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第五章 冬の嵐
158.偽聖女、においをつけられる
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私はおにぎりをいくつか持って隣の家に向かう。
正確にいえば農場にいるあの子達に会いに来た。
「テバサキ久しぶりだね」
『クウェ!』
来るのが遅いと言っているのか、くちばしでツンツンと突いてくる。
私が皇太后に呼ばれてから、テバサキは孤児院で寝泊まりすることが減ったらしい。
別にテバサキに子ども達が嫌われたわけではない。
『ビオビオ』
知らないうちにテバサキに子どもができていたのだ。
足元に小さなひよこ達が私を囲むように走っている。
そんなに早く卵から孵化するのかと疑問に思ったが、鶏の見た目をした魔物は孵化が早いらしい。
それにしても鳴き声が低くヒヨコぽくないのは、当たり前なんだろうか。
「名前は決まったの?」
「ポッポが決めたポッ!」
基本的にはポッポが中心になって、お世話をしているようだ。
新しく生まれた三匹はちゅる、じゅーしゅ、おいーぶと名付けられた。
名前からして好物からつけたのはすぐにわかった。
まぁ、私よりはネーミングセンスはあるのはたしかだ。
「おにぎりを持ってきたんだけど食べるかな?」
『クウェ!』
『ビオビオ!』
正直テバサキ達に食べさせるなら、炊く前に持ってきたほうが良いかと思った。
だが、この反応ならおにぎりでも問題ないようだ。
ヒヨコ達も美味しそうにおにぎりを突いていた。
「風邪も落ち着いてきたから、あとは寒さを乗り越えるだけだね」
あれから子ども達が風邪を引いたという話は聞いていない。
町の人達もほとんどがインフルエンザに似た症状を発症したため、少しずつは数が減り落ち着いてくるだろう。
「テバサキがいないと冬はやっていけないね」
『クウェ!』
この時季はテバサキがいなければ凍えていた。
来年に向けて羽を集めて、羽毛布団やダウンを量産しないと来年も風邪を引くだろう。
うん、この私がね……。
子ども達は元気だからな……。
「ちゅんちゅんどうしたポッ?」
どこか遠いところを見つめていた私をポッポは心配してくれたようだ。
「ポッポは優しいね」
そんなポッポを撫でると、テバサキも体を擦りつけてきた。
久しぶりに会って少し寂しかったのだろう。
『ビオビオ!』
ヒヨコ達も寄ってきて私に体をスリスリしてくる。
気づいた時には他の鶏や牛まで、私にスリスリしてきて何が起こっているのだろうか。
たくさん鶏と牛に触れ合った私は孤児院に戻った。
みんな各々色んなことをやっており、孤児院は賑やかになっている。
私は久しぶりにキキの授業に参加することにした。
大きな表を出して、キキは指さしながら教えている。
どうやら文字を教えているようだ。
途中、私が来たことに気づいたのか、授業を止めようとしていたため、そのまま続けてもらった。
「この文字はこれとこれを組み合わせると〝ま〟って言います」
この国の文字はローマ字やハングル文字に似ている。
ローマ字のように母音は5つ存在して、それを子音と組み合わせることで文字になる。
ただ、ハングル文字と似ているのは横並びに母音と子音を書くのではなく縦にも書いたりすることもある。
そこまで難しくもないため、私もアルヴィンに教えられたらすぐに覚えることができた。
頭が良いと言われたが、日本人に馴染みがあるものだったから簡単だ。
そんなことを思っていたら、ちびっこ達が私の周りに集まって、体をスリスリとしていた。
「あっ! みんなずるい!」
それに気づいたキキは授業を中断して、私のところにやってきた。
そして体をスリスリとしていた。
鶏や牛に続いて、子ども達にスリスリされるこれはなんだろうか。
しばらくして収まったら、庭にいたハムやリリ、クロやトトまでやってきたのだ。
気づいた時には服が汚れていた。
「マミ先生、俺もスリスリ――」
「やって良いわけないじゃないですか!」
アルヴィンまで子ども達に影響されて、謎の行動をしようとする。
バッカアもそれを見ていたが、レナードが止めていた。
うん、止めるならアルヴィンも先に止めておいて欲しかったな。
「子ども達のスリスリって何かあるんですか?」
「すみません、私も聞いたことないです。マミ先生がいない時はなかったですし……」
「俺は絶対知らないぞ!」
「バッカアだもんね」
「ええ」
「だろ!」
うん。
バッカアはバカだと思われていることすら気づいていないようだ。
大人達に聞いても何もわからなかった。
「ちゅんちゅん」
そんな私にポッポが声をかけてきた。
「どうしたの?」
「たぶんちゅんちゅんに匂いをちゅけてるポッ!」
「匂い?」
「ちゅんちゅんから鶏と牛の匂いがするポッ」
きっとあの時に匂いをつけられたのだろう。
子ども達は敏感に反応して、自分の匂いをつけてきたのかもしれない。
獣人は嗅覚が優れているからね。
それにしても獣人じゃないアルヴィンとバッカアもなぜ匂いをつけたいのか……。
二人は変わっているからそういうこともあるのだろう。
「さぁ、お買い物でも行こうかな」
「俺も行く!」
「マミイモ、俺も行くぞ!」
「お前は留守番だ!」
「それならお前だって――」
「レナードさんお手伝いしてもらっても良いですか?」
どちらか片方に手伝ってもらっても、後々大変だし、二人を連れて行くなんてもってのほか。
相変わらず謎の大人二人を置いて、私はレナードと買い物に向かった。
───────────────────
【あとがき】
発売まで残り数日になりました!
