上 下
79 / 100
第五章 冬の嵐

160.偽聖女、餌付けの才能

しおりを挟む
「やっぱり似合いますね」

「そうですか? ありがとうございます」

 私はそのまま試着した服で孤児院に帰ることになった。

 宣伝のためにと服屋の女性からたくさんプレゼントをもらった。

 それにこの間、風邪が流行した時に子どもの治療をしていたらしい。

 子どもの服ももらえて、私もついつい嬉しくてニコニコしてしまう。

「あら、マミさん変わった格好をしているわね!」

 帰り道に声をかけてきたのは野菜屋の女性だ。

 やはりズボンを履いていたら、変わった格好だと思われるようだ。

「こっちの方が動きやすいんですけどね」

「あら、そうなの? 私も着てみようかしらね。マミさんとなら怖くないわ」

「中々初めてやることは挑戦しづらいですからね」

 私も知らない格好をするのは怖いからね。

 さすがにギャルの格好は誰かと一緒でもできないだろう。

 制服コスプレなら……いや、年齢的に厳しいか。

「それもあるけど、男性って女性のような格好を好むじゃない?」

「そうなの?」

 私はレナードを見ると頷いていた。

 レナードがいつもズボンを履いているのは騎士だからだ。

 プライベートでは、私のようにワンピースを着ていた気がする。

「マミさんを見ると男性に媚びないというのか、自分のために生きている感じがして憧れるの」

「それは私もそう思います。女性だからって引け目を感じないというのか、騎士の私より凛々しいです」

「さすがにそれはないですよ! レナードさんの方が綺麗でカッコよくて好きですよ」

 きっと服屋の女性がズボンをプレゼントしてくれたのは、こういう意図があったのだろう。

 今のこの世界の女性は弱い立場にある。

 それを変えるきっかけにして欲しいのだろう。

 私は野菜を買って、受け取ると孤児院に向かって歩き出した。

「本当にマミさんって無自覚なのかしら……」

「さすがに私もドキッとしました」

「レナードさんも頑張ってね! そういえば、さっき豪華な馬車が孤児院の方に向かって行ったわよ」

「情報助かります!」

 レナードは何か話していたのだろう。

 振り返ると勢いよく走ってきた。

「マミ先生失礼します」

「うえっ!? ええええええ!」

 気づいた時には私はレナードに抱えられていた。

 突然の出来事に驚いているし、レナードは大量の服も持っているのに、軽々しく私を抱えている。

 いくら女性だとわかっていても、あまりの力持ちにドキッとしてしまう。

「孤児院に貴族だと思われる馬車が向かったらしいです」

 レナードの言葉に違う意味でドキドキした。

 変な胸騒ぎに変わっていく。

 幸い孤児院にアルヴィンとバッカアがいるから問題ないだろう。

 いや、今朝のこともあるからどこか不安に感じてきた。

 私の足の速さでは遅いため、そのままレナードに運んでもらうことにした。

 孤児院に着くと数台の馬車が止まっていた。

 そのうちの一つが綺麗な装飾がしてあり、明らかに貴族だとわかる見た目をしている。

「なぜ王族が……」

 レナードの言葉に私はさらに鼓動が早くなる。

 王族って王様達が来た可能性があるってことだ。

 私はレナードに下ろしてもらい、すぐに駆け寄る。

「みんな大丈夫!?」

 孤児院の庭ではアルヴィンやバッカアを含めて、子ども達が敬礼をしていた。

 明らかにいつもの違う雰囲気に私も一緒に敬礼をしようとするが、すぐに止められた。

「マミさん数日ぶりね」

「皇太后様!?」

 そこにいたのは風邪の治療をしていた皇太后様だった。

 いつか孤児院に遊びに行きたいとは聞いていたが、まさかこんなに早く来るとは思っていなかった。

「やっぱりマミさんのご飯が恋しくなってね」

 ご飯が恋しい?

 あれ?

 私って皇太后様まで餌付けをしていたのか?

 後ろの馬車からは、ゾロゾロと皇太后の屋敷に勤めている料理人が出てきた。

「よかったら私の屋敷に勤める料理人達にもレシピを教えてもらえないかしら?」

 あまりにも唐突なことに頭が働かない。

 それに料理人が一般の人に教えてもらうなんて嫌だろう。

 それに女性の私に教えてもらうって、この世界の男性なら嫌なはず……。

 それなのにどこかあっさりとした顔をしている。

 あれれ?

