上 下
101 / 141

101.転生 ※別視点

しおりを挟む
「いい加減うるさいから黙れ。 人殺しの分際で何言ってんだ」
 泣き叫ぶ俺の口から急に声が出なくなった。息を吐いても何も発声されないのだ。

 男を見るとニヤリと笑っている。無表情だった男が笑った表情は背筋が凍るような恐ろしさを感じた。

「ははは、それでは人殺しにはそれ相当のカードを選ばせよう」
 俺の目の前にもカードが3枚空中に浮いていた。俺はカードと男を交互に見ているとイラついているのか声を荒げて怒鳴ってきた。

「お前みたいな人殺しはどの人生でも変わらないんだよ! 早く選べ」
 俺はとりあえず直感で右のカードを選んだ。

「ははは、次の人生で良い行いをするんだな。 きっとスライムでは無理だと思うけどな」
 俺は男を睨みつけると他の2枚のカードも俺に見せつけてきた。

「アリとミトコンドリアよりは良かったな」
 俺は現実世界に行っていたらアリかミトコンドリアになっていたらしい。どっちにしても俺は家族には会えないことを知った。

「これで世界の均衡が取れるだろう」
 男はボソッと呟いていたが、消えていく俺にはすでに聞こえなかった。





 気づくと何も聞こえず、話せない環境で常に孤独と戦っていた。生きていたのか死んでるのかもわからず気づいたら刺激を求めている自分がいる。

 だから俺は知らぬ間に光を求めて輝かしいところに惹かれていた。

 そんな俺の目の前に突如現れたそいつに俺は魅了され、いつのまにか忘れていた何かを思い出すようにそいつを求めた。

「家族を守るために戦ったはずが離れ離れになったんですね」
 何もない真っ暗な空間でそいつは俺に話しかけてきた。

「お前は誰なんだ」
 話せないはずの口から久しぶりに声が出た。

「僕ですか? 僕はウォーレンと言います。 あなたは?」

「私は……」
 答えようとしたが自分の名前が思い出せなかった。そもそも俺に名前はあったのだろうか。

「パパ? 父ちゃん?」
 そいつは俺のことをそう呼んでいた。どこか懐かしい言葉に俺の視界は急に明るくなった。

「ああ、君がウォーレンくんか」
 俺の目の前にはどこかあどけなさが残る若い男の子が立っている。

 いつのまにか真っ暗な視界に色味が入り、鮮やかにはっきりと見えていた。

「やっと姿が見えましたね」

「えっ!?」
 俺は視線下ろすと体中が赤く染まっているが手や足がちゃんとついていた。いつぶりかわからない人の形をしているのだ。

「ははは、やっと体を手に入れたぜ」
 今まで何も分からなかった世界が一瞬にして変わったのだ。ずっと暗い空間にいた俺にとっては初めての感情だ。

「今までこんな空間にいたんですか?」

「ああ、今まではずっと真っ暗なところだったからな。 ただ俺は真っ直ぐ手を伸ばしてたらお前が立っていた」

「そうなんですね。 じゃあ外ではどんなことが起きているのか知ってますか?」

「お前は何言ってんだ?」
 この男は何を言っているのだろう。俺はずっとここにいたから外に出たことはない。

 むしろやっと真っ暗な部屋から出たからここが外なのだ。

「そうなんですね。 じゃあこの記憶をお返ししますね」
 男は近づいてくると俺の手を握った。赤く染まった手を嫌な顔もせず、彼の笑顔は大事な何かを思い出させてくれると感じた。

「温かいな」
 どこか懐かしくほっとする温かさに安心した。俺が求めていたのはこれだったと心の底から何かが溢れてきた。

「スキル【共鳴吸収】が発動されました」
 脳内に流れてくる声とともに感じたことのない痛みに突然襲われた。

「ああああぁぁぉ」
 俺の中に知らなかった記憶が直接脳内に電気を送るように流れてきた。そこで俺は気づいてしまった。

 自分は手もつけられないほどの人殺しになっていたということを……。
しおりを挟む
感想 22

あなたにおすすめの小説

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

ザコ魔法使いの僕がダンジョンで1人ぼっち!魔獣に襲われても石化した僕は無敵状態!経験値が溜まり続けて気づいた時には最強魔導士に!?

さかいおさむ
ファンタジー
戦士は【スキル】と呼ばれる能力を持っている。 僕はスキルレベル1のザコ魔法使いだ。 そんな僕がある日、ダンジョン攻略に向かう戦士団に入ることに…… パーティに置いていかれ僕は1人ダンジョンに取り残される。 全身ケガだらけでもう助からないだろう…… 諦めたその時、手に入れた宝を装備すると無敵の石化状態に!? 頑張って攻撃してくる魔獣には申し訳ないがダメージは皆無。経験値だけが溜まっていく。 気づけば全魔法がレベル100!? そろそろ反撃開始してもいいですか? 内気な最強魔法使いの僕が美女たちと冒険しながら人助け!

