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第六章 春の準備

178.ママ聖女、注目される

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「たくさん馬車が通ってますね……」

 貴族街に入ると、前回来た時よりも明らかに人通りが増えていた。

 ほとんど馬車ばかりだが、チラホラと学園の制服を着た学生も数人は歩いているようだ。

「そんなに集まりが多いんですか?」

「ずっとできなかった活動を一気に再開するようなものですからね」

 まず無事に冬を乗り越えて成長するお祝い。

 これが一般的に生誕祭と呼ばれて、スキルを教会で授けられるお祝いごとになる。

 その後に貴族達の仲間入りをするお披露目会。

 ここでは5歳になった我が子を紹介したり、婚約相手を探したりなど、貴族の繋がりを強めるところらしい。

 そして、最後に学園の入学および進級パーティーがある。

 それ以外にも貴族の派閥達が集まって行うお茶会があったりと、急に活動的になるのが毎年の始まりのようだ。

「私もここに来て一年になるんですね」

「俺と出会ったのも全てのパーティーが終わった後だったもんな」

「来た瞬間に槍を向けられたことを覚えていますよ?」

 良い感じに言ってはいるが、バッカアがやったことは忘れていない。

「うっ……」

 バッカアを見ると狼狽えていた。

 貴族の集まりで聖女を召喚することが決まり、私達はこの世界に召喚された。

「今年はマミ先生がいてよかった」

「去年は大変でしたからね……」

 アルヴィンとレナードは去年のことを思い出して、げっそりとした顔をしていた。

 第二騎士団の所属する二人は魔物の討伐に行っていたのだろう。

 大流行の風邪で子どもが亡くなり、魔物の大群が押し寄せてきたら、誰かに頼りたくなるのもわからなくもない。

 それに魔物の数が増えたことで、穢れた土地ができたと判断したのだろう。

 それだけ去年は冬の間に聖女が必要だったってことだ。

 決して今年は私が何かをしたわけではなくて、運が良かっただけなんだろう。

「じゃあ、中に入りましょうか」

 いつのまにかカゼキ商会のお店の前に来ると、アンフォは嬉しそうに私の手を握って店内に入っていく。

 そんなに私と買い物に行きたかったのかな?

「いらっしゃいませ!」

 店内に入ると様々な商品が置かれていた。

 商品ごとに綺麗に分けられており、まるで高級ブランドの路面店に入ったような雰囲気が漂っていた。

「商人団長はいるか?」

 アルヴィンが店員に声をかけると、すぐに店の奥に呼びに行った。

「ロジャース公爵家のアルヴィン様ですね。少々お待ちください」

 顔を見ただけでアルヴィンと知っているのは、それだけ教育されている店員なんだろう。

「久々にここに来たな」

「バカ兄はあまり来ないの?」

「買い物が好きじゃないからな」

 バッカアとクロはそこまで店の中に興味はないようだ。

 一方女性達の反応は違った。

「レナ姉あれはなに?」

「あれは男性の婚約者に送るカフスボタンだよ」

「カフスボタン?」

「女性はカフスボタン、男性はブローチを婚約者の方にプレゼントする風習になっているんです」

「キラキラしててかわいいね」

「私もほしいなー」

 女の子は可愛いものに興味津々のようだ。

 そして、興味津々なのは私達だけではなかった。

「なぜ獣人が貴族街にいるのかしら?」

「あそこにいるのはアルヴィン様とバッカア様よね?」

「どういう関係なのかしら」

 やはり獣人に対しての印象はあまり良くないような気がする。

 子ども達は耳をピクピクしているから、会話の内容は聞こえているのだろう。

 ただ、貴族でも公爵であるアルヴィンとバッカアが隣にいるからか、変なことを言わないようにしているようだ。

 それにロジャース公爵家とグシャ公爵家って派閥が違うから、一緒にいることすら珍しい。

 それにコソコソと言われているのは、子ども達だけではない。

「あの格好は何かしら?」

「女性が男装するなんて……」

「でもあそこにいるのはグシャ公爵家のアンフォ令嬢よ? 新しい流行りのなのかもしれないわ」

 どうやらパンツスタイルが注目を集めているようだ。

 店内の中には学生もいるため、アンフォも注目の的になっている。

 店内の視線が全て集まって、居心地の悪い空間ですでに帰りたくなってきた。

 周囲の目を気にする日本人は、こうやって晒されることに慣れてないからね。

「みなさん本日はご足労いただきありがとうございます」

 そんな中、さらに注目を集めるようにカゼキ商会の商人団長がやってきた。

「直接商人団長が声をかけているあの人は誰かしら?」

「獣人といるってことは、愚息が女神様と言っていた人じゃないかしら?」

「呪いを一人で追い払ったと言われてるあの人!?」

 きっとマヨネーズ事件の時に治療した子の親がいるのだろう。

 貴族の中で私の印象も変わりつつあるようだ。

 ただ、女神様と呼ぶのはやめてほしい。

「今回はどのようなご用件ですか?」

「今日は制服の相談に――」

「お姉様が新しいデザインのドレスを作りたいそうよ!」

 私の声をかき消すような大きさでアンフォは話し始めた。

 その言葉に商人団長の目が輝き出す。

「また新しい商品があるんですね」

 いつもの獲物を狙うような目になっていた。

 大体こういう時の獲物は私だもんね。

 ボソッと前の世界であった物を話すと、すぐに商人団長は新しいアイデアとして取り組もうとする。

 それだけ新しい物を作るのは難しいのだろう。

「今すぐにこちらへどうぞ!」

 お店の制服について話し合うつもりだったが、どうやらドレスのデザインを考えることになりそうだ。

───────────────────
【あとがき】

 本日第二巻が出荷予定になっております!
 二日後には店頭に並べられると思いますので、書店で手に取っていただけると嬉しいです。

 また、対応する章がレンタルになるため、修正前を読めるのは今だけになります。

 読み返したい人はお早めに・:*+.\(( °ω° ))/.:+
 
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