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128.出発 ※一部アドル視点

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「にいちゃ?」
「お兄ちゃん?」

 俺はゆっくり目を開けるとロンとニアは心配するように顔を覗き込んでいた。

「大丈夫?」

「目を閉じてからずっと動かなかったけど……」

 どうやら二人から見たら俺はただ目を閉じて止まっていたらしい。両親に会っていたが実際のは時間はほんの数秒だ。

「ちょっとあいさつしてたんだ」

「あいさつ?」

「ああ、母さんと父さんに大事な家族ができたって報告だよ」

 俺の言葉を聞いて二人も目を閉じて小さな声で自己紹介をしていた。二人の気持ちはきっと俺の両親に届いただろう。

 それにしても俺は運命の出会いをしていた。両親と同じパーティーメンバーのモーリンやメジストに会わなければ今のような幸せはなかった。

 早くあって二人に報告したいと思った。俺達はこの後来た順番と反対に帰っていく予定だ。

「帰りは馬車が来るまで待つ?」

「んー、にいちゃに任せるよ」

「私はここにくる前に見た荒野に行ってみたいかな? あそこにお兄ちゃんのお母さんとお父さんが戦った痕跡があるんだよね」

「村長はそう言ってたね。なら歩いてそこに寄ってから近くの村で乗り合い馬車に乗ろうか」

 乗り合い馬車はすぐには来ないため数日は待つ予定だった。ただ、ジェラリー村にいてもやることはないため荒野に行くことにした。

 村長にはそう伝えると近くの村にタイミングよく乗り合い馬車が来るらしい。

 荷物をまとめた俺達は荒野に向かって出発することにした。





「ねぇ、アドルが住んでた故郷はまだかしら?」

「もう少しだ」

 俺達は生まれ故郷であるジェラリー村に帰ることにした。

 シャルロは自分を見下していた王族の兄妹に会いに行ったらしいが雰囲気が変わっていたらしい。

 喧嘩腰に話しかけたのにあっさりスルーされてシャルロはしばらく不機嫌だった。

 その間に俺達は王都の冒険者ギルドに行くことにした。生優しい雰囲気で俺は好まないが聞いた情報に驚いた。

 それはあのウォーレンが"勇者"と呼ばれる存在になっていた。

 何もできないお金しか持ち運ぶことができなかったポーターが勇者なんて馬鹿げている。

 ただその話は事実だった。王都にいるだけでウォーレンの話は耳に入ってくるし、冒険者ギルドではどこか俺達に高圧的だった。

 俺よりあいつが目立っているのが許せない。俺が一番愛されないといけない。それは昔から決まっていることだ。

「ここって何かしら?」

 アテナは外を見ていると何かが気になったらしい。外を見るとそこは荒野だった。

 小さい頃から勇者が魔王と戦った跡地として言われており、元々は大きな山が激しい戦いで姿が二日で変わったと父から聞いている。

「少し寄ってみるか?」

「えー、私暑いところ嫌だよ?」

「せっかくだから観光したことにすればいいんじゃないか?」

 この荒野を見るにはかなり田舎に来ないといけない。それだけ俺が生まれ育った故郷が田舎なのだ。

「俺も行かなくて――」

「アドルは行くの!」

「ってアテナが言ってるから少し行ってくるわ」

 仕方なく馬車から降りるとマリベルとシャルロは不機嫌になっていた。

「んー、アドルが観光って言ったから行くんだからね!」

「私も仕方なくよ」

 置いてかれるのは嫌なのか二人も馬車を降りた。

「じゃあここで待っててくれ」

「わかりました」

 奴隷に馬車の管理を任せて俺達は荒野に向かって歩くことにした。
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