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第一章 ここは異世界ですか?
1.全てが大好きでした
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「友也ごめん。俺はずっと付き合うつもりはなかった。将来は子供が欲しいんだ」
ポツポツと降り続く雨。
そんな憂鬱な日に長年付き合っていた彼から言われた言葉に俺は戸惑いを隠せない。
こんな平凡な俺でもやっと付き合えてできた恋人だった。
これからも共に過ごす。
そんなことを夢見ていた言葉は現実には存在していなかった。
期待していた未来も言葉一つですぐに崩れてしまう。
それだけ同性同士の恋愛が難しいことを知った。
「そっ……そうか。わかったよ!」
俺が笑顔を見せると、なぜか向こうのほうが悲しそうな顔をしていた。
自分から振っておいて、そんな顔をするなんて……。
そんな顔を見たかったんじゃない。
俺はどうすればよかったのだろうか。
困惑する頭のなか、俺はその場を走って逃げることしかできなかった。
いくら大好きでも結局は女の子には敵わない。
そんなことはストレートの彼を好きになった時にはわかっていた。
それでも大好きだと伝えた時に受け止めてくれた彼が好きだった。
♢
俺は都内で働いているごく普通の会社員だ。
いや、正確にいえば容姿や性格がパッとしない平凡な男と言った方が伝わるだろう。
この前、大学生の時から付き合っている彼氏から突然別れを告げられた。
今じゃなんであんな考えになったのか、しっかり理由を聞けばよかったと後悔をしている。
いや、聞いてもきっと俺には理解できないだろう。
同性愛者とストレートじゃ全く別物だからな。
あいつは優しさで俺と付き合ってくれていた。
ただ、それだけのことだ……。
仕事を終え、街中で買い物をしていると見知った後ろ姿が見えた。
「大志……?」
「待った?」
俺はその後ろ姿に声をかけようとしたが、隣からは美人な女性が歩いてきた。
女性は彼の腕に自身の腕を絡ませると、笑いながら目の前を歩いて行く。
美男美女で周りから見ても羨ましがられるほどだろう。
平凡な俺は大好きな人を美人で綺麗な女性に取られてしまった。
まさか自分の大好きだった人が、目の前で違う人と楽しそうにしているところを見るとは思いもしない。
――プー!
寝不足な体に目の前の光景が焼き付いて、脳内から警報音が鳴り響く。
いや……これは本当の警報音だろう。
隣から聞こえる車のクラクションが少しずつ近づいてきていたのを知らなかった。
信号待ちで大志を見つけた時に、追いかけるために赤信号で渡ってしまい立ち止まったことを……。
楽しかった思い出が走馬灯のように流れてくる。
初めてデートした日。
初めて手を繋いだ日。
初めてキスをした日。
初めて体を重ねた日。
どれもが俺にとって大切な思い出の時間だった。
未練がないと言ったら嘘になる。
だって、平凡な俺がやっと付き合えた初めての人だった。
「友也!」
ああ、大好きなあの人も笑顔で俺の名前を呼んでくれていたな。
きっともう呼ばれるはずのないあの人が俺の名前を呼んでいる気がした。
照れくさそうに初めて名前を呼ばれた時は嬉しかったな。
「ははは、大志は泣きそうな顔をしているね」
俺の顔に冷たい雫が流れ落ちていく。
振られた日も同じように雨が降っていた。
これは最後に神様が見せてくれた幻覚なんだろう。
「俺が間違えてた……。今日はお前と寄りを戻すためにプレゼントを買いにきたんだ」
彼の姿をした幻は今も優しい言葉をかけてくれる。
俺と付き合おうと言ってくれた日から、別れたいと言った日までずっと優しかった彼。
きっと俺を振ったのは、このまま関係を続けていたらいけないと思った彼の優しさなんだろう。
だから、俺は大好きだった優しい彼の背中を押す番だ。
「お前は女性と結婚して子供を作るんだろう。しっかりとしたお父さんになれよ!」
今日こそは降っていた雨を拭えるだろう。
俺は最後の力を振り絞り手を伸ばす。
