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第六章 春の準備

175.ママ聖女、天然酵母を作る

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 しばらくすると主婦達はたくさんの材料を買ってきた。

 フレンチトーストに使うたくさんのパン。

 そして、天然酵母を作るためにたくさんの果物と砂糖が並べられている。

 この世界では上白糖やグラニュー糖みたいな精製されたものは存在していないが、その前段階の粗糖は一般的に売られている。

 ただ、甘さは少なく、どこかカラメルのような深みがある。

 デザートを作るにはたくさんの量が必要になるため、たまにしか甘いものは食べられない贅沢品だ。

「天然酵母は基本的に果物と砂糖、少量の水で作るのは知っているけど、失敗したらごめんなさい」

「いえいえ、お金はカゼキ商会が出しますので、好きなだけ作ってください」

 商人団長も食に対しての探究心があるのだろう。

 こういう人の協力で食文化もかなり変わりそうだ。

「アルヴィンさんは容器を煮沸消毒してもらっても良いですか?」

 アルヴィンは水属性魔法を空中に出して沸騰させる。

 その中にいくつか容器を入れていく。

「これは何のためにやるんですか?」

「これは――」

「消毒しないと腐りやすくなるの! 食中毒でお腹が痛くなって……簡単に言えば呪いになるといけないからね」

 私が説明をしようとしたら、代わりにキキが話してくれた。

 キキは立派な物知りさんだね。

 回復属性魔法で殺菌できないかと思ったが、治癒力を促進する能力だと、間違えて菌に反応したら増えそうな気がした。

 それなら天然酵母を作っている時に、発酵を促進するために使った方が良さそうだ。

「合間にフレンチトーストの準備をしましょうか」

 卵を混ぜて少しずつ牛乳と砂糖を入れて、卵液を作っていく。

「本当は長い時間パンを浸した方がいいんですけどね」

 今回は少し薄めにパンを切って、なるべく卵液を吸い込ませていく。

「私たちも手伝うわよ」

「お願いします」

 簡単な作業は主婦達に任せることにした。

 主婦歴が長いと、私よりも手際が良いから頼りになる。

「マミ先生終わりました」

「ありがとうございます」

 ある程度煮沸消毒した容器をしっかり拭いて水気を取っていく。

 その時もしっかり手を洗って清潔にしている。

 なるべく材料は無駄にしたくないからね。

 途中でアルヴィンはチラチラと私を見ていたが何かあったのだろうか。

「はぁー、押しが足りないわね」

「もっとガンガンいかないと気づいてもらえないわよ」

 フレンチトーストの作業を終えた主婦達が、アルヴィンと何か話していた。

 そんな状況にも気づいていない私は、天然酵母作りに夢中になっていた。

 今回使う果物は、りんごやブルーベリーなどいくつか用意されている。

 小さく切った果物を子ども達に渡して、それを果物ずつに分けて容器に入れていく。

「先生できたよ?」

「リリも!」

「じゃあ、次は砂糖とお水を少しだけ入れようか」

 砂糖や蜂蜜などの甘味料と水を入れて、いくつか作っていく。

「これでパンが美味しくなるんですか?」

「天然酵母を使うともっちりとして、噛めば噛むほど甘みがでてくるおいしい……ハムよだれが出てるよ?」

「先生、楽しみだね!」

 ハムは急いでよだれを拭いていた。

 ただ、チラッと大人達を見ると、みんなもよだれを拭いている。

 思ったよりも新しいパンに興味を示しているようだ。

「ただ、期待しないでくださいね。作ったことがないですし、生きている菌だから結構難しいんですよね」

「菌!?」

 キキは菌と聞いて驚いていた。

 基本的に菌の話をする時って病原菌の話ばかりだったもんね。

「食べ物を美味しくしてくれる菌もあるからね。牛乳がヨーグルトになったり……」

 いや、これ以上は話さないでおこう。

 商人団長の目がキラキラを超えてギラギラとしている。

 さっきも鞄の中に入っているお金をテーブルに積み上げていたぐらいだ。

 どれだけお金を払うつもりなんだろう。

 さすが三大欲求の中に食欲が含まれているだけのことはある。

 天然酵母作りが終わったら、次はフレンチトーストを作っていく。

