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102.暴食スライム

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 いつのまにか真っ白な空間にいた。ただ何もない空間に突然男が現れるとすぐにその人が誰かわかった。

 俺は男に話しかけると、どこか話し慣れてないのか声がガサガサとして聞きづらかった。

 それでも相手の話すことが理解出来るのはスキル【共鳴吸収】のおかげだろう。

 男と話していると俺はどこか違和感を感じていた。今までの記憶がないのか少し混乱している様子だった。

 だから俺は記憶を共有することにした。男からもらった記憶をまた戻すことは出来るはずだ。その時はなぜかやったこともないのに出来ると俺の中の何かが言っていた。

 俺は男に近づき赤く染まった手を握った。血がついた手とわかっていても家族を守るために来世の自分を犠牲にしたその人を俺は尊敬している。

「ああああぁぁぉ」
 突然男が叫び始めるとどこか苦しんでいるようだった。

「大丈夫ですよ」
 気づいたら男を優しく抱きしめていた。ロンとニアから知らぬ間に学んだように俺も包み込むように優しく撫でると男は次第に落ち着きを取り戻した。

「恵美……空……海……」
 家族との記憶が少しずつ戻ってきているのだろう。目から流れる涙はいつまでも止まらなかった。





「ああ、こんな姿を見せてすみません」
 俺はその後も男の様子を見ていたが、自分の前世とやっていたことを思い出したのだろう。

「大丈夫ですよ。 それでどうでしたか?」

「ははは、夫……父親……いや、人として最低のことをしていましたね」
 実際の姿はスライムだから人ではないがやってはいけないことは同じだ。

「ここに来る前にあいつらに約束したんです。 って……。 でも、こんなに人を殺したらいつになってもあいつらの元にはいけないな」
 男はどこか遠くを見ていた。俺も記憶を知っているため、きっと謎の人物が言っていたことを思っているのだろう。

 "人殺し"には死んだ後の人生は良いものではない。俺も男の記憶を覗いたからこそ知ったことだ。

 俺ただ人を殺さないように静かに生きてもらえれば問題ない。分離していたスライムは俺がここに来る前に概ね吸収してきたからな。

「俺はここで最後を終えます」

「えっ!?」
 俺は男の発言に驚いた。あれだけ人を殺したら次に生まれ変わる時は蟻やミトコンドリアという聞いたこともない生物にではなく存在自体がなくなると俺でもわかっている。

「本当にそれでいいんですか?」

「はい……。 俺がこのまま生きていたらもっと人を傷つけてしまう。 俺は少しでもあいつらの良い父親で死にたいんだ」
 必死に訴える男の姿に俺は少しでも希望を叶えてあげたいと思った。それが唯一この男にできる最後の贈り物だ。

「準備はいいですか?」

「ああ」
 俺は再び男の手を強く握った。男がこれからも幸せになれるよう強く強く願った。

 男から次第に光粒子が出てくると上へ上へと上がり、気づいた時には男の存在が少しずつ薄くなっていた。

「ウォーレンくん……最後に大切な記憶を教えてくれてありがとう」

「こちらこそ家族の大切さを教えてくれてありがとう」
 俺は俺なりに報われない男の気持ちにお礼を告げた。

 気づいた時にはさっきまで男がいたところには手に収まるほどの大きさで純度が高く真っ黒な魔石が置いてあった。

「スキル【共鳴吸収】、対象者スライムの吸収を終えました。 能力値を更新します」
 脳内に響くアナウンスは俺の中にいる男に届くよう、安らかな眠りにつくように願った鎮魂曲に聞こえた。

 スライムは俺の中に記憶として残るように、俺とともに生きる選択をした。
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