美醜逆転した世界で俺は運命の相手を探す

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第二章 イケメンスローライフ?

43.謎の調味料店

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 俺はやっとの思いで冒険者ギルドに着くと、中は荒れていた。

 そこにはぐったりとしたニャンタや冒険者達がいた。

「おう、トモヤおかえり」

 声をかけたのは片付けをしているクジャだった。

 獣人は野蛮なイメージがあるが、血の気が多い人が多いのだろう。

「お肉買ってきましたよ」

「おおお、量が多いな」

 俺の様子に気づいたクジャはすぐに駆け寄り肉を持ってくれた。

 こういうところがモテる男なんだろうなっと思いながらニャンタを見る。

 俺の視線に気づいたのか、申し訳なさそうにこちらを見ていた。

「あー、どこかのネコとは違ってクジャは優しいね。あっ、イヌも逃げて行ったしなー」

 嫌味を言うとすぐに俺の近くに二人はやってきて正座していた。

 ついてくる予定だったニャンタと途中で逃げ出したレトリバー。

 どちらもお仕置きだ。

「おりゃー」

「おおおい、気持ち良いがなんか臭いぞ」

 さっき肉屋の男に手握られ、帰宅途中に少し肉も触ったままの手で、二人をもふもふしている。

 心地良い感触と生臭いにおいにドギマギしているのだろう。

 しばらくもふもふを堪能して俺は手を洗った。

 これでお仕置きになっただろう。

「あー、臭いぞ」
「臭いですね」

 二人は自身の体のにおいを嗅いでは臭そうにしていた。

 実際近くに行くと獣臭を感じる。

 においからしてジビエとかに近いのかもしれないな。

「じゃあ、調味料を買いたいからまた行ってくるね」

「俺もついて――」

「ニャンタ……臭いよ?」

 畳み掛けるようにニャンタをいじると、立ち止まり困った顔をしていた。

「あと冒険者ギルドをぐちゃぐちゃにしたのは誰?」

 トドメになったのか、ニャンタはシュンと落ち込んでいた。

 ちゃんと掃除もしてもらわないとクジャが大変だからな。

 そんなニャンタの様子を見てクジャは笑っていた。

「肉は食べやすい厚さに切ってもらってもいいかな?」

「あー、これぐらいの薄さか?」

 クジャは指で5cmぐらいの幅を作っていた。

 もはやそれはステーキだろう。

 冒険者ギルドも含めて、あとはクジャに任せることにした。


「なんかやらかしたっけ……」

 再び商店街に戻ると、さっきよりも人の視線を感じる。

 それも心配そうに見つめる優しい視線だ。

 俺は肉屋に寄ってみたが、あれから売れていないようだ。

 本当にこのお店は大丈夫なんだろうか。

「調味料ってどこで買える?」

「えっ!?」

 男に声をかけると驚いていた。

 そして周りの人達はソワソワとしている。

「聞いてるかー?」

 どうやらお肉の売り上げが悪くて落ち込んでいるのだろう。

 また帰りに追加で買っていくか……。

 獣人ならもっとたくさん食べそうだしな。

「調味料ってどこで買えるか知ってる?」

 もう一度尋ねると近くのお店を指さしていた。

 なぜ話さないのか疑問だが、ちゃんと教えてくれるのはありがたい。

「帰りにまた買いに来るから、そんなに落ち込むなよ!」

 それを伝えたらまた驚いた顔をしていた。

 無愛想な顔をしているのに、表情は豊かなようだ。


「いらっしゃ……」

 お店はどこか日本にもありそうな海外向けのお店の雰囲気をしている。

 物が多くて全て見るのも時間がかかりそうだ。

 奥の方には髪や髭がボサボサな男がいた。

 メガネをかけており、どこか知的な見た目が研究者のように感じる。

「調味料が欲しいんだけど売ってる?」

「えっ!? 調味料ですか?」