大志の頬を伝う雨……いや、涙を手で拭うとそのまま力尽きた。
次に生まれ変わる時は両思いになれる相手と出会いたい。
俺はそう願い人生を終えた。
♢
新緑の匂いが鼻を通り、スッキリとした気持ちで俺は目を覚ました。
辺りは木々に囲まれ、森を抜ける風に頭の中は次第に冷静になってくる。
俺はあいつに別れを告げたはずなのに、なぜか森の中で寝ていた。
「俺って死んだはずじゃなかったのか……?」
死んだはずの俺が傷ひとつなく生きている。
ついさっき車かトラックかは分からないが、何かに轢かれたことまでしっかりと覚えている。
ひょっとしてここは天国なんだろうか。
「周りに……木……木……木ィー!」
俺はいつのまにか叫んでいた。
いくら何でも叫んでる奴がいたら、絶対頭がおかしい奴だと思われるだろう。
だが、叫ばずにはいられなかった。
だって天国ってこんな森の中だと思わないからな。
もっと無機質な部屋で、神様が出てきて幸せな日々を過ごせると思っていた。
ひょっとしたら森を抜けると、楽しい日々が待っているのだろうか。
俺は場所の把握をするために森を抜けようと木々をかき分けていく。
「ここは道なのか?」
何かが通る場所なのか、一本に伸びる舗装された道がそこにはあった。
俺はとりあえずそこに座って待ってみる。
森からは抜け出したが、どこに行っても今のままじゃ体力が足りないからな。
死んだ時の体が影響しているのか、歩くとすぐに息切れをしてしまう。
「大丈夫かい?」
俺は誰かに肩を叩かれて目を覚ました。
あまりの心地良さに寝てしまったようだ。
目の前には綺麗な顔立ちの男が心配そうに俺の顔を覗き込んでいた。
「綺麗だな……」
あまりの美しさに声が漏れてしまっていた。
その声を聞いた美形な彼は恥ずかしそうに顔を赤く染めたが、すぐに違う男に抱きかえられていた。
「こいつは俺のだぞ!」
綺麗な顔立ちの男の背後には、これまた少しワイルド感が入ったイケメンなおじさんがいた。
本当に〝イケオジ〟という言葉がぴったりな男性だ。
「すごいラブラブなんですね。そういう人に俺も会えたらよかったな……」
なぜか目の前の二人を見ていると、楽しかった大志との思い出に涙が出てくる。
俺はあの恋愛に未練ありありだよ!
なぜ天国に来てまで未練を引きずっていなきゃいけないんだ。
「えっ……!?」
「ちょっと、何泣かしているのよ」
考えれば考えるほど涙が止まらない。
急に俺が泣いたからか、イケメン二人があたふたとしていた。
「よかったらどうぞ」
美形の男が俺にハンカチを渡すと、そこには何かの模様と綺麗な花の刺繍がしてあった。
高価なハンカチなんだろうか。
「すみません、少し辛いことがあっただけなんで……」
渡されたハンカチで涙を拭くと、二人は優しく背中をなでてくれていた。
なんやかんやでイケオジも心配してくれる良い男だ。
そういえば、天国は男性同士の恋愛も一般的なんだろうか。
ある意味俺の願っていたところに来れて、嬉しく感じてしまう。
「二人ともかっこいいのに、性格もいいって世の中は不公平ですね」
二人は俺の言葉を聞いて、お互いに顔を見合わせている。
見つめ合う姿まで絵になるほど顔面偏差値が高い。
まるでハリウッド映画の世界に来たような感覚だ。
俺もそんな二人を見つめてしまう。
「ははは、俺達が美形って間違えだろ!」
イケオジは大きく笑っていた。
その隣では美形な男も笑っている。
笑う姿まで二人とも絵になるレベルだ。
もはや二次元を余裕で超えている。
「俺もそんな顔に生まれたかったな……」
ため息混じりな言葉に、二人は同時に俺の肩を握った。
「そんな恵まれた顔に生まれたのに文句を言うな!」
俺は何を言われているのか全く理解が出来なかった。
どこからどう見ても、彼らの方が恵まれた顔をしている。
「君はどこの町から来たんだ?」
「日本……?」
美形な男に聞かれ俺は正直に答えた。
町というか国は日本からなのだ。
「日本って知ってる?」
「いや、俺も聞いたことないぞ?」
どうやら二人とも日本を知らないらしい。
さすがに天国でも日本を知らないってことはあるのか?
