みを返す。
わたしは今までと全く違う人生に向かって、大きな一歩を踏み出した。
わたしは本格的に鬼さまの社にお世話になることになった。
秋の間で鬼さまと向かい合ったわたしは深々と頭を下げた。うるさい双子には席を外してもらっており、今は二人きりだ。
「では、今日からよろしくお願いします」
「あぁ、よろしく。まずは約束事を確認しようか。一つ、修行に誠心誠意励むこと。二つ、学業をおろそかにしないこと。三つ、部活にも真面目に取り組むこと。四つ、健全な学生として、遊びやバイトに全力で向き合うこと――」
鬼さまはわたしと交わした約束を指折り数えていく。
「九つ、社の住人と円満な関係を築くこと。十、我慢せず、自分の感情は素直に伝えること……まぁこんなものか」
「九番目はちょっと自信ないですけどね。今日だってとんでもない顔で睨まれましたし……」
「納得いきません!」「なんでその娘を引き取るのですか!」とキャンキャン騒がれたのがつい先刻のことだ。
鬼さまも否定しきれないのか、珍しく困ったような顔をした。
「双子には俺からも言っておく。気難しくて大変だろうが気長に付き合ってやってくれ。さて、何か聞きたいことはあるか?」
わたしはちょっと考えて、手を挙げる。
「鬼さまは、術が使えるようになったら妖を手下にできるって言ってたよね? それってどんな妖でも?」
「? そんなことも言ったな。あぁ、お前の実力が勝っていれば、可能だろうな」
わたしはそれを聞いてにやりとした。
「じゃあわたし、修行を頑張って、鬼さまを従える! もう他人に人生を振り回されてばかりの弱い自分は嫌だから、誰にも負けないくらい――鬼さまにだって勝てるくらい、強くなりたいの!」
わたしの一世一代の決意表明に、鬼さまはぽかん、と今まで見たことのない表情を見せた。
「……俺を、従える?」
「うん! え、鬼さまって、妖だよね?」
「まぁ、分類するなら、俺は妖だな」
やっと理解が追いついたのか、鬼さまは片手で顔を隠し、体を震わせた。
「っく、ははははは! 俺を、神とも崇められる俺を従える、か。それはいいな。頑張れよ」
鬼さまは腹を抱えて笑っている。そして、わたしに手を差し出した。
鬼さまの手をじっと見つめる。最初に鬼さまに出会った時のことを思い出す。この手を拒否した時のことを。
この手を取るのは、前のように守られるためではなく、自分が強くなるためだ。
自分の意志で、わたしはより良い未来を掴み取るのだ。
わたしは、力強くその手を握った。
「よろしく、鬼さま」
「あぁ。厳しく指導するから覚悟しろよ」
脅すような鬼さまの言葉に、わたしは満面の笑みを返す。
わたしは今までと全く違う人生に向かって、大きな一歩を踏み出した。
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