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第五章 冬の嵐

156.偽聖女、男に呆れる

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「おにおに!」
「おにおに!」
「おーにおに!」

 子ども達はおにぎりが何かはわかっていないが、新しく聞く言葉に嬉しそうに歌を口ずさんでいた。

 ひょっとしたらおにぎりも子ども達が好きな定番のご飯になりそうだ。

 それに持ち運びもしやすいから、食べやすい気がする。

 ただ、子どもは手を洗わないことが多いから、心配な要素でもある。

「みんなちゃんと手を洗ったかな?」

 材料を準備した私達は、みんなで手を洗ってテーブルに座っている。

「あっ、やばっ!?」

 近くに座っていたバッカアは急いで手を洗いに行く。

 バッカアも少しずつ手を洗うことに慣れてきた。

 それまではあまり手を洗わなかったと聞いている。

 不潔男から脱却してきているのだろう。

「おにぎりは綺麗な手じゃないと病気になっちゃうからね! 血が出ている子もできないよ」

「ママ先生見て!」

「しぇーんしぇーい!」

 クロをはじめ子ども達が手が汚れていないか、血が出ていないかを見せてくる。

 みんな小さくて可愛い手に私はにこにこしてしまう。

 きっと身長の高いアルヴィンと比べると、だいぶ違うのだろう。

「マミ先生、俺のも見てください」

 別にアルヴィンの手が見たかったわけではないが、なぜかしっかりと見せてくれた。

 魔力を使い過ぎて倒れた時にも思ったが、やはりアルヴィンの手はかなり大きかった。

 バスケットボールもひょっとしたら掴めるのかもしれない。

「マミイモ、どうだ!」

 そんな中、手を洗ってきたバッカアも私に手を見せてきた。

「あっ、ここに傷がありますよ?」

「えっ……ダメなのか?」

 手の傷があると黄色ブドウ球菌による食中毒になる可能性がある。

 この世界に手袋やラップがあれば問題ないが、素手でおにぎりを作ることになるからね。

 どこか寂しそうな顔をするバッカアをちびっこ達が慰めていた。

「それにしてもボロボロね」

 アルヴィンも剣を素振りした影響で皮膚が分厚くなっていたが、バッカアはどこか皮膚が剥けたような痕がある。

 それも最近できたような傷が多い。

「訓練が忙しいんですか?」

「いや、俺も役立つ男になりたいからな」

 バッカアも何か目標ができたのだろう。

 そんなバッカアの邪魔をする人がいた。

「お前は邪魔なんだよ!」

 どこか私をチラチラと見ているバッカアの視線をその都度アルヴィンが体で塞いでいた。

「どうせお前のことだから、マミ先生に治療してもらうつもりだったんだろ!」

「へっ!?」

 私とバッカアの声が重なった。

 そういえば、私の魔法で傷を治せることを忘れていた。

 しばらく病気に対して魔法を使っていたが、怪我の治療はしていなかった。

「なあなあ、マミイモ。俺の手を治療してくれ!」

 バッカアは私に手を出してきた。

 本当に頑張っているような手だと、パッと見ただけで伝わってくる。

 ただ、アルヴィンはバッカアに容赦なく塩を塗りこんでいた。

「うわあああああ!」

 叫ぶバッカアに私は急いで手を洗いにいかせて治療をする。

「ふん! 俺のマミ先生を――」

「二人とも連帯責任でおにぎりを作らせないわ! 外で反省してきなさい!」

 驚いた顔をしているアルヴィンとバッカアに呆れてしまう。

 さすがにじゃれ合うにはやりすぎだからね。

「男は大きくなっても子どもね」

 大人になっても男性はいつでも少年の心を忘れていない。

 ボソッと呟いたレナードの言葉を二人は表しているような気がした。

「オラはあんな風にならないもん!」

「オイラも大丈夫!」

「ハムはご飯取られたら怒るよ?」

「それを言ったらオラだってママ先生取られたら嫌だよ?」

「オイラは全部嫌だよ?」

 ただ、子ども達には良いお手本になっているようだ。

 大人だって自分の好きなものは取られたくないし、ムキになることだってある。

 それでもお互いに譲り合って人のことを考えられる子達になって欲しいと私は思った。

 さぁ、アルヴィン達はほっといておにぎり作りをしますか。
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