「ひょっとしたら渡人かもしれない」
「ああ、みんなが憧れるような容姿を持つ人ならあり得る話だな」
話を聞いていると天国に来た人を渡人と呼ぶらしい。
それよりもさっきから俺を過大評価する声がちょくちょくと聞こえてくるのが気になる。
「俺から見たらお二人の方が優れた容姿――」
「「それはない!」」
同時に返ってくる言葉に俺は微笑ましくなっていた。
やっぱり見た目が良いやつは性格も優しいな。
凡人の俺とは正反対だ。
「よかったら私達の家に来ないか?」
「いくら俺より良い男だからって、3Pは……いや、こいつとなら……痛って!?」
イケオジは何か変なことを言ったのか、美形な男に叩かれていた。
「子供の前で何を言っているのよ」
「あっ、ごめんつい……」
きっとイケオジが尻に敷かれているのだろう。
それにしても俺が子ども扱いなのも気になる。
どこから見ても俺は成人しているぞ。
服装や手の形、その他を見ても死んだ時と変わらない。
別に童顔でもないし、そこまで小さいわけでもないしな。
「あの……俺もう25歳なんですが……」
言いづらいが年齢を修正しなきゃいけないと思い、俺が声をかけると二人は驚き固まっていた。
「3Pできるじゃねー痛っ!?」
イケオジはやはりどこか抜けているようだ。
───────────────────
【あとがき】
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そんな憂鬱な日に長年付き合っていた彼から言われた言葉に俺は戸惑いを隠せない。
こんな平凡な俺でもやっと付き合えてできた恋人だった。
これからも共に過ごす。
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「そっ……そうか。わかったよ!」
俺が笑顔を見せると、なぜか向こうのほうが悲しそうな顔をしていた。
自分から振っておいて、そんな顔をするなんて……。
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俺はどうすればよかったのだろうか。
困惑する頭のなか、俺はその場を走って逃げることしかできなかった。
いくら大好きでも結局は女の子には敵わない。
そんなことはストレートの彼を好きになった時にはわかっていた。
それでも大好きだと伝えた時に受け止めてくれた彼が好きだった。
♢
俺は都内で働いているごく普通の会社員だ。
いや、正確にいえば容姿や性格がパッとしない平凡な男と言った方が伝わるだろう。
この前、大学生の時から付き合っている彼氏から突然別れを告げられた。
今じゃなんであんな考えになったのか、しっかり理由を聞けばよかったと後悔をしている。
いや、聞いてもきっと俺には理解できないだろう。
同性愛者とストレートじゃ全く別物だからな。
あいつは優しさで俺と付き合ってくれていた。
ただ、それだけのことだ……。
仕事を終え、街中で買い物をしていると見知った後ろ姿が見えた。
「大志……?」
「待った?」
俺はその後ろ姿に声をかけようとしたが、隣からは美人な女性が歩いてきた。
女性は彼の腕に自身の腕を絡ませると、笑いながら目の前を歩いて行く。
美男美女で周りから見ても羨ましがられるほどだろう。
平凡な俺は大好きな人を美人で綺麗な女性に取られてしまった。
まさか自分の大好きだった人が、目の前で違う人と楽しそうにしているところを見るとは思いもしない。
――プー!
