美醜逆転した世界で俺は運命の相手を探す

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第一章 ここは異世界ですか?

11.小さな仕返し

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「トモヤ様、おはようございます」

「んー」

 メイドの男の娘が俺を起こしに来たようだ。

 頭が働かずぼーっとしている体をゆっくりと起こす。

「トモヤ様、朝ですよ」

「うん……」

 昔から朝起きるのが苦手だ。

 あれだけ精を放出したから、体はスッキリしているはずなのにどこか疲れている。

「朝の支度をしてお食事に参りましょうか」

 こんなに身支度の用意をしてもらうことも小さい時以来だ。

 寝ぼけた俺に次々と服を着せていく。

「本当地味ですが大丈夫ですか?」

 それは見た目のことを言っているのだろうか。

 いや、メイドの視線は俺の服を見ていた。

 今回も地味なシャツにズボンという簡単な装いだ。

 どれも裾と丈が長いのは変わりない。

 この国は既製品の服は作っておらず、基本的にオーダーメイドになっているらしい。

「ああ、ひらひらしたのも派手な色がついた服も苦手だからね」

「やはり変わり者なんですね」

 今のは完璧に侮辱だろう。

 昨日のブサメン発言と同様、このメイドは本当に俺のことに興味がないようだ。

 今日は昨日話せなかったことをクリスチャンと話す予定になっている。

「トモヤ様おはようございます」

「おはようございます」

 俺は執事に挨拶をして部屋に入る。

「あれ? まさかの俺が一番か」

 部屋には誰もおらず、一番はじめに来てしまったようだ。

「邪魔になるといけないからここにするか」

 俺は一番縁の席に座った。

 事前に2席と3席で分かれており、きっと2席の方に当主達が座るのだろう。

 暇になった俺がぼーっと働いている人達を見ていると、そこには何もなかったかのようにサバスがいた。

 目が合うと立ち止まり、次の瞬間姿が消えた。

「えっ……」

 何度も瞬きをするがサバスはいなかった。

 やはり彼は忍者なんだろうか。

 それよりまずはパンツを取り返さないといけないな。

「トモヤ様おはようございます」

 俺に声を掛けてきたのは調理場で働いていた男性だ。

「あっ、おはようございます! 昨日も美味しいご飯ありがとうございます」

 お礼を伝えるとその場にいた人達は嬉しそうにしていた。

「今日は優しいお食事にしたほうがよろしいですか?」

「いや、たぶん普通に食べられると思う。お腹もぺったんこだし」

 俺は立ち上がって服を捲る。

 本当にお腹と背中がくっつきそうだ。

 あと少し痩せたら肋骨が浮き出るのかもしれない。

「トトト、トモヤ様そのような行為はお辞めした方が……」

――パリン!

