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第五章 冬の嵐
162.偽聖女、オムライスを作る
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いざ、オムライスを作るって言っても、簡単に作れるのが良いところだ。
「まずは炊いたご飯を……」
なぜか料理人達は遠い目をしていた。
「あのー、マミ先生?」
「レナードさんどうしました?」
「ご飯を炊くのが、まず難しいと思います」
私の言葉に料理人達は頷いていた。
そういえば屋敷で作っていたのはお粥のため、そこまで上手に炊けなくても問題はなかった。
「そうでしたね……」
日本人だから鍋でお米を炊くと言っても、何となくで炊けたりする。
ただ、お米自体の存在を最近知った料理人達には一つ一つが難しく感じるのかもしれない。
スープを作る感覚とは違うからね。
それに料理人のプライドかわからないが、すぐに自分なりに工夫しようとするため、余計に失敗する。
新しい料理に関しては、料理人見習いの方が上手なのが現状だ。
そんな中、ハムとリリは首を傾げていた。
「ハムはもうできるよ?」
「リリもできる!」
昨日教えたハムとリリはもう覚えたのだろう。
二人は料理に関することなら、記憶力はどの子よりも優れている。
「さすがにこんなちびっこにできるはずないだろ?」
「ああ、女神様ならわかるけど、俺らよりもこんなに手が小さいんだぞ?」
料理人はハムと手の大きさを比べていた。
たしかにこの世界の男性は手も大きいからな。
「でも私の手も小さい――」
私も一緒になって手の大きさを比べようとしたら、料理人の手がたくさん目の前に出てきた。
しかし、それと同時に私の手を止める人達もいた。
「マミ先生、それはダメです」
「先生ダメだよ?」
「しぇんしぇい、メッ!」
どこかピリピリとする空気感に私は戸惑うしかできない。
「さぁ、ご飯の準備しましょうか」
「ここはハムが先生だね!」
「リリもしぇんしぇい!」
「ふふふ、二人ともえらいわね」
そんな空気感も可愛い子ども達が和ませてくれる。
ハムとリリの頭を撫でると嬉しそうに笑っていた。
「それぐらい料理人なら簡単だ」
「俺達の方がながーく生きているからね」
ん?
これはどういう状況なんだ?
せっかくの空気感が、またピリピリしてきたぞ。
「あっ、俺はもう炊けるので孤児院側――」
「お前はこっちだ!」
なぜか孤児院組と料理人達とで対抗心が芽生えている気がする。
気づいた頃には料理対決のようになっていた。
「あっ、たぶん水分量が多いです」
私はその場でアドバイスをする人に徹していた。
さすがに見ているだけだと心配になってくる。
それにお米が普通に売っているわけではないからね。
一種の高級品のようなものだ。
「あん? お粥の時は――」
「料理長、お粥とご飯は違うって何度言ったらわかるんですか?」
「見習いの言うことなんか――」
「ちゃんとやらないとうまくできないんだよ?」
「しぇんしぇいに怒られるよー?」
私は料理人達を見ると目が合う。
その後、すぐに目を逸らした。
大人になっても怒られるのは嫌なようだ。
別に怒る気もないし、注意するぐらいなのにな……。
「なあなあ、水はこれぐらいでいいか?」
「一緒ぐらいだから大丈夫!」
最終的には料理長自らハムとリリに聞いていた。
心の底から料理を作るのが好きなのは変わらないのだろう。
ご飯が炊ける間に、私はお肉と野菜の準備をしていく。
オムライスに使うチキンライスは簡単に玉ねぎとお肉、手作りケチャップを使うだけだ。
これが一番手軽で美味しいと思っている。
「このトマト汁みたいなのはなんだ?」
「ケチャップも簡単にできるので、あとで伝えますね」
「玉ねぎはどれくらいで切れば良いんだ?」
「玉ねぎはみじん切りで細かくお願いします」
料理人達が細かく質問をしてくるため、いつもよりバタバタとしている。
聖徳太子かとツッコミたくなるぐらいだ。
「みじん切りってなんだ?」
「それは私でもわかりますよ」
そんな中、レナードも混ざって作業をしていた。
不穏な空気感もいつのまにか、みんなでワイワイとしている。
やっぱり美味しいものを作るときは、みんなで仲良くしないとね!