 私ってあなた達の胃袋も掴んでしまったのだろうか。

「少し情報を整理させていただく時間をもらってもよろしいですか?」

「わかったわ! その間に私はあなたが言っていたもふもふセラピーをしているわ」

「えっ?」

 もふもふセラピーとは獣人のちびっこ達と遊ぶことだ。

 ちびっこたちも絶対皇太后に驚いて……いなかった。

「おねえしゃんが遊んでくれるの?」

「ピカピカしてほうしぇきみたいだね!」

 ちびっこ達の言葉に皇太后は震えていた。

 あっ、これは大丈夫なやつかもしれない。

 表情がとろんとろんに溶けきっている。

「宝石は見たことあるのかしら?」

「んーん、でもしぇんしぇいがきれいな人は、ほうしぇきみたいだって!」

 宝石のように輝ける人になるのよって言っていたやつのことね。

 子ども達の中では、宝石はキラキラしている人ってなっているのだろう。

「マミさん、あなたはしばらく悩んでいていいのよ! 私はちょっと子ども達と遊んでくるわね!」

 そう言って皇太后はちびっこ達に囲まれていた。

 あの人って、本当に皇太后なのかしら……?

───────────────────
【あとがき】

今頃書籍が出荷されているころかな?
早くて明日、明後日ぐらいから書店に並ぶかと思います。
ぜひ、書籍もよろしくお願いいたします!

あっ、きっと明日ぐらいからレンタルに切り替わりますので、無印を読むのは今のうちです!
思ったよりも作品の雰囲気が変わってますからね笑
しおりを挟む
感想 145

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

妹と旦那様に子供ができたので、離縁して隣国に嫁ぎます

冬月光輝
恋愛
私がベルモンド公爵家に嫁いで3年の間、夫婦に子供は出来ませんでした。 そんな中、夫のファルマンは裏切り行為を働きます。 しかも相手は妹のレナ。 最初は夫を叱っていた義両親でしたが、レナに子供が出来たと知ると私を責めだしました。 夫も婚約中から私からの愛は感じていないと口にしており、あの頃に婚約破棄していればと謝罪すらしません。 最後には、二人と子供の幸せを害する権利はないと言われて離縁させられてしまいます。 それからまもなくして、隣国の王子であるレオン殿下が我が家に現れました。 「約束どおり、私の妻になってもらうぞ」 確かにそんな約束をした覚えがあるような気がしますが、殿下はまだ5歳だったような……。 言われるがままに、隣国へ向かった私。 その頃になって、子供が出来ない理由は元旦那にあることが発覚して――。 ベルモンド公爵家ではひと悶着起こりそうらしいのですが、もう私には関係ありません。 ※ざまぁパートは第16話〜です

【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。

くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」 「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」 いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。 「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と…… 私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。 「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」 「はい、お父様、お母様」 「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」 「……はい」 「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」 「はい、わかりました」 パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、 兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。 誰も私の言葉を聞いてくれない。 誰も私を見てくれない。 そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。 ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。 「……なんか、馬鹿みたいだわ!」 もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる! ふるゆわ設定です。 ※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい! ※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇‍♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ! 追加文 番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。

[完結]いらない子と思われていた令嬢は・・・・・・

青空一夏
恋愛
私は両親の目には映らない。それは妹が生まれてから、ずっとだ。弟が生まれてからは、もう私は存在しない。 婚約者は妹を選び、両親は当然のようにそれを喜ぶ。 「取られる方が悪いんじゃないの? 魅力がないほうが負け」 妹の言葉を肯定する家族達。 そうですか・・・・・・私は邪魔者ですよね、だから私はいなくなります。 ※以前投稿していたものを引き下げ、大幅に改稿したものになります。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

旦那様は大変忙しいお方なのです

あねもね
恋愛
レオナルド・サルヴェール侯爵と政略結婚することになった私、リゼット・クレージュ。 しかし、その当人が結婚式に現れません。 侍従長が言うことには「旦那様は大変忙しいお方なのです」 呆気にとられたものの、こらえつつ、いざ侯爵家で生活することになっても、お目にかかれない。 相変わらず侍従長のお言葉は「旦那様は大変忙しいお方なのです」のみ。 我慢の限界が――来ました。 そちらがその気ならこちらにも考えがあります。 さあ。腕が鳴りますよ! ※視点がころころ変わります。 ※※2021年10月1日、HOTランキング1位となりました。お読みいただいている皆様方、誠にありがとうございます。

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。