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第一章 ここは異世界ですか?

10.思春期の悩み

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 ロベルトはどこか俯いて扉の前に立っていた。

 目の下にクマが出来ているのなら早く寝たほうが良い気もするが……。

 それでも何かあって俺の部屋に来たのだろう。

「何かあったのか?」

 俺はロベルトを部屋の中に入れた。

 ただ、その場で立ったままで一向に動く気配がない。

「大丈夫?」

 初めに見た時よりもだいぶイケメンの顔が崩れている。

 目の下にクマがあるだけではなく、髪もどこかボサボサだし、何より活気がない。

「そんなとこに立ってないで座りなよ」

 俺はベッドを叩いて隣に座るように声をかけたが動く気配がない。

 この男は何をしに来たんだ?

「早く来いよ!」

 立ち上がりロベルトの手を握った。

 少し驚いた顔をしていたが、手を握り返すところは相変わらずでどこか安心した。

 にぎにぎするのも17歳がやっていると思えば可愛く見える。

 ただ、見た目はどこから見ても俺より年上だけどな。

 ロベルトをベッドに座らせ、話し始めるのを待った。

 やっぱり年上の俺が様子を見て待ってあげるべきだからね。

「……」

 部屋の中ではカチカチと時計の針の音が響いている。

「……」

 体感的には10分は経った気がする。

 重い雰囲気にならないようにずっと微笑んでいるが、なぜ何も言わないのだろう。

 ひょっとしてこれは圧をかけているのか?

 一人で頭を抱えて考えているが、その悩みもどこからか聞こえる喘ぎ声に飛んでいく。

 声からしてあれはお仕置きされているロメオだろう。

 一番遠い部屋に案内してもらったのに、ここまで響くとはどれだけ大声なんだ。

 思春期の子どもがいるのに悪影響だと感じないのだろうか。

「……」

 段々と時間は過ぎていき、色んなことが重なり次第にイライラしてきた。

 時計を見るとロベルトが部屋に来てから30分は経っていた。

「いい加減何か言ったら――」

「ごめん、トモヤは臭くないんだ!」

「ん?」

 急に出てきた発言は臭くないかという話だった。

 そういえば、さっき臭くないか確認した時に避けられていたっけ?

「嫌な気持ちにさせてすまない」

 いや、特に嫌な気持ちにはなっていないし、すぐに忘れていた。

 今までロベルトはずっと引きずっていたのだろうか。

 思ったより彼はまだまだ子どものようだ。

「あれでどれだけ嫌な気持ちに……」

 少しだけからかってやろうかと思ったがダメだった。

 チラッとロベルトを見るとさっきよりも悲しそうな顔をしていた。

 すでに目はうるうるとして、泣きそうな雰囲気を醸し出している。

 きっと犬の尻尾のようなものが生えていたら、垂れ下がっているだろう。

 大型犬のような見た目をしているのに、中身はチワワって感じだな。

「いや、特に気にしていないからな?」

「本当?」

 むしろ今は罪悪感で俺が押し潰されそうだ。

 だからそんな顔で見ないでくれ。

「ああ、本当だ。男に二言はないぞ」

 俺の言葉が伝わったのか、キラキラとした目でこちらを見ている。

 尻尾も急上昇だな。

 あまりの嬉しさにロベルトはそのまま俺に抱きついてきた。

 本当に犬みたいな性格をしているな。

 気づいたら俺はロベルトに押し倒されていた。

「本当によかった」

 イケメンって下から見てもイケメンなんだよな。

 俺なんて下から見たら二重顎になるし、ブサイク度が強化されてなんとも言えない顔になる。

「そんなに気にするな」

 俺はロベルトの頭を撫でた。

 こんなことに悩むのも若い特徴だ。

 歳を取れば嫌われていても、そんなことは気にしなくなる。

 社会に出たら考えても無駄だと思うことも多いからな。

「おい、やめろ!」

 せっかく撫でてやったのに、手を振り払って拒否されてしまった。

 どうやら中身は犬でも、触られるのは嫌いのようだ。

 大型犬かと思ったら大型猫なのかな?

 さっきまでとの態度の違いに、今度は俺が落ち込みそうだ。

「俺も男なんだぞ」

 ふとした瞬間から、空気が一変する。

 キラキラと輝いていた瞳が、徐々に深みを帯びた。

 まるで獲物を見つけた猛獣のような瞳で俺を見つめる。

「そりゃー、見たら男かどうかはわかるよ?」

「……」

 あれ?

 次第にロベルトの瞳から光が失われていく。

 なんだか俺に呆れているような気がするぞ。

「どうしたんだよ?」

「何もない」

 どうやら俺は選択をミスしてしまったようだ。

 こういうのは思春期によくあることなのだろう。

「まぁ、元気になって――」

「俺が男だと認めさせてやる」

 そのまま離れるかと思ったら、急にロベルトの顔が目の前に現れた。
 
 額と額が優しく重なり合う。

 ああ、こんなに至近距離でブサイクな俺の顔を見たら発狂するのが当たり前だが……。

 一人で耐久レースでもしているのだろうか。

「今日は帰る」

 それだけ言うと、ベッドから立ち上がり部屋から出ていく。

 彼の耳は真っ赤に染まっていた。

「あいつは何しにきたんだ?」

 結局何しにきたのかわからないが、悩みが解決できたのならそれで良いのだろう。

 眠たくなった俺はそのままベッドに入り寝ることにした。
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