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第三章
73.純情な少年
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驚きのあまり俺の時は止まっていた。
だって本の隙間ってほんのわずかしかない。
そこから目がギョロっと動けば恐怖を感じないやつはいないだろう。
「うっ、うわあ――」
俺が声を出す前に彼が体を起こし、口を押さえていた。
反対の手で口元に指を当て、静かにとジェスチャーしている。
ここが図書館なのを俺は忘れていた。
ドM野郎は嬉しそうに本棚を回って近づいてきた。
ドMなのに俺を驚かすとはどういうことだ。
「ははは、そんなに驚かせたのか。それにしてもお前さんって積極的なんだな」
積極的ってなんのことを言っているのだろう。
「それだけ積極的なら俺のこいつも――」
ドM野郎が続きを言う前に股間を蹴り上げた。
これが望みだったんだろう。
その一方で俺の真横にいる彼はガタガタと震えている。
「トッ、トモヤ……いくら驚いたからってそこを蹴るのは問題だと思うんだけど」
「ああ、この人は慣れているので大丈夫ですよ。ほら、あの表情を見てください」
蹴られたドM野郎は満足そうな顔で天井を見上げていた。
今にも天に昇りそうな勢いだ。
張本人の俺が言うのもあれだが、俺もあんなに蹴られたら違う意味で天に昇るだろう。
「そっ、それにあの人騎士団――」
彼はドM野郎の胸元を見て急いで姿勢を整える。
「ヘクトール・ブルムント様、挨拶が遅れて申し訳ありませんでした。ルーデンス公爵家長男のアルフォンス・ルーデンスです」
握り拳を作り胸元で当てて話すのが慣わしなのだろうか。
それにしてもドM野郎の名前はヘクトールで、瞳が綺麗な彼はアルフォンスという名前らしい。
ここの世界の人達は本当に名前が長すぎる。
だから俺はこれからもドM野郎はそのままドM野郎と呼び続けるだろう。
「アルフォンスっていう名前だったんです」
「あっ、トモヤには伝えてなかったですね。俺はアルフォンス・ルーデンスと言います。気軽にアルとでも呼んでください」
彼の名前がわかったことだし、本人が呼んで欲しい愛称があるならそれで呼ぼう。
貴族に刃向かったら大変なことになるしね。
「アルって呼びやすいからいいですね」
「アル……」
「おいおい、また良い雰囲気になってるじゃないか!」
そんな空気を天から戻ってきたドM野郎が邪魔をしていた。
そのまま天に召されてしまえばよかったのにな。
「別にそんなんじゃないよね?」
「……」
俺はアルフォンスに聞くと、どこか少し俯いていた。
「ははは、無自覚は怖いな! そういえば、また女神の祝福が聞こえたぞ」
ああ、俺はまた汚らしいものを蹴って強くしてしまったらしい。
「ルーデンスよ! 強くなりたいならトモヤを頼ればいいぞ」
いや、それはドM野郎の仕様で、彼の大事なものを蹴るつもりは俺にはない。
さっきの言い合いを本棚の奥からずっと見ていたのだろう。
「そうなんですね!」
おいおい、お前騙されているぞ。
少しビクビクしながら股間を突き出そうとせず腰を引いてくれ。
「おい、お前! 変なことを教えるんじゃねーよ」
ドM野郎に怒るとすごく嬉しそうな顔をしていた。
ああ、これがこいつ作戦だったのか。
「アルもこいつの言うことを素直に聞くんじゃない!」
「あっ、はい!」
彼が凄く純情で危ない存在なのは理解した。
これだけ純情なら良い方にも悪い方にも転ぶだろう。
特にこのドM野郎に近づけさせてはいけない。
「さぁ、あっちで勉強するよ」
「えっ!?」
「ほらほら」
俺はアルフォンスの腕を掴みテーブルがあるところに向かった。
ドM野郎はどこかニヤニヤしているがそんなのは無視だ。
ってかアルフォンスはどれだけ純情なんだよ。
俺が腕を掴んだだけで顔を真っ赤なりんごのようにしていた。