 反応からしてお店を間違えてしまったようだ。

 何やら瓶に入ったものがたくさん売ってはいるが、どれも黒かったり、濁っているものが多い。

「ここは錬金術……いや、調味料店です」

 何か途中まで言いかけていたが、やっぱり調味料店であっているらしい。

 それにしても調味料限定の店が存在するんだな。

 瓶を手に取り、黒い液体を見ていると男は声をかけてきた。

「ご両親のお手伝いに来たんですか?」

 あっ、このパターンって年齢を間違えられているやつだろう。

 ここはちゃんと修正をしておいた方が良さそうだな。

 子どもだと思われて面倒ごとにも巻き込まれたくないしね。

「いや、俺の買い物ですよ。これでも成人してますからね?」

「えっ!?」

 やはりどこも同じ反応なんだろう。

 そんなに子どもっぽい見た目をしているのか?

「これって少し蓋を開けてもいいですか?」

 何の商品かわからない俺は男に確認すると頷いていた。

 蓋を開けると、そこからは醤油のようなにおいがしていた。

「舐めても大丈夫なやつ?」

「食べれないことはないと思うが……」

 ああ、よく考えたら新品のやつを開けて舐める客って最悪だろうな。

 でもにおいだけじゃ醤油なのかわからない。

「少しだけでも舐めさせて?」

「舐める……」

 男は喉仏が動くほど息を呑んだ。

「なぁ、少しだけならいいだろ?」

「あっ……ああ」

 なぜか頭を抱えているが、頭が痛いのかな。

 指に垂らし、舌を出して舐める。

 味は完全に醤油で合っていた。

「うっ……」

 隣を見ると男は少し顔を赤く染めていた。

「この少し黄色がかったやつもいいか?」

 隣にあった瓶も確認してから舐めると、どうやらみりんだった。

「俺のも――」

「新品のやつを舐めてすみません。一応この辺のやつも買っていきますね」

 周辺にあった瓶をいくつか取り、カウンターに持って行く。

 その後ろを少し屈んだ状態で男はカウンターに戻っていく。

 頭の後は腰が痛いのだろう。

「よかったら今度マッサージしましょうか?」

 あまりにも腰が引けているため、相当痛みがあるのだろう。

「マッサージ……」

「今日は時間がないのでまた今度寄った時に覚えていたらやりますね」

 髪や髭、メガネで顔は見えないがきっとおじいさんなんだろう。

 俺はお年寄りには優しいからな。

「これでいくらになりますか?」

「銀貨2枚だ」

 お金を払うとお店を出て、さっきの肉屋に戻っていく。

「よっ! しょうがないで廃棄になりそうなやつ買っていくぞ」

 明らかに新鮮な肉しかないが、これだけ残っていたら廃棄する可能性がある。

 冷蔵庫にも入っていない生の肉ってすぐ腐るからだ。

「また来てくれたのか?」

 今回は話してくれたがどこか声は掠れていた。

 本当に接客も苦手なんだろう。

「さっき寄るって言ったからな! じゃあ、俺が持てる分だけ包んでくれ」

 布に包んだ調味料も持っているため、さっきよりは少なめに用意してもらった。

 この肉の量を持って帰ることを考えるとなんとも言えないが、売れ残りで廃棄処分はさせたくないからな。

「これで大丈夫か?」

 さっきよりは少なめではあるが、明らかに量が多い。

 男の手に金貨を渡すとどこか嬉しそうな顔をしていた。

 廃棄する量は減るからな。

 ただ、手を開くと金貨が3枚あることに気づいた。

「こんなには――」

「ちゃんとお金はもらえよ!」

 今頃返されても今の俺は荷物をたくさん持っているからな。

 それに気づいたのか肉屋の男も諦めてくれた。

「じゃあ、またくるねー!」

 調味料が増えたことで、さっきよりもふらふらしながら冒険者ギルドに帰っていく。

 周りからの視線が気になるが、まるで初めてのおつかいにきた気分だ。
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