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第五章 冬の嵐
161.偽聖女、料理人の女神と呼ばれる
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「マミイモ、すまない!」
皇太后がちびっこ達に連れていかれると、すぐにバッカアが謝ってきた。
また何かをしたのかと身構える。
「皇太后様が来ることをマミ先生に伝え忘れていたようだ」
「へっ!?」
「いやー、あまりにもおにぎりがうまくてな。ここに来た目的を忘れていた」
どうやらバッカアは、元々皇太后が来ることを伝えるために孤児院へ来たらしい。
そこでおにぎりという新しい食べ物に意識が取られて忘れていたと。
「バッカアさんらしいですね」
「いや、あいつはただのバカだ」
「ええ、バカね」
容赦なく畳み掛けるアルヴィンとレナード。
たしかに相手は王族のため、伝えていないという事実が問題になる。
ただ、皇太后様と一緒にいた期間を考えると、私の中では患者さんと看護師という関係が抜けていない。
そんなに気にしなくても良いだろう。
今もちびっこ達に抱きつかれて喜んでいる。
「とりあえずアルヴィンさんはちびっこ達が危ないことをしないか見守っててください」
「はい」
「レナードさんはご飯を作るの手伝ってもらっても良いですか?」
「あー、こんなにたくさんの方がいるからね」
料理を教えてもらうために来たぐらいだから、何か皇太后が食べたい料理があるのだろう。
ひょっとしたらオムライスは明日のメニューになるかな。
「なあなあ、俺はどうしたら良いんだ?」
「えーっと、バッカアさんは……」
特にバッカアにお願いすることは残っていない。
ただ、バッカアの後ろには見えるはずのない大きな尻尾がブンブンと振っているように見える。
「バッカアはオラと訓練ね」
「あっ、そうそう! それでお願いします」
どうしようか迷っているとクロが助け船を出してくれた。
バッカアは嬉しそうにクロを連れて、模擬戦の準備をしていた。
もうどっちが大人かわからないね。
「食材を持ってきた」
夕食の準備に向かおうとしたら、料理人達が声をかけてきた。
馬車からはいくつも袋に積まれた食材を出してきた。
「こんなに食べるんですか?」
「そんなわけあるか! 孤児院だと食べるものがあった方が良いだろ」
どうやら手土産という意味もあるのだろうが、純粋に孤児院の心配もしているようだ。
「本当に素直じゃないですよね」
後ろからひょこっと見習い料理人が出てきた。
料理熱心な彼も一緒に勉強しにきたのだろう。
「おまっ――」
「マミさん今日もよろしくお願いします!」
「今日は何を作るんですか?」
料理長以外の料理人がどんどんと詰め寄ってくる。
あの短時間でここまで距離が近くなったことにも驚きだが、ただの一般人である私に料理を教わりたいって中々簡単には言えないだろう。
それだけでも彼らのことは尊敬に値する。
「私こそよろしく――」
「はいマミ先生、中に入りましょうか。出かけたばかりですからね」
レナードはさらっと私の腰に手を回して歩き出した。
「くっ……ライバルが多いな」
「マミさんは女神みたいなもんだからな」
「料理長!?」
「なんだ! 俺だって助けてもらって感謝はしているぞ!」
「ふーん」
料理人達はしばらく孤児院の入り口で話し込んでいた。
台所で持ってきてもらった食材を確認しながら、何を作るか考えていく。
「そういえば、なぜ勉強しに来ることになったんですか?」
「あー、俺らがうまく作れなかったからな」
「うどんですか?」
「ああ。中々難しいんだな」
私が皇太后の屋敷にいる間によく作っていたのがうどんだった。
それにいざ作り方を教えても、中々うまくできなかった。
その状況で帰ることになったから、いまだに試作しながら作っているのだろう。
きっとトマトで出汁を取るところか、うどんの生地をこねている段階に問題がある気がする。
旨味って日本人では当たり前だけど、この世界ではあまりパッとしないからね。
それにうどんも生地をこねて固くなっている時に、無理に力を加えて伸ばすとグルテンが切れてしまう。
食感や弾力性が全く変われば、美味しさも激減する。
「マミ先生、今日作る予定だったオムライスはどうしますか?」
あっ、ここにも食いしん坊が一人いた。
レナードにはオムライスの話をしていたが、食べたことないものに興味があるのだろう。
「オムライスってなんだ?」
「俺も食べてみたいです!」
「ぜひ、教えてください」
うどんの作り方を改めて教えようかと思ったが、オムライスも気になっているようだ。
うどんよりも作りやすいから、新しいメニューとして教えても良いだろう。
それにせっかく孤児院に来たなら、孤児院名物のオイーブオイルをかけたパンやサラダも食べて欲しい。
オムライスに合うからね。
「では一度作り方を教えますので、みんなで協力して作りましょうか!」
「おー!」
孤児院の台所から珍しく、男性の低い声が響いていた。
───────────────────
【あとがき】
今日書籍の見本誌が届きました!
ついに作家デビューします!