イレギュラーから始まるポンコツハンター 〜Fランクハンターが英雄を目指したら〜

KeyBow
ファンタジー
遡ること20年前、世界中に突如として同時に多数のダンジョンが出現し、人々を混乱に陥れた。そのダンジョンから湧き出る魔物たちは、生活を脅かし、冒険者たちの誕生を促した。 主人公、市河銀治は、最低ランクのハンターとして日々を生き抜く高校生。彼の家計を支えるため、ダンジョンに潜り続けるが、その実力は周囲から「洋梨」と揶揄されるほどの弱さだ。しかし、銀治の心には、行方不明の父親を思う強い思いがあった。 ある日、クラスメイトの春森新司からレイド戦への参加を強要され、銀治は不安を抱えながらも挑むことを決意する。しかし、待ち受けていたのは予想外の強敵と仲間たちの裏切り。絶望的な状況で、銀治は新たなスキルを手に入れ、運命を切り開くために立ち上がる。 果たして、彼は仲間たちを救い、自らの運命を変えることができるのか?友情、裏切り、そして成長を描くアクションファンタジーここに始まる!

月が導く異世界道中extra

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  こちらは月が導く異世界道中番外編になります。

月が導く異世界道中

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  漫遊編始めました。  外伝的何かとして「月が導く異世界道中extra」も投稿しています。

女神から貰えるはずのチート能力をクラスメートに奪われ、原生林みたいなところに飛ばされたけどゲームキャラの能力が使えるので問題ありません

青山 有
ファンタジー
強引に言い寄る男から片思いの幼馴染を守ろうとした瞬間、教室に魔法陣が突如現れクラスごと異世界へ。 だが主人公と幼馴染、友人の三人は、女神から貰えるはずの希少スキルを他の生徒に奪われてしまう。さらに、一緒に召喚されたはずの生徒とは別の場所に弾かれてしまった。 女神から貰えるはずのチート能力は奪われ、弾かれた先は未開の原生林。 途方に暮れる主人公たち。 だが、たった一つの救いがあった。 三人は開発中のファンタジーRPGのキャラクターの能力を引き継いでいたのだ。 右も左も分からない異世界で途方に暮れる主人公たちが出会ったのは悩める大司教。 圧倒的な能力を持ちながら寄る辺なき主人公と、教会内部の勢力争いに勝利するためにも優秀な部下を必要としている大司教。 双方の利害が一致した。 ※他サイトで投稿した作品を加筆修正して投稿しております

【悲報】人気ゲーム配信者、身に覚えのない大炎上で引退。~新たに探索者となり、ダンジョン配信して最速で成り上がります~

椿紅颯
ファンタジー
目標である登録者3万人の夢を叶えた葭谷和昌こと活動名【カズマ】。 しかし次の日、身に覚えのない大炎上を経験してしまい、SNSと活動アカウントが大量の通報の後に削除されてしまう。 タイミング良くアルバイトもやめてしまい、完全に収入が途絶えてしまったことから探索者になることを決める。 数日間が経過し、とある都市伝説を友人から聞いて実践することに。 すると、聞いていた内容とは異なるものの、レアドロップ&レアスキルを手に入れてしまう! 手に入れたものを活かすため、一度は去った配信業界へと戻ることを決める。 そんな矢先、ダンジョンで狩りをしていると少女達の危機的状況を助け、しかも一部始終が配信されていてバズってしまう。 無名にまで落ちてしまったが、一躍時の人となり、その少女らとパーティを組むことになった。 和昌は次々と偉業を成し遂げ、底辺から最速で成り上がっていく。

隠して忘れていたギフト『ステータスカスタム』で能力を魔改造 〜自由自在にカスタマイズしたら有り得ないほど最強になった俺〜

桜井正宗
ファンタジー
 能力(スキル)を隠して、その事を忘れていた帝国出身の錬金術師スローンは、無能扱いで大手ギルド『クレセントムーン』を追放された。追放後、隠していた能力を思い出しスキルを習得すると『ステータスカスタム』が発現する。これは、自身や相手のステータスを魔改造【カスタム】できる最強の能力だった。  スローンは、偶然出会った『大聖女フィラ』と共にステータスをいじりまくって最強のステータスを手に入れる。その後、超高難易度のクエストを難なくクリア、無双しまくっていく。その噂が広がると元ギルドから戻って来いと頭を下げられるが、もう遅い。  真の仲間と共にスローンは、各地で暴れ回る。究極のスローライフを手に入れる為に。

処理中です...