「あっ、先生ご飯炊けたよー!」
どうやら必然的にご飯の担当していたハムとリリの方も順調のようだ。
オムライス作りで大変なのはこの後になるからね。
「料理人の方々出番ですよ!」
「おっ、やっと俺達の仕事か!」
「女神様のためなら、何でもやるぜ!」
一番難しいのはチキンライスの上に乗せる、ふんわりとした卵だからね。
ただ、ここにも作り手としてのスキルが必要なことを忘れていた。
「おいおい、何だこれ! 全然うまく丸まらないじゃないか!」
「こうやってフライパンを斜めにしながら、転がしていくと……」
「うおおおおお!」
料理人達の驚いた声が響く。
私が作っていたのはふわふわな卵が乗ったオムライスだ。
実際、料理人に作ってもらったが、できたのはスクランブルエッグだった。
「マミ先生できました」
「先生、混ざったよー!」
ご飯とケチャップ、具材を混ぜたものをお皿の上で形を整えて乗せていく。
「ハム、リリこっちにきて!」
最後にチキンライスの上に乗せたふわとろ卵をナイフで割っていく。
「ふわぁー!」
「しゅごい!」
ハムとリリはキラキラした瞳でオムライスを見ていた。
「ふふふ、私の思い出の味なんだ」
私がお母さんに作ってもらった大好物。
ふわとろオムライスの完成だ!
───────────────────
【あとがき】
いつも読んでいただきありがとうございます。
書店に行きこの作品が並んでいることに喜びと驚きで、幸せな気持ちになりました。
皆様のおかげで書籍化デビューできましたー(*´꒳`*)
これからも『ママ聖女』と作者k-ingをよろしくお願いいたします!
「まずは炊いたご飯を……」
なぜか料理人達は遠い目をしていた。
「あのー、マミ先生?」
「レナードさんどうしました?」
「ご飯を炊くのが、まず難しいと思います」
私の言葉に料理人達は頷いていた。
そういえば屋敷で作っていたのはお粥のため、そこまで上手に炊けなくても問題はなかった。
「そうでしたね……」
日本人だから鍋でお米を炊くと言っても、何となくで炊けたりする。
ただ、お米自体の存在を最近知った料理人達には一つ一つが難しく感じるのかもしれない。
スープを作る感覚とは違うからね。
それに料理人のプライドかわからないが、すぐに自分なりに工夫しようとするため、余計に失敗する。
新しい料理に関しては、料理人見習いの方が上手なのが現状だ。
そんな中、ハムとリリは首を傾げていた。
「ハムはもうできるよ?」
「リリもできる!」
昨日教えたハムとリリはもう覚えたのだろう。
二人は料理に関することなら、記憶力はどの子よりも優れている。
「さすがにこんなちびっこにできるはずないだろ?」
「ああ、女神様ならわかるけど、俺らよりもこんなに手が小さいんだぞ?」
料理人はハムと手の大きさを比べていた。
たしかにこの世界の男性は手も大きいからな。
「でも私の手も小さい――」
私も一緒になって手の大きさを比べようとしたら、料理人の手がたくさん目の前に出てきた。
しかし、それと同時に私の手を止める人達もいた。
「マミ先生、それはダメです」
「先生ダメだよ?」
「しぇんしぇい、メッ!」
どこかピリピリとする空気感に私は戸惑うしかできない。
「さぁ、ご飯の準備しましょうか」
「ここはハムが先生だね!」
「リリもしぇんしぇい!」
「ふふふ、二人ともえらいわね」
そんな空気感も可愛い子ども達が和ませてくれる。
ハムとリリの頭を撫でると嬉しそうに笑っていた。
「それぐらい料理人なら簡単だ」
「俺達の方がながーく生きているからね」
ん?