寝不足な体に目の前の光景が焼き付いて、脳内から警報音が鳴り響く。
いや……これは本当の警報音だろう。
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「友也!」
ああ、大好きなあの人も笑顔で俺の名前を呼んでくれていたな。
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きっと俺を振ったのは、このまま関係を続けていたらいけないと思った彼の優しさなんだろう。
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今日こそは降っていた雨を拭えるだろう。
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だって天国ってこんな森の中だと思わないからな。
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森からは抜け出したが、どこに行っても今のままじゃ体力が足りないからな。
死んだ時の体が影響しているのか、歩くとすぐに息切れをしてしまう。
「大丈夫かい?」
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あまりの心地良さに寝てしまったようだ。
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「綺麗だな……」
あまりの美しさに声が漏れてしまっていた。
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「こいつは俺のだぞ!」
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本当に〝イケオジ〟という言葉がぴったりな男性だ。
「すごいラブラブなんですね。そういう人に俺も会えたらよかったな……」
なぜか目の前の二人を見ていると、楽しかった大志との思い出に涙が出てくる。
俺はあの恋愛に未練ありありだよ!
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「えっ……!?」
「ちょっと、何泣かしているのよ」
考えれば考えるほど涙が止まらない。
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「よかったらどうぞ」
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高価なハンカチなんだろうか。
「すみません、少し辛いことがあっただけなんで……」
渡されたハンカチで涙を拭くと、二人は優しく背中をなでてくれていた。
なんやかんやでイケオジも心配してくれる良い男だ。
そういえば、天国は男性同士の恋愛も一般的なんだろうか。
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「二人ともかっこいいのに、性格もいいって世の中は不公平ですね」
二人は俺の言葉を聞いて、お互いに顔を見合わせている。
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まるでハリウッド映画の世界に来たような感覚だ。
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「ははは、俺達が美形って間違えだろ!」
イケオジは大きく笑っていた。
その隣では美形な男も笑っている。
笑う姿まで二人とも絵になるレベルだ。
もはや二次元を余裕で超えている。
「俺もそんな顔に生まれたかったな……」
ため息混じりな言葉に、二人は同時に俺の肩を握った。
「そんな恵まれた顔に生まれたのに文句を言うな!」
俺は何を言われているのか全く理解が出来なかった。
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「君はどこの町から来たんだ?」
「日本……?」
美形な男に聞かれ俺は正直に答えた。
町というか国は日本からなのだ。
「日本って知ってる?」
「いや、俺も聞いたことないぞ?」
どうやら二人とも日本を知らないらしい。
さすがに天国でも日本を知らないってことはあるのか?
「ひょっとしたら渡人かもしれない」
「ああ、みんなが憧れるような容姿を持つ人ならあり得る話だな」
話を聞いていると天国に来た人を渡人と呼ぶらしい。
それよりもさっきから俺を過大評価する声がちょくちょくと聞こえてくるのが気になる。
「俺から見たらお二人の方が優れた容姿――」
「「それはない!」」
同時に返ってくる言葉に俺は微笑ましくなっていた。
やっぱり見た目が良いやつは性格も優しいな。
凡人の俺とは正反対だ。
「よかったら私達の家に来ないか?」
「いくら俺より良い男だからって、3Pは……いや、こいつとなら……痛って!?」
イケオジは何か変なことを言ったのか、美形な男に叩かれていた。
「子供の前で何を言っているのよ」
「あっ、ごめんつい……」
きっとイケオジが尻に敷かれているのだろう。
それにしても俺が子ども扱いなのも気になる。
どこから見ても俺は成人しているぞ。
服装や手の形、その他を見ても死んだ時と変わらない。
別に童顔でもないし、そこまで小さいわけでもないしな。
「あの……俺もう25歳なんですが……」
言いづらいが年齢を修正しなきゃいけないと思い、俺が声をかけると二人は驚き固まっていた。
「3Pできるじゃねー痛っ!?」
イケオジはやはりどこか抜けているようだ。
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