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第五章 冬の嵐
167.狐獣人、自分のできること ※キキ視点
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「私が孤児院の案内をさせていただく、キキと申します。未熟者ですがよろしくお願いいたします」
私は先生に頼まれて孤児院の紹介をカゼキ商会にすることになった。
今でも緊張して震える手をギュッと握る。
「おおー! 孤児院にもこんなにしっかりした子がいるのか!」
ただ、カゼキ商会の男性は優しそうだ。
少しだけ緊張が抜けたような気がした。
「はい、私を中心に簡単な計算から礼儀まで勉強をしています」
「ふむ」
カゼキ商会の男性は何か考えるように頷いていた。
今回、私が少しの時間だけ商会の相手をさせてもらったのは私達が生きるためだった。
5歳になったら私達は少しずつ見習いとして、仕事のお手伝いをすることが増える。
大体は家業を継ぐことが多いし、貴族は勉強が始まるとレナードさんが言っていた。
だけど私達は家業を継ぐこともできないし、貴族でもない。
このままじゃ、ママ先生にずっと頼りきりになってしまうと思っていた。
すでにこの冬が終わり、暖かくなったら教会で存在を認められることになる。
きっと貴族ではない私達には魔法は与えられないだろう。
そうなれば元気な体で、たくさん働くしか道が残っていない。
少しでも孤児院の子ども達に利益があることを伝えないといけないのだ。
いつまでもママ先生に頼ってばかりの自分が嫌だった。
それは私だけではなく、他の同い年の子達は思っていた。
ママ先生が少しの間いないだけで、ママ先生にどれだけ助けられていたのか気づいた。
「おい、そんなに緊張しなくていいぞ」
どうやらアルヴィン兄ちゃんには私の考えがバレていたようだ。
ママ先生の知らないところで、よく相談に乗ってくれたもんね。
「まずここにいる子ども達を紹介しますね」
私を先頭にカゼキ商会の男性とアルヴィン兄ちゃんが付いてくる。
「くくく、可愛らしい子ですね」
「あれでも優秀な子だ」
後ろで何か説明しているようだ。
ただ、耳が良い私でもその内容は聞こえなかった。
だって、手と足が一緒に動くほど緊張しているんだもん。
「あっ、こんにちは!」
「こんにちは!」
私達に気づいたのかクロが挨拶をしていた。
今日もクロを中心にトトや元気のあるちびっこが、駆け回ったり剣の素振りをしている。
「ここではみんなが自分達のできることを頑張ってます」
「それはえらいですね」
「へへへ、ぼくちゃちえりゃいもん!」
褒められて嬉しいのか弟達は胸を張っている。
「ほら、みんな挨拶するぞ!」
クロに促されて、みんなが横に一列に並ぶ。
「お勤めご苦労様です。ママ先生を守るクロです」
「トトです」
順番に挨拶をしていく。
この挨拶の方法が正しいのかはわからない。
ママ先生が褒めてくれたからやるようになった挨拶だ。
ただ、クロの挨拶にアルヴィンは目を細めていた。
本当に仲が良いのか悪いのかわからない。
ママ先生のことになると、裏でいつも取り合いをしているからね。
「おおー! 統率が取れているね」
一方、カゼキ商会の男性も手を叩いて褒めてくれた。
どうやら孤児院がまとまっていることを伝えることができたようだ。
「次は庭を紹介します」
続いて庭に向かうと、レナードさんとリリが何かをやっていた。
「ムッ……私のレナードさんなのに……」
ついつい案内していたのを忘れていた。
私はすぐに気を取り直す。
これは私が任された大事な仕事だからね。
「くくく、子どもらしいところもあるんですね」
「可愛い弟と妹だ」
「まさかロジャーズ公爵家のアルヴィン様がそんなことを言う日が来るなんて思わなかったです」
私はアルヴィン兄ちゃんと目が合う。
「カゼキ商会はロジャーズ公爵家とも取引をしているからな。俺の小さい頃を知っている」
「えっ……ならこんなに緊張しなくてよかったの?」
「まぁ、良い練習になるから肩の力を抜けば良い」
どうやらアルヴィン兄ちゃんとは元々知り合いだったらしい。
このことをママ先生は知っているのだろうか。
今も台所の方で頑張って朝食の準備をしている。
「あっ、キキー!」
私達に気づいたのかリリが声をかけてきた。
「何してるの?」
「カゼキ商会の人に孤児院を案内しているんです」
リリは首を傾げて考えているようだ。
レナードさんが何も言わないのは、何かに気づいているのだろう。
「ねね、おじちゃん! オイーブオイルは商会で売れる?」
リリはレナードさんとオイーブオイルを作っていた。
手が汚れちゃうから庭でやっていたのだろう。
私も一緒にギュッと手を合わせたかったな。
それにしてももう少しリリに言葉遣いを教えないといけないな。
そして、レナードさんと一緒にオイーブオイルを作るもん!