ああ、胃が痛い泣
それに伴い一巻分のところがレンタルに切り替わります。
無印の何も編集されていない作品を読めるのは今だけです!
読み返ししたい人は、ぜひ今のうちにお願いします!
そして、書籍の方もよろしくお願いいたします!
正確にいえば農場にいるあの子達に会いに来た。
「テバサキ久しぶりだね」
『クウェ!』
来るのが遅いと言っているのか、くちばしでツンツンと突いてくる。
私が皇太后に呼ばれてから、テバサキは孤児院で寝泊まりすることが減ったらしい。
別にテバサキに子ども達が嫌われたわけではない。
『ビオビオ』
知らないうちにテバサキに子どもができていたのだ。
足元に小さなひよこ達が私を囲むように走っている。
そんなに早く卵から孵化するのかと疑問に思ったが、鶏の見た目をした魔物は孵化が早いらしい。
それにしても鳴き声が低くヒヨコぽくないのは、当たり前なんだろうか。
「名前は決まったの?」
「ポッポが決めたポッ!」
基本的にはポッポが中心になって、お世話をしているようだ。
新しく生まれた三匹はちゅる、じゅーしゅ、おいーぶと名付けられた。
名前からして好物からつけたのはすぐにわかった。
まぁ、私よりはネーミングセンスはあるのはたしかだ。
「おにぎりを持ってきたんだけど食べるかな?」
『クウェ!』
『ビオビオ!』
正直テバサキ達に食べさせるなら、炊く前に持ってきたほうが良いかと思った。
だが、この反応ならおにぎりでも問題ないようだ。
ヒヨコ達も美味しそうにおにぎりを突いていた。
「風邪も落ち着いてきたから、あとは寒さを乗り越えるだけだね」
あれから子ども達が風邪を引いたという話は聞いていない。
町の人達もほとんどがインフルエンザに似た症状を発症したため、少しずつは数が減り落ち着いてくるだろう。
「テバサキがいないと冬はやっていけないね」
『クウェ!』
この時季はテバサキがいなければ凍えていた。
来年に向けて羽を集めて、羽毛布団やダウンを量産しないと来年も風邪を引くだろう。
うん、この私がね……。
子ども達は元気だからな……。
「ちゅんちゅんどうしたポッ?」
どこか遠いところを見つめていた私をポッポは心配してくれたようだ。
「ポッポは優しいね」
そんなポッポを撫でると、テバサキも体を擦りつけてきた。
久しぶりに会って少し寂しかったのだろう。
『ビオビオ!』
ヒヨコ達も寄ってきて私に体をスリスリしてくる。
気づいた時には他の鶏や牛まで、私にスリスリしてきて何が起こっているのだろうか。
たくさん鶏と牛に触れ合った私は孤児院に戻った。
みんな各々色んなことをやっており、孤児院は賑やかになっている。
私は久しぶりにキキの授業に参加することにした。
大きな表を出して、キキは指さしながら教えている。
どうやら文字を教えているようだ。
途中、私が来たことに気づいたのか、授業を止めようとしていたため、そのまま続けてもらった。
「この文字はこれとこれを組み合わせると〝ま〟って言います」
この国の文字はローマ字やハングル文字に似ている。
ローマ字のように母音は5つ存在して、それを子音と組み合わせることで文字になる。
ただ、ハングル文字と似ているのは横並びに母音と子音を書くのではなく縦にも書いたりすることもある。
そこまで難しくもないため、私もアルヴィンに教えられたらすぐに覚えることができた。
頭が良いと言われたが、日本人に馴染みがあるものだったから簡単だ。
そんなことを思っていたら、ちびっこ達が私の周りに集まって、体をスリスリとしていた。
「あっ! みんなずるい!」
それに気づいたキキは授業を中断して、私のところにやってきた。
そして体をスリスリとしていた。
鶏や牛に続いて、子ども達にスリスリされるこれはなんだろうか。
しばらくして収まったら、庭にいたハムやリリ、クロやトトまでやってきたのだ。
気づいた時には服が汚れていた。
「マミ先生、俺もスリスリ――」
「やって良いわけないじゃないですか!」
アルヴィンまで子ども達に影響されて、謎の行動をしようとする。
バッカアもそれを見ていたが、レナードが止めていた。
うん、止めるならアルヴィンも先に止めておいて欲しかったな。
「子ども達のスリスリって何かあるんですか?」
「すみません、私も聞いたことないです。マミ先生がいない時はなかったですし……」
「俺は絶対知らないぞ!」
「バッカアだもんね」
「ええ」
「だろ!」
うん。
バッカアはバカだと思われていることすら気づいていないようだ。
大人達に聞いても何もわからなかった。
「ちゅんちゅん」
そんな私にポッポが声をかけてきた。
「どうしたの?」
「たぶんちゅんちゅんに匂いをちゅけてるポッ!」
「匂い?」
「ちゅんちゅんから鶏と牛の匂いがするポッ」
きっとあの時に匂いをつけられたのだろう。
子ども達は敏感に反応して、自分の匂いをつけてきたのかもしれない。
獣人は嗅覚が優れているからね。
それにしても獣人じゃないアルヴィンとバッカアもなぜ匂いをつけたいのか……。
二人は変わっているからそういうこともあるのだろう。
「さぁ、お買い物でも行こうかな」
「俺も行く!」
「マミイモ、俺も行くぞ!」
「お前は留守番だ!」
「それならお前だって――」
「レナードさんお手伝いしてもらっても良いですか?」
どちらか片方に手伝ってもらっても、後々大変だし、二人を連れて行くなんてもってのほか。
相変わらず謎の大人二人を置いて、私はレナードと買い物に向かった。
───────────────────
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