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第二章 イケメンスローライフ?

44.焼肉パーティー

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 冒険者ギルドに戻ると、中は綺麗に片付いていた。

 あれだけ派手に壊れたテーブルなどが何もなかったかのように元に戻っている。

「ジィー」

 どこからか声と視線を感じると思ったら、ニャンタが椅子に座って待っていた。

「トモヤおかえり」

 後ろから出ている伸びた尻尾が何かを訴えかけている。

 まるで俺が片付けたんだぞとアピールをしているのだろうか。

「ちゃんと片付けたんだな」

「おっ、おう」

 ニャンタに近づくと頭を突き出してきた。

 やはりトラじゃなくてネコにしか見えない。

「ニャンタ良くやったなー」

 俺はニャンタをもふもふすると、周囲から視線を感じた。

 その視線の先には他の獣人達も待機していた。

「べ、別に褒めてもらおうなんて――」

「もふもふするよ?」

 すると獣人達は一列に並んで列を作っていた。

「ジィー」

 手が止まっていたからか、ニャンタは不機嫌になっていた。

 やっぱりネコは気難しいな。

「お肉を切り終え……また買ってきたのか!?」

 奥の調理場にいたクジャは追加で買った肉に驚いていた。

 それにしてもイケメンのエプロン姿って破壊力があるな。

 王都でも獣人達が食事を摂れる場所が少ないため、冒険者ギルドに調理場が用意されている。

 ただ、獣人達は料理が苦手らしい。

「クジャもありがとう」

 ニャンタの時の癖でついついクジャも撫でてしまった。

「……」

「あっ、ごめん」

 反応がないクジャに俺はすぐに手を引っ込める。

 成人男性の頭を撫でるのはあまり良くないからな。

 クジャは何も言わずに調理場に戻って行った。

「ふぉふぉふぉおおお」

 何か変な声が聞こえてくるが大丈夫だろうか。

「あいつも虜になったな」

 隣にいたニャンタを見ると、やはり頭を突き出していた。

 追加でもふもふしてもらいたいのだろうか。

 ただ、このままだと他の獣人達ももふもふしていたら時間がなくなりそうだ。

「ニャンタはクジャを手伝ってもらってもいい?」

「ジィー」

「わかったよ。また後でするからな」

「わかってたらいい」

 ニャンタは満足したのか、嬉しそうにクジャの元に向かった。


 クジャとニャンタに火の準備をしてもらい、薄くて大きい石を置いて焼肉パーティーは始まった。

 ちなみに調味料店で買った醤油やみりんを使って特製のタレを作った。

 前世で焼肉のタレがなかった時に一度作っておいてよかった。

「これがお前の言っていた焼肉というやつか?」

 ニャンタは目の前でお肉が焼かれているのをみて、尻尾をピーンと立たせていた。

 その口からは涎が溢れては飲み込んでを繰り返している。

 鼻が敏感な獣人にとって、人間よりも美味しそうな匂いに敏感なんだろう。

 ちなみに冒険者ギルドには屋外と地下に訓練場があり、今回は火の危険もあるため屋外で行っている。

「お肉は赤いとお腹を壊すから、ある程度両面に焦げ目がつけて、全体的に色味が変わったら食べ頃かな」

 焼き上がった肉を手作りのタレに絡ませてから口に入れる。

 思ったよりもジビエのような臭さはなかった。

 それに日本で食べた高い焼肉店の味がして、俺はその場で震え上がった。

「おっ、おい大丈夫か?」

 涎を垂らしながら心配してくれるニャンタをよそ目に俺は手が止まらない。

「うめー! みんなの分も食ってやる」

 久々の焼肉だ。しかも、屋外だから開放感もあってさらに食が進む。

「おい、今その肉は俺が目をつけてたやつだ!」

 焼けているのに食べていないのが悪い。

「焦げたらいけないからな?」

 鼻で笑うとニャンタのスイッチが入ったのだろう。

 焼けたばかりの肉を取ろうと手を伸ばすが、それよりも速いやつがいた。

「はぁー、これは最高だな。絡み合ったタレが肉の美味さを引き出している」

 ニャンタの肉を横取りしたクジャは、初めて食べた焼肉の食レポをいきなり始めた。

 今まで肉を焼く文化はなかったのだろうか。

「これは俺のだからな!」

 まだ焼けてもいないのに、フォークを刺して肉を確保していた。

 冒険者ギルドの焼肉パーティーは戦場だった。

 あれだけ肉を買ったのに瞬く間に減っていく。

「よし、これなら――」

 ニャンタは急いで焼いた肉を口に入れた。

 やっと食べられた肉にニャンタの目は輝いていた。

「あちゃちゃちゃちゃ」

 ただ、自分が自分が猫舌だったことを忘れていたようだ。

 猫舌じゃない獣人にどんどん肉が食べられるニャンタは悲しそうにこっちを見ていた。

「ははは、もう俺が焼いてやるよ」

 ある程度食べたから焼き係に徹することにした。

 ニャンタにとってあまりにも不便だからな。

「それにしてもトモヤは器用だな」

 焼いている姿を見ているクジャは、手元をずっと見ていた。

 箸のことを言っているのだろう。

 箸と言ってもニャンタが作ってくれた簡易的な木の枝だけどな。

「この箸のことか? 焼肉を食べるのにも適しているからな」

 フォークは肉をひっくり返すのも大変そうだ。

 これで焼肉文化が広がってくれたら俺も嬉しい限りだ。

 しかし、焼肉文化が広がったのは獣人達だけではなかった。

 冒険者ギルドから定期的に出る匂いに、人間達の間では冒険者ギルドから何か魅力的な匂いがすると話題になるのはそう遅くはなかった。
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