 どこかで食器を落とす音が聞こえていた。

 気持ち悪さのあまり食器を落としてしまったのだろう。

「気持ち悪かったですよね……すみません?」

 露骨に言われると流石に俺も落ち込んでしまう。

 調理場の男はその場からすぐに立ち去ったがまだ見ている人がいた。

「いえ、もっと見せてください」

「……」

 声がした方を見るとさっき消えたはずのサバスが立っていた。

「「あっ……」」

 すぐに顔を手で覆っていたが、本人もやらかしたと思ったのだろう。

 そんな中、扉が開く音がした。

 次々とウェンベルグ公爵家の人達が入ってきたのだ。

 もちろん俺はお腹を出した状態でサバスと目を合わせて固まっていた。

「サバス? これはどういう状況なのかしら?」

 クリスチャンから放たれる圧でテーブルがミシミシと言っている。

「あー、いやー、えっと……」

 サバスはしどろもどろになっていた。

 普段なら寝ぼけているが、早起きした俺の頭は冴えていた。

「サバスが俺のお腹を見たいって言うから……」

 パンツを盗んだ罰として仕返しをすることにした。

「サバス……あなた後で覚えておきなさいよ?」

 これでサバスのお仕置きが決定した。

 俺は内心ウキウキ気分だ。

 それにしても全く腹筋もなくぺったんこだな。

「俺ってみすぼらしい体だよな?」

 ロベルトに聞くと彼の顔はいつものように赤くなっていた。

「いやいや、それはないから大丈夫だぞ」

「そうよ。あなたみたいな体はこの世界を探しても中々いないわよ?」

 ロメオやクラウドもすぐにフォローしてくれて本当に優しい人達でよかった。

 そんな優しいウェンベルグ公爵家の人達に微笑み返すと、なぜかみんな震えていた。

 ラブホテルのような屋敷が地震で揺れているかのように見えるほどだ。

 クリスチャンが咳払いするとすぐに公爵家の人達は席に座った。

 その後すぐに食事が出されて朝食が始まった。

 お仕置きが決まったサバスは姿を隠さず、縁の方で棒立ちになっている。

 お仕置きが決まったから働く気力もないのだろう。

 ある程度食事を済ますとクリスチャンが本題に入った。

 どこか空気感も変わり、部屋の中には俺達だけになった。

「トモヤくん、あなたウェンベルグ公爵家の養子に入る気はないかしら?」

 聞こえてきた言葉に俺は固まってしまった。

 急に用紙・・にならないかと言われたのだ。

「えーっと、用紙って……紙ですよね?」

「紙?」

 公爵家の人達は俺の発言にみんな首を傾けていた。

 聞き間違いかと思ったが、本当に養子だったらしい。

「それって簡単になれるんですか?」

 養子になるにも俺には存在を証明する身分証明はない。

 この世界の戸籍自体ないのだ。

 だからこそ俺は養子という言葉を聞いた時に、別のものかと思った。

「手続きは必要だけど、貧困地帯に住んでいる人とか、ある一定の人達はそもそも戸籍を買うのに必死だったりするからね」

「それって……」

「この世界には奴隷と呼ばれる人達が存在するのね。その人達は戸籍はなくて買った人の所有物としての扱いになるの」

 貧困地帯でも家を持っておらず路地裏に住んでいる人や奴隷がその対象らしい。

 思ったよりもこの天国は人には優しくない世界だった。

「それで俺が養子になったら何をすればいいですか?」

 考えたがそこまでやってもらう理由がない。

 それでも公爵家の人達は笑っている。

「トモヤくんみたいな可愛い子がいたらすぐに奴隷に落とされて金稼ぎをするか、自分のものにする奴らが多いだろうね」

 こんな見た目のやつが売り物になること自体に驚きだ。

 クリスチャンの話に他の三人も頷いていた。

「少し考えさせてもらってもいいですか? 養子になるにも俺自身がこの国で何ができるかわからないので、自分が公爵家に入る価値があるのかを示したいです」

 俺自身この世界に住むことはもう受け止めている。

 ただ25歳になっても公爵家に甘えた状態で生活するのはどうかと思う。

「そこはトモヤくんの意思を尊重するわ」

「あとこの世界の常識を少し勉強するまではまだいてもいいですか?」

「それぐらい構わないわよ」

 お金を稼ぐにしても今は何も知らない。

 生きる術もない俺はすぐに野垂れ死ぬだろう。

「トモヤくんは今日何するのかしら?」

「何か手伝えることはありますか?」

「せっかくなら騎士団を見にきたらどうかしら? 帰る途中で街に寄ってみると勉強になるかもしれない」

 クラウドの提案にクリスチャンは納得していたが、ロベルトは何か不安げな顔をしていた。

「本当にあの騎士団に連れて行くのか?」

 何か問題でもある騎士団なんだろうか。

 騎士になるつもりもないから、別に行かなくてもいいが……。

「あの騎士団って言うけど、あなたも騎士になったらあそこに行くのよ?」

「……」

 ロベルトよ、なぜそこで黙るんだ。

 そんな反応だと俺は騎士団というところに行くのが怖くなってくるだろ。

「ちょうどいいんじゃないかしら。トモヤくんにこの世界での危機感を感じてもらうのもね?」

 クラウドの言葉にロベルト以外は頷いている。

 いやいや、俺は別に危機感を感じたいわけではない。

 拒否しようにもクリスチャンの圧が強く、俺は頷くしかなかった。
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