「オイーブオイル?」
「オイーブオイルは孤児院で人気の油です。食べても良いし、石鹸にもなるんです」
「ほぉー、オイルから石鹸を作っているのか」
どうやらカゼキ商会は石鹸を知っているようだ。
やっぱり商会で働く人は知識が豊富じゃないとダメなんだろう。
あれ……?
ひょっとしたらママ先生って孤児院じゃなくて、商会でも働けたんじゃないのかな?
そう思うとママ先生は私達の女神様なのかもしれない。
初めて会った時は今よりも迷惑をかけていたもんね。
もっとママ先生に頼られる人にならないと。
「他にも卵料理や牛乳を作った料理もママ先生は得意ですよ」
「中々扱いが難しいのも取り扱っているのか」
何かを考えると小さく頷いていた。
「それって食べさせてもらうことは――」
「みんなご飯ができたよー!」
ママ先生がご飯を作り終えたようだ。
「はーい!」
色々なところから子ども達の声が聞こえてくる。
私もつい嬉しくてママ先生のところに向かおうとしていたが、案内していたことを思い出した。
「ママ先生が食事を作り終えたので、ぜひ食べてみてください」
私は手を掴みテーブルまで案内する。
お腹が減って急いで引っ張ってしまったが、カゼキ商会の人は笑っていた。
やっぱり私もご飯には勝てないや。
それでも少しはこの孤児院のため、ママ先生の役に立っていたらいいな。
私は先生に頼まれて孤児院の紹介をカゼキ商会にすることになった。
今でも緊張して震える手をギュッと握る。
「おおー! 孤児院にもこんなにしっかりした子がいるのか!」
ただ、カゼキ商会の男性は優しそうだ。
少しだけ緊張が抜けたような気がした。
「はい、私を中心に簡単な計算から礼儀まで勉強をしています」
「ふむ」
カゼキ商会の男性は何か考えるように頷いていた。
今回、私が少しの時間だけ商会の相手をさせてもらったのは私達が生きるためだった。
5歳になったら私達は少しずつ見習いとして、仕事のお手伝いをすることが増える。
大体は家業を継ぐことが多いし、貴族は勉強が始まるとレナードさんが言っていた。
だけど私達は家業を継ぐこともできないし、貴族でもない。
このままじゃ、ママ先生にずっと頼りきりになってしまうと思っていた。
すでにこの冬が終わり、暖かくなったら教会で存在を認められることになる。
きっと貴族ではない私達には魔法は与えられないだろう。
そうなれば元気な体で、たくさん働くしか道が残っていない。
少しでも孤児院の子ども達に利益があることを伝えないといけないのだ。
いつまでもママ先生に頼ってばかりの自分が嫌だった。
それは私だけではなく、他の同い年の子達は思っていた。
ママ先生が少しの間いないだけで、ママ先生にどれだけ助けられていたのか気づいた。
「おい、そんなに緊張しなくていいぞ」
どうやらアルヴィン兄ちゃんには私の考えがバレていたようだ。
ママ先生の知らないところで、よく相談に乗ってくれたもんね。
「まずここにいる子ども達を紹介しますね」
私を先頭にカゼキ商会の男性とアルヴィン兄ちゃんが付いてくる。
「くくく、可愛らしい子ですね」
「あれでも優秀な子だ」
後ろで何か説明しているようだ。
ただ、耳が良い私でもその内容は聞こえなかった。
だって、手と足が一緒に動くほど緊張しているんだもん。
「あっ、こんにちは!」
「こんにちは!」
私達に気づいたのかクロが挨拶をしていた。
今日もクロを中心にトトや元気のあるちびっこが、駆け回ったり剣の素振りをしている。
「ここではみんなが自分達のできることを頑張ってます」
「それはえらいですね」
「へへへ、ぼくちゃちえりゃいもん!」
褒められて嬉しいのか弟達は胸を張っている。
「ほら、みんな挨拶するぞ!」
クロに促されて、みんなが横に一列に並ぶ。
「お勤めご苦労様です。ママ先生を守るクロです」
「トトです」
順番に挨拶をしていく。
この挨拶の方法が正しいのかはわからない。
ママ先生が褒めてくれたからやるようになった挨拶だ。
ただ、クロの挨拶にアルヴィンは目を細めていた。
本当に仲が良いのか悪いのかわからない。
ママ先生のことになると、裏でいつも取り合いをしているからね。
「おおー! 統率が取れているね」
一方、カゼキ商会の男性も手を叩いて褒めてくれた。
どうやら孤児院がまとまっていることを伝えることができたようだ。
「次は庭を紹介します」
続いて庭に向かうと、レナードさんとリリが何かをやっていた。
「ムッ……私のレナードさんなのに……」
ついつい案内していたのを忘れていた。
私はすぐに気を取り直す。
これは私が任された大事な仕事だからね。
「くくく、子どもらしいところもあるんですね」
「可愛い弟と妹だ」
「まさかロジャーズ公爵家のアルヴィン様がそんなことを言う日が来るなんて思わなかったです」
私はアルヴィン兄ちゃんと目が合う。
「カゼキ商会はロジャーズ公爵家とも取引をしているからな。俺の小さい頃を知っている」
「えっ……ならこんなに緊張しなくてよかったの?」
「まぁ、良い練習になるから肩の力を抜けば良い」
どうやらアルヴィン兄ちゃんとは元々知り合いだったらしい。
このことをママ先生は知っているのだろうか。
今も台所の方で頑張って朝食の準備をしている。
「あっ、キキー!」
私達に気づいたのかリリが声をかけてきた。
「何してるの?」
「カゼキ商会の人に孤児院を案内しているんです」
リリは首を傾げて考えているようだ。
レナードさんが何も言わないのは、何かに気づいているのだろう。
「ねね、おじちゃん! オイーブオイルは商会で売れる?」
リリはレナードさんとオイーブオイルを作っていた。
手が汚れちゃうから庭でやっていたのだろう。
私も一緒にギュッと手を合わせたかったな。
それにしてももう少しリリに言葉遣いを教えないといけないな。
そして、レナードさんと一緒にオイーブオイルを作るもん!
「オイーブオイル?」
「オイーブオイルは孤児院で人気の油です。食べても良いし、石鹸にもなるんです」
「ほぉー、オイルから石鹸を作っているのか」
どうやらカゼキ商会は石鹸を知っているようだ。
やっぱり商会で働く人は知識が豊富じゃないとダメなんだろう。
あれ……?
ひょっとしたらママ先生って孤児院じゃなくて、商会でも働けたんじゃないのかな?
そう思うとママ先生は私達の女神様なのかもしれない。
初めて会った時は今よりも迷惑をかけていたもんね。
もっとママ先生に頼られる人にならないと。
「他にも卵料理や牛乳を作った料理もママ先生は得意ですよ」
「中々扱いが難しいのも取り扱っているのか」
何かを考えると小さく頷いていた。
「それって食べさせてもらうことは――」
「みんなご飯ができたよー!」
ママ先生がご飯を作り終えたようだ。
「はーい!」
色々なところから子ども達の声が聞こえてくる。
私もつい嬉しくてママ先生のところに向かおうとしていたが、案内していたことを思い出した。
「ママ先生が食事を作り終えたので、ぜひ食べてみてください」
私は手を掴みテーブルまで案内する。
お腹が減って急いで引っ張ってしまったが、カゼキ商会の人は笑っていた。
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