これはどういう状況なんだ?
せっかくの空気感が、またピリピリしてきたぞ。
「あっ、俺はもう炊けるので孤児院側――」
「お前はこっちだ!」
なぜか孤児院組と料理人達とで対抗心が芽生えている気がする。
気づいた頃には料理対決のようになっていた。
「あっ、たぶん水分量が多いです」
私はその場でアドバイスをする人に徹していた。
さすがに見ているだけだと心配になってくる。
それにお米が普通に売っているわけではないからね。
一種の高級品のようなものだ。
「あん? お粥の時は――」
「料理長、お粥とご飯は違うって何度言ったらわかるんですか?」
「見習いの言うことなんか――」
「ちゃんとやらないとうまくできないんだよ?」
「しぇんしぇいに怒られるよー?」
私は料理人達を見ると目が合う。
その後、すぐに目を逸らした。
大人になっても怒られるのは嫌なようだ。
別に怒る気もないし、注意するぐらいなのにな……。
「なあなあ、水はこれぐらいでいいか?」
「一緒ぐらいだから大丈夫!」
最終的には料理長自らハムとリリに聞いていた。
心の底から料理を作るのが好きなのは変わらないのだろう。
ご飯が炊ける間に、私はお肉と野菜の準備をしていく。
オムライスに使うチキンライスは簡単に玉ねぎとお肉、手作りケチャップを使うだけだ。
これが一番手軽で美味しいと思っている。
「このトマト汁みたいなのはなんだ?」
「ケチャップも簡単にできるので、あとで伝えますね」
「玉ねぎはどれくらいで切れば良いんだ?」
「玉ねぎはみじん切りで細かくお願いします」
料理人達が細かく質問をしてくるため、いつもよりバタバタとしている。
聖徳太子かとツッコミたくなるぐらいだ。
「みじん切りってなんだ?」
「それは私でもわかりますよ」
そんな中、レナードも混ざって作業をしていた。
不穏な空気感もいつのまにか、みんなでワイワイとしている。
やっぱり美味しいものを作るときは、みんなで仲良くしないとね!
「あっ、先生ご飯炊けたよー!」
どうやら必然的にご飯の担当していたハムとリリの方も順調のようだ。
オムライス作りで大変なのはこの後になるからね。
「料理人の方々出番ですよ!」
「おっ、やっと俺達の仕事か!」
「女神様のためなら、何でもやるぜ!」
一番難しいのはチキンライスの上に乗せる、ふんわりとした卵だからね。
ただ、ここにも作り手としてのスキルが必要なことを忘れていた。
「おいおい、何だこれ! 全然うまく丸まらないじゃないか!」
「こうやってフライパンを斜めにしながら、転がしていくと……」
「うおおおおお!」
料理人達の驚いた声が響く。
私が作っていたのはふわふわな卵が乗ったオムライスだ。
実際、料理人に作ってもらったが、できたのはスクランブルエッグだった。
「マミ先生できました」
「先生、混ざったよー!」
ご飯とケチャップ、具材を混ぜたものをお皿の上で形を整えて乗せていく。
「ハム、リリこっちにきて!」
最後にチキンライスの上に乗せたふわとろ卵をナイフで割っていく。
「ふわぁー!」
「しゅごい!」
ハムとリリはキラキラした瞳でオムライスを見ていた。
「ふふふ、私の思い出の味なんだ」
私がお母さんに作ってもらった大好物。
ふわとろオムライスの完成だ!
───────────────────
【あとがき】
いつも読んでいただきありがとうございます。
書店に行きこの作品が並んでいることに喜びと驚きで、幸せな気持ちになりました。
皆様のおかげで書籍化デビューできましたー(*´꒳`*)
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