「アイスの方はどうですか?」

「しっかりと固まってますよ」

 夏に作ったアイスクリームをレナードに作ってもらっていた。

 氷属性魔法をコントロールする訓練にもちょうど良いのがアイスクリーム作りだ。

 どれだけ周囲の温度を下げたら、固まっていくのか目で見たらわかるからね。

 それに卵と牛乳を量産できているからこそ、大量にフレンチトーストとアイスが作ることができる。

 牛と鶏達にも感謝だね。

「さっき卵液に浸していたパンを焼いていきますね」

「焼いてあるパンをまた焼くって珍しいわね」

 主婦達も恐る恐るフレンチトーストを焼いていく。

 バターの代わりにオイーブオイルを使ってみたが、風味が良い感じにマッチしてそうだ。

 ただ、カリッとした感じとリッチ感はバターの方がありそうだね。

 追々、バター作りも……これはひっそりやろうかな。

 次々と焼き上がるフレンチトーストを皿に乗せて、アイスクリームと蜂蜜を少しだけ添えたら完成だ。

 子ども達を呼んでテーブルに運んでもらう。

「なんか貴族の食べ物みたいだな」

 できたフレンチトーストにアルヴィンも感心していた。

「パンを再利用しているから、〝貧しい騎士〟って言われていたりするんですよ。この世界とは違いますね」

「マミ先生がいた世界は騎士も貧しいのか?」

「んー、覚えているのは新しいパンを買えない人達が、古くなったパンをどうやって美味しく食べられるか考えて、まるで人々は救世主の騎士みたいだって思ったんでしょうね」

 興味があって調べた時に覚えていたぐらいだから曖昧だ。

 きっとフレンチトーストはこの孤児院のようなところから生まれた可能性もあるのだろう。

「フレンチトーストはマミ先生みたいだな」

「どういうことですか?」

「お金がない孤児院の救世主……女神みたいだからな。いや、俺の女神だからそれとは違うか。今のは忘れてくれ」

 少し耳を赤くしてアルヴィンは先にテーブルに向かった。

 きっと私を褒めようと思ったが、うまく言葉でまとまらなかったのだろう。

「やっぱりまだまだ足りないわね」

「もう少し教育しないといけないわ」

 そんなアルヴィンを見て主婦達もコソコソと話している。

「皆さんもいきますよ」

 主婦達に声をかけると、みんなが急に詰め寄ってきた。

「今のアルヴィンさんはダメよね?」

「アルヴィンさんですか?」

「そうよ。やっぱり女性はかっこいい騎士がいいわよね?」

 アルヴィンは誰か気になる人がいるのだろうか。

 アルヴィンの気になる人か……。

 ちょっと胸がズキンとした。

「私はアルヴィンさんらしくて良いと思いますよ。どこか可愛らしいですしね」

 子ども達と待っているアルヴィンは本当に大きな子どもみたいに見える。

 みんなのお兄ちゃんみたいだからね。

 それが彼の良さだと私は思っている。

「しぇんしぇーい!」

「はやくー!」

 よだれを必死に拭いて我慢している子ども達。

 みんなに呼ばれた私は急いでテーブルに向かう。

「意外にこのままの方がらうまくいくのかもしれないわね」

「それよりも早くいきましょう!」

「そうよね。今はアルヴィンよりフレンチトーストよね!」

 この世界で食べたフレンチトーストは、どこか軽やかな風味とあっさりとした味でたくさん食べられるような気がした。

───────────────────
【あとがき】

今週の更新が遅いなーって思った方すみません!
実は宣伝があってわざと更新タイミングをズラしてました!

アルファポリス内で発表がありましたが、今月の刊行予定に2巻の発売が決定しました・:*+.\(( °ω° ))/.:+

発売は今月の下旬頃になっています。

イラストは引き続き、緋いろ先生が担当しています。

今回はバッカア達やポッポやリリ、テバサキが追加されています。
バッカアは個人的に推しです笑

そして、表紙はテバサキとリリになります(*´꒳`*)

めちゃくちゃ可愛いので、イラストの情報が出るまでしばらくお待ちください!

ぜひ、書籍で買っていただけると嬉しいです・:*+.\(( °ω° ))/.:+

書籍が色々なものに直結するんでね……泣
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