たぶん……地球が壊れてない限り笑
明日から書店で並ぶと思いますので、ぜひ手に取って見てください!
皇太后がちびっこ達に連れていかれると、すぐにバッカアが謝ってきた。
また何かをしたのかと身構える。
「皇太后様が来ることをマミ先生に伝え忘れていたようだ」
「へっ!?」
「いやー、あまりにもおにぎりがうまくてな。ここに来た目的を忘れていた」
どうやらバッカアは、元々皇太后が来ることを伝えるために孤児院へ来たらしい。
そこでおにぎりという新しい食べ物に意識が取られて忘れていたと。
「バッカアさんらしいですね」
「いや、あいつはただのバカだ」
「ええ、バカね」
容赦なく畳み掛けるアルヴィンとレナード。
たしかに相手は王族のため、伝えていないという事実が問題になる。
ただ、皇太后様と一緒にいた期間を考えると、私の中では患者さんと看護師という関係が抜けていない。
そんなに気にしなくても良いだろう。
今もちびっこ達に抱きつかれて喜んでいる。
「とりあえずアルヴィンさんはちびっこ達が危ないことをしないか見守っててください」
「はい」
「レナードさんはご飯を作るの手伝ってもらっても良いですか?」
「あー、こんなにたくさんの方がいるからね」
料理を教えてもらうために来たぐらいだから、何か皇太后が食べたい料理があるのだろう。
ひょっとしたらオムライスは明日のメニューになるかな。
「なあなあ、俺はどうしたら良いんだ?」
「えーっと、バッカアさんは……」
特にバッカアにお願いすることは残っていない。
ただ、バッカアの後ろには見えるはずのない大きな尻尾がブンブンと振っているように見える。
「バッカアはオラと訓練ね」
「あっ、そうそう! それでお願いします」
どうしようか迷っているとクロが助け船を出してくれた。
バッカアは嬉しそうにクロを連れて、模擬戦の準備をしていた。
もうどっちが大人かわからないね。
「食材を持ってきた」
夕食の準備に向かおうとしたら、料理人達が声をかけてきた。
馬車からはいくつも袋に積まれた食材を出してきた。
「こんなに食べるんですか?」
「そんなわけあるか! 孤児院だと食べるものがあった方が良いだろ」
どうやら手土産という意味もあるのだろうが、純粋に孤児院の心配もしているようだ。
「本当に素直じゃないですよね」
後ろからひょこっと見習い料理人が出てきた。
料理熱心な彼も一緒に勉強しにきたのだろう。
「おまっ――」
「マミさん今日もよろしくお願いします!」
「今日は何を作るんですか?」
料理長以外の料理人がどんどんと詰め寄ってくる。
あの短時間でここまで距離が近くなったことにも驚きだが、ただの一般人である私に料理を教わりたいって中々簡単には言えないだろう。
それだけでも彼らのことは尊敬に値する。
「私こそよろしく――」
「はいマミ先生、中に入りましょうか。出かけたばかりですからね」
レナードはさらっと私の腰に手を回して歩き出した。
「くっ……ライバルが多いな」
「マミさんは女神みたいなもんだからな」
「料理長!?」
「なんだ! 俺だって助けてもらって感謝はしているぞ!」
「ふーん」
料理人達はしばらく孤児院の入り口で話し込んでいた。
台所で持ってきてもらった食材を確認しながら、何を作るか考えていく。
「そういえば、なぜ勉強しに来ることになったんですか?」
「あー、俺らがうまく作れなかったからな」
「うどんですか?」
「ああ。中々難しいんだな」
私が皇太后の屋敷にいる間によく作っていたのがうどんだった。
それにいざ作り方を教えても、中々うまくできなかった。
その状況で帰ることになったから、いまだに試作しながら作っているのだろう。
きっとトマトで出汁を取るところか、うどんの生地をこねている段階に問題がある気がする。
旨味って日本人では当たり前だけど、この世界ではあまりパッとしないからね。
それにうどんも生地をこねて固くなっている時に、無理に力を加えて伸ばすとグルテンが切れてしまう。
食感や弾力性が全く変われば、美味しさも激減する。
「マミ先生、今日作る予定だったオムライスはどうしますか?」
あっ、ここにも食いしん坊が一人いた。
レナードにはオムライスの話をしていたが、食べたことないものに興味があるのだろう。
「オムライスってなんだ?」
「俺も食べてみたいです!」
「ぜひ、教えてください」
うどんの作り方を改めて教えようかと思ったが、オムライスも気になっているようだ。
うどんよりも作りやすいから、新しいメニューとして教えても良いだろう。
それにせっかく孤児院に来たなら、孤児院名物のオイーブオイルをかけたパンやサラダも食べて欲しい。
オムライスに合うからね。
「では一度作り方を教えますので、みんなで協力して作りましょうか!」
「おー!」
孤児院の台所から珍しく、男性の低い声が響いていた。
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【あとがき】
今日書籍の見本誌が届きました!
ついに作家デビューします!
たぶん……地球が壊れてない限り笑
明日から書店で並ぶと思いますので、ぜひ手に取って見てください!
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