「はぁー、今後が心配だわ……」
俺は自分の心配よりもアルフォンスの心配をしていた。
だって本の隙間ってほんのわずかしかない。
そこから目がギョロっと動けば恐怖を感じないやつはいないだろう。
「うっ、うわあ――」
俺が声を出す前に彼が体を起こし、口を押さえていた。
反対の手で口元に指を当て、静かにとジェスチャーしている。
ここが図書館なのを俺は忘れていた。
ドM野郎は嬉しそうに本棚を回って近づいてきた。
ドMなのに俺を驚かすとはどういうことだ。
「ははは、そんなに驚かせたのか。それにしてもお前さんって積極的なんだな」
積極的ってなんのことを言っているのだろう。
「それだけ積極的なら俺のこいつも――」
ドM野郎が続きを言う前に股間を蹴り上げた。
これが望みだったんだろう。
その一方で俺の真横にいる彼はガタガタと震えている。
「トッ、トモヤ……いくら驚いたからってそこを蹴るのは問題だと思うんだけど」
「ああ、この人は慣れているので大丈夫ですよ。ほら、あの表情を見てください」
蹴られたドM野郎は満足そうな顔で天井を見上げていた。
今にも天に昇りそうな勢いだ。
張本人の俺が言うのもあれだが、俺もあんなに蹴られたら違う意味で天に昇るだろう。
「そっ、それにあの人騎士団――」
彼はドM野郎の胸元を見て急いで姿勢を整える。
「ヘクトール・ブルムント様、挨拶が遅れて申し訳ありませんでした。ルーデンス公爵家長男のアルフォンス・ルーデンスです」
握り拳を作り胸元で当てて話すのが慣わしなのだろうか。
それにしてもドM野郎の名前はヘクトールで、瞳が綺麗な彼はアルフォンスという名前らしい。
ここの世界の人達は本当に名前が長すぎる。
だから俺はこれからもドM野郎はそのままドM野郎と呼び続けるだろう。
「アルフォンスっていう名前だったんです」
「あっ、トモヤには伝えてなかったですね。俺はアルフォンス・ルーデンスと言います。気軽にアルとでも呼んでください」
彼の名前がわかったことだし、本人が呼んで欲しい愛称があるならそれで呼ぼう。
貴族に刃向かったら大変なことになるしね。
「アルって呼びやすいからいいですね」
「アル……」
「おいおい、また良い雰囲気になってるじゃないか!」
そんな空気を天から戻ってきたドM野郎が邪魔をしていた。
そのまま天に召されてしまえばよかったのにな。
「別にそんなんじゃないよね?」
「……」
俺はアルフォンスに聞くと、どこか少し俯いていた。
「ははは、無自覚は怖いな! そういえば、また女神の祝福が聞こえたぞ」
ああ、俺はまた汚らしいものを蹴って強くしてしまったらしい。
「ルーデンスよ! 強くなりたいならトモヤを頼ればいいぞ」
いや、それはドM野郎の仕様で、彼の大事なものを蹴るつもりは俺にはない。
さっきの言い合いを本棚の奥からずっと見ていたのだろう。
「そうなんですね!」
おいおい、お前騙されているぞ。
少しビクビクしながら股間を突き出そうとせず腰を引いてくれ。
「おい、お前! 変なことを教えるんじゃねーよ」
ドM野郎に怒るとすごく嬉しそうな顔をしていた。
ああ、これがこいつ作戦だったのか。
「アルもこいつの言うことを素直に聞くんじゃない!」
「あっ、はい!」
彼が凄く純情で危ない存在なのは理解した。
これだけ純情なら良い方にも悪い方にも転ぶだろう。
特にこのドM野郎に近づけさせてはいけない。
「さぁ、あっちで勉強するよ」
「えっ!?」
「ほらほら」
俺はアルフォンスの腕を掴みテーブルがあるところに向かった。
ドM野郎はどこかニヤニヤしているがそんなのは無視だ。
ってかアルフォンスはどれだけ純情なんだよ。
俺が腕を掴んだだけで顔を真っ赤なりんごのようにしていた。
「はぁー、今後が心配だわ……」
俺は自分の心配よりもアルフォンスの心配をしていた。
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