上 下
85 / 100
第五章 冬の嵐

165.ママ聖女、手土産に驚く

しおりを挟む
 食事を終えると皇太后達は子ども達に何かを吹き込んでいた。

 そっと私も後ろから何を話しているのか耳を澄ます。

「私もここで働いたらダメでしょうか?」

「いいよー!」

 まさか本当に孤児院で働く気なのだろうか。

 やっと食料問題をみんなで協力して解決したが、まだアルヴィンのお給料も払えていない状況だ。

 しかも、支援してもらっているのはアルヴィンの実家であるロジャーズ公爵家だ。

 そこに皇太后まで働いたら、孤児院はまた貧乏になるだろう。

「ダイアベル先生は臨時の先生ですよ」

「えー」

 私の意図が伝わったのかはわからない。

 ただ、皇太后には気をつけないといけないだろう。

 いつのまにか子ども達を虜にしていたからね。

 当の本人は子ども達に紛れているが、自分が皇太后だってことを忘れてはいないだろうか。

「そうだよ! ばあば先生はリハビリに来てるんだからね」

「りはびり?」

「この間まで動けないほど寝込んでいたから、毎日遊んだらまた動けなくなっちゃったらどうするの?」

 キキがちびっこ達を説得していた。

 さすが孤児院の天才。

 彼女がいればある程度のことは、うまくまとまる気がする。

「いやだもん……」

 次第にちびっこ達は目を潤ませて、皇太后に抱きついていた。

「ばあば先生また来てね!」

「はあー、浄化されるわ」

 ちびっこ達に囲まれて、皇太后は違う意味で天に召されそうになっていた。

 ちびっこ達は最高級の可愛さに、もふもふさが売りだからね。

 私も見ているだけで癒される。

「本当に元気になったな……」

 皇太后の表情は、風邪の時に見た絶望した姿はなくなっていた。

 あの時は本当に死を覚悟していたのだろう。

「ママ先生が頑張ったもんね」

 そんな彼女を見ていた私をクロが褒めてくれた。

 さすが孤児院のお兄ちゃんリーダーだ。

「ダイアベル先生にはまた来てもらいましょうね」

「はーい!」

 みんなで皇太后を見送るために玄関に向かう。

 その時もちびっこ達に抱きつかれて名残惜しそうにしていた。

「帰りたくないわね……」

 可愛い子ども達に抱きつかれて、離れたくないって言われたら、誰だってそうなるだろう。

 チラチラと私を見つめてくるが、わざと視界に入らないように歩いた。

 最後はジーッと見つめていたが、諦めたのか少し寂しそうに馬車に乗って行く。

 これでやっと問題は片付いただろう。

 安心したのか肺に溜まっていた空気を大きく吐く。

「あっ、忘れてましたわ」

 安心したのも束の間、皇太后は手土産を忘れていなかった。

「今度商会と取引できる証明書をお持ちしますね」

 今後、お米を手に入れる方法をこれで確保できるようだ。

 つい嬉しくて笑みが溢れてしまう。

「それとせっかくならお店を始めるといいわね! 店舗と機材は用意しておくわ。あと、お風呂も欲しいわね」

 どんどんと爆弾を投下する皇太后。

 お風呂は私達も嬉しいが、お店って何をさせるつもりだろうか。

 やっぱり彼女は王族だったことを実感させられる。

 お店を始めるって、そんなこと気軽に決められることではない。ただ、資金源が多いに越したことはない。

 来年度の補助金はもう少し後になるからね。

 それにしても何のお店をやるつもりだろうか。

 私達にそんなことができる気がしない。

「皇太后様、危険なので扉をお閉めください」

「うっ……私のベッドも持っていくわ!」

 最後の言葉が一番の爆弾だろう。

 本当に引っ越してくるつもりなのかな?

 扉が閉まると、すぐに馬車が出発した。

 短い間だったが、本当に楽しかったのだろう。

 皇太后は最後には、笑顔で手を振っていた。

「ばあば先生良い人だったね」

「王族だから気をつけないといけないけどね」

「使えるものは使うべきだ」

「ダイアベル様ほど、味方につけたら怖いものなしですよ」

 貴族であるアルヴィンとレナードだからこそ、王族の権力がどれくらい影響するのか知っている。

 それだけ影響力のある人なんだろう。

 治療中、普通に接していたのは黙っておいた方が良さそうだ。

 だって患者と看護師って対等な関係だからね。

「さぁ、すぐに片付けて寝ましょう」

 孤児院に戻ると子ども達がゾロゾロと付いてきた。

 振り返ると何か話し合っているようだ。

「みんなどうしたの?」

「今日はオレがママ先生と寝るー!」
「じゃあ、オイラも一緒に寝る!」
「キキも!」

「キキは昨日一緒に寝ていただろ?」
「いつも一緒でもいいじゃん!」

 どうやら私と誰が寝るかの話し合いになっていたらしい。

「いや、今日こそ俺と――」

「さぁ、みんなで寝ようかな! 寝る準備でもしようかねー!」

 アルヴィンが変なことを言う前に、私達はすぐに寝ることにした。
しおりを挟む
感想 145

あなたにおすすめの小説

幼い公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~

朱色の谷
ファンタジー
公爵家の末娘として生まれた6歳のティアナ お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。 お父様やお兄様は私に関心がないみたい。愛されたいと願い、愛想よく振る舞っていたが一向に興味を示してくれない… そんな中、夢の中の本を読むと、、、

その聖女は身分を捨てた

メカ喜楽直人
ファンタジー
ある日突然、この世界各地に無数のダンジョンが出来たのは今から18年前のことだった。 その日から、この世界には魔物が溢れるようになり人々は武器を揃え戦うことを覚えた。しかし年を追うごとに魔獣の種類は増え続け武器を持っている程度では倒せなくなっていく。 そんな時、神からの掲示によりひとりの少女が探し出される。 魔獣を退ける結界を作り出せるその少女は、自国のみならず各国から請われ結界を貼り廻らせる旅にでる。 こうして少女の活躍により、世界に平和が取り戻された。 これは、平和を取り戻した後のお話である。

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

[完結]いらない子と思われていた令嬢は・・・・・・

青空一夏
恋愛
私は両親の目には映らない。それは妹が生まれてから、ずっとだ。弟が生まれてからは、もう私は存在しない。 婚約者は妹を選び、両親は当然のようにそれを喜ぶ。 「取られる方が悪いんじゃないの? 魅力がないほうが負け」 妹の言葉を肯定する家族達。 そうですか・・・・・・私は邪魔者ですよね、だから私はいなくなります。 ※以前投稿していたものを引き下げ、大幅に改稿したものになります。

【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う

たくみ
ファンタジー
 圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。  アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。  ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?                        それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。  自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。  このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。  それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。 ※小説家になろうさんで投稿始めました

王太子妃は離婚したい

凛江
恋愛
アルゴン国の第二王女フレイアは、婚約者であり、幼い頃より想いを寄せていた隣国テルルの王太子セレンに嫁ぐ。 だが、期待を胸に臨んだ婚姻の日、待っていたのは夫セレンの冷たい瞳だった。 ※この作品は、読んでいただいた皆さまのおかげで書籍化することができました。 綺麗なイラストまでつけていただき感無量です。 これまで応援いただき、本当にありがとうございました。 レジーナのサイトで番外編が読めますので、そちらものぞいていただけると嬉しいです。 https://www.regina-books.com/extra/login

【完結】私よりも、病気(睡眠不足)になった幼馴染のことを大事にしている旦那が、嘘をついてまで居候させたいと言い出してきた件

よどら文鳥
恋愛
※あらすじにややネタバレ含みます 「ジューリア。そろそろ我が家にも執事が必要だと思うんだが」 旦那のダルムはそのように言っているが、本当の目的は執事を雇いたいわけではなかった。 彼の幼馴染のフェンフェンを家に招き入れたかっただけだったのだ。 しかし、ダルムのズル賢い喋りによって、『幼馴染は病気にかかってしまい助けてあげたい』という意味で捉えてしまう。 フェンフェンが家にやってきた時は確かに顔色が悪くてすぐにでも倒れそうな状態だった。 だが、彼女がこのような状況になってしまっていたのは理由があって……。 私は全てを知ったので、ダメな旦那とついに離婚をしたいと思うようになってしまった。 さて……誰に相談したら良いだろうか。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。