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第六章 春の準備
179.ママ聖女、常識が通用しない
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別室に通されるとそこは商談室なのか、テーブルとソファーがいくつも置いてあった。
「ママ先生、この部屋オレ達の部屋より広いね」
「みんなで寝れそうだね」
クロやキキも周囲が気になっているのか、キョロキョロと見渡していた。
「ここはご贔屓させていただいている貴族と商談する部屋になります」
「そんなところに来ても大丈夫なんですか!?」
「これからお得意様になりますからね」
不敵な笑みを浮かべている商人団長に、つい私の顔も引き攣ってしまう。
きっと彼からしたら、私はお金のなる木のような存在なんだろう。
それなら私も利用しない手はないからね。
「「ふふふ」」
私と商人団長の笑い声が、部屋の中に静かに響く。
「二人とも変な顔をしているね」
「そういうのは口に出したらダメだぞ」
クロとアルヴィンが何かを話していたが、そんなことは気にしない。
――トントン!
「失礼します」
扉をノックすると男女数人が部屋に訪れた。
「ああ、私の商会で働いている仕立屋と裁縫師です」
さっきドレスの新しいデザインという話が出て、商人団長が呼んだのだろう。
「彼らにはお店の制服のデザインとドレスのデザインを担当してもらう」
何人か紹介されると頭を下げていた。
仕立屋は男性ばかりだが、裁縫師には女性も混ざっていた。
きっと使える人なら性別関係なく雇っているのだろう。
ただ、気になったのは制服のデザインをしてもらうってことだ。
子ども達はこれから大きくなるのに、制服を作ってもらっても良いのだろうか。
この世界の服って既製品がないから、高くなってしまうのが問題になってくる。
いつも買うのは貴族達や裕福な家庭が着ていた古着ばかりで、どうにかやりくりしているぐらいだからね。
「私達のお店に制服を準備してもらってもいいんですか?」
「構わないですよ。まずこれを食べてみたらわかると思います」
テーブルの上にいくつかケーキのようなものが置かれていく。
見た目的にはパウンドケーキに近い。
そんなケーキをクロとキキは興味津々に見ていた。
「食べても大丈夫ですよ」
待っていた犬のように、商人団長の言葉に反応し、すぐにケーキを手に取り口に運んだ。
「ん? これは甘いの?」
「全然美味しくないよ?」
クロとキキは不思議そうな顔をしていた。
私も一口もらうと、ほんのり果実の甘みとボソボソとした食感が特徴的だった。
フルーツケーキならもう少ししっとりしているはずだし、パウンドケーキよりはパンに近い。
「これが貴族達の食べている菓子ですね」
「へっ!?」
私はあまりにも質素な味に驚いたが、貴族出身である他の人達は頷いていた。
「マミさんも孤児院で食べているものが、かなり特別なのを知った方が良いですよ」
「マミ先生の料理は今まで食べたものの中で一番美味しいからな」
孤児院の食事環境があまり良くないと思っていたが、貴族もそこまで変化がないようだ。
いつもアルヴィンやレナードが美味しいと褒めてくれていたのは、お世辞ではなく本音だった。
それにあまり美味しくないお菓子を食べて、商人団長の言いたいことがわかった。
「平民ばかり美味しいものを食べていると、また何かしら変なことに巻き込まれる可能性があるってことですね」
「そういうことですね。なので服装からしっかり整えていた方が良いかと思います」
現状、バッカアやアンフォですら孤児院に来ることが増えた。
そんな中で他の貴族達が噂をかぎつけて来ないはずがない。
公爵家が出入りしていたら、気になる人が出てくる可能性がある。
それにマヨネーズが流行った時に、貴族の学生達が興味を示して大事件になったのを忘れていない。
お店に貴族が来て、見窄らしい格好をしている子ども店員を見て、また面倒ごとになるのもね。
ここは商人団長の言っている通りに従った方が良いのだろう。
「ではまず制服のデザインですが――」
私はいくつか子ども達が着れる制服を考えていた。
考えたって言ってもイメージはカフェの店員の装いに近いスモックの提案だ。
子ども達が大きくなっても、園児が着るような上から着るスモックなら使い回しができるだろう。
基本的にはズボンかスカートの上にスモックを着てもらえば問題ないしね。
少しデザインが凝っていて、見た目が上品に作れたら貴族相手でも良いはず。
助けを求めるように他の人達に目を向けるが、どこか反応は違っていた。
「やっぱりマミさんは変わってますね」
「お姉様、そんな装いは今までありませんでしたわ」
「へっ……?」
どうやらスモックくらいはあると思ったが、この世界にはまだ存在はしていないようだ。
---------------------
【あとがき】
二巻は読んでいただけたでしょうか。
バッカアがかなりイケメンですよね笑
気づいている人もいると思いますが、実は書籍版は二巻で完結となります。
デビュー作で二巻まで出せて光栄です。
続きはweb版で完結していきたいと思います。
他の仕事やコンテストに向けてゆっくりにはなりますが……笑
新作も投稿したので、ぜひ読んで見てください!
⭐︎タイトル⭐︎
田舎の中古物件に移住したら、なぜか幼女が住んでいた~ダンジョンと座敷わらし憑きの民泊はいかがですか?~
https://www.alphapolis.co.jp/novel/115169550/259852794
「ママ先生、この部屋オレ達の部屋より広いね」
「みんなで寝れそうだね」
クロやキキも周囲が気になっているのか、キョロキョロと見渡していた。
「ここはご贔屓させていただいている貴族と商談する部屋になります」
「そんなところに来ても大丈夫なんですか!?」
「これからお得意様になりますからね」
不敵な笑みを浮かべている商人団長に、つい私の顔も引き攣ってしまう。
きっと彼からしたら、私はお金のなる木のような存在なんだろう。
それなら私も利用しない手はないからね。
「「ふふふ」」
私と商人団長の笑い声が、部屋の中に静かに響く。
「二人とも変な顔をしているね」
「そういうのは口に出したらダメだぞ」
クロとアルヴィンが何かを話していたが、そんなことは気にしない。
――トントン!
「失礼します」
扉をノックすると男女数人が部屋に訪れた。
「ああ、私の商会で働いている仕立屋と裁縫師です」
さっきドレスの新しいデザインという話が出て、商人団長が呼んだのだろう。
「彼らにはお店の制服のデザインとドレスのデザインを担当してもらう」
何人か紹介されると頭を下げていた。
仕立屋は男性ばかりだが、裁縫師には女性も混ざっていた。
きっと使える人なら性別関係なく雇っているのだろう。
ただ、気になったのは制服のデザインをしてもらうってことだ。
子ども達はこれから大きくなるのに、制服を作ってもらっても良いのだろうか。
この世界の服って既製品がないから、高くなってしまうのが問題になってくる。
いつも買うのは貴族達や裕福な家庭が着ていた古着ばかりで、どうにかやりくりしているぐらいだからね。
「私達のお店に制服を準備してもらってもいいんですか?」
「構わないですよ。まずこれを食べてみたらわかると思います」
テーブルの上にいくつかケーキのようなものが置かれていく。
見た目的にはパウンドケーキに近い。
そんなケーキをクロとキキは興味津々に見ていた。
「食べても大丈夫ですよ」
待っていた犬のように、商人団長の言葉に反応し、すぐにケーキを手に取り口に運んだ。
「ん? これは甘いの?」
「全然美味しくないよ?」
クロとキキは不思議そうな顔をしていた。
私も一口もらうと、ほんのり果実の甘みとボソボソとした食感が特徴的だった。
フルーツケーキならもう少ししっとりしているはずだし、パウンドケーキよりはパンに近い。
「これが貴族達の食べている菓子ですね」
「へっ!?」
私はあまりにも質素な味に驚いたが、貴族出身である他の人達は頷いていた。
「マミさんも孤児院で食べているものが、かなり特別なのを知った方が良いですよ」
「マミ先生の料理は今まで食べたものの中で一番美味しいからな」
孤児院の食事環境があまり良くないと思っていたが、貴族もそこまで変化がないようだ。
いつもアルヴィンやレナードが美味しいと褒めてくれていたのは、お世辞ではなく本音だった。
それにあまり美味しくないお菓子を食べて、商人団長の言いたいことがわかった。
「平民ばかり美味しいものを食べていると、また何かしら変なことに巻き込まれる可能性があるってことですね」
「そういうことですね。なので服装からしっかり整えていた方が良いかと思います」
現状、バッカアやアンフォですら孤児院に来ることが増えた。
そんな中で他の貴族達が噂をかぎつけて来ないはずがない。
公爵家が出入りしていたら、気になる人が出てくる可能性がある。
それにマヨネーズが流行った時に、貴族の学生達が興味を示して大事件になったのを忘れていない。
お店に貴族が来て、見窄らしい格好をしている子ども店員を見て、また面倒ごとになるのもね。
ここは商人団長の言っている通りに従った方が良いのだろう。
「ではまず制服のデザインですが――」
私はいくつか子ども達が着れる制服を考えていた。
考えたって言ってもイメージはカフェの店員の装いに近いスモックの提案だ。
子ども達が大きくなっても、園児が着るような上から着るスモックなら使い回しができるだろう。
基本的にはズボンかスカートの上にスモックを着てもらえば問題ないしね。
少しデザインが凝っていて、見た目が上品に作れたら貴族相手でも良いはず。
助けを求めるように他の人達に目を向けるが、どこか反応は違っていた。
「やっぱりマミさんは変わってますね」
「お姉様、そんな装いは今までありませんでしたわ」
「へっ……?」
どうやらスモックくらいはあると思ったが、この世界にはまだ存在はしていないようだ。
---------------------
【あとがき】
二巻は読んでいただけたでしょうか。
バッカアがかなりイケメンですよね笑
気づいている人もいると思いますが、実は書籍版は二巻で完結となります。
デビュー作で二巻まで出せて光栄です。
続きはweb版で完結していきたいと思います。
他の仕事やコンテストに向けてゆっくりにはなりますが……笑
新作も投稿したので、ぜひ読